全国9か所で開催されていた「GRAPEVINE TOUR 2023」が、先日(10月29日)岡山・CRAZYMAMA KINGDOMでファイナルを迎えた。傑作ともいえるアルバム『Almost there』(9月27日発売)を携えたGRAPEVINEは、改めてライブバンドであることを見せつけるようだった。

開演前から熱気に包まれている会場にメンバーが姿を現すと大きな歓声が沸き上がった。それに応えるように田中さん(Vo.&Gt.田中和将)は「こんばんはー!」と何度も手を上げる。そして「Are you ready? 今こそ俺に賭けてみろ!」とオープニング曲を彷彿させるようなセリフで観客を煽ると、ジャキジャキと「Ub(You bet on it)」のギターを鳴らし始めた。密やかに語りかけるように言葉を紡ぎ、〈世界中が敵だと感じたなら 選ばれたってことさ〉〈ひっくり返すのさ 賭けてもいいぜ〉など魅惑的なフレーズを投げかけると、メンバーも魅力的なメロディーで加勢しギアを上げていく。続いて「スレドニ・ヴァシュター」の前衛的なギターリフが鳴り響くとあちこちで悲鳴が上がった。グルーヴィーなこの曲の人気は高く、アニキ(Gt.西川弘剛)と田中さんの唸るようなツインギターに陶酔した。

 
 
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今回、アルバム『Almost there』の発売後初のツアーになるが、田中さんはあえて「アルバムが出ていますとかは言いません」とニヤリ。驚いたのは「アルバムを聴いていない人にも楽しんでもらえるようにやります」と言ったことだった。これまでの天邪鬼なイメージを払拭するかのように屈託のない笑顔を見せる田中さんも悪くない(笑)。「遠くの君へ」はノスタルジックな感情が押し寄せてきて胸の奥がツンとした。25年前の楽曲とは思えないほど、今も変わらず瑞々しさを纏い歌う田中さんに見惚れてしまう。

「COME ON」ではダンサブルなアレンジに長身の金戸さん(Ba.金戸覚)が渋いベースプレイで躍動する。亀ちゃん(Drs.亀井亨)のしなやかなドラミングと勲さん(Key.高野勲)の浮遊感のあるカラフルな音色、そしてアニキのまとわりつくようなギターが田中さんのシャウトと渾然一体となって、まるでカオス。観客も腕を振り上げ歓声を上げ、会場のボルテージは最高潮に達した。

そうして興奮さめやらぬまま、今度は田中さんとアニキが向き合いそっとギターを爪弾いていく。2人の奏でる繊細なリフから広がる「Ophelia」の世界観、ラグジュアリーな雰囲気を漂わせた「停電の夜」では田中さんが両手でマイクを包み込み観客を魅了する。エモーショナルなアカペラで誘う「The Long Bright Dark」、耳をつんざくようなギターソロでかく乱していく「アマテラス」、中森明菜さんの「ミ・アモーレ」のオマージュだという「実はもう熟れ」など、メロディアスかつ斬新でバラエティーに富んだ新曲たちが次々と演奏されていく。

なかでも見ごたえがあったのは、「ねずみ浄土」「雀の子」の流れだろうか。〈おむすびころりん〉のキラーワードからコテコテの関西弁で綴る破壊力。〈そこのけそこのけ御馬が通るで〉という節まで盛り込んだ「雀の子」は、初めて耳にしたときから攻めてるなぁと度肝を抜かれたのだが、聴くたびに中毒性を増していく。ライブではさらに化けていて、緩いリズムがピリッと締まる瞬間といい、田中さんのボーカルを援護するかのようなアニキと金戸さんの迫力あるコーラスといい、これぞGRAPEVINEと叫びたくなるようなライブ映えするかっこいい一曲になっていた。

 
 

 
 

アンコールで、田中さんは「もう終わりか」と名残を惜しんだ。終わってほしくないという気持ちは観客も同じだった。「Era」では促されたわけでもなく自然に沸き起こったシンガロングに感動。みんなの想いが繋がり会場が一体になったような気がした。何度も「さみしいな」と言って「ありがっとさーん!」を連発する田中さんに、思わずアニキが「このくだり初めてやな」と吹き出すシーンも。通常ライブでは田中さんしか話さないため、アニキの声が聞けたのはレア中のレア! 歓喜のどよめきと拍手が起こった。思いがけないツッコミに「だって、終わりたくないもん」とはにかむ田中さんにもほっこりしたのだが、このツアーはやはり特別な想いがあったのだろうか。それをうかがい知ることになったのはラストの「Arma」を歌い終えたときだった。

ギターを持ち替え、「もう1曲だけ」と言って振り返った田中さんは…目が真っ赤だったのだ。「真昼の子供たち」を歌うその顔は笑いながら泣いているように見えた。覚悟や矜持…いろいろな想いが溢れていたように感じて、同時に田中さんを見守る4人の柔らかい表情に胸がいっぱいになった。彼らはGRAPEVINEのメンバーだけれど、彼らのなかに“GRAPEVINE”というものがあるのだろう。宝物のようなその存在を愛でながら、大切に守り育てていこうとしていることが一瞬にして伝わってきた。輪郭をなぞろうとしても、すぐさま形を変えていく変幻自在なバンド“GRAPEVINE”。〈怖いものはおまへん〉〈わてらは放蕩中年 厚かましいなってきて〉(「雀の子」)と真面目な顔で歌い、世の中に媚びることなく我が道を進んでいく。デビュー26年のベテランバンドながら、まだまだ底を見せていない彼らが誇らしくてたまらない。

 
 

 
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、東京・下北沢の本多劇場で舞台「リムジン」を観てきました。倉持裕さんの作・演出で嘘が嘘を呼び追い詰められていく夫婦を描いたブラックコメディ。シリアスななかにも笑いがたっぷりちりばめられていて、主演の向井理さん、水川あさみさんをはじめ、個性的で味のある役者さんたちに惹きこまれました。特に宍戸美和公さんは最高! 存在感といい、間(ま)といい、何をやっても笑いになる(笑)。釘付けでした。
 
 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
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第78回「今、関西がアツい! 2023夏はまだまだ終わらない」
第77回「涙のシンガロングで終幕した10周年アニバーサリーイヤー・石崎ひゅーい “『キミがいるLIVE』-Piano Quintet-”」
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第56回「斉藤和義が最強のバンドメンバーと魅せた“202020&55 STONES”ツアーファイナル」
第55回「飄々と颯爽と我が道をゆく。GRAPEVINE “tour 2021 Extra Show”」
第54回「こういうときだからこそ豊かな未来を歌う。吉井和哉さん “UTANOVA Billboard”」
第53回「高橋一生さんの覚悟と揺るぎない力を放つ真の言葉。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』観劇レポート」
第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」

[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”