2022年がはじまりました。また少し心配な日々が続いていますが…今年も、毎日穏やかに丁寧に過ごしていきたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今回は昨年12月に大阪・BIGCATで行われた石崎ひゅーいさんの「from the BLACKSTAR-Band Set-」のようすをお届けします。約2年ぶりのバンドツアー初日は、2022年のデビュー10周年に希望をつなぐ熱いライブになりました。

 
 
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あたたかい拍手に迎えられてステージに現れたひゅーいくん。トオミヨウさんの美しいピアノのメロディーにのせて、やわらかな歌声とファルセットが会場を包み込む。アルバム『ダイヤモンド』(2021年12月22日発売)の収録曲で、ドキュメンタリー映画『私は白鳥』の主題歌でもある「スワンソング」からのスタート。ぬくもりのある光のなかに、ひゅーいくんのシルエットだけが浮かぶ幻想的な演出。まっすぐに伝わってくるひゅーいくんの想いと歌声に、もう言葉はいらないとさえ思う。一音一音が身体のなかにしみわたっていくのがわかるようだ。明るくなったステージに2曲目の「ブラックスター」が響き渡る。この前のアコースティックツアー「for the BLACKSTAR-Acoustic Set-」でピアノをバックに歌い上げるバージョンもよかったが、ひゅーいくんとバンドメンバーの方たちの気持ちの結晶が見えるバンドバージョンは格別だった。

立ち上がっていいのか戸惑う観客を察したひゅーいくんが言う。「Stand upでもいいんじゃない?」 待っていたそのコトバにみんなすかさず立ち上がる (そんな奥ゆかしいファンの方たちが可愛くて大好き)! 約2年ぶりのバンドツアーは、すなわち約2年ぶりのスタンディングライブを意味する。前日出演したラジオで「お互い、手探りになるかな。でもそれもいいな」と話していたことを思い出した。ちゃんとわかってくれていたんだな。私たちの想いとひゅーいくんの想いが実を結んだ、そのカタチが一瞬目に見えたような気がして、この日の「第三惑星交響曲」のハンドクラップはそれぞれの想いが弾けて、いつも以上にきらめいていた。

 
 

 
 

「2年分の、たまりにたまった感情を放出させる」今回のバンドツアーは、ひゅーいくんにとっても待ち望んだツアーだったに違いない。バンドの醍醐味を存分に発揮したロックナンバー「さよならエレジー」のあとに歌い始めた「ガールフレンド」のときだった。抒情的なピアノの音色と繊細に重なり合うバンドサウンドに、さまざまな想いが込み上げ感極まったのだろうか。思うように活動ができなかった苦悩の日々を越えて、「人が好き」というひゅーいくんの、バンドメンバーとともに演奏できる喜び、ステージに立てることへの想い。スタンドマイクに寄りかかり、うつむきながら何度も頬を拭い歌う姿にどきっとした。キラリと光る涙を拭いながら微笑んでみせるその顔はとても尊くて美しくて、このツアーを誰よりも心待ちにしていたのは、ひゅーいくんだったのかもしれないと思った。

照れかくしのように「耳がキーンとするよね。でもそれもいいよね」と笑い、「ごめんね、僕ばかり叫んで」と笑わせる。そんな気遣いもひゅーいくんらしい。『アタラズモトオカラズ』(2016年12月7日発売)以来、約5年ぶりに発売されたフルアルバム『ダイヤモンド』は今回初めてアレンジャーのトオミさんに「こういう音作りをしたい」とイメージを伝えたという意欲作。ひゅーいくんのアーティスティックな才能が無限であることを物語る名盤だ。約5年ぶりとはいっても、その間ミニアルバムや楽曲提供、配信シングル等の発表があったため、あまり間が空いた感覚はなかったが、ひゅーいくん自身も先述のラジオで、5年も出していなかったことに改めて気づいて「あらあら」という感じだったのだそう(笑)。『ダイヤモンド』は、「長い間、待たせたね」と、応援してくれているファンへの贈り物のようなアルバムであり、人生の大切な瞬間に立ち会わせてもらえたら嬉しいと話してくれた。

今回、やっとバンドで聴けた! と感激したのは「Flowers」(映画『アンダードッグ』主題歌)だった。躍動するギターリフを聴きながら、コロナ禍であおりを受けた楽曲たちもこの日をずっと待っていたような気がした。『ダイヤモンド』から披露された「パラサイト」はSEXYで濃密な雰囲気を漂わせ、続く「お前は恋をしたことがあるか」(『アタラズモトオカラズ』収録)では誰かを恋しいと思う切ない想いがまっすぐに伝わってくる。この2曲のギャップにひゅーいくんの楽曲の豊かさを感じ、ひゅーいくんの進化と変わらずに慈しみ育み続ける、信念のようなものが見えるようだった。

そうして「メーデーメーデー」「夜間飛行」「僕がいるぞ!」と盛り上がりゾーンへと突入。ひゅーいくんは、こぼれそうな笑顔でギターをかき鳴らしたりステージを動きまわったり。私立恵比寿中学に提供した「ジャンプ」では、エモーショナルなイントロから文字通りココロもカラダもジャンプするような一体感だった。フロアのどこをみてもきらめきと笑顔に溢れている。振り上げた腕や伸ばした手が、心の声や感情を表現しているのがわかる。嬉しさでいっぱいになってステージに目を向けると、ニコニコしながら「うんうん」とうなづき、目を潤ませているひゅーいくんがいる。お互いの気持ちが、確かに循環していることを目の当たりにしたシーンだった。声は出せなくてもココロはしっかりつながっているのだと。

 
 

 
 

ひゅーいくんは言った。「(10周年は)いろいろなことを考えているので楽しみにしていてください。みんなをいろいろなところに連れて行ってあげたいし、いろんな景色を見せてあげたい」と。「だから…ついてきてください」とはにかむ顔がたまらなくキュートだった。そして「心のなかで一緒に歌ってください」と言って歌い始めた「花瓶の花」はいつもどんなときも心をあたためてくれる。ラストの曲は「アヤメ」だった。コロナ禍であっても、気持ち次第で素敵なことは見つけられるという希望の歌。観客の顔を一人ひとり確かめるように歌う、ひゅーいくんの優しい声はヒーリングだ。涙で浄化された心に清々しい風が吹き抜ける、優しくあたたかい陽だまりのようなライブだった。

そして、いよいよデビュー10周年の幕が開いた。今年は、これまで多くのアーティストを(楽曲提供等で)輝かせてきたひゅーいくん自身がさらに飛躍し輝く一年になるだろう。ダイヤモンドのように、私たちが光になって輝かせることができればこんな嬉しいことはないと思う。いつも全身全霊で想いを伝えてくれるひゅーいくんの喜ぶ顔がたくさん見られる一年になればと願っている。

 
 
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プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。私の日々の楽しみは、ライブや競馬などいろいろあるけれど、なかでもお笑い芸人さんの番組を観ること。一日の終わりに録画した番組で大笑いして眠りにつくのが日課です。お気に入りはFUJIWARAの原西さん(笑)! 個性が強すぎてあの飛び抜けたセンスにいつも涙が出るほど大爆笑。そういえば高橋一生さんも大好きだと言ってましたね。今年はFUJIWARAのライブをぜひ生で観たいと思っています。
 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
第57回「中村倫也さんと向井理さんの華麗なる競演! 劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』」
第56回「斉藤和義が最強のバンドメンバーと魅せた“202020&55 STONES”ツアーファイナル」
第55回「飄々と颯爽と我が道をゆく。GRAPEVINE “tour 2021 Extra Show”」
第54回「こういうときだからこそ豊かな未来を歌う。吉井和哉さん “UTANOVA Billboard”」
第53回「高橋一生さんの覚悟と揺るぎない力を放つ真の言葉。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』観劇レポート」
第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」

[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”