毎日、家族や自分のお弁当を作っている人は多いのではないでしょうか。家族が起きる数時間前に起き、冷蔵庫からあらかじめ考えていた食材をささっと取り出す。栄養バランスを考えて、茹でたり焼いたり…2つ3つの作業を並行しながら出来上がっていくおかずを一つ一つ彩りよく隙間なくお弁当箱にぴっちりと収めていく。まるでアートだ。今日も元気にと、全部おいしく食べてくれるといいなという願いをお弁当に託して送り出す。

 
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今年は、自粛明けから、多くの映画を観ました。そのなかの一つ、『461個のおべんとう』はダントツで幸せな気持ちになれる、世代を問わず、多くの方に観てもらいたいなと思った作品です。TOKYO No.1 SOUL SETの渡辺俊美さんが、高校生の息子さんに3年間ずっとお弁当を作り続けたという実話をもとにした物語。映画では、シングルファーザーでミュージシャンの父、鈴本一樹役を幅広い層に人気のV6のイノッチこと井ノ原快彦さん、息子の虹輝(こうき)くんを今大注目の道枝駿佑くん(なにわ男子 / 関西ジャニーズJr.)が演じている。父と子の間を行き来するお弁当の物語。


「それ以上でもそれ以下でもない」と劇中、道枝くんのナレーションがあるが(いやいや、こんな彩りもばっちりでおいしそうなお弁当、なかなか作れるものじゃないと思う)、確かに何か大きな事件が起こるわけではない。でも、ささやかだけれど大切な日々が、一樹や虹輝の些細な心の動きや言葉にはできない感情が、お弁当を通して描かれている。ライブの翌朝も、徹夜明けの朝も欠かすことなく作り続けたお弁当。お弁当を開けるときのワクワク感。虹輝はおいしかったよと毎日口にするわけではないけれど、空になったお弁当が何よりもそれを語っている。お弁当が二人をつなぐ、まるで父と子の交換日記みたいだと思った。


物語は、一樹が所属するバンド「Ten 4 The Suns」のライブシーンから始まる。KREVAさん、やついいちろうさんがバンドメンバーを演じ、イノッチは渡辺さんのギタープレイを研究して臨んだそうだ。実生活でもほぼ同世代の3人、まるで本当に長い年月苦楽を共にしたような“あうん”の呼吸が漂っていて(偶然にもそれぞれが今年芸歴25周年を迎えるのだという)、機会があればこの3人のライブを観てみたいと思ったのは私だけだろうか。この映画のために渡辺さんが書き下ろしたオリジナル曲(ラップ部分はKREVAさんが作詩・作曲)もイノッチの声や雰囲気にとてもよく合っていて、この作品をより一層味わい深いものにしていると思う。


ジャニーズ事務所の先輩後輩であるイノッチと道枝くんは、年齢差26歳ということで、まずは敬語禁止の“ため口協定”を結び、撮影の合間には一緒にごはんを食べて距離を縮めたのだそうだ。道枝くんは、戸惑いつつもそのぎこちなさが可愛らしく、でも映像のなかでだんだん頼もしくなっていくようすが顔つきからも伝わってきた。きらきらした輝きを放ち、透明感のあるルックスと180センチ近くある身長は、なにわ男子のなかでも王子と言われるのも納得。まるで少女漫画から抜け出してきたようだった。イノッチは、なにわ男子のメンバーもまるで息子の友だちのように思えてきて、彼らにも「友だちのお父さんのようにため口で接していいよ」と言ったのだそうだ。もちろん、道枝くんから伝えられたメンバーは即答で「無理」と言ったそうだが(笑)、イノッチのオープンな人柄が感じられるエピソードだ。また、実際のお子さんとのエピソードも兼重監督によってさりげなく台本に加えられたそう。まさに、誰もが、そうそうそう! と共感するようなシーンが盛り込まれている。


また、虹輝のクラスメートを演じた若林時英くんや森七菜ちゃんの存在感も光るものがあった。3人が仲直りをするシーンでは、七菜ちゃんがアドリブを仕掛けたらしく、素でびっくりする道枝くんも見どころの一つかもしれないな。終盤には、一樹が福島県の実家を訪れるシーンがあり、母親役の倍賞千恵子さんがスクリーンに現れたときには、「おぉ!」と思わず声が出そうだった。それはまるでお弁当を開いたときの感動にも似ていて、倍賞さん、姉の坂井真紀さんとイノッチの家族の光景はとても和やかで自然で、大らかな性格の一樹のルーツが垣間見えるあたたかくて大切なシーンだった。


今まで、当たり前だと思っていた何気ない毎日。そんな日々を積み重ねていくこと、変わらないことへのありがたみにあらためて気づかされる。きっと、毎日お弁当を作ってくれる大切な人に、ありがとうと伝えたくなるんじゃないだろうか。エンドロールまでたっぷり楽しめる『461個のおべんとう』。観終わったあと、間違いなく、卵焼きが食べたくなるし、ほわんとしたあったかい気持ちに包まれるやさしい映画。毎日、自分用のお弁当を残り物でちゃちゃっと作っている私。もうちょっとお弁当作りを頑張ってみようかな。

 
 

 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先月、こちらに書いた競馬の話題。秋のG1レースがスタートし、3歳牝馬デアリングタクト、牡馬コントレイルがそれぞれ無敗でレースを優勝し三冠馬となりました。そして、先日の天皇賞(秋)ではアーモンドアイが史上初の八冠を達成するという快挙も。人間の世界が大変なときに、いつも馬は私たちに勇気をくれるような気がします。もちろん、優勝した馬だけじゃなく負けた馬たちにも心から敬意を表したいです。