いよいよ、オリンピックイヤー、2020年が始まりました。何だか夢のようです。まずは3月からスタートする聖火リレーが楽しみ。私の地元・滋賀県は、騎手の武豊さん、モデルのSHIHOさんたちが走られるのだとか。今年もオリンピックだけでなく、いろいろなサプライズが待っているような予感がします。みなさまにとって、幸せな一年でありますように。


2019年のライブ納めは、藤井フミヤさんの「LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT」でした。ソロでは初だというライブハウスツアー。今回は大阪(Zepp Osaka Bayside)、名古屋(Zepp Nagoya)などに参加。ライブハウスならではの熱狂のなかに身を投じ、フミヤさんの超人的なパワーを存分に浴びてきました。ステージにはバンドメンバーの屋敷豪太さん(Dr.)、有賀啓雄さん(Ba.)、斎藤有太さん(Key.)、大儀見元さん(Per.)、真壁陽平さん(G.)が登場。続いてフミヤさんが現れると、フロアは鮮やかな蛍光色が大きく揺れ、大歓声に包まれた。そして豪太さんのドラムに合わせてバンドメンバー、フミヤさんのハンドクラップで始まった「Time Limit」。オープニングから、挑発するようなセクシーなダンスと官能的なムードに悲鳴が上がる。


続く「MY TYPE」では、ハンドマイクを片手にしなやかに右へ左へと移動し、〈恋をしよう 愛し合おう〉とサングラス越しに指を差したり、その場でしゃがみこみ目線を合わせたり。まだ始まったばかりだというのに、フロアのボルテージはMAXだ。フミヤさんは微笑みながらウインクをしたり、ハンドマイクを軽々と投げてみたり、この雰囲気を楽しんでいるかのようだ。ダンサブルな「女神(エロス)」では、マイクスタンドを華麗に操り、つま先から指の先まで、しなやかで艶めいた動きに目を奪われる。ムーディーな「そのままで」では、「おいで」とフロアに手を伸ばす。幻想的なパフォーマンスはまるで映画のワンシーンを見ているかのようで、フミヤさんとバンドメンバーの織りなすグルーブ感にも酔いしれた。今回のツアーは、まるで熟成したワインのような重厚なサウンドも魅力のひとつだ。このバンドで、じっくり聴かせたいという思いが伝わってくる。「Endless Snow」「そのドアはもう開かない」などのバラードも、フミヤさんの叙情的で深みのある澄んだ声を贅沢な音のアンサンブルが包み込み、より一層歌詞の世界へと惹き込まれていく。


「ミセスマーメイド」を歌い終えたフミヤさんが、斎藤さんの、華のある軽やかな鍵盤に向かい、アカペラでこの曲を歌い始めた時には、フロアから悲鳴にも似た歓喜の声が上がった。そしてその声は嗚咽に変わる。1990年に発売されたアルバム『OOPS!』に収録されていた「One more glass of Red wine」。シングルではなかったけれど人気の高かったこの曲と、まさか永い時を経てまた出合う日が来るとは夢にも思っていなかった。当時はテレビで披露されたこともあったっけ。ほとんどのファンが泣き崩れていた(と思う)。みんな同じ想いを抱えてきたのだろう。ステージからはどんな風に見えていただろうか。フミヤさんの、フロアを見つめる目が、とても優しく、少し潤んでいたように見えたのは気のせいではなかったかもしれない。


MCでフミヤさんは、名古屋への移動中に、品川駅で享さん(チェッカーズのリーダー)にばったり会ったのだと言った。「黒のマスク、白のラバーソウルにヒョウ柄のコート! 目立ちすぎなんだよ。どこから見ても享!」と笑い、「あいつ、ほんとよくしゃべるんだよなー。新幹線が発車するまで、ずっと一人でしゃべってた」。二人の様子を想像しながら、享さんらしいと、みんなで爆笑。そのあと、フミヤさんから「また、アブラーズ(享さん、尚之さん、大土井裕二さんのユニット)とやりたいな」という言葉が聞けたことが嬉しかった。どんなに戻りたいと願っても、叶わない願いだとわかっているからこそ、“チェッカーズ”というものがより愛おしく大切に思えるのだろう。時を経て、今こうしてチェッカーズの歌を歌い、またみんなで同じステージに立ちたいと言ってくれることはとても幸せなことで、“チェッカーズ”は、私たちにとって、一生をかけて守っていきたい宝物なのだ。


ステージ後半は、「La La La Stranger」「GIRI GIRI ナイト」「WE ARE ミーハー」などアッパーで最強のロックチューンが並び、真壁さんのトリッキーなギターが炸裂する。フミヤさんのブルースハープも登場し、フロアの盛り上がりは最高潮、まるでカオスだ。あと数年で還暦を迎えるなんて信じられないほど、ピンクのシャツが似合っている。MCでは、「早く(ライブを)終わらせたい!」と言ってフロアからブーイングが起きると、「だって、早く飲みたいんだもん」と笑うフミヤさんがとってもキュート。男っぽいことをやっているのに、見事に女性ファンばかりだと嘆いてみせると、男性ファンがあちこちから「フミヤ―!」と声を上げるシーンもあった。そんな彼らに「末永くよろしく」と挨拶を交わす姿も微笑ましくて魅力的だった。


誰も真似のできない道をゆく。孤高のアイドルと言われた時期もあったが、決して孤高ではない。仲間たちと共に、笑いながら、時には手を差し伸べながら、私たちを、そして時代を牽引していく人だと思う。


昔、フミヤさんは、「食べるものがたった1個のじゃがいもしかなかったら(ちょっとニュアンスは違うかもしれませんが)」という質問に、「みんなで分ける」と答えていたことを思い出した。決して、「俺が俺が」ではない。みんなを引っ張る、先駆者ではあるが、いつも一番後ろにいる人のことを気にかけている。それはライブでも同じだ。常に会場の一番後ろの人に届くようにと、歌を、想いを届ける。今回のツアーでそんな一面が垣間見えるシーンがあった。ライブハウスはホールよりもステージとの距離が近く、臨場感を味わえるのが醍醐味だ。一方で、立ちっぱなしの上、密着度が凄まじい場合もあり気分が悪くなる人も出てくる。実際、ライブ中に、フラフラと左端に退避しようとする人がいて、何人かが声を上げた。「倒れそうな人がいる」と。


すると、スタッフの方よりも早くその声に気づいたフミヤさんが「大丈夫? どこにいるの? ここまでおいで」と、ステージ前方までその人を呼び寄せたのだ。そして言った。「大丈夫? ちゃんと見たからね、あとは横で寝てな」と。それは、今まで見たことのない光景だった。その優しさこそがフミヤさんなのだと思ったのだ。フミヤさんが差し伸べた手は、大げさではなく、きっと誰かの救いとなり、光になるのだろう。ステージをあとにするフミヤさんに、「ありがとう!」という声が飛び交いあたたかい空気に包まれた。誰からともなく起こった万歳三唱。令和元年の締めくくりにふさわしい、素晴らしいライブだった。ライブ終了後、演奏された曲の多くが斎藤さん、豪太さん、有賀さんの曲だったことに気がついた。きっと「KOOL HEAT BEAT CLUB BAND」からのプレゼントだったのかもしれない。令和の時代も、どんなサプライズが待っているのだろう。フミヤさんが、そんな奇跡のトビラを一つひとつ開けてくれるような気がしている。

 
 
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プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校正をしたり文章を書いたり。昨年は、転職に転職の一年でした。一般的にいうと激動の一年なのですが、3つの職場に移るタイミングが絶妙で、どの職場でも人に恵まれたおかげで、とても実りの多い一年でした。今年は、みなさんからいただいたご恩をお返しする番だと思っています。「恩送り」の一年にしたい。今年もどうぞよろしくお願いいたします。