I LOVE YOUは最強だ。決して揺らぐことのない、愛に溢れたロックンロール。大好きなこの場所に来られない人たちに、目の前の瞬間を一つ残らず伝えたいと思った。それほどまでに彼らの鳴らす音はドラマティックだった。


今回は、The Birthday。東名阪で行われたホールツアー「GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR」の最終日、大阪・フェスティバルホール(11月23日)の様子をお届けします。


開演を告げる場内アナウンスが終わると同時に拍手が起こる。どれだけこの時を待ち望んでいたかがうかがえるアツい拍手だ。そして、客電が落ち、「Sixteen Candles」が流れるなか、ステージに姿を現すメンバーを、大歓声の代わりに手のひらに精一杯の思いを込めて迎える。チバさん(Vo. / Gt.チバユウスケ)が、指揮者のように腕を振って登場すると、その拍手は一層大きくなった。チバさんはサングラスだが、ニコニコと笑みを湛えオーディエンスを見ている。その顔はとても神々しい。


オープニングを飾ったのは「ヒマワリ」だった。ギター、ベース、ドラムと4人の鳴らす音が重なり合った瞬間、待ち焦がれていたダイナミックな音圧が迫ってきてしびれた。チバさんの声がすーっと身体のなかに浸透していく。そして、〈ヒマワリがさぁ 揺れてたんだ 底無しに青い空があって〉と、2曲目の「青空」へバトンをつなぐ。この曲ができた頃と、今、見上げる青空は何も変わりはしない。世界を絶望に突き落とし、それでもなお、未来へと希望をつなごうとする今の状況とリンクするようなリリックが沁みた。ハルキくん(Ba.ヒライハルキ)が、オフマイクで伏し目がちに歌いながら、しなやかにリズムを刻んでいた。どのシーンを切り取っても美しいプレイスタイルは見るものを虜にする。アルバム『BLOOD AND LOVE CIRCUS』から、「SOMBREROSE」「DOOR」「ROCK YOUR ANIMAL」とかっこいいナンバーが続く。フジケンことギターのケンジさん(フジイケンジ)は、クールに佇みながらも、曲が始まるたびに挑むように足を上げたりギターを掲げたり。気合がみなぎっているようだ。私たちと同じように、彼らもきっとこのツアーを心待ちにしていたのだろう。今回のセットリストは、今、彼らが演りたい曲で溢れているのだと思うと、1曲1曲が特別で愛おしくなる。

 
 

 
 

なかでも圧巻だったのは、「春雷」ではないだろうか。静寂のなか暗転したステージで地鳴りのような鈍いドラムが遠く低く響く。一瞬にして会場の空気が変わった。哀愁漂うチバさんの声、ギター、ベース、ドラムの、それぞれが奏でるメロディーは重厚で美しくて、たまらなくエモーショナルだった。ケンジさんの、自らと対峙するような、まるで魂を削っているかのような迫真のギターソロ。ハルキくんのメロディアスなベースライン、雷鳴のように轟くキュウちゃん(Dr.クハラカズユキ)のドラム、チバさんは情動にまかせてギターをかき鳴らす。ステージから放たれるストロボのような閃光と加速していくグルーヴ感が凄まじかった。これこそがThe Birthdayの神髄なのだと思う。まるで雷にうたれたような衝撃で、しばらく身動きができず突っ立っていた。演奏が終わるのを見届けて、静かに沸き起こった拍手。きっと、みんな同じ想いだったのだろう。渾身のプレイで魅せたケンジさんをねぎらうように、感動の拍手はいつまでも続いていた。鳴りやまない拍手のなか、チバさんの柔らかい表情が見えた。初日の名古屋では同じく鳴りやまない拍手に、チバさんは「悪くないな」と口にした。「あんまり拍手ってもらったことがないからさ」と微笑んだチバさんにじんとしたのだった。この日は言葉こそなかったが、きっと、そんな思いでこの拍手を受け止めていたのかもしれない。

 
 
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今回、ライブハウスだと見えづらいキュウちゃんが、しっかりと見えて嬉しくなる。「お久しぶりです」という声にほっとした。キュウちゃんはいつだって、メンバーとファンの架け橋でいてくれる頼もしい存在だ。旧フェスティバルホールの話の後だったか、突然チバさんが言った。「ここ、何階?」(フェスティバルホールは、リニューアル後タワービル内にある)と聞かれた私たちは「え?何階なんだろう」とシーンとなった。すると、「あ、喋れねーのか!…慣れねぇな!」と照れ隠しのように言って、首元からストールをひょいっと後ろに放り投げたチバさんの可愛さといったら。メンバーも笑っていた。喋れないのもあるけど、私たちも知らなかったのだ(苦笑)。ここはマスクのせいにできてよかったと思ったし、茶目っ気たっぷりのチバさんに和んだシーンだった。


ライブ後半は、ホールならではの舞台演出に目をみはった。「24時」では満を持してスカルのバックドロップが登場。そしてドレ―プ状の真紅のカーテン、アンティークなペンダントライトがステージを彩る。4人のシルエットが映えて、まるでダンスホールのようだった。息つく間もなくチバさんがハンドマイクで「Red Eye,Please!」と叫ぶと、ケンジさんが高くギターを掲げて応え「Red Eye」の世界へと誘う。ムーディーで、妖しげな空気を漂わせて、ケンジさんのドスの効いたプレイが炸裂する。チバさんのブルースハープ、うなるベース、ドラムに、次々とホールがジャックされていく。深みと円熟味を携えた彼らの音は、The Birthdayが、今まさに芳醇の時を迎えていることを物語っていた。そして、本編ラストを飾ったのは「オルゴール」だった。ミラーボールが光のシャワーなら、彼らの声、コーラスは、明日への原動力となって、私たちに降り注がれた。それは希望に満ちていて、眩しくて、涙がにじんだ。いくつものまっすぐな光が、メンバーが去った後もずっとステージを、客席を照らし続けた。まるで銀河系を浮遊しているかのような煌めきの光景だった。


アンコールでは、缶ビールを片手にゴキゲンで現れたチバさん。ステージの前まで出てきて、オフマイクで「くそったれの世界」を歌い始めたときだった。いつものように(小声だったが)チバさんと一緒に歌おうとした声に、チバさんは強く首を振った。(歌わなくて)いいよと。ほんの一瞬だったけれど、チバさんの毅然としたふるまいに心底しびれたのは私だけではないだろう。私たちを守ろうとしてくれたような気がして、チバさんの男気に胸が熱くなった。間違いなく忘れられないツアーファイナルになると思われたが、この日はそれだけでは終わらなかった。アンコールラストの「なぜか今日は」が終わり、ケンジさんがギターを置いたとき、チバさんはもう1曲と指を立てたのだった。そして言った。「俺の人生のなかで、ツアーファイナルが大阪っていうのは初めてなんだわ」。頭のなかで、その言葉がぐるぐるまわっていた。思いがけないチバさんからのサプライズに、歓喜の声が漏れていたかもしれない。慌ててギターを抱えるケンジさんが見えた。もしかしたら、メンバーも聞かされてなかった?


チバさんがアカペラで歌い出した〈電話さがした あの娘に聞かなくちゃ 俺さ今どこ?〉。いつもなら、大合唱のフレーズだったが、チバさんの声だけがホールを包み込んだ。驚きと感激でまさに「涙がこぼれそう」な瞬間だった。「今日は、お前らと大阪フェスティバルホールだ!」 チバさんの叫びに応えるように振り上げた腕のすきまから見えた、キュウちゃんのカウントは、鮮やかに突き抜け、一瞬でチバさんの想いを受け止めたメンバーの揺るぎないバンド力を目の当たりにした。凄い人たちだ。終わってほしくない、ライブが最高だという想いは私たちだけでなく、チバさんもメンバーも一緒だったのかもしれない。とんでもない音を鳴り響かせるのはやはりチバさんだった。伝えたいこと、伝えなきゃいけないことは無限にある。そこに彼らがいる限り。そう思わせてくれた至極の一夜だった。

 
 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。現在も感染が広がりつつあるなか、大好きなこの場所に行きたくても行けない人、行かないと苦渋の決断をした人、自己責任で参加を決めた私たち…すべての人の決断は尊いものだと思います。そして、覚悟をもってライブを敢行してくれたメンバーには感謝しかありません。今年のデビュー15周年(ケンジさん加入10周年)を来年こそは、みんなでお祝いできることを心から願います。