早いもので11月も半ばになりました。京都は紅葉シーズンに突入しているころ。私はといえば、秋からいくつかスタートしたお気に入りのアーティストのライブに行くことや今年やり残したことなどに取りかかる日々を送っております。
 
よどみなくただ我が道を行く、そんな力強さを感じるようになったのは実はごく最近のこと。当時、私はこのバンドがもし解散することになったとしても受け入れるしかないだろうと思っていたところがあります。
 
出会いははっきりとは覚えていないけれど、おそらくFMから流れてきたメロディー。その独特の声、切なさや儚さを帯びたメロディーが、小さいラジオのスピーカーから収まりきれないほどのスケールを放っていて、余韻を残すアウトロがいつまでもアタマのなかを巡り、気がついたときには「スロウ」が私の一部になっていました。以来、GRAPEVINEの歌は私の心を揺さぶりいとも簡単にするりと入り込んでくる。まさにそれは“琴線に触れる”曲。そんな彼らのデビュー20周年はなかなか感慨深いものがあります。
 
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GRAPEVINE 15th Album 『ROADSIDE PROPHET』

 
10月からツアーがスタート。私はまずは10月14日(土)、田中くん(Vo.&Gt.田中和将)曰く「俺の街・神戸」(神戸SLOPE)に行ってきました。真ん中より少し後ろの中央、ステージとオーディエンスが見渡せる場所は男性が多くてアツかった! 最新アルバム『ROADSIDE PROPHET』の世界観とレアでアッパーな選曲が見事に絡み合い、そのたびに歓声が上がっていました。個人的には、おそらく当時のツアー以来となるお気に入りの曲に飛び上がるほどびっくり。実は当日も聴きながら、きっと演ってくれないだろうなと高を括っていた曲だったのです。ほかにもメンバーの魅せ場をたっぷり盛り込んだ豪華なラインアップ。目も心も捉らえて離さない職人・アニキ(Gt.西川弘剛)の一癖も二癖もあるギター、亀ちゃん(Dr.亀井亨)のメロディアスなドラムの心地よさ。そしてもともとはギタリストだった田中くんが魅せるギターソロ。勲さん(Key.高野勲)は、ココロの奥深いところに染み渡る繊細で美しい音色に加えアコギも披露、そして安心感のあるかっこいい金やんのベースソロにはひと際盛り上がりました! ライブ映えする曲、かっこよさが増す曲…あらためて名曲揃いのGRAPEVINE。ステージ上の彼らのパフォーマンスと私たちオーディエンスのリアクションがまさにリンクしているのを肌で感じ、GRAPEVINEはライブバンドなんだと唸らされました。そうそう、彼らがギターを持ち替えたり給水したりする曲間ですが、息をのむような静けさにそういう慣習なのだと思っていたけれど、全然そんなことはなくて、普通に声をかけたりつっこんだりしていいと。実はそんな掛け合いを手ぐすね引いて待っているのかも(笑)。「拍手もしてないときあるやろ!」と言ってたけれど、さすがにそれはないと思う(でもタイミングを逃していることもなくはないかもと気づき反省)。
 
本編ラストでは、たおやかに微笑む田中くんのMC、続いて演奏された曲。ここでこう来るのかと腑に落ち、同時に私も彼らと同じ時を過ごしてきたんだなと…いつのまにか泣いている自分に気づいて戸惑いました。初めてのライブで、線が細いと思っていた田中くんが意外にもパワー炸裂、熱唱系で驚いたこと、また(今や吉本の芸人さんでさえも使わない)もみ手で語りかけるような、THE関西人のMCにますます惹かれたこと、周りにファンがいなくて一人でライブに参加していたこと…。数年前に友人を介してチケットを譲ってもらったことがあります。特に会場で約束もしていなかったのですが、ライブ前ざっくりとした整理番号で並んでいたとき「何番ですか?」と聞いてこられた方がなんとチケットを譲ってくれた方だったという偶然。そこで意気投合して一緒に観に行くようになり、またその友人を通して、一人で来ていたファンの方との劇的な出会いがあったこと。いろいろな想いといくつかの奇跡が頭をよぎる…。そして周りの涙ぐんでいる人たちの姿を見てまた感動して。みんな同じように彼らの曲に、存在に救われ背中を押され、不器用ながらもここにいるんだなぁとぐっときました。
 
「物語は終わりじゃないさ」と歌う彼らには、あの日、いつ解散しても不思議ではないと思っていたころの危うさはもうどこにもない。生命力に満ち溢れて颯爽と明日を歌う。そして歌い終わったあとオフマイクで「ありがとう」という田中くんは無敵なのだ。
 
こんなに豊かな20年をありがとう。終演後、あの曲が聴きたかったとかあのシーンがかっこよかったとかそんなことを言い合える友人と、出会わせてくれたバインに感謝。こんな瞬間が永遠に続いてほしいと心底願いながら「30周年もよろしく」と言った彼らと、私たちもただ与えられるだけじゃなくて何かリアクションを返していけるような、同志のような存在でいられたらいいなと思うのです。
 
今回ライブハウスツアーに加え、11月24日(金)大阪NHKホール、12月1日(金)東京国際フォーラムホールAのホール公演も予定されています。天邪鬼な田中くんが今回めずらしく言ってました。「みんなに会いたいぜ!」って(笑)。優しくされたかと思うと、突き放される。これからもこの攻防戦が繰り広げられるのだろうな。
 
 

 
 
 
 


 
shinomuramotoshino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。田中くんにとって神戸が俺の街ならば、私の街は「馬の街・栗東」。栗東は競走馬のトレーニングセンターがあり、競馬ファンにとっては聖地ともいえる街。そんな環境にいるからか美しい競走馬が大好きです。この時期、年末までG1レースが目白押し。今年はどんな馬がどんなドラマを見せてくれるのか楽しみです。