2月末からコロナウイルスの影響で延期・中止が続いていたライブの数々。私にとってのライブ解禁の第1回目は、10月3日(土)京都・円山公園音楽堂で行われた『「聴志動感」~奏の森の音雫~』のParmanents(パーマネンツ・以下パーマ)のステージだった。GRAPEVINE(グレイプバイン・以下バイン)のパーマヘア田中和将さん(Vo. / Gt.)と高野勲(key.)さんのユニットで、約10年ほど前から不定期に活動している。この日、1ステージ目のReiさんが終了した後、次のステージの機材が素早くセッティングされていく。次はおそらくパーマのはずなのだけれど、ステージセンターにセッティングされた2つのマイクスタンドと見覚えのないギター。あれ、誰かゲストに来るのかなとソワソワし始めたところで、田中さんと勲さんが登場。そして、二人とともに現れたのは元NICO Touches the Wallsの光村龍哉さんだった。上下白のTシャツ&パンツにスカーフという爽やかさ。思わず客席から感嘆の声がもれた。1週間前、ビルボード東京2日目のステージでサプライズで登場したと聞いていたが、まさか京都でもパーマネンツ with 光村さんのステージが観られるなんて! 「東京から連れてきました!」と光村さんを紹介する田中さんの嬉しそうな顔から、彼らも楽しみでたまらないようすが伝わってくる。

 
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GRAPEVINEオフィシャルサイトより

 

1曲目に入る前、機材に何かあったのか、てんやわんやしている田中さん。もれてくる関西弁ににんまりしながら“そのとき”を待つ。そして、無事に整い呼吸をそろえて演奏されたのは「光について」だった。二人のギターと勲さんのやわらかい鍵盤の音色が溶け合い、ゆるゆるとカラダのなかにしみわたっていく。田中さんが情緒たっぷりに1コーラスを歌い上げたあと、光村さんが丁寧に一音、一音、言葉を紡いでいく。二人の姿が、切ないメロディーのなかに見出す光にも見え、まるで映画の1シーンのようだった。この状況下、声を出すことは叶わないが、みんなの精一杯高く上げた両手から、思いを込めた力強い大きな拍手が会場を包んだ。その拍手にニコニコと微笑みながら、「もう秋ですが、夏の歌を歌います」と「風待ち」に続く。秋が深まりつつある京都で、夏の残り香を拾い集めるようにして、二人の素敵なコラボレーションに耳を澄ます。〈目指すもののカタチは少しずつ変わってく まわりが思うほどじつはそんな器用じゃない〉。このフレーズが好きで今日もここで少し泣きそうになりながら、野外でこの曲が聴ける幸せに浸る。


2曲目が終わったところで「後輩に、こんなに先輩の曲を歌わせる人はいないと思います」と光村さんから爆弾発言が飛び出し、会場から笑いが起こった。その後も、洋楽カバーと「R&Rニアラズ」をドッキングさせたロックテイストの曲もメインボーカルを任されていて、確かに、ゲストなのに、オープニングからまるでパーマのメンバーのように(バインの曲を)バンバン歌わされているなぁと、みんな薄々思っていたからだ。自分たちの歌を丸投げして、気持ちよさそうにハモる先輩(笑)。でも、そんな光村さんが反撃するシーンもあった。それは、田中さんが光村さん(NICO Touches the Walls)の曲「Broken Youth」を歌い終えたときのこと。「人の曲を歌うのは緊張しますね。冷や汗もので、間違えられへん」と笑った田中さんにすかさず「僕の気持ちを考えてください!」と返し、会場が笑いに包まれた。「そうだそうだ!」と光村さんに加勢するみんなの声(私も含め)が聞こえてきそうだった。二人の掛け合いが楽しくて、やっぱり生のライブはいいなぁと思っていたところで、彼らも同じように会場を見渡し「お客さんの前で演る生のライブはいいですねぇ」としみじみと言った。コロナウイルスの影響で、4月から開催が決まっていたGRAPEVINEのライブは延期になり、こうした地方への旅も久しぶりだったのだそうだ。「家でギター弾いてるのとは全然違うやろ」と先輩風を吹かす田中さんに「全然違う!」と無邪気に答えた光村さんは最高にキュートだった。


湧き上がった想いや感動を伝える“声”というツールが制限されている今、それをステージ上にいる彼らに伝える手段は拍手しかない。どれだけの想いを届けられるだろうと思っていたが、こうして自分が体験してみて、拍手だけでも十分表現することができると思った。曲が終わるたびに鳴らされる拍手は、ただ一つとして同じものはなく、そこに集まった人たちそれぞれの感情が込められている。時として鳴りやまないほどの拍手に、私たちでさえぐっときてしまう瞬間もあった。情景が浮かぶような壮大な世界観をもつ「ピカロ」はまさにそうだった。たゆたいながらも突き抜けるような、田中さんの伸びやかな声。光村さんの声も重なり、それは暮れゆく空を鮮やかに彩る極上のハーモニーだった。この曲でステージを去る光村さんへのねぎらいの意味も込めて、あたたかい拍手がいつまでも続いていた。そして、楽しくはしゃいだ時間を惜しむように演奏されたラストの曲は「smalltown, superhero」。抒情的なピアノのメロディーとすべてを包み込むような穏やかな歌声がじんわりと心にしみた。何よりも田中さんのやわらかい表情がまぶしくて、田中さんが羽織っていたふわりとしたシャツのせいだろうか、彼らがステージを去ったあともふんわりとした余韻に包まれた。


まだまだ、模索中の日々ではあるが、先が見えない不安な自粛期間を経て、こうして向き合えたとき、それぞれ立場や立ち位置は違っても、想いは一緒だったのだと、まるで答え合わせをしているような気がした。


少し蒸し暑さの残った午後の、風にそよぐ木々のにおい、暮れていく空に映える祇園閣。ステージ上の彼らと彼らを包むすべてが、私たちの記憶の1ページになる。この日のことはきっと、この先もずっと忘れることはないだろう。明日からの日々にぽっと優しさを灯してもらえたような、そんなあたたかい時間だった。

 
 

 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。いろいろなことが少しずつ動き出そうとしています。中央競馬も(抽選ではありますが)観客が入場できるようになりました。ちょうど秋のG1レースも開幕したばかり。今年は3歳の牝馬、牡馬ともに三冠馬が誕生するかもしれません。ぜひ、その奇跡の瞬間を一緒に目撃しましょう。