私の住む地域に発令されている緊急事態宣言。まだまだ厳しい日々が続きますね。そんななか、昨年10月31日(大阪・フェスティバルホール)からスタートしている藤井フミヤさんの全国ツアー「ACTION」は、公演延期や中止という苦境を乗り越えながらも、現在もガイドラインに沿ってライブが行われています。テレビやネットニュース等でご存じの方もいらっしゃると思いますが、今回のツアーではチェッカーズ初期のヒット曲がたっぷり。ここでは曲名については控えつつ、私が参加したツアー初日の大阪(フェスティバルホール)、神戸(神戸こくさいホール)などのようすをネタバレにならないようご紹介したいと思います。

2020年の春に予定されていたF-BLOOD(フミヤさんと尚之さんのユニット)のライブはすべて中止となり、この「ACTION」は待望のライブだった。フミヤさんがステージに現れるといつもなら大歓声になるのだが、みんな、声を出したい気持ちをぐっと抑えて、精一杯の拍手で迎える。また、フミヤさんの「Hallo!Everybody!」という声には、LEDのブレスレットやサイリュウムの鮮やかな色彩が宙に舞って応え、いつにも増して声というツールの代わりに意思表示の大役を果たしていた。フミヤさんは上下シックなスーツで、軽やかにリズムをとりながら、オープニングからクールなダンスナンバーで魅了していく。笑みを湛えながら、フロアを見渡し挑発したり、ハンドマイクをピストルのように颯爽と回したり。私たちは全神経を集中してステージを見つめる。

 
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ハロウィン&満月“ブルームーン”のツアー初日

 

初日のステージでフミヤさんは「そうか、こんな感じなんだ」と何度も口にした。やっとツアーが開催できることに感謝しながらも、静かなフロアに戸惑っているようだった。フミヤさんはミュージシャンでありながら、アイドルとしてもずっと歓声のなかにいた人だから、違和感があるのは当然なのかもしれない。「あんまりしゃべっても反応がないからな」「すごく売れているバンドの前座みたい」と最初はさみしそうだったが、徐々に状況に慣れてくると、この状況を楽しんでいるようだった。フロアに背を向け、振り返りざまに「あ、いたの? 静かだから、誰もいないのかと思った」と和ませてくれたり、声が出せないのなら笑わせようと試みて「おっ! ウケた!」と誰よりもフミヤさんが嬉しそうだったり。曲中、フロアにマイクを向け「・・・」の反応に、「あ! 歌えないの忘れてた!」なんて天然キャラを発動するフミヤさんにも心惹かれた。本当に魅力のかたまりのような人だ。

今回のツアーでは、チェッカーズのシングル曲だけでなくアルバムからも多数選曲されている。フミヤさんが「チェッカーズの曲を演るから尚之は欠かせない」と言っていた通り、藤井尚之さんの存在は不可欠だ。スーツにサングラスは反則すぎるかっこよさ。Saxという楽器のインパクトや情感豊かな音色だけに留まらず、尚之さんがいるだけでステージが華やぎ、Saxを抱えながらリズムをとる姿にはいつも惚れ惚れさせられる。カラダに染みついているSaxのフレーズが、まるで現在と過去をつなぐ扉のようだった。その扉から、大切な記憶が、着ていた洋服や季節の匂いに至るまで弾けて飛び出してくるような感覚。

当時異彩を放っていたあの曲も何度も聴いたあの曲も、フミヤさんが全幅の信頼を寄せるバンマス・大島賢治さん(Dr.)、紳士的で安定感のある山田“Anthony”サトシさん(Ba.)のリズム隊のもと、真壁陽平さん(Gt.)の前衛的で変幻自在なフレーズと松本ジュンさん(key.)の爽やかなエッセンスが加わり、さらにグルーヴィーで魅力的なロックナンバーになっていた。本来ならば、曲が始まると同時にきっと歓喜の声が漏れていたであろう、そんな瞬間の連続。これからもずっと歌い継がれていくことを願わずにはいられなかった。また、フミヤさんとバンドメンバーのみなさんとの息の合ったコミュニケーションにも目が離せなくて、ギターソロなのになぜかギターを弾かずニコニコと笑っている真壁さんに、フミヤさんが「弾けーっ!」と喝を入れるレアなシーンも。

 
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先日、フミヤさんの特別番組が放送され、そこでフミヤさんは解散後初めてテレビでチェッカーズ初期の曲を披露した。なかでも貴重だったのはチェッカーズの生みの親といっても過言ではない、作曲家・芹澤廣明さんと作詞家・売野雅勇さんのご出演だったのではないだろうか。フミヤさんも知らなかった、チェッカーズというグループを世に放つための作戦、秘話が初めて明かされたのだ。和やかで楽しいお二人の会話のなかに、今もなおフミヤさん、チェッカーズを想ってくださるお言葉が尊くて、改めて感謝せずにはいられなかった。フミヤさんが「メンバーが、この話を聞きたがると思う」とぽろりとこぼした言葉にも、ほろりとさせられたのは私だけではないだろう。長い間、封印されてきたチェッカーズ初期の曲たちの開放は、長く続くこの状況に沈みがちな気持ちを、少しでも盛り上げようというサプライズなのではないかと思えた。コロナがもたらしたものは悪いことばかりじゃないと信じたい。

ある曲で、本来なら大合唱のあのフレーズ。「歌いたいでしょ」といたずらっぽく笑って「…ダメです。心の声を聴かせてください」。どんな言葉にも、“藤井フミヤ”という人の魅力が詰まっている。昔もかっこよかったけれど、断然今のほうがかっこいい。年齢を重ねることでしか得られない、人望や決断力、豊かな感受性を携えて、きっとこの先も、すべての人をトリコにして幸せを届けてくれる人なのだと思う。今のような時代こそ、みんなを引っぱっていけるのはフミヤさんのような人なのだろう。真のリーダーの姿を見たような気がした。

アンコールが終わってバンドメンバーがはけても、一人ステージに残り、ぽつりと言うフミヤさん。「終わるときがさみしいんだよな」。言葉の端々からにじみ出る優しさ。少し目が潤んでいたように見えたのは気のせいではなかったかもしれない。

 
 

 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、赤堀雅秋さん作・演出の舞台「白昼夢」を観劇。少しヒヤリとしたりクスッとしたり。セリフのないシーンでも表情や存在だけで魅せる役者さんのすごさと余白の部分を観客の感受性にゆだねる赤堀作品のすごさ。また、演技派の男性陣のなかで、華があって女神のような吉岡里帆ちゃんに癒やされました。些細な表現も素晴らしかった。いろいろな想いがあとからじわじわ押し寄せてくる作品でした。
 
 
 

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