今年の夏は、暑さと、次々と発生する台風に地震…多くの爪痕を残した、忘れられない平成最後の夏でした。そんななか、8月25日にデビュー25周年を迎えた斉藤和義さん。8月から全国6か所9公演行われた『KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~』は、和義さんの25周年をお祝いするために、全国から集まったファンで大にぎわいでした。アニバーサリーツアーのグッズ販売や限定のガチャガチャも登場し、まさに、お祭り! 今回は、9月15日(土)に行われたアスティとくしまのツアーファイナルの様子を中心にお届けします。
 
ツアートラック

このツアートラックも今日で見納め。お疲れさまでした!

 
まずは、ステージに設置された大きなスクリーンに、和義さんのプロフィールとこれまで発表してきた楽曲のタイトルが映し出されていく。ずらりと並んだ全タイトルは圧巻で、スクロールしていく画面の速さに追いつけないほど。今か今かと登場を待ち望むステージに、和義さんが現れると、たちまち興奮のるつぼと化す。1曲目に選ばれたのは「FIRE DOG」。少し短くなった、パーマのかかった髪の和義さんが、声を上げながら、パンチの効いたギターを響かせると、会場は大歓声に包まれた。ロック色の強いガツンとくる選曲がかっこよく、攻めてくるなぁとニヤリ。そうして続く「Hello! Everybody!」と「アゲハ」では、会場から笑顔がこぼれ、和やかなムードが漂う。
 
今回のライブは、事前に、歌ってほしい曲をリクエストするという企画があり、リクエスト上位5曲に選ばれた曲が演奏されるのだそう。もしかして、この曲?とか、自分がリクエストした曲が披露されるかとか、みんなでワイワイ予想しながら観るのも楽しみだった。9月末現在、まだ明かされていないけれど、きっと「男節」は上位5曲に入っている曲なのだろう。シンプルなメロディーに乗せて語られるのは、旅を続ける“歌うたい”。まるで和義さん本人の心の内が見えてくるようだ。“俺は男だ”とちょっと威張りながら、〈もしもそれでもいいのなら 見ていてくれよ何処までも〉〈おまえの敵が見当たらねー〉と見せる本音に、心がくすぐられる。
 
前回の『Toys Blood Music』ツアーから引き続いてのバンドメンバーが、和義さんの25周年に華を添える。また、スクリーンを駆使して映し出される映像は、遊び心満載だった。おかしかったのは、25年前の写真を紹介するコーナーで、6歳だったよっちさん(河村吉宏さん/Drs.)やホストのようだった山口寛雄さん(Ba.)たちを好き勝手にいじる和義さん。なぜか、肝心の和義さんの写真はなく「俺のはないんだけどね」って、いつでもネットで見られるでしょとばかりに余裕だったけど、ファイナルでは、サプライズでどどーん! 長髪を束ねて、おでこを全開にした和義さんの写真が映し出されたのだ。崩場将夫さん(Key.)から「陶芸家時代?」とからかわれた、職人風のアーティスト写真を前に、本気ではずかしがる和義さんは貴重だったかも。「早くしまってくださーい!」と言った和義さんに、機材席のスタッフが、大成功とばかりに笑っていた。愛されているんだなぁと、思わずにっこりしてしまう場面。また、徳島出身の大杉蓮さんから差し入れてもらったラーメンの話や、阿波踊りのかけ声「えらいやっちゃ えらいやっちゃ」も徳島ならではの光景だった(もちろん、かけ声に合わせて即反応して踊り出す、陽気な県民性も最高!)。
 
バリエーションに富んだ選曲。真壁陽平さん(Gt.)と崩場さんの3人で奏でる「ウエディング・ソング」や弾き語りの「郷愁」(「かすみ草」や「ハロー・グッバイ」などが演奏された日も)、新曲の「カラー」は、七色の美しい照明が、曲の世界観を彩っていた。個人的には、聴きたかった「幸福な朝食 退屈な夕食」に、心底陶酔した。演奏するミュージシャンによって、個性的なメロディーが奏でられる、聴きごたえがある一曲。真壁さんの、一筋縄ではいかないフレーズを堪能。後半は、ギターだけでなく、メンバーの放つ音がグルーヴしてまるでカオス! 素晴らしかった。「ずっと好きだった」「やさしくなりたい」などのヒット曲でも盛り上がりながら、静寂のなかで奏でられた「歌うたいのバラッド」は、その愛おしいメロディーに湧き上がった歓声は格別だった。
 
ポスター

至るところに、貼られていたポスター。街を上げて応援してくれているのが嬉しい

 
20数年前、ライブハウスで和義さんは言った。「今度やる会場は、キャパが大きいから“友達3人連れてきてね”」と。はずかしくて、手が上げられない私たちに、“盛り上がって!歌って!”と、手をヒラヒラさせて煽る姿や、「褒めて」って言っていた和義さんを思い出す。和義さんは、昔も今も全然変わらないのだが、いつの間にか、誰もが憧れるアーティストになっていることに、しみじみ感動していた。しなやかで、まっすぐな職人気質。いつもかっこいいと思うのは、不言実行なところ。人が驚くようなことをさらりとやってのけるところ。まったく芯がぶれていないところだ。可愛げがあり、どんなに下ネタを言っても品があると、私は思っている(笑)。某ビールのCMで、自分は案外そんなに弱くはないと言っていたけれど、強くて人一倍優しい人だと思っている。
 
それは、大阪公演の時だった(8月25日大阪城ホール)。懐かしい「月影」で、みんなが、“ナナナ”と口づさみながら両手を高く上げて左右に振るシーン。まるで波を描くような、多幸感溢れるそのシーンで、和義さんの声に、みんなが涙した。「照明、もっと明るくしてくださーい!」と。こういう人なのだ。会場全体が口づさむ“ナナナ”、みんな、涙を流しながら、微笑みながらの大合唱。いつまでも歌っていたかった。この時間が永遠に続いてほしいと願ったのは、私だけではないだろう。みんなの顔を一人ひとり見つめながら、ギターを弾く和義さんの顔を忘れることはできない。もしかしたらココロで泣いているのかなと思うような、とても優しい顔だった。
 
「これからもたくさん曲を作って、たくさんライブをやっていくので、また来てくださいー!」と言って、和義さんは「これからもヨロチクビーチク」とばかりに、Tシャツを上げてチ〇ビを見せながらステージを後にし、会場は笑いに包まれた。このギャップ(笑)! これが“斉藤和義”なのだ。和義さんがさまざまな想いのなかで紡いで、積み重ねてきた曲は、きっと、どの曲も誰かにとっての一番。1曲1曲に、聴く人それぞれの思い出が詰まっていて、聴く人の数だけ、物語があるのだと思う。時には背中を押し、寄り添ってくれたあの曲。ふわりと、思い出がメロディーとほどけていくような気がした。過去・現在・未来の点と点がつながり、うねりを起こし大きなウェーブになっていく、そんな勢いを感じた25周年ライブだった。
 
 
 

 
 
 
 


 
F49CE500-1CD6-4E32-BBCB-69709B5402EBshino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。9月は台風の合間を縫うように、和義さんのアニバーサリーツアーのあと、和義さん×立川談春さんの歌と落語のコラボ『平安神宮月夜の宴』、そして翌日にはウワサのバンド「カーリングシトーンズ」のデビューライブと大阪万博公園でウルフルズの『ヤッサ2018』を満喫! 50代の、自由でかっこいい大人たちが、わちゃわちゃする姿はどこか可愛らしく微笑ましい光景で、予想以上の面白さでした。