亡くなった人を想うとき、どうして笑っている顔ばかり浮かんでくるんだろう。桜良(さくら)の笑顔が、私のココロを占領して離れない。
 
『君の膵臓をたべたい』。
 
初めて、このタイトルを目にしたときのインパクト。作家・住野よるさんのデビュー作のタイトルです。思わず、ココロのなかで、言ってみました。「君の膵臓をたべたい」と。臓器の役割も曖昧だし、漢字もうろ覚えの、“膵臓”。食べるって、どういうことだろう。ましてや、“君”の膵臓って? 頭の中には、いくつもの、クエスチョンマーク。ずっと気になっていました。きっと、このタイトルに触れた方は、みんなそうだったんじゃないでしょうか?
 
そうして、映画を観て、ホラーでグロテスクな想像とは真逆の、瑞々しい作品に、ほっとしたのです。現在、劇場アニメが公開中! 私もさっそく観に行ってきました。今回は、2017年に映画化されたものを、ネタばれにならない程度にご紹介したいと思います。
 
 
IMG_8177
 
 
〈ストーリー〉
高校時代のクラスメイト・山内桜良の言葉をきっかけに母校の教師となった【僕】。彼は、教え子と話すうちに、彼女と過ごした数か月を思い出していく―。膵臓の病を患う彼女が書いていた「共病文庫」(=闘病日記)を偶然見つけたことから、【僕】と桜良は次第に一緒に過ごすことに。だが、眩いまでに懸命に生きる彼女の日々はやがて、終わりを告げる。桜良の死から12年。結婚を目前に控えた彼女の親友・恭子もまた、【僕】と同様に、桜良と過ごした日々を思い出していた―。そして、あることをきっかけに、桜良が12年の時を超えて伝えたかった本当の想いを知る2人ー。
 
 
ヒロイン・桜良には、現役高校生の女優・浜辺美波さん。とにかく、美波さんが可愛いっ! 原作の桜良は、明るくて、「うわははっ」と笑う元気なイメージだけど、もともとおとなしくて静かな性格だという美波さんが演じると、明るさと聡明さを兼ね備えた、清楚な桜良になっているのが魅力。他人には興味を示さず、いつも一人静かに本を読んでいる【僕】には、「DISH//」のメンバーで俳優の北村匠海さん。違和感がなくしっくり感じたのは、北村さん自身【僕】と似ていると、インタビューで話していたことからも納得でした。また、原作にはない、12年後の【僕】を小栗旬さん、そして桜良の親友・恭子を北川景子さんが演じているのも、映画化の見どころのひとつです。桜良の分身のような、大切な日々を記した「共病文庫」が、高校時代と12年後の【僕】の時間をつなぎ、シンクロさせながらストーリーが進んでいく…。顔の雰囲気は全然違うのに、北村さんと小栗さんの佇まいには、時折はっとさせられるシーンも多くありました。
 
桜良の病気を知ってしまい、最初は戸惑いながらも、桜良のやりたいことをすべて叶えてあげようとする【僕】。桜良は、「真実か挑戦」というゲームの力を借りて、【僕】の本心を探ろうとしたり試してみたり。少しもどかしささえ感じるけれど、徐々にココロを通わせていく二人。恋人でもない、親友でも友だちでもない、「仲良し」。お互いを「君」と呼び合う関係。ストーリーが深まるごとに、キュートな桜良の、ふと見せる寂しそうな顔が多くなっていく。【僕】の、人を寄せ付けない強さが、いつしか、誰かを守る強さへと変化していく。クラスの人気者と目立たない地味なクラスメイト。もしかしたら本当はとても似ているのかもしれない、そんな二人に、観ている私もどんどん惹かれていきました。
 
 

 
 
「違うよ、偶然じゃない。私たちはみんな自分で選んでここに来たの。ー
君がしてきた選択と、私がしてきた選択が、私たちを会わせたの。私たちは自分の意志で出会ったんだよ」。

 
 
心のひだに触れるような、繊細なセリフがたくさん散りばめられていました。(余談ですが、あまりにも素敵なので、住野よるさんって女性だと思い込んでいたのですが、男性だったんですね。驚き!笑)大好きなシーンがあります。それは、【僕】が「共病文庫」を読んで号泣するシーン。「もう、泣いていいですか?」という言葉を発する前に、北村さんは、もう大粒の涙を流している…。このシーンには、泣かされました。これは、北村さん自身、「共病文庫」に書かれた、桜良からのメッセージを、本番で初めて見たからなのだそう。嘘偽りのない、等身大の【僕】がそこにいたのだ。月川翔監督は、ほかにも、恭子の、結婚式の控室のシーンはテストを行わず、一発本番で撮影したのだそう。12年後に初めて知った桜良の恭子への想い。そして、最後に恭子が笑い泣きで言った言葉は、(北川さんの)アドリブだったと知って、また涙でした。
 
あの日、桜良が「真実か挑戦」ゲームで、どうしても【僕】に聞きたかったことは何だったのか。「仲良し」の桜良を突然失って、【僕】はどんな想いで、今日まで時間を重ねてきたんだろう。それは、恭子も同じで、二人にとって、必要な時間だったのかもしれない。12年もの歳月をかけて、いたずら好きの桜良が、二人に遺した、宝物にたどり着くシーンは感動的で、桜良の12年後も見てみたかったなぁと思わずにはいられないラストシーンでした。
 
劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』の【僕】には、声優初挑戦の高杉真宙さん。雰囲気にぴったり合っていて素敵でした。【僕】と高杉さんの綺麗な顔を重ねながら観てしまったほど(笑)。また、カラフルな世界へと誘うsumikaの音楽や実写版では明かされていなかったシーンなど、アニメならではの見どころがたっぷり。実写版や原作の小説と比較してみるのも楽しいかもしれません。ぜひ、劇場でご覧ください。
 
 

 
 
 
 
 
 
 


 
F49CE500-1CD6-4E32-BBCB-69709B5402EBshino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。先日、突然飛び込んできたさくらももこさんの訃報に言葉を失いました。大好きだったちびまるこちゃん。エッセイも大好きでした。まるちゃんと自分がどことなく似ているような気がして、勝手に重ね合わせて親近感を持っていたことも。いのちについて、そして生きることについて考えた平成最後の夏です。素敵な作品をありがとうございました。