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GRAPEVINE『BABEL,BABEL』

 

2月に発売したアルバム『BABEL,BABEL(バベル,バベル)』を引っ提げて
約8か月ぶりに関西に登場したGRAPEVINE(グレイプバイン)。
彼らが主催するイベント「SOMETHING SPECIAL」。
ゲストは東京の2日目にも登場したSuchmos(サチモス)。
VoのYONCE(ヨンス)をはじめ全員神奈川県出身の6人グループ。
ジャミロクワイをリスペクトし、ソウルやジャズ、ロックを程よくミックスさせた
オリジナルのサウンドは心地よく、最近ではチケット入手も困難だという。
今回初の大阪でのライブ。
GRAPEVINEのお膝元で受け入れてもらえるのか緊張していたというがそんな心配は無用。
みんなすっかり聴き入り思い思いにゆらゆら揺れながらSuchmosの宇宙空間を浮遊している。
今年も続々とフェスへの出演が決まっているSuchmos「STAY TUNE」でますますの飛躍を感じさせる。
 
ほどよく身体も温まってきたところで、いよいよ、GRAPEVINE登場。
 
ファンの顔を笑顔で見渡す田中くん(Vo./G.田中和将)。
短くカットされたパーマヘア。そして少し短めの白いシャツ。
亀ちゃん(Dr.亀井亨)もトレードマークのハットに、
アニキ(G.西川弘剛)はダンガリーシャツ。
続いてサポートメンバーの勲さん(Key.高野勲)と金やん(Ba.金戸覚)。
 
さぁ、やりますか、とばかりに田中くん。
「帰ってきたぜー! オオサカ!」
 
オープニングは前作のアルバムから「Big tree song」。
田中くんの柔らかい表情。
そののびやかでどこまでも届きそうな声に惹き込まれる。金やんの叩く可愛い鉄琴やさまざまな打楽器の音に心踊り、一気に軽やかな空気に包まれる。
ハンドクラップや関西人にはなじみのある“どやさ”のフレーズに会場の空気が和む。
楽しそうな田中くんが印象的。
続いて『BABEL,BABEL』から「TOKAKU」、シングル曲でもある「EAST OF THE SUN」の爽やかでスケール感のある曲が続く。
高野寛さんをプロデューサーに迎えた本作。
GRAPEVINEという素材を生かしつつ、4人目のメンバーとして一緒に楽しみながら、
独自の視点で細部にこだわって携わられたような印象を持つ。
以前何度か高野さんのライブを拝見したことがある。
とても真摯に音楽に向き合われていて、一見穏やかな感じなのだが
奇抜でこだわりのあるギタープレイを何度も見せていただいた。
職人気質で魅力的な方。
「EAST OF THE SUN」の〈訪れた綻びはあまりにも突然で/何も知らなかった神も憧れも
というメロディーとフレーズが個人的にとても好き。
GRAPEVINEに高野色が沁み込み散りばめられているのを感じる。

 

 

そして、「Suchmos、よかったやろ」と嬉しそうに言う田中くん。
「ちょいちょい、バベっていきますんで」といつもに比べて少々おとなしめのMC。
 
本作の核を担う「BABEL」は、印象的なイントロから異彩を放つ。
ファルセットからの歌い出しと力強い地声との絶妙なバランス。
言葉遊び、音の遊びが光る。まさに“ごちゃまぜ”感。不規則なリズムに身体をまかせる。時々変なリズムを刻んでしまうがそれも面白くて気持ちいい。
そして、そっと息をのんだ「エレウテリア」。
田中くんとアニキのギターが心の柔らかいところにじわりと沁みる。
決して枯れない花をそのまま/そっと記憶の庭に埋めた
浮かんでくるシーン、その美しさと切なさ。
間奏のアニキのスライドギターが歌い、妖艶なバインの世界観が漂う。
一転して軽快なロックナンバー、衝撃のPVも話題になった「EVIL EYE」で会場のテンションが上がる。“奈良県” や “kinky girl” などが飛び出す言葉遊びの宝庫。
田中くんの挑発するようなシャウトが炸裂しファンも自然と腕を上げる。まさにここはバインの独擅場。
そして、魅惑的なギターのフレーズに心が震える「CORE」。
透明感のあるひそやかでのびやかな声。
伏し目がちに歌う田中くんの端正で色白の顔はまるで少女マンガの主人公のようだ。
重なり合うベースやドラムにギターがうねり、唸り出す。
骨太で派手なアニキのギターは田中くんのメロディーとともに歌い泣く。
秘めたる熱いものがその表情とメロディーからストレートに伝わってきて目が離せない!
目の前の、彼らが魂を注ぎ繰り出す圧倒的なグル―ヴ感にしびれまくり、放心状態でただ突っ立っているのが精一杯。圧巻のステージ。
そんな私たちを尻目に「ラスト―!」と叫び
「今年はもう “いいとも” みたいなことはやらんからな!」と
いたずらっ子のような表情を見せる。
“いいともって? えー!みたいなやつ? そんなんやってたっけ?”
と考えている間に「Everyman,Everywhere」へ。
懐かしい曲を畳みかけるように、一音一音を確かめるように披露する。
まるでついていけてない。まださっきの、「CORE」の余韻に浸っているのに。
そしてあっという間にステージから去っていった。
「どうもサンキュー! どうもアリガット!」と言いながら。 
 
もともと田中くんはギタリストだったそうだ。
でもGRAPEVINE結成時にボーカルに転向したのだという。
彼が歌うことは、きっと決められていたんだと思う。
私はその偶然=必然に感謝せずにはいられない。
彼の繊細かつ熱く力強いボーカル。時に熱唱系。関西の俺様的などS全開。
また切ないメロディーを歌わせたら、右に出るものはいないと思っている。
そこはかとなく漂う色気と佇まいの美しさ。
どんな歌も歌える、それが強み。
亀ちゃんのロマンティックな楽曲とパンチの効いたドラム。
アニキの琴線に触れる職人的なギター。
そしてGRAPEVINEの一員といってももはや過言ではない、
冬でも短パンの道産子・勲さんの軽やかでしなやかなキーボードと
一見寡黙で穏やか、実は酒豪で陽気な金やんのソウルフルなベース。
それらがぶつかり合ってうねり出す円熟したサウンドはとんでもないくらいかっこよくてさまざまな表情を見せる。
全く以て予測不可能。
それもそのはず、みんなでセッションした曲の断片をコラージュして曲を完成させているのだとか。すごい手法!
こんなかっこいいバンド、どこを探してもいないと思っている。
 
アンコールに現れた彼らは、「ヨンス“モス”~!」とSuchmosのYONCEを呼び込み、
GRAPEVINEの曲「11%MISTAKE」をコラボ。
ファルセットを多用した意外な選曲だったが、YONCEは見事にこの曲の放つ空気感を再現!    
今度は「みんな“モス”~!」と5人のメンバーもステージへ。
次は私たちに向かってニヤニヤと田中くん。
「みんなも知ってる曲だと思うので一緒に歌ってください」と。
彼がこう言うときは、だいたい“お前ら知らんやろ、歌えへんやろ”という曲なのだが…
スタイル・カウンシルの「My Ever Changing Moods」。
英語…読みは的中! いつものどS発言がないと思っていたらこんなところで。
一列に並んだSuchmosメンバーが曲に合わせタンバリンやマラカスを手にステップを刻む。
その両サイドには金やんとアニキ。彼らと共にステップを踏む。
余裕の金やんとぎこちないアニキ。なぜかその光景が微笑ましくて。
こういう光景こそ、対バンイベントの醍醐味。
大先輩バインに強要されたのか(笑)、非売品の『BABEL,BABEL』の黒Tシャツを着て、
ステージに華を添えてくれるSuchmosに、彼らGRAPEVINEも私たちも目を細めながら、
心ゆくまで楽しくてきらめいた時間を堪能したのだ。
 
GRAPEVINEは本編11曲。
彼らのライブはいつもあと少しのいいところで終わる。
“え、あの曲演らないの?”“まさか、この曲で終わり?”
いつも、もっともっと聴きたいと思ってしまう。
それだけ名曲揃いということなのだけれど。
今回も『BABEL,BABEL』のリリースパーティといいながら、全貌は見せない。
お楽しみは4月からのツアーでということなのだろう。
彼らのしたり顔が浮かんでくるようだ。
ぐいぐいと巻き込まれ惹き込まれ、そしてあっさりと突き放される。
天邪鬼な彼らに振り回されっぱなし。
来年はデビュー20周年を迎えるGRAPEVINE。
圧倒的なその世界観を醸し出しながらも垣間見える瑞々しさ。
変幻自在でいまだ底を見せていない。
彼らの策略にはまったとわかっていても、やっぱり目が離せないのだ!
 
もし、彼らがこれを読んでくれたとしたら、
“好き勝手言ってるなぁ”と思われるのだろうか。
それとも“お~、こいつ、まんまとはまりやがった”と笑われるのだろうか。
 
バイン好きの私も、彼らに負けず劣らず
ひねくれ者なのかもしれない(笑)。

 
 
 


 
yumecoshino muramoto●雑誌編集、放送局広報を経て、現在は校正士時々物書きやってます。先日参加したGRAPEVINE Tour2016。「BABEL,BABEL」の世界観を存分に堪能し余韻にどっぷり浸っている毎日。ウワサ通り最強かもしれません。また最近、たくさんの出会いに恵まれています。素敵なお人柄に触れるたびに発信した言葉や音、作品から “その人” が見えるものなんだと感じています。こちらのライブレポ-トからも、私という人間が滲み出ているのでしょうか?