映画やドラマを観ていて、自分の知っている場所が舞台になっているとそれだけで親近感が湧いてくることはありませんか。昨年の今ごろ、滋賀県の実家近くで映画のロケがあり、映画名や俳優名は伝えられなかったけれど、まだ陽が昇っていない真っ暗な時間から撮影が行われたのだそうです。ぐっと気温が下がり凍えるような寒さのなか、リュックを背負って(リハーサルを含め)何度も線路沿いを走る青年…。早起きして観に行った小学生の女の子が、“横浜流星さん”だったと教えてくれました。「かっこよかった!」と今でも嬉しそうに話してくれる彼女を囲んで、近所中が盛り上がっていることはここだけの話です(笑)。今回は現在上映中の『線は、僕を描く』と大阪で行われた舞台挨拶のようすをレポートしたいと思います。

 
 
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<STORY>
大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で運命の出会いを果たす。
白と黒だけで表現された水墨画が霜介の前に色鮮やかに拡がる。
深い悲しみに包まれていた霜介の世界が、変わる。
巨匠・篠田湖山に声をかけられ水墨画を学び始める霜介。
水墨画は筆先から生み出す「線」のみで描かれる芸術。描くのは「命」。
霜介は初めての水墨画に戸惑いながらもその世界に魅了されていく——

水墨画と出会い、
止まっていた時間が動き出す——
(公式HPより)


 

大学生の霜介が篠田湖山(三浦友和さん)に見出され、思いがけず水墨画を学ぶことになる…。戸惑いながらも「できるかできないかじゃない。やるかやらないか、だよ」という湖山先生の言葉に背中を押されて、水墨画の世界に魅了されていく霜介の姿は、真剣なまなざしに誠実な性格が表れていて、観ている私たちも面白そうだな、描いてみたいなと思うのではないでしょうか。湖山先生や孫の千瑛(清原果耶さん)が霜介や学生に水墨画を教えるシーンを通して、水墨画の世界をのぞかせてもらえたような感覚を味わうことができます。墨の濃淡やさまざまな技法によって繊細であり大胆でもある線が描かれていくさまは、驚きとときめきの連続!

孤高の天才を演じる清原さんは、美しくて凛とした佇まいがまさに千瑛といったイメージ。次第に柔らかくなっていく表情はとても魅力的で着物姿も素敵でした。エリート会社員、天才ギャンブラー、DV彼氏など作品ごとに鮮やかにイメージを変え真摯に役柄を落とし込む横浜さんは、小泉徳宏監督と話し合いを重ね、悲しみを抱えもがき続ける霜介を演じるにあたって、目を隠すような重たい前髪を提案したのだそうです。横浜さんの感情を抑えた演技に、逆に感情が揺さぶられ涙があふれるシーンも。現実を受け入れて前を向こうとする霜介の心の機微も丁寧に表現されていて、霜介とともに物語が動き出していくスピード感は見事でした。

それから、何といっても三浦友和さんと江口洋介さんの存在の大きさ。発する言葉一つひとつがあたたかく含蓄に富んでいて、まるで人生の先輩であるお二人そのもののように感じました。若い人たちにとって周りにこういう大人がいることの重要さ、人生はいくつになっても学びだと感じ、私もこんな風にごく自然に豊かな思考で歳を重ねていきたいと思わずにはいられませんでした。そして、「僕は、線を描く」のではなく「線は、僕を描く」なのかが明かされたとき、すーっと腑に落ちたような気がしました。滋賀県ののどかな風景とたっぷりの陽射しが降り注ぐような映像。新鮮な空気をカラダに取り込めたような、あたたかい気持ちに包まれました。エンドロールもとても素敵で、沸き起こった拍手に観客の想いがあふれていたように思います。

 
 

 
 

その後行われた舞台挨拶には、小泉監督と横浜さん、清原さんが登壇。「ちはやふる」シリーズから4作連続で滋賀(一部京都)を舞台に選ばれたことについて、監督は「何にも染まっていない、少年のような場所。日本のどこにでもなれる、そんなところが霜介っぽい」とおっしゃっていました。横浜さんは、まず映画が終わったあとの観客の拍手に触れ「嬉しい気持ちになりました」とにっこり。そして「映画を観て、受け取り方はそれぞれ違うかもしれないけれど、感じたことを大事にしてほしいです」と話し、大阪出身の清原さんは、学生時代この映画館(TOHOシネマズ梅田)によく来ていたので懐かしいと会場を見渡し、観客に応えて笑顔で手を振る姿がとてもチャーミングでした。

印象に残っているシーンについて聞かれた横浜さんはオープニングの湖山先生(三浦さん)の揮毫会をあげ、三浦さんの筆さばきに心をつかまれたと話してくれました。それはとてもダイナミックな揮毫シーンだったのですが、実は劇中の作品は、みなさんがご自分で描かれているものだと知って驚きました。水墨画の監修を務められた小林東雲先生の指導を受け、横浜さんは撮影の1年前から多忙なスケジュールの合間を縫って練習をされていたのだとか! 小林先生は「水墨画には失敗や間違いはないんだよ」と優しく言ってくださっていたそうで、お二人とも安心して楽しく水墨画に向き合うことができたのだそうです。

一方清原さんは、ほっこりとあたたかい気持ちになれる好きなシーンだと「霜介が湖山先生からお弁当をもらうシーン」を。この作品では食事シーンも多く、横浜さんのお箸の持ち方や所作がきれいなところも個人的に注目していただきたいポイントです。舞台挨拶の最後には司会の林マオアナウンサーから「一言でいいので大阪弁をお願いできますか」とムチャぶりされた横浜さん。めちゃくちゃ悩んで照れながら言ってくれた「おおきに」に和みました。ぜひ世代問わず、多くの人に観てもらいたい作品です。

そして、忘れてはいけないのが作品をぐっと盛り上げているyamaさんの音楽。横浜さんから「繊細で、言葉一つひとつに芯があって、温かい歌声がこの作品にぴったり」との提案があり実現したのだそう。霜介の葛藤を、切なくも力強い歌声で表現した「Lost」、多彩な才能を持つVaundyさんが作詞・作曲・編曲を手がけコーラスにも参加した「くびったけ」。エンディングにふさわしいロックサウンドで、MVでは横浜さんとのコラボが実現しています。yamaさんの生命力に満ちた澄んだ歌声と霜介とはまったく違うワイルドな横浜さんをぜひご覧ください。

 
 

 
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto● 京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、初めてにしなさんのツアー「1999」を観ました。歌声はもちろん、話す声やキャラクターも魅力的で、初々しくもあり頼もしくもあり。もうすでに「にしな」の世界観やスタイルが完成しているような気がするけど、この先、どんなアーティストになっていくんだろうと、期待しかない、きらめきに満ちたかっこいいライブでした。
 
 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
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第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
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第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」

[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”