7月に入り、いよいよ本格的な夏がやってきました。夏はどちらかというと苦手なほうですが、私の唯一の楽しみは、“かき氷”です。フルーツたっぷりのかき氷やこしあんと練乳のミルクしるこなど、今年は何を食べようかと情報収集する時間も楽しい。よく食べに行くのは、プリンのかき氷。ふわふわの氷を覆うプリンソースと濃厚なカラメルだけで十分プリンなのに、氷のなかにプリンがまるごと入っているという感動の一品。また、イチゴのミルフィーユというかき氷もあるので、何度も通ってしまうお気に入りのお店です。それから、京都の夏といえば、今年は3年ぶりに祇園祭の山鉾巡行が行われるそうです。観光で訪れる方も増え、にぎわいが戻りつつある京都。今回は、そんな京都の街を舞台にした現在公開中のアニメーション映画『犬王』をご紹介したいと思います。

 
 
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<STORY>
室町の京の都、猿楽の一座に生まれた異形の子、犬王。周囲に疎まれ、その顔は瓢箪の面で隠された。
ある日犬王は、平家の呪いで盲目になった琵琶法師の少年・友魚と出会う。名よりも先に、歌と舞を交わす二人。 友魚は琵琶の弦を弾き、犬王は足を踏み鳴らす。一瞬にして拡がる、二人だけの呼吸、二人だけの世界。
「ここから始まるんだ俺たちは!」
壮絶な運命すら楽しみ、力強い舞で自らの人生を切り拓く犬王。呪いの真相を求め、琵琶を掻き鳴らし異界と共振する友魚。乱世を生き抜くためのバディとなった二人は、お互いの才能を開花させ、唯一無二のエンターテイナーとして人々を熱狂させていく。頂点を極めた二人を待ち受けるものとは――?(公式HPより)


 
 

もし、能楽の舞台にデヴィッド・ボウイが現れたら…? 湯浅政明監督による『犬王』はそんなイメージで作られた映画なのだそう。私はそれだけでときめくのだが、オープニングからスケールの大きさを予感させる美しい映像、繊細で力強い画力に惹き込まれ、一瞬でこの作品が好きだと思った。

南北朝から室町時代、「観阿弥・世阿弥」と肩を並べるほど人気を博したといわれている能楽師・犬王。だが、作品がいっさい残されていないという謎めいた人物だ。その未知の部分にドラマを見出し、大胆な発想で物語を紡ぎだした古川日出男さんの原作『平家物語 犬王の巻』を元に、エキセントリックでドラマティックな犬王像が描かれている。誕生から成長の過程でめまぐるしい変化を遂げていく犬王に、艶めいた七色の声で新たな生命を吹き込んだのはロックバンド・女王蜂のアヴちゃん。オファーを受け、原作を読んだとき「私がやらなあかん役や!」と思ったのだそうだ。そして破天荒な琵琶法師・友魚(ともな)には森山未來さん。偶然にも二人は約10年前からの知り合いで(神戸出身という共通点も)、お互いにダブル主演の相手を聞いて即答したという。劇中で、犬王、友魚というキャラクターを通して、アヴちゃん、未來くんが心を寄せ合い躍動するようすはとてもリアルに感じられた。実は当て書きに近い感じだろうか。二人に寄せていくように、後からキャラクターを作ったと聞いて納得した。スクリーンに映っているのは、犬王なのかアヴちゃんなのか…と錯覚してしまうほど、華やかで圧倒的な存在感だった。

 
 
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「平家の滅亡」によって運命に翻弄された二人が、京都の街で琵琶と舞で共鳴し合うシーンはとても印象深い。その運命的な出会いによって、友魚は犬王の数奇な物語を歌い、新たな平家の物語を世に放っていく。琵琶をまるでギターのように掻き鳴らし、ゲリラ的に始める路上ライブはまさにロックバンドそのもので、琵琶の背面弾きのパフォーマンスにはアニメながら、わーっ! と心が躍った。今回、未來くんは(歌を歌うにあたって)「友魚が、歌を歌うときのグルーヴ感を体得したい」と琵琶にも挑戦したのだそう。元々ロックな人だが、アヴちゃんの指導もあり、よりエネルギッシュでアグレッシブな歌を披露している。また、犬王(アヴちゃん)のゾクゾクするような変幻自在の歌、シャウトには唸らされたし、コール&レスポンスやハンドクラップで演者と民衆が一体化し熱狂しているようすはまるで音楽フェスのようだった。犬王の奇抜な衣装や斬新なダンスの描写なども含め、これは確かにデヴィッド・ボウイかもしれない! 実際にこのライブを体験してみたいと思ったのは私だけではないだろう。今から600年前にもしかしたら本当にこんなライブが開催されていたのかもしれないと想像するだけで、それはワクワクする光景だった。

『犬王』という作品は、季節の移り変わりやその空気までもを感じられるような瑞々しさや臨場感たっぷりの迫力ある映像に加え、観客の心に訴えてくるような要素が多く盛り込まれていることも魅力なのではないかと思う。語られる言葉が生き生きと胸に響いてきたのは、野木亜紀子さんの脚本の力も大きいのかもしれない。壇ノ浦で命を落とした兵士たち、三種の神器とともに海に沈んだわずか8歳の天皇、成仏できずに彷徨っている無数の魂たち…。「俺が聞いてやる。お前たちの物語を」。歴史のなかで消えてしまった人たち、名前が残されていない人たちの想いに寄り添っていく。それは犬王、友魚も然りだ。エンドロールを見つめながら、そうした多くの人たちの想いを受け取ったような気がした。もしかしたら、私たちもあの600年前の湧き立つ民衆のなかにいるのかもしれない。それは、今を生きる私たちに向かって「私たちはここにいる!」と存在を全力で訴えているようにも感じるのだ。

 
 

 
 
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto● 京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日とても感銘を受けた言葉があります。ほぼ日手帳のコラム鴻上尚史さんの『世界をつくってくれたもの。』より、ぜひ共有させてください。
ー10年後のあなたに何かがあって、「10年前に戻してください」と強く願ったのです。
だからいま、あなたはここに戻ってきた。そう考えましょう。
10年後の自分がいまの自分に託したものはいったい何だったのか。
きっとまだやれることがあるはず、と思ったから自分をこの時点に戻したんでしょうね。
いまは10年前に戻ってるんだと思えば、「やるか」という気持ちになりますよ。―
目の前がぱぁーっと明るくなる言葉。「やってみよう」って気持ちになりますよね。

 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
第63回「MANNISH BOYS-Anniversary LIVE TOUR 2022 GO! GO! MANNISH BOYS! 叫び足りないロクデナシ- 」
第62回「10年分の想いを花束にして。石崎ひゅーい Tour 2022“ダイヤモンド”」
第61回「すべてを愛せるツアーに。中村 中さん『15TH ANNIVERSARY TOUR-新世界-』」
第60回「戻らないからこそ愛おしい。映画『ちょっと思い出しただけ』を鑑賞して」
第59回「ジギー誕生50年!今なお瑞々しさと異彩を放ち続けるデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画『ジギー・スターダスト』」
第58回「2年ぶりの想いが溢れたバンド編成ライブ! 石崎ひゅーい 「Tour 2021『from the BLACKSTAR-Band Set-』」
第57回「中村倫也さんと向井理さんの華麗なる競演! 劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』」
第56回「斉藤和義が最強のバンドメンバーと魅せた“202020&55 STONES”ツアーファイナル」
第55回「飄々と颯爽と我が道をゆく。GRAPEVINE “tour 2021 Extra Show”」
第54回「こういうときだからこそ豊かな未来を歌う。吉井和哉さん “UTANOVA Billboard”」
第53回「高橋一生さんの覚悟と揺るぎない力を放つ真の言葉。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』観劇レポート」
第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」

[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”