先日GRAPEVINE(以下、バイン)の「in a lifetime present another sky」ツアーの追加公演(東京・新潟・大阪)が開催された。もともと昨年7月からスタートしたツアーで、9月に予定されていた2公演が(田中さんの諸事情により)中止となり今後の活動を心配していたのだが、大阪・Zepp Nambaのファイナル公演を観て、やっぱり私たちにとって、GRAPEVINEと、彼らの音楽はなくてはならないものだと再確認した。この日を待ち焦がれていたファンの大きな拍手に迎えられ、ステージに姿を現した田中さん(Vo.&Gt.田中和将)は、ちょっとバツが悪そうな顔で、照れくさそうにツアータイトルが記された電飾ボードで顔を隠すように登場し、センターにやってきて深々と頭を下げた。田中さんだけでなくファンも、各々がさまざまな想いを抱えてこの日を迎えたことだろう。でも、神妙な面持ちで目の前にいる田中さんを見て、これまでのもやもやが吹き飛んだ。みんな同じ想いだったのだろう、沸き起こった拍手と歓声はしばらく鳴り止まなかった。

田中さんは受け止めるように目を伏せ、5th Album『another sky』(2002年発売)のリビジット(再現)ツアーは、12曲目にあたる「ふたり」からリスタート。昨年と同じように第1部はアルバムを曲順通りに演奏していくものだと想像していたため意表を突かれた。偶然にも、パートナーへの想いを綴るような歌詞が田中さんの心情にリンクしているようにも思えて、どきどきしながら見守る。そして、2曲目に鳴らされたギターリフに、万感の想いがあふれてしまった。「アナザーワールド」の、歌い出しから語りかけるようなウィスパーボイスと憂いに満ちたアニキ(Gt.西川弘剛)のギターソロが感情を揺さぶってくる。本来アルバムの11曲目にあり、切ないメロディーでありながら包容力のある、いわば“心臓”のようなこの曲が序盤に配置されていることで、ようやく逆から演奏していることに気がついた。今やサブスクで好きな曲だけをランダムに聴く時代だが、バインの曲はアルバムの並び順に聴くことが多いため、この構成は不意打ちでありしてやられた感があった。実は、このツアーのDVDがすでに発売中でセットリストがバレているため、少し趣向を凝らして逆から演奏してみたのだそう。こういうことをさらっとやってみせるのがバインらしい。

続いて「Sundown and hightide」「ナツノヒカリ」と曲調の違う2曲を情感豊かに表現し、「Let me in~おれがおれが~」では満を持して田中さんのシャウトが炸裂。田中さんの本領発揮に、観客は腕を振り上げ歓声を上げて応える。「Tinydogs」では伸びのある底知れない声量とアニキの変幻自在なギタープレイで魅せ、「Colors」では浮遊感のある演奏で幻想的な世界へと誘っていく。耳をつんざくような歪んだギターサウンドで始まった「マダカレークッテナイデショー」は田中さんのファンキーなボーカルとアッパーなサウンドで、会場は大盛り上がり。亀ちゃん(Dr.亀井亨)のキレのあるリズムに呼応するように勲さん(key.高野勲)も鍵盤を軽快に滑らせ、バインがライブバンドであることを見せつけられた。そして「大阪のみなさん、お待たせしました! オンベース、金やん!」の声がけでステージ前方に飛び出してきた金やん(Ba.金戸覚)は、高身長から繰り出すダイナミックなベースプレイで観客を魅了する。ゴキゲンな田中さんの「どうもサンキュー!」が飛び出し、間髪入れずに亀ちゃんのカウントから「BLUE BACK」へとなだれ込んだ。このアルバムの制作中に脱退することになったリーダー・西原誠さん(Ba.)の作曲で、田中さんのボーカルが際立つポップなメロディーとカオスなギターソロが会場のボルテージを加速していく。そして、第1部ラストは、ついに(アルバムの1曲目である)「マリーのサウンドトラック」へ。これまでの空気をいったんリセットするように、シャカシャカというシェイカーと鍵盤の音が田中さんの輪郭を露わにする。徐々に肉付けするように緻密で多彩な音色が結集して第1部を締め括った。

 
 
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少しの休憩を挟んでの第2部、田中さんは伸びたパーマヘアをハーフアップのシニヨンにしてステージに戻ってきた。第1部はMCなしの進行だったが、まず「私事でご迷惑をおかけしました」と言って頭を下げ感謝を伝えると、会場は大きな拍手で応えた。みんな心のなかで「おかえり!」と叫びながら泣いていたに違いない、長く続くあたたかい拍手と私たちの表情に、田中さんは一瞬泣き笑いのようなやわらかな表情を見せたような気がした。そして「よし!行こう」と気合を入れた。東京、新潟公演を終えて、最終日、地元・大阪で受け入れてもらえるかどうか緊張していたのかもしれない。それはきっと自らを鼓舞するかけ声だったのだろう。第2部も昨年とは違い新たな選曲「Big tree song」でスタートした。印象的な「どやさ」のフレーズ、そしてハンドクラップの一体感。ちりばめられたカラフルな音が芽吹きを表現し、会場にはハッピーな風が吹き抜けた。

そしてバインの神髄を詰め込んだ17th Album『新しい果実』(2021年発売)から「目覚ましはいつも鳴りやまない」「Gifted」「ねずみ浄土」の3曲で畳みかけていく。「おむすびころりん」「好き嫌いはよせ」などの田中さんらしいキラーワードに会場が和んでいるのがわかる。私たちは「やっぱりバインでなければ」という瞬間を積み重ねていく。久々に披露された「Suffer The Child」はイントロからゾクゾクするような高揚感に包まれ、「フラニーと同意」へと続くと悲鳴のような歓声が上がった。グルーヴィーでエモーショナルな展開に田中さんが吠える。まさにバインの真骨頂! 昨年デビュー25年を迎え、いぶし銀という言葉がぴったりくるような熟練のバンドでありながら、いつも鮮やかに想像を超えてくるGRAPEVINE。他に類を見ない、つくづくかっこいいバンドだと思う。興奮冷めやらぬフロアに「Alright」が投下された。2018年の配信から、ライブでも人気の高い背骨のような曲。田中さんはフロアに視線を送りながらたおやかな笑顔で〈大丈夫 it’s gonna be Alright〉と歌い、ラストの「Our Song」へと想いをつなぐ。ライブ中、どんなときも変わらず職人的なプレイで演奏に徹し、斬新かつ琴線に触れるバインサウンドを生み出すメンバーの姿に何度も涙が込み上げた。この曲もまさにそうだったのだが、演奏が終わり、田中さんが話している途中で、お辞儀をして一人で颯爽とステージからはけていくアニキに吹き出してしまった。こういうマイペースなところも大好きだ。

アンコールの田中さんは、自らを戒めるように「MISOGI」でシャウトし、指で眼鏡の形を作る「EVIL EYE」ポーズで観客を煽って、ようやくいつもの田中さんらしく「大阪、また来るぜ!」と嬉しそうに笑った。これまで観客との一体感なんて求めていないと事あるごとに口にしていたけれど、眼鏡ポーズといい、「Alright」等のハンドクラップといい、一体感を誰よりも楽しんでいるように見える。ラストに演奏されたレアな名曲「作家の顛末」には会場からため息が漏れた。田中さんのアコギが淡々と繊細に奏でる旋律を、頼もしい音たちが寄り添い重なり合って揺るぎのない美しいグルーヴを生み出していく。今回のセットリストは、まるで田中さんからのラブレターのようだと思った。語られた言葉は最小限だったが、放たれた歌に渾身の想いが込められていた。あのとき、みんなに合わせる顔がないと言った田中さんを私たちはどれほど心配しただろう。でも、こうして田中さんは戻ってきて、GRAPEVINEを“最愛”と表現した。なんて嬉しい、最強の言葉なんだろう。照れもあってか少しおちゃらけた感じはあったが、こんな言葉を口にするのは最初で最後かもしれない。きっとこの先も、心のなかでずっと宝物のように輝き続けるだろう。

 
 

 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto● 京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日は東京・本多劇場で伊藤健太郎さんの主演舞台『背信者』を観ました。真実が隠蔽され、誤情報が飛び交う約300年後の編集部で、異議を唱え真実を追求し続ける部員を演じた健太郎さん。ステージに現れると空気が瞬時に変わり、張りのある声とバイタリティー溢れる表現力、そして高い身体能力で魅せる。やっぱり華があって、さすがの存在感でした。
 
 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】

第71回「万事休すからのスペシャルギグ! 斉藤和義さん弾き語りツアー『十二月~2022』」
第70回「“いつか星空の下で” 石崎ひゅーい『ナイトミルクLIVE 10th Anniversary〜」
第69回「名実ともに兼ね備えた純白のアイドルホース・ソダシの底力」
第68回「「水墨画は心を映し出す。横浜流星さん主演『線は、僕を描く』を鑑賞して」
第67回「迫力ある魔法に驚きと興奮の連続! 『ハリー・ポッターと呪いの子』観劇レポート」
第66回「自らを追い込んで飄々と一人芝居に挑む! 高橋一生さん『2020(ニーゼロ ニーゼロ)』観劇レポート」
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第63回「MANNISH BOYS-Anniversary LIVE TOUR 2022 GO! GO! MANNISH BOYS! 叫び足りないロクデナシ- 」
第62回「10年分の想いを花束にして。石崎ひゅーい Tour 2022“ダイヤモンド”」
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第59回「ジギー誕生50年!今なお瑞々しさと異彩を放ち続けるデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画『ジギー・スターダスト』」
第58回「2年ぶりの想いが溢れたバンド編成ライブ! 石崎ひゅーい 「Tour 2021『from the BLACKSTAR-Band Set-』」
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第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
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第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」