始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで話すように、音楽の魅力についてお話する場所です。ごゆっくりどうぞ。

今回はYUKIさんのNEW ALBUM『パレードが続くなら』についてお話しします。てんこ盛りなので早速ですが本題に入りましょう。テーマは「瞬間」です。

 
 
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パレードは歓びと切なさを抱えて進む



今作はソロデビュー20周年ツアーの最中に制作されていったこともあり、YUKIさんが仲間達と共に奏で、歩んできた音楽の旅路で感じた思いが歌詞にも音にも色濃く表れている印象を受けました。

YUKIさんの音楽の特徴と言える生音バンドサウンドと打ち込みEDM。その両極めいっぱいに振り切った2枚のEPを含み、間に位置するように追加された多彩な音楽性のアルバム曲。どれも肩に力は入れずしなやかに鳴らされていて、3枚分のアルバムに匹敵する表情と情報量を持つ作品だと感じました。

ここでパレードについて少し。パレードって過ぎ去ったとき特有の寂しさってありますよね?あれって歓びを感じる時と似ていて、100%歓びで満たされるということは少ない気がして、どこか数%はこれまでなくしたものへの悲しみや切なさといった別の感情が混ざっているように思うんです。人生もパレードもいつか終わるものだと無意識に理解していることから来る感覚なのでしょうが、だからこそ人はその数%を振り払うように、瞬間をより強く心に刻もうとする気もしています。
YUKIさんが提示しているパレードとはなんなのか?
ここからはYUKIさんのパレードに僕らも参加していきましょう!

 
 

全曲レビュー



1.パレードが続くなら
正解も 明暗も 善悪も 割り切れないわ〉は「JOY」の〈イエス、ノー どちらでもないこともあるでしょう〉と通じる人間の曖昧さを歌っています。

20周年イヤーにリリースされたベスト『Tears of JOY』のうれし涙や、JUDY AND MARY『BLUE TEARS』など、YUKIさんにとっての涙はキャリアを通して大切なテーマのひとつだと思うのですが、〈あふれる 涙が 頼り〉なのはこみ上げる想いがあふれる瞬間の嘘偽りない美しさを大切にしていると歌っている気がします。(女性の涙にまんまと騙されやすい優男の意見ということも添えておきます)

 

2.タイムカプセル
「Dear.ママ」でも〈マックイーンの大脱走劇〉が歌われてきましたが、YUKIさんが銀幕スターに憧れた表現はきっと憧れや夢、心がワクワクしていること、自由や始まりを感じている瞬間の比喩なのかなと。

アイ・ラブ・ユー叫んだら 喉から手が出る
は、好きな思いを表現すればするほど、想いが強くなることを、
〈アイ・ラブ・ユー叫んでも 光に溶ける〉
は、好きな思いを伝えてもいつかは消えてなくなる
(だとしたら)
「フリル幾重にも」
胸を震わせる美しいと思うものが幾重にも重なる今の輝きを感じたい、そんなイメージに聴こえています。

今生きている人がみんないなくなるくらい先の未来にこのカプセルを誰かが開けた時、時を超えて届くノスタルジックさってどんな感覚なのか未来人に聴いてみたいです。むしろ僕らがその未来の今にいて、それを受け取っているような感覚にすらなる不思議な曲。

 

3.My Vision
初期衝動大爆発サウンド。幻のような人生に気を取られ大事なものまで霞んだりぼやけてしまうのなら、他は見えなくとも大切な君の微笑みだけはくっきりと見える人生がいい。変化を受け入れることを楽しみながら歳を重ねていきたいですね。

 

4.ハンサムなピルエット
ピルエットやアティテュード、アサンブレといったバレエの専門用語になぞらえて君への思い、姿勢、態度を歌う作詞家YUKIさん節全開ソング。「過剰」のところの歌い方最&高です。

 

5.Wild Life
ヌーディスト・ビーチと歌舞伎と領収書を1曲の中で成立させてしまうストーリーテリングはYUKIさんならではですよね。主人公の女性はアルコールが入り日常の中で抑圧している野性味を解放していく(トゥワークは女性が腰を低くし、挑発的にお尻を動かすセクシーなダンスでニューオリンズ発祥と言われています)。歌詞はタイムリープものとインタビューで語られていますが、世界中を飛び回り心を一瞬で遠くまで飛ばしてくれる効果は音楽ならでは。

モスク、礼拝堂が次の曲「Oh!ベンガル・ガール」の世界観にも通じるワードに思えて、直接的な繋がりはないでしょうけど、別の世界線のベンガル・ガールのようにも思えました。

Wildには野生、乱暴な、荒れた、ひどいなどのCrazyと似た悪い意味がありますが、自然なまま、興奮する、すごいという意味も。タイトルと反して、そんな人生も〈悪くはない 悪くはない〉と歌うところ、WildだけどBadではない、とても素敵な仕掛けです。

 

6.Oh!ベンガル・ガール
コチラに全てを置いてきました。アルバムに入るとまた聴こえ方が変わりますね。

第55回「YUKIソロデビュー20周年記念特別企画第3弾『Oh!ベンガル・ガール』レビュー」
Twitterでは記事で書ききれなかった思いも展開しました。
高橋圭 Twitter

 

7.私の瞳は黒い色
パーソナルな表現こそ、誰かとどこかで共有できる想いが宿ることを感じさせる大名曲。初共演となる金原千恵子ストリングスが奏でる旋律が思いの丈を最大級に引き立てる極上のポップソングに仕上がっています。

段々と似てくる親子の抗えない繋がりを、誰もが想像し共感できるシンプルな言葉で描ける凄さ。〈私が小さいままなら〉と小さいままではいられない時間が突きつける残酷さ。それと共に変わっていく関係性。それでもふたりの子どもであることは変わらないことを〈黒い瞳は 黒いまま〉と時間の美しさに着地させる展開、凄過ぎます。ご両親が「あなたと あなた」なのも凄くいい。

2番Aメロの〈電車の窓から白い雲〉は1番の〈私の瞳は黒い色〉であなたとあなたから遠く離れた景色を見ていることを白と黒という対極にある色で物理的、心理的距離を例えているようで(もうヤバいよね)色と白(iro,shiro)、雲と黒(kumo,kuro)の母音がテレコで韻を踏んでいるという凄さ…。

このアルバム自体もパレードだとするならこの曲を境として前半1〜6曲は音楽を、7〜12曲は人生を歌った2つの構成に分けることも出来ると感じます。

 

8.どんどん君を好きになる
だんだんじゃなくてどんどんなのがいい。YUKIさんの円熟味を感じられる心の東京を感じる(都会的な)サウンド。先の見えない時代や得体の知れない世界ではなく、目の前にある君との今を大切にできるか、その小さな歓びが人の数だけあればいい。そんな想いが〈2人なら きっと革命を起こせるよ〉に繋がっている気がします。YUKIさん、今年もうちの近所の梅は綺麗に咲いています。

 

9.Dreamin’
作詞作曲をされた峯田(和伸)さんが持つYUKIさん愛が詰まったファン大歓喜ハイパーカタルシスソング。
YUKIさんチームは参加ミュージシャンのキャスティングセンスが絶妙で、この曲もくるりのベース・佐藤征史さん、くるりやVaundy、MIYAVIさんらのサポートドラマー・BOBOさんなど豪華演奏陣が華を添えています。永遠より近い場所ってどこだろう。

 

10.It’s 盟友
それぞれにとっての大切な友人を思い浮かべたくなるような、そしてその友が満面の笑みで笑いかけているようなやさしい歌。明るく軽快な曲調だからこその切なさがあります。

 

11.Naked
YUKIさんの歌声が楽器として凄まじい機能を持っていることを存分に味わえる一曲。YUKIさん作品はコーラスを多用したアレンジが魅力のひとつですが、音の切り方、リズムへの言葉の載せ方、譜割りなど歌い回し節炸裂っぷりが堪能できます。

 

12.鳴り響く限り
命の鼓動が鳴り響く限り、音楽を鳴り響かせたい。心がそう急かしている。だから心を大きく広げたスペースに歓びを全て放り込む。〈シナリオ通りではいられない〉予定調和を退屈と捉えるYUKIさん哲学が輝くアニバーサリーソング。ツアーのラストに鳴らされたあの「瞬間」が再生される装置としてお守りのようにアルバムのラストに鎮座しています。

 
 

アートワークから紐解くパレード



映像作家・平野絢士さんがディレクションを務めた今作のアートワーク。淡い緑や青、ピンク、紫といった薄めた水彩絵の具のようなやさしい色彩がサウンドイメージを色で伝えています。

使われている色はカラートーンと呼ばれる円形のチャート表(純色や無彩色を明暗、濃淡、強弱といったグラデーションで並べた、カラーデザインに欠かせないもの)に『パレードが続くなら』の楽曲で使用されているコード(和音)を当てはめて配色されたそう。音のように混ざり合う色は韻律学的な要素を可視化するようで感動しました。音が示す色、素敵なアイディアですよね。

YUKIさんが絵画の世界に入り込んでいるのもパレードを表す象徴的なメッセージに思えます。

ここで少しアートのお話をさせて下さい。アートの世界は歴史的な視点が大変重要だと言われています。先人たちが表現してきたことへのつながりや系譜、またはそれに対するカウンターとしてどう破壊と構築を表現するか、どんな文脈で語られているのかが大切なんだそうです。だとすると、表現という行為も過去から続いてきたひとつのパレードだと感じたんです。

音楽にも当てはまる部分があります。「あの人のあの曲のあの音」みたいに作り手もリスナーの立場で刺激を受けたエッセンスを咀嚼し、自分の曲に盛り込んで昇華させることで発展、進化してきた部分があります。YUKIさんの楽曲にも「あの曲から影響を受けたアレンジなのかな?」と感じさせるものがあります。

ルーツとは何に感動したかであり、その感動を大切にしているということの表れです。理論やテクニックは感動を最大限増幅させるために必要ですが、最も重要なのは“心が動いた”ということです。

はじめにこのアルバムはYUKIさんの音楽、人生の旅をパレードに例えているとお伝えしました。パーソナルな部分があるなら、そこに共感する同時代を共に生きるリスナーとの人生の重なりという同時間軸的な賛美も加わり、ひいては大きな人類のパレードへと繋がっていくという別時間軸へも思いを馳せるような見方もできるんじゃないかとアートワークから想像しました。

芸術、音楽などのアート、エンターテイメント、カルチャーといった人間が産み出すものの根源にある想いが続いていくことへの願いと捉えると、収録曲がまた別の光を放つような気がしています。僕らもそのパレードに参加しているとしたら、僕らはどこへ向かうのか、向かうべきなのか、そんなことも考えたりしています。

これまでの全ては心が「今」を感じてきた「瞬間」の連続が積み重なったもの。ということは、永遠が存在する場所、そして永遠より近い場所っていうのは…。お時間です。続きはまた今度。そろそろカフェを出ましょうか。最後までお読み頂きありがとうございます。

 
 
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YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう!Season 2


vol.15 大平伸正さん

当サイト、YUMECO RECORDSの10周年をお祝いし、夢を追いかける人への応援ソングとして制作、1月5日に配信リリースされた「YUMECO RECORDSのテーマ」。今回はSeason2の締めくくりとして大平伸正さんからコメントを頂きました! 2番の印象的なボーカルレコーディング風景も。この企画はここで一旦終了となりますが、これからも曲を愛してくれると嬉しいです。
ここまで共に曲の誕生の軌跡を一緒に見届けてくれてありがとうございました!

 
 

 
 

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●お知らせ

エナさんのDigital New Single「prismatic」の編曲・サウンドプロデュースを担当しました。ひんやりとした澄み切った空気の中で大きく深呼吸するような、はじまりの予感を胸に一歩踏み出す歌です。ぜひお聴き下さい!

エナ「prismatic」
2023.03.03 Digital Release!!



▼DL & Streaming URL
https://linkco.re/UtXBatHC

 
 

 
 
 
 
 


 
2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
 
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
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第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
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