始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで過ごすように音楽の魅力についてまったりお話する場所です。是非ゆっくりしていって下さい。

今回はTRICERATOPSが7年4ヶ月ぶりにリリースしたニューアルバム『Unite / Divide』についてお話して参ります。とてもパワフルなアルバムですのでまったりという訳にはいかないかもしれませんが、今年デビュー25周年を迎える彼らがいかに素晴らしいバンドか、いちファンとして合わせてお伝え出来たら幸いです。時間が許す限りしっかりと聴き込みました。魂込めてお届けします。

 
 

 
 

1.時代の先を行くバンド



アルバムの魅力をお伝えする前に、まずはトライセラが今作に至る経緯をお話します。

今は主流になったロックの4つ打ちアレンジや日本では珍しかったリフ曲、なるたけ少ないコードでの作曲術など1997年のデビュー当時から音楽の発明とも言える楽曲を多数産み出してきた彼ら。シンプルさの中に実験精神があってしかもオシャレでカッコイイ良質な音楽を常に探し鳴らしてきたバンドです。

その高い演奏力からライブパフォーマンスに定評がありましたが2014年にリリースした前作11th Album『SONGS FOR THE STARLIGHT』の頃から新たな音像を求めた作品作りがより深くまで到達していきます。当時の洋楽ポップスのような粒立ちの良いクリアでダイナミックな音像を邦楽ギターロックで体現、ライブだけでなくレコーディング作品も高い評価を得ます(このサウンドは今作で更に成熟しています)

音楽業界の一般的な流れであるレコーディング→リリース→プロモーション→ツアーというサイクルに反し、ツアーでリリース前の楽曲を披露、最終日にアルバムをリリースというアンチセオリーな姿勢もファンを魅了する理由のひとつ。その後Mr.Childrenやゆず、サカナクションらもこの流れを一時取り入れます。こういったことからも時代の先を行くバンドであると言えますね(断言)ではいよいよ今作の魅力に迫っていきましょう!

 
 
 

2.今作の魅力とは



「バンド史上最もメッセージ性の高いコンセプトロックアルバムでありながら、向かう先はポップ」であることだと感じました。

3人の演奏のアンサンブルは更にソリッドに進化、洗練されたシンプルな音像は音という名の美しいデザインの建築物が脳内で組み立てられるような心地良さすら感じます。それに対して歌詞は人間の醜い部分や今の世界の混沌としたムードへの問題提起を文学的に描いており、その陰と陽のバランスが超絶妙。何だかおかしいけど言葉に出来なかったここ何年かの疑問や怒り、モヤモヤした違和感といった類を言語化しスッキリさせてくれる感覚。先行配信シングルとして昨年リリース、ライブでも披露されていた「マトリクスガール」「THE GRATE ESCAPE」は彼ら特有の軽やかさの中に今作のシリアスさを匂わせていたと今思うと感じさせられます。

巨大な恐竜が一歩一歩大地を踏み締めるようにリスナーを深く潜らせてくれるYes「Roundabout」を彷彿とさせるプログレなオーバーチュアでの幕開けも今までのアルバムとは毛色が違います。リフやひとつひとつのフレーズ、3人のアンサンブルを大切にされてきた彼らの「こういうのありそうでなかった!」という新鮮なアレンジが続きます。ただシリアスなだけではなく和田唱さんソロで歌われたようなやわらかい世界観の「キミにひとつ地球」や「リメインズ」といったバラードも収録されていてその振り幅は聴きごたえ抜群。そしてアルバムの出口に「仮面の国-United-」があることでただ闇を嘆くのではなく光を感じさせてくれる構成となっているのは流石の一言です。

「知性とは優しさである」と僕は思っています。笑いや皮肉は権力に対して向けられるべきで弱者や個人を責めても何の解決にもならない。今の仕組みの中で誰が得をしているのかを考えたら少しは見えてくるものがあると思っていて(一旦この辺にしておきます)異を唱えても批判や文句と言われどんどん本音が言いづらくなる社会の状況を打破するような力強いメッセージが今作には随所にふんだんに込められています。しかもそれは相手を威嚇する表情で牙を剥き出して意思表示するではなく、微笑みながら牙の鋭さを見せるような彼らの音楽的、人間的な知性とユーモアで感じさせているのですからもうあっぱれという訳でございます。

 
 
写真1&サムネ用
左からボーカル・ギター和田唱、ベース・コーラス林幸司、ドラムス・コーラス吉田佳史
メンバー三人が映っているジャケットデザインもほぼ初。

 
 
 

3.アルバムとはひとつのメッセージ



音楽の聴き方の主流は配信によって手軽で身近になり、一曲単位で聴かれたりEPという昔でいうミニアルバムほどのアルバムよりも短い時間、少ない曲数のボリュームで発表されるケースも一般的になりました。決してそれを否定する訳ではないのですが、アルバムサイズでしか語れないストーリーがあることを今作は再提示してくれています。1曲で聴いても成立するけれど、ひとつの大きな流れで聴き進めることで作品のテーマと出会い、感じ、他の曲によって聴こえ方が変化し、考えさせる音楽の聴かせ方があると再認識させてくれた意味でも今作は大変意義深い作品です。

また前作リリース後に発表されたシングル「Shout!」「GLITTER / MIRACLE」は収録されていません。シングルを収録した方がセールス的な意味ではプラスになるかもしれませんが、そぐわないものは無理に入れないという点にも今作へのこだわりを感じます。

以下、TOKYO FM『澤本・権八のすぐに終わりますから。』に和田唱さんが出演された際のアルバムに関するお話です。

「生きていて思う違和感や苛立ちを今回曲に込めました。そういう感情とロックサウンドって合うんです。ソロの優しい方向とは真逆の方に振り切ろうと。人間の中にある両方を描く。一人の人間の奥行き、激しい怒りも優しい天使のような気持ちも表現できたら最高。重い時ほどジョークを入れたりします。せっかく僕はロックミュージシャンで、ロックってそもそも反発の音楽で。これは今こそ自分の職業をフルに使わなきゃと思いました。ロックバンドで良かった」

自分の好きなミュージシャンが音楽をやっていてよかったとおっしゃってくれることはファンとしては嬉しい限りですよね。そして話はこう続きます。

「根底としてはUnite出来たらいいと思っているけど、divideして小さなコミュニティでもいいから同じ意見の分かり合えるような人と生きていくくらいの方がハッピーに過ごせるんじゃないかと思ったり、かつての自分と違うモードになることが多いです。ハッピーになりたいという思いは一緒だけど、みんながみんな仲良くじゃなくても違う形の幸せがあるんじゃないかと思う時期が続いている」(トークより一部抜粋)

タイトルには元々クエスチョンマークをつけていたそう。「Unite? / Divide?」(団結か?分裂か?)ただ、今の世の中は団結に向かっているのか分断なのか、敢えてリスナーに委ねたいとの思いから「?」を外し今のタイトルにされたと。敢えて?がないことで「僕らならこうする、君はどうする?」と問いかけられている気もしてきます。

 
 

MAKE THE GREAT ESCAPE!



「いっそ分裂」という曲では過去に彼らのアルバムタイトルにもなった楽曲「WE ARE ONE」というテーマすら自分の中では信じることが危ういと歌っています。しかしその現状に対しアルバムは「違う世界があることを知ったんだ」という答えに辿り着きます。

「分かる」という言葉が「分ける」という文字であるように、何かを理解する時、分断が一概に悪いという先入観を取っ払うことから分かり合えたりするのかもしれません。

 
 

最後の一行を「行ったるんです」で韻を踏むユーモアは僕らも忘れず持ち続けていたいですね。

 

(ここからは今の世の中に対する僕の個人的な見解を多分に含みます。)

昨今、メディアが報道することと違う選択は陰謀論者と語られたり大衆心理のようなものが知らず知らずマイノリティへと圧力をかけている瞬間があると感じます。情報操作されたメディアの垂れ流しの情報を鵜呑みにして何も考えなくなるムードが蔓延る方がよっぽど大丈夫?と思うこともしばしばです。報道もどんな出来事をどのように伝えるか選択している時点でそこには意思があります。人々の不安を煽り安心する為の購買意欲を掻き立てる。スポンサーが喜ぶもの、自分たちの利益になることを優先せざるを得ないとなると何らかの利害関係が生まれたりもっぱら公平ではない中立を装ったタチの悪い側面もあると思っています(メディアに限らず)

表現の受け取り方は自由で、音楽も捉え方は一つではないのが素晴らしい。けどあまりにも安直で表層を刺激するだけのようなインスタント化した表現とそれに反射的に反応した意見ばかりになっているひとつの事実は危険を孕んでいます。ジャンクフードは美味しいけど毎日食べたら体を壊すし栄養が偏るように「何故そうなっているのか」を考える読解力は常に意識して持っていないとついそちらに引っ張られます。

それでもフェイクだらけの世界でそれぞれが日常の中でより良い今を模索していることは確かです。自分と他者、個人と社会で正義と悪の捉え方が千差万別あるように、自分の中にも様々な側面があるように人や物事はひとつの側面からだけは語れないし変化していくもの。その変化をどうみんなで乗り越えるかがこの時代に鳴らされたことに物凄く勇気を貰いました。

選んだ答えが団結でも分断だとしてもアルバムを締め括る言葉が「共に行こうぜ」で終わったあとに残るのは「やさしさと大切なものを持って生きていこう」と思わせる余韻。目には目をではなく、目には耳をと言わんばかりの説得力でした。それぞれに素晴らしい大脱出があらんことを!最後までお読み頂きありがとうございます。

 
 
TRICERATOPS「Unite / Divide」 Apple Music Streaming
 
 
 
 

オススメしたい!のコーナー



My Best TRICERATOPS
今作までの楽曲群からシングル5曲、アルバム4曲、カップリング、コラボ1曲ずつ新旧織り交ぜて選曲しました。

1.FEVER
2.Fall Again
3.Jewel
4.if
5.Happy Saddy Mountain
6.ポスターフレーム
7.LOVE IS LIVE(LIVE)
8.氷のブルー / 宮沢和史&TRICERATOPS
9.Standing In The Shadow
10.夜のSTRANGER
11.GLITTER

 
Apple Musicプレイリスト
 
 
写真2
 
 
 
 

YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう!Season 2
【Vol.03 山口春奈さん】



1年間かけて様々な方とひとつの楽曲を育てていく企画。今回はシンガーソングライター山口春奈さんにコーラスを歌って頂きました!通常コーラス録りは様々な楽器を録り終え、ボーカルを入れる前後で行われるのですが、今回は実験的に先にウーアー系と言われるコーラスを録音。とても爽やかなイメージが足されて今後の演奏にも影響を与えてくれるような歌声を是非お聴きください。

山口春奈プロフィール
高校時代、留学先のカナダで知り合った清水悠とピアノ&ボーカルユニットDewを結成、
ピアノ&コーラスを担当。2008年にVicvor Entertainmentよりメジャーデビュー。
2017年からはソロプロジェクトを開始。2019年12月からは休止していたDewの活動も再開させ、ソロ活動と並行しながら、活動の幅を広げる。プライベートでは二男一女の母。
official site:

 
 

 
 
 
 
 
 
 


 
2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
 
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
第18回「YUKI『聞き間違い』から学ぶ “ きっと大丈夫 ” 講座」
第19回「何故私たちはクリスマスソングを作り、聴くのか」
第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
第21回「3ヶ月連続企画! 第1弾 Chara +YUKI『楽しい蹴伸び』から学ぶ無意識の美しさ」
第22回「3ヶ月連続企画! 第2弾「Chara +YUKI 『echo』全曲レビュ ー」
第23回マイフェイバリットエモーショナルソング 10選」
第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
第25回「『ねぇ、できちゃった』のコーナー夏の特別編! 新曲「ひまわり」セルフライナーノーツ」
第26回「ニッポンの偉大なギター名盤10選」
第27回「夏とシティポップ」
第28回「初秋にこそ聴いて欲しい、サザンオールスターズ『真夏の果実』の魅力」
第29回「温かみ、手触りを感じる名作 Yuzukana 『ZUSHIKI』制作秘話!」
第30回「Mr.Children『Brand new planet』レビュー」
第31回「Mr.Children NEW ALBUM『SOUNDTRACKS』レビュー 〜人との出会いと音楽の化学反応〜」
第32回「TRICERATOPS トリビュート盤レビュー&ライブレポート!」
第33回「写真家・薮田修身 展覧会『THERE WILL BE NO MIRACLES HERE』レポート」
第34回「新企画!『YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう』始動!!」
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第36回「YUKI NEW ALBUM 『Terminal』レビュー」
第37回「ホタルライトヒルズバンドNEW ALBUM『SING A LONG』レビュー」
第38回「東京スカパラダイスオーケストラ 『TOUR2021 Togeter Again!』ツアーファイナルライブレポート」
第39回「新しいギターを買ったよ!」
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第43回「クリスマスソングの新たな名曲! Yuzukana『POST』ライナーノーツ」
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第45回「Official髭男dism「Pretender」から学ぶロマンス論」
第46回「YUMECO RECORDS テーマソング企画 Season 2 スタート!」
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