始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで話すように、音楽の魅力について共有していく場所です。桜の季節を過ぎたらやってくる、新緑が生き生きと色を濃くなる5月が大好きです。自分の生まれた季節ということもあるのかもしれませんが、なんだか空の青を真似るように草木も青々としていく様は生命力に満ちていて、ルンルンするタイプの5月病真っ最中です。

今回も先月に引き続きYUKIさん。待望のNEW ALBUM『Terminal』についてお話したいと思います。まずはコチラをどうぞ!

 
 

 
 
▼YUKI New Album 「Terminal」2021.4.28 Release [アルバム特設ページ]

 
 

新たな出会いから産まれた歓びの音


 
前作『forme』を敬愛するミュージシャン達と制作し、ボーカリストとしての新たな可能性を発見したこと、盟友CharaさんとCHARA +YUKIの活動で得た経験によって、より明確になった自身の中にあるものが今作に存分に注ぎ込まれています。

今作の魅力は歌う「歓び」に満ちている点だと感じます。日常の大切さを改めて実感する日々に「歌うこと、歌詞を書くこと、表現することで自分の心を解放し、それこそが私にとっての自由だと感じた」という言葉通り、3rd Album『joy』に通じる幸福感に溢れる作品に仕上がっています。

ここで少し『joy』のお話を。当時それまでと違うチームでの制作となったタイミングで、アゲハスプリングス代表・玉井健二氏、「JOY」「長い夢」「ビスケット」などYUKIさんの数ある名曲の作曲を手掛けた音楽プロデューサー・蔦谷好位置氏らと出会ったことがバンド解散後、ソロとして再ブレイクを果たすYUKIさんにとって大きなターニングポイントになります。そして『joy』は「歓びから生まれる音楽」の最高傑作だと僕は思っています。そこから玉井氏を筆頭としたチームでの制作はアルバム「すてきな15才」まで、実に13年も続き、そのことからも素敵な関係だったと言えます。

今作にもそんな幸福な新しい出会いがあります。Music Directorに椎名林檎さんやRADWIMPSなどの楽曲制作に携わる山口一樹氏、Tiny Voice Production今井了介氏のチームなど新たな制作陣との化学反応がサウンド面で重要な役割と新鮮な風を吹かせています。『joy』以来久々に海外のコンポーザーやコライト※で作曲された曲が多数並ぶ点も共通しています。(※複数人で作曲を分担する作り方。サビやBメロなどそれぞれの得意なパートを受け持つので、自分の得意分野を活かせるスタイル)

皆さんの好きな音楽のクレジットから、好きなミュージシャンを見つけて、その方が携わっている他の作品も聴いてみて下さい。知らず知らず聴いていたこの演奏好きだなぁが実はその人だったりという発見があります。

 
 
 

最新と最深


 
今作はルーツを大切にしながら、同じ場所にはとどまってはいられないと言うYUKIさんらしさが存分に、今まで以上に強く感じられる作品です。前半は新しい場所へと届くように、後半は深い部分まで潜るような、まるでレコードのA面、B面を思わせる曲順の素晴らしさもアルバムならでは。YUKIさん自身も2曲作曲、自分の外からくるメロディーと、内側から湧き出るメロディーに乗せた言葉の違いも楽しめます。

トルソーに扮したYUKIさんが映るジャケット写真にあるように、様々なミュージシャン、コンポーザーによってオートクチュールされた楽曲という名の洋服を、YUKIというターミナルに集まり良い音楽を追求していると思うとリスナーもその幸福の中に混ざり合うようで嬉しくなります。

 
 
写真
 
 

全曲レビュー


 
M-01:My lovely ghost
ボリューミーな歌詞からYUKIさんの中で言葉が溢れていること、それが無意識から生まれるハナモゲラ語によって語感で紡がれていきながらも、誰かを励ますような意味まで内包していく音楽の面白さが体現されている曲。3:28〜のCM7 Bm7 Am7 Bm7 Em のパートのキメはバンドでやりたくなります。


M-02:Baby, it’s you
アルバムで聴くとより楽曲が持つエネルギーの花が凛と咲いているように聴こえます。
是非、先月のレビューもご覧ください!

▼第35回「YUKI『Baby it’s you』が示す、君と私の世界が愛と音楽に満ちている理由」


M-03:good girl
かつてJohn Lennonが「Across The Universe」で〈Nothing’s gonna change my world〉と歌ったように「誰も私を閉じ込められない」というフレーズが超ゴキゲンな良い子ではいられないという、天邪鬼な部分すら受け入れて楽しんでいる人は美しい。〈良い子でいられない 君もそうなように〉はズルいですよ…僕も良い子じゃいられません!(興奮)


M-04:NEW!!!
今作で最もエモーショナルを感じました。〈大人にはなれない〉からの〈大人にはならない〉の歌詞! と歌い方! ライブでは生演奏で更に化けてブチ上がるであろうこと不可避な極上ポップ。
イントロのダダダダダ! のキメカッコよすぎません? ベースとハイハット、キックに体揺らされながらサビでリズムを食っていくパート、MJさながらのシャウト! 過去にもダンサブルな楽曲は多々ありますが、ここまでカッコイイサウンドは初めてかもというアレンジです。ギターがエグいです。どうエグいのかというと文字数…


M-05:ご・く・ら・く terminal
捉え方によっては卑猥な響きも含んだ言葉遊びと、語感の良い歌詞をこのサウンドに乗せてカッコよくなるのは恐らく世界でYUKIさんだけでしょう。ラップパート激かわゆす問題勃発中。


M-06:ラスボス
捉えようのない彼と主人公の女性が置かれている状況を少しドライに描くようなサウンドが切なく、中盤にこういった曲があることは凄く大事ですよね。このラスボスはかなり手強そう…。私ごとですが鎌倉在住なもので、YUKIさんと鎌倉デート、したいっす。。。(笑)


M-07:ベイビーベイビー
80’sなシンセやベースによるアニソン感。断片的な言葉でストーリーを想像させる歌詞はYUKIさんの楽曲の不思議な魅力。この曲を境に前半6曲は打ち込み、後半6曲はバンドで構成した曲順は本当お見事過ぎます(2回目)。この曲を中心に冒頭から2曲ごとに区切って聴いていくのも面白いかと。


M-08:雪が消してく
YUKIさんがまだYUKIさんになる前の時代、故郷の函館を彷彿とさせる情景。〈まだもがいてる 雪が消してく〉は時間の経過の美しさ、残酷さを感じさせます。美しさはいつも残酷さを孕んでいます。〈到底敵わないや〉の前の微かにはにかむ声、皆さんもやられていらっしゃいますよね?


M-09:泣かない女はいない
三拍子が心地良い一曲。パーソナルな部分が垣間見える〈決まり事もろくに守れないこの私が 死ぬまでそばにいる約束をしてしまった〉はなんともグッとくるフレーズ。名越 由貴夫さんの轟音エレキギター炸裂で最&高。


M-10:Sunday Service
Chara×YUKIでも「YOPPITE」を提供、ツアーのサポートもされているドラマー・白根賢一さん作編曲ということもあり、歌詞とサウンドが一体になった広大な大地を走るようなカラッとしたビートが切なくも壮大。ロードムービーのエンディングに流れるような映像的な一曲。


M-11:チューインガム
Carole Kingや70’sソウルのようなYUKIさんのルーツを味わえるのも今作の魅力。好きなミュージシャンのルーツを知ることは、素敵な音楽、新しい感動に出会わせてくれます。好きなものを表現するパワー、その姿をリアルタイムで感じれることはリスナーとしても大変嬉しいことです。


M-12:灯
夕暮れの街のぼんやりとした灯り、沈みゆく美しい夕陽の朱色に胸の中で燃えている灯を重ねた胸熱ソング。夢を見ること、イメージすること、その想像力が愛なのではと感じます。〈あなたの笑顔見るために まだ諦めない まだ恥をかいていたい〉と言ってくれることの心強さよ!


M-13:はらはらと
しくしくでも、ポロポロでもなく、はらはらと流れる涙の美しさ。まるでYUKIさんから届いた手紙のような温かさがチクリと胸を刺します。LASTorderさんのトラックが素敵。彼の曲にも「Terminal」という曲がありコチラが収録されたアルバムもカッコいいので是非。

 
 
 

人は矛盾した生き物 だからこそ愛おしい


 

最後にアルバムタイトルについて。サウンドの切なさも相まっていつか来る終わりを感じてしまう部分がありました。しかしYUKIさんは「終点、終着点」という意味の言葉の裏にある「人と人が出会う場所、集まる場所、終わりではなく始まりの場所」という思いを込めました。終わりがあるからこそ輝く今を大切にしていこうとも思える訳で。そのロックなメンタル、ポジティブな解釈を提示するスタンスこそYUKIさんに惹かれてしまう魅力なのでしょう! 大好きだ!(突然の告白)


何度か聴くうちにチャールズ・ディードリッヒの「今日という日は残された人生の最初の1日」という言葉が浮かんできました。未来と過去、自分の中にある嘘と本音、そんな相対する矛盾を抱えながらも素直にいようとする姿。自分を許し、今目の前にある幸せに気づくことから今日という旅が始まり、次の目的地へと進めるというメッセージなのではないでしょうか。人生の旅に連れて行きたい一枚です(だけに。上手いこと言った!うまいこと言ったー!!)。愛聴盤になりそうです。


そんな今を繋ぐYUKIさんという名のターミナルで僕らはこうして出会えたんだと言ったところで今回はお開き。また来月お会いしましょう。最後までお読み頂きありがとうございました!

 
 

 
 
 
▼高橋 圭からの個人的なお知らせ
新曲レコーディング中です!
 
 
 
 


 
今回用プロフィール
高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始。2枚のシングル、1枚アルバムをリリース。2016年活動休止。演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けた意欲作。アルバム『RADIO WAVES』、シングル『ひまわり』共にApple Music、Spotifyなどで配信中。
お仕事依頼はTwitterからお待ちしております。Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
 
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
第18回「YUKI『聞き間違い』から学ぶ “ きっと大丈夫 ” 講座」
第19回「何故私たちはクリスマスソングを作り、聴くのか」
第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
第21回「3ヶ月連続企画! 第1弾 Chara +YUKI『楽しい蹴伸び』から学ぶ無意識の美しさ」
第22回「3ヶ月連続企画! 第2弾「Chara +YUKI 『echo』全曲レビュ ー」
第23回マイフェイバリットエモーショナルソング 10選」
第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
第25回「『ねぇ、できちゃった』のコーナー夏の特別編! 新曲「ひまわり」セルフライナーノーツ」
第26回「ニッポンの偉大なギター名盤10選」
第27回「夏とシティポップ」
第28回「初秋にこそ聴いて欲しい、サザンオールスターズ『真夏の果実』の魅力」
第29回「温かみ、手触りを感じる名作 Yuzukana 『ZUSHIKI』制作秘話!」
第30回「Mr.Children『Brand new planet』レビュー」
第31回「Mr.Children NEW ALBUM『SOUNDTRACKS』レビュー 〜人との出会いと音楽の化学反応〜」
第32回「TRICERATOPS トリビュート盤レビュー&ライブレポート!」
第33回「写真家・薮田修身 展覧会『THERE WILL BE NO MIRACLES HERE』レポート」
第34回「新企画!『YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう』始動!!」
第35回「YUKI『Baby it’s you』が示す、君と私の世界が愛と音楽に満ちている理由」