はい、そんな訳で~始まりましたGAL Radio。ここはラジオを聴くように、友人とカフェで会話するように音楽についてお話していけたらという場所でございます。


夏の終わりから秋へと変わるこの季節の切なさが好きです。暑く騒がしかった街が涼しさで徐々に落ち着きを取り戻していく哀愁は私達の遺伝子に沁みついているものかもしれません。


幼少期から中学卒業まで毎年夏と冬休みは母の実家がある岩手県花巻市に帰省していました。花巻にいる間の家族での移動は決まって車でした。とにかくはしゃいでばかりの私と兄が目的地までの退屈な道中で暇潰しとしていたのが母が好きな曲を収録したカセットテープから流れる曲に合わせ歌う遊びでした。こどもが大人の歌を歌うと大人たちは喜びますからね。この時聴いていた音楽の影響が今となっては大きかったように思います。


中でも山下達郎さん、竹内まりやさんの曲が強く記憶に残っています。遊んだ帰りの車中、夕暮れの冷たい風を浴びて大自然に沈む真っ赤に燃える夕日を眺めるBGMとして達郎さん、まりやさんがかかる訳ですから贅沢なシチュエーションですよね。幼いながらに切なさに心が動く原体験だったように思います。


今年でデビュー40周年、5年ぶりのニューアルバムが発売されたばかりの竹内まりやさんの名曲から音楽がもたらす『切なさ』を紐解いていこうと思います!

 
 
Turntable
9月4日発売の40周年記念アルバム『Turntable』。いつまでもお美しいまりや様でございます。豪華3枚組で過去のベスト盤未収録曲や提供曲のセルフカバー、洋楽カバーとレアでコアでバラエティ豊かでルーツまで知れるなんとも豪華で聴きごたえのある作品です。個人的には牧瀬里穂さんへの提供曲「ミラクル・ラブ」のセルフカバーのキラーチューン感が突き刺さっております。
https://www.mariya40th.com
 
 
 

●「カムフラージュ」(1998年11月18日発売 27th Single ※「WinterLovers」との両A面)


 
歌詞、メロディー、アレンジのバランスが美しく完璧な一曲。日本の70年代以降のシティーポップが海外で再評価されている理由のひとつがこの緻密に計算された感覚的な音です。計算と感覚、その相対する面を探っていきます。
 
切ないポイントその1『歌詞』
口が喜ぶ「口気持ちいい」、耳が喜ぶ「耳気持ちいい」!

歌詞を読むと「不倫、浮気の歌じゃん!」と思いますがもうそんなんじゃないんです!(そうなんですけど)その先にある「素直な生き方」や「普遍性」、時代や流行りではなく人間が抱える感情や問題、業や弱さ、大切にしたい誰かへの思い、理由なく抱いてしまう「愛の残酷さと美しさ」を描いています。(不倫や浮気が倫理的に良いか悪いかは別として人間が起こす出来事の一つであることをテーマにしていると捉えて頂き先へお進み下さい)


カムフラージュを辞書で引くと「本当のことや本心を悟られないように、表面を取り繕って人の目をごまかすこと」という意味が出てきます。この曲は初めから終わりまで難しい言葉や分かりにくい表現は一切なく美しい日本語で思いや情景が表現されています。私が小学生の頃歌詞の意味も分からず聞き取り歌える言葉だったという点でも、シンプルだからこそ言葉の持つ力がストレートに伝わりますし、それが歌っていて口が喜ぶ「口気持ちいい」ワードかつ耳が喜ぶ「耳気持ちいい」音として鳴らされているの言葉とメロディーの親和性が凄い。


最後の一行、主人公が辿り着く結論。


もしも世界が終わり迎えても あなたがいれば怖くない
昨日までの涙と偽りを捨てて 新しい私になる
あたためてきたこの絆こそ 隠せはしない愛の形なの
I’ve been looking for your love
So, we’ve found the way at last



ここまで素直な言葉の日本語で伝えられてきた本音の部分とは対照的に最後の一行を英詞にすることで少しぼやけ余白が産まれます。結末がどうなったのか聴き手それぞれのイメージに委ねる辺り「全てが分かってしまったら素敵な恋愛じゃないでしょ?」とまりやさんに肩透かしを食らうよう。


そしてタイトルはカムフラージュなのに自分の気持ちをもう誤魔化さない、カムフラージュしないという逆の結論に辿り着く点、タイトルがカムフラージュ になってるんですよ(興奮)!! もうこれはプロの仕業です。


まりやさんの代表曲「純愛ラプソディー」(1994年5月10日発売 24th Single)でも、こんな歌詞で終わります。


人をこんなに好きになり 優しさと強さ知ったわ それだけで幸せ
形では愛の深さは測れない さよならが永遠の絆に変わることもある
二度と会えない二人でも 胸の中で生き続ける 大好きな微笑み
So,I Sing this rhapsody for you.
So,I Sing this rhapsody for you.



成就しない恋でも人を好きになったことで幸せを感じられたという女性の成長とそれでも最後には狂詩曲(ラプソディー)というありのままの思いを乗せたこの歌をあなたの為に歌うという切なさ。分かります? しかも2回繰り返すことで思いの強さをより物語るというこれまたプロの仕業!!!


両曲とも共通するのは心に刺さるキラーワードと英詞という組み合わせ、恋愛をテーマに自分の素直な気持ちに正直になる生き方や人生の賛歌であり、個人的な思いだからこそ共有出来る普遍性を提示しています。結末ではなく結論、形ではなく何を感じたかを大切にされている印象です。

 
 
 
切ないポイントその2『アレンジ』
サンプル音源付きで解説!

編曲はまりやさんの夫でもある山下達郎さん。緻密かつ丁寧に録音された音は並々ならぬ技術とアイディアが詰まっていて全ての音が必然性を持ち鳴っているような、過不足の一切無駄のない説得力を産み出しています。


テンポはスローのバラードですが2番サビからラストサビへと内側からグーッと込み上げるように盛り上がっていく展開や、ドラムのハイハットが細かく刻まれていくパートが時計の秒針のように1秒ごとの気持ちの高ぶりを見事に演出していることでそれまでもどかしかった男女の関係が急接近している印象も与えます。イントロから鳴るピアノの音色がグランドピアノではなく電子ピアノ、ベースもシンセベースがチョイスされていることで重たく聴こえない為、曲のテーマがドロドロせず爽やかな印象すら受けます。


ここからはサンプル音源をご用意しましたので合わせて解説していきます。


①楽器選び
グランドピアノと電子ピアノの音の違い。初めは強く後半弱く弾いています。
下手くそですみません。。それぞれの違い伝われ〜。

サンプル音源 グランドピアノ
 
サンプル音源 電子ピアノ
 
 

②揺れる3連符
サビ頭のメロディの符割も4拍子のリズムに対して3連符が乗ることで不安定さ、ワルツのように心が揺れるような効果があります。

サンプル音源 3連符
 
 

③甘酸っぱいグロッケン
サビで入るグロッケンのフレーズが心をチクチク刺す恋心を表現。J-POPで多用されています。

サンプル音源 グロッケン
 
 

④緊張と緩和
この曲のクライマックスはコーラスとシンセが10秒間に渡り続くアウトロの長さにあると思っています。ふたりの想いが一致し体と心の奥へと染み込み溶け合い混ざり合っていく幸福を噛み締めいるような神々しさを感じます。そのエンディングへと向かう際、アウトロの頭で使用されているコードがm7♭5【マイナーセブンスフラットファイブ】(※mは小文字)と言うものでございましてこれが切なさを演出する上でとても重要な役割を担っております。調和していない音と音がぶつかって不安な要素を含んだ不協和音という音なのですが、緊張感から解放された時人は安心を覚えます。フラットファイブからのマイナーメジャーセブンス、マイナーとどれも緊張感のあるコードが続き最後にルート音という解決する音へと帰っていく流れは圧巻です。


Gmaj7/9の安心感たるや!(厳密に言うとメジャーセブンスやナインスといったテンションコードと呼ばれるものも緊張感がある為この曲のテーマのひとつの浮気、不倫という事実への背徳感のようなものと未来への不安なども入り混じった100%解決していないけど心地よい、そんな音で終わっています)


サンプル音源ひとつめのコードがフラットファイブです。1回目は和音を、2回目は少し分解して演奏しています。曲中では使用されていませんが柔らかいタッチと切なさを感じる特徴のウーリッツアーという鍵盤楽器で弾いております。

サンプル音源 マイナーセブンスフラットファイブ
 
 

そしてやっぱり歌唱力。先ほど切ないポイント1でご紹介した最後の一行の英詞部分は達郎さんの完璧なコーラスワークが先に歌われそれを追うようにまりやさんが歌います。男性が手を取り女性がエスコートされていくような掛け合いと、新しい私になる決心をしていく女性の強さ、その裏にあるそれでも寄りかかりたい心の揺らぎが英詞部分の「love」の所で少し音程を下げるあたりに相手につまづいてもたれかかるような歌い方で表現されていて恋に落ちていくトロトロとした雰囲気に溢れています。


また吉澤嘉代子さんも得意とする「ヒーカップ唱法」という語尾を瞬間的に裏返す歌い方を本当にごく僅かに入れていることで主人公の女性が抱えてきた本当の思いが零れ落ちるような印象も着色しています。歌唱力がありすぎるのに聴く人に感情を押し付けずに染み込ませる歌い方は歌い手だけでなくリスナーが主人公になれる歌でもあるのだと思います。

 
 
 
切ないポイントその3『タイアップ』
 

この曲は1998年10月〜12月放送のフジテレビ系木曜ドラマ『眠れる森』の主題歌として起用されています。過去の衝撃的な出来事により心に深い傷を負った「記憶」の真相を巡り展開していく最後まで結末が予測できないミステリー。記憶を無くしたヒロインを演じる中山美穂さん、木村拓哉さんや仲村トオルさん、陣内孝則さんなど錚々たるメンバーの迫真の演技と番宣コピーの「記憶だけは殺せない」が印象に残る作品です。個人的にはユースケ・サンタマリアさんの演技が抜群にいい味を出していると思いました。


遥か昔 何処かで出会ってた そんな記憶何度も蘇る 瞳と瞳が合って指が触れ合うその時 すべての謎は解けるのよ』というフレーズも曲単体としても素晴らしい歌詞でありながら記憶をテーマにした謎解き要素と複雑に絡み合う人間関係が話題を呼んだドラマのストーリーともリンクしています。また回を重ねるごとに登場人物達に襲いかかる残酷な悲劇を救うような歌声は視聴者にとっても救いですし、必ず最終回を迎えるドラマ(しかもこの作品は最終回の放送日と内容がクリスマス・イヴ)という切なさ。これこそドラマと主題歌の最も絶妙な関係性だといます。ちなみに主題歌が流れるオープニング映像がそれぞれの結末を示す伏線になっているという仕掛けを読み解くのも面白いかと!

 
 
 
●まとめ

という訳でございましてお届けしてまいりましたGAL Radio、切なさについてうまく伝わりましたでしょうか?デビューから40年に渡り長く愛されているまりやさんの曲には9月にピッタリな「September」(1979年8月21日発売3rd Single)など切なさを感じれるものが沢山ございます。切ない気持ちとはきっと何かを大切に思う心です。皆さんにとっての切ない曲にも様々な仕掛けや思いが込められているはずです。間も無くやってくる秋、一緒に切なくなりましょう!!

 
 

* * * 

 
 
 
「ねぇ、できちゃった」のコーナー


 

新曲をお届けするコーナー!実はこの企画、昨年の11月から毎月1曲新曲を発表して参りまして、今回で11ヶ月連続!! そうです、来月でちょうど1年になるんです。「1年間、月間雑誌のように季節やテーマを決めた新曲を発表したら面白いかなぁ」という思いつきで始めてみたものの、飽き性で三日坊主な私ですから「12ヶ月連続でやります!」なんて言って途中で放り投げたりなんかしたら格好がつきませんから、人知れずこっそりやろうと思いここまでやって来ました。来月の曲はまだ出来ていませんが…(笑)。そんなこの企画のラスト一つ前にお届けするのは「訳などないよ」という曲です。


不安や悩みを解消したい時、何かしらの理由や根拠を探し出して安心したい時があります。でも物事が上手く行くときや周りの人と喜べる瞬間を共有出来る時、大抵私は感覚に頼った時の方が多いような気がしていて、いつの間にか不安も無くなっていたりします。「なんか分からないけどいい」とか「上手く言えないけど好き」と言語化出来ない感情で褒められるのが一番嬉しいです。理由なんてはじめからあってないようなものなのかも知れません。MVはボラギノールスタイル第2弾です。

 
 
No Reason
2019.09.09
Words,Music & All Instruments,Programming,
Mix & Mastering,Music Video Direction by Kei Takahashi
 
 

 
 
訳などないよ
 

たわいもない話も 君が話すなら 宝石に変わる
季節ごと追い越したい 二人分 恋の向こう側


やさしい 夕暮れ 星に 帰る時間
落ち葉 踏む 街路樹に沿って 風が吹き抜ける


もうこれ以上 焦らさないで サイコロ転がして ふりだしに戻って
もたもたしてちゃ 秋の空 愛だって形を変えるから


おままごと 終わらせて 寝て待つ果報
夜風に舞う 花のような光 僕らを包んで


魔法をかけてよ 灯火 消えないように 両手で囲うよう
まばたき数えて いつだって些細な仕草に目を奪われるんだ
ま た 誤魔化すの おどける才能


甘く苦い思いは ココアに溶かして 爪弾く六弦
出鱈目でもいいのさ 楽しく弾けばいい 意味なんて超えていこう


自分に足りない ところに惹かれる 恋の運命よ
不確かな思いが 浮かんでは消える 月がふたりを眺めている


絡まり続ける未来に 育てたやさしさと言葉を持って行こう
僕らしか知らない 遊びを続けよう
いつからなのかも とっくに忘れて 
諦めかけていたよ 愛はほんとふしぎだよ


同じ気持ちならいいのに 確かめるよう 試さないで
君の瞳を愛してる 理屈じゃない 訳などないよ
奇跡は起こるはずもないよ


そう思っていたけど

 
 
 
 
 


 
今回用プロフィール高橋 圭●1988年5月3日生まれ。2011年から作曲、ギターを務めるgood sleepsのALBUM『SIGNAL』はiTunes store、Apple MUSICにて配信中。Twitter:@zazamino
 
good sleeps
http://good-sleep.jimdo.com/
イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
 
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」