始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで過ごすように、音楽の魅力についてお話する場所です。ごゆっくりどうぞ。

今年ソロデビュー20周年を迎えたYUKIさん。デビューシングル『the end of shite』から最新曲『鳴り響く限り』までを網羅した全41曲入りシングルコレクション『Tears of JOY』を9月に配信リリースされました。今回はこの20年でYUKIさんが歌ってきた、歌詞に込められた想いについて思いを馳せます。それぞれの解釈と照らし合わせてこんな聴き方もあるのかと楽しんで頂けたら幸いです。

今回のキーワードは「輪」。まずはこの曲をお聴きください。

 
 

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『プリズム』MV:北野武監督の映画「Dolls」主役抜擢直前の俳優・西島秀俊さんがご出演されています。
 
 
 

意味を超えて届く想い



今回、歌詞を読みながら全曲聴き直しました。
改めて感じたのはYUKIさんの歌詞の根底には「生きることを肯定する」メッセージが流れていることです。

私小説的な物語性のバラードから、ゴキゲンなダンスナンバー、たった一言で心を持っていってしまうキラーフレーズが光るポップチューンまで、幅広い音楽性に乗せられる抽象的かつ叙情的な歌詞はどこかに人間愛、生への肯定を感じさせます。

どの曲もYUKIさんの世界観が確立されていますが、イメージを投影しやすい「リスナーが主役になれる歌」でもあります。自分の思い出にはない内容でもどこか懐かしかったり、勇気をもらったり、愛しい気持ちになれるスペースが用意されているんです。記憶との接点になるピースが散りばめられていて、そのどれかがピタっとハマるともう琴線に触れまくります。

それはきっと普遍的な「想い」がリスナーの共感を強く引き寄せるからだと感じます。大切な人に想いを伝える時、言葉の意味よりも、そこに込められた気持ちを伝えたいと思うはずです。告白する時伝えたいのは好きという意味ではなく、好きという想いですよね?歌詞の意味のその先にある想いと出逢えたとき、楽曲と深い関係になれるような、リスナー冥利に尽きる瞬間、感覚になれる魅力がYUKIさんの歌にはあるんです。(断言)

 
 
 

輪=歓びの循環



●輪が歌詞に登場する曲
『プリズム』〈咲くのは光の輪 高鳴るは、胸の鼓動〉
『長い夢』〈いつか完璧な環になるように〉
『メランコリニスタ』〈魔法の 音に乗せて 輪になって〉
『Walking on the skyline』〈信じるのは この手の輪〉〈与えるのは その手の輪〉
『あの娘になりたい』〈天使が輪っかを外したよ〉
『惑星に乗れ』〈土星の輪〉
『バースディ』〈廻るのは生命の環〉
『首輪』〈君はふるさとに 帰れず 僕は 首輪を 変えた〉
『Baby, it’s you』〈君の笑顔 満天にして 世界をつくろう 輪になれ 大地に〉

表記が「環」もありますね。曲によって意味は違うと思いますが、いくつかの曲を行ったり来たり横断して聴いていくと2つの結論に辿り着きました。
 
 

1.「『わ』が持つ音の響き」説
1つ目は、わ(Wa)の音の柔らかさそのものが輝いている説です。発音する際の口の開き方が、想いが波紋のように広がり、曲のスケールを大きく、広く開けてさせていくイメージを持っていて「音に導かれて」輪を選んでいるように感じました。メロディーから呼ばれた音楽的な響きを活かした言葉選びは「作詞も作曲の大事な一部」だと痛感します。

2.「歓びの輪」説
2つ目は自己と他者の間で産まれるサイクルやバイオリズムを表現した「歓びの輪」説です。自分が放った言葉や感情が相手を経由し、またそれが戻ってくるような、コミュニケーションの連鎖が循環を表す輪、環に込められているのではと仮定しました。

ではこの2つを軸に、何故歓びの輪を歌うのかを更に掘り下げてみましょう。

 
 
 

歓びの輪=うれしくって抱きあうよ



想像して下さい。歓びを伝えたくて大切な人を両手で抱きしめるポーズを。対象を包むようなその手は輪を描いていますよね。輪は何か大事な思いを抱き締める象徴にも思えてきました。自分以外の誰かのために行われる行為の、最も幸福な形のひとつが抱きあう瞬間にありそうです。

そう考えると、5th Album『うれしくって抱きあうよ』は最も輪を表した作品と言えるのではないでしょうか。シングル、アルバムツアーも同名を冠とし、YUKIさんは「OVERJOYED EMBRACING」と英訳しました。”大喜び”という意味の”overjoyed”はjoy=歓びが溢れて思わず抱きしめ合う、YUKIさんがキャリアを通して投げかける【理屈で正しい方はなく、感覚で楽しい方を選ぶ】大事なメッセージを一言で示すキラーフレーズです。JUDY AND MARY時代も含め、アルバム作品として初めて日本語タイトルを付けたことからも想いを込めたことが窺えます。

大きな愛情が自分の目の前の半径5mくらいの世界を包み込むような、とてもパーソナルな感覚に近いのが輪の正体な気がしてきました。ではその輪はどうやって生まれるのでしょうか?話を続けますね。

 
 
 

歓びの種=今を生きる



『歓びの種』の歌詞〈見逃してしまう 歓びの種を 暖かい大地で 育てましょう〉に注目してみます。

種は「今ある小さな幸せ」のメタファーで、些細でも感情をプラスに転換していくことでやがて大きな歓びを咲かせる「今を大切に生きること」を指していると捉えました。種は愛という水を注ぐことで育つのです。この愛とは何か、僕は「鼓動」な気がしています。節目で歌われてきた「鼓動」もYUKIさんの大切な想いのひとつだと思うからです。

鼓動が歌詞に登場する曲(一部)
『プリズム』〈高鳴るは、胸の鼓動〉
『JOY』〈死ぬまでドキドキしたいわ〉
『うれしくって抱きあうよ』〈巡り逢い 胸高鳴る〉〈動き出す2つの鼓動〉
『鳴り響く限り』〈命が 鳴り響く限り〉

一貫して音楽への情熱や胸躍らせること、今を生きている実感が歌われています。生きていることそのものが愛であり、鼓動の高鳴りを感じる瞬間こそ、人間の最大の歓びということなんじゃないでしょうか。

ここまでお付き合いありがとうございます。ではいよいよ最後、冒頭でお聴き頂いた『プリズム』に戻ります。

 
 
 

咲くのは光の輪 高鳴るは、胸の鼓動



『プリズム』の最後の一行です。語尾をWaで韻を踏みながら意味も美しく成立しているとても素敵なフレーズですよね。光の音に導かれ、YUKIさんは花咲く丘を目指します。その丘から見上げた空に咲いているのは「光の輪」です。

光に音はありませんが、その音に耳を澄ます行為はそこにある美しさや想い、自分を導いてくれた音楽がくれた愛と、音楽への愛に気付くことを指しているんじゃないかと。これは『歓びの種』にも通じる、今感じている自分の素直な声に気付くという感覚です。

プリズムには光や虹、反射という意味があります。「光の輪」とは、涙の河を泳ぎきったあとに空に架かる虹のことでもあるのかなとずっと思っていました。ではその虹は何を表しているのか。それは音楽なんじゃないかと。
音もいつか淡く消えてしまうけれど、鳴っている音を感じる瞬間は生きているからこそ。YUKIさんにとっては音楽そのものが自分を照らす光であり、生きる上で大切なものは「音楽を信じること」だと歌っているように思えます。

そう考えると、今作のタイトルに「Tears of JOY」“うれし涙”と名付けたこと、めちゃくちゃグッときますよね…!!

 
 
 

新しい自分へと還る



今作を聴くと感じるのは、YUKIさんのこの20年は常に新しいことにチャレンジしてきた歴史だということです。ただ、どんなに遠くへ行こうとも誰しも自分は自分でしかなく、どんな歌もYUKIさんが歌えばYUKIさんになる。だけど自分があるからまた遠くまで行ける。その軌道が遠ければ遠いほど、描く輪もまた大きくなります。

この世界の現象を心がどう捉えるか、それ次第で自分の世界は作られると思っています。だからこそ変化を受け入れ、自分の中の大切な歓びが変わらないために変化し続ける、それが新しい自分となって今へと還ってくる。そんな心の軌道こそ、歓びの輪なのではないでしょうか。

10月にカップリング&リミックス曲をまとめたアルバム、11月には新譜リリース、アリーナツアー開催と絶賛20周年お祝い進行中のYUKIさん。新しい音の輪に 包まれる歓びに僕も胸を高鳴らせています。そろそろカフェを出ましょうか。最後 までお読み頂きありがとうございます。みんな、死ぬまでドキドキしような!!

 
 
 
画像1&サムネ用
 
 
YUKI 20th Anniversary The Singles Collection 2002-2022『Tears of JOY』
Apple Music
 
 

 
 
 
 

YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう!Season 2


【Vol.08 なっちゃん】

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2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
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