始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで過ごすように音楽の魅力についてまったりお話する場所です。是非ゆっくりしていって下さい。

今年デビュー30周年を迎えたMr.Children。(以下ミスチル)彼らのジャケットやMV、広告などを手がけるアートディレクター・森本千絵さんとミスチルの素敵なご縁について今回はお話したいと思います。この幸福な出会いがリスナーにもたらしてくれる影響を一緒に探しにいきましょう。まずは森本さんが手掛けた作品で僕が最も愛を感じるアルバム『HOME』よりこの曲をお聴きください。

 
 

 
 

森本さんとミスチルのご縁


森本千絵さんは、goen°を主宰し、アートディレクターとして活躍されている方。

僕が森本さんのデザインと初めて出会ったのはミスチル初のベストアルバム「1992-1995」「1996-2000」通称「肉」と「骨」の新聞広告でした。
当時中学1年生だった僕はこの斬新な広告に惹きつけられミスチルがベスト盤を出すことを知りそれまで母親が車で流していたカセットテープやテレビで見ていた彼らの音楽をちゃんと聴いてみたいと思い、お小遣いを握りしめ近所のCDショップに買いに行きました。そのきっかけとなったのがこちらです。

 
 
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水滴が裏に書かれた文字を浮かび上がらせる偶然性を感じさせるアイディア

 
 
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拡大すると情報が書かれていてほとんどが白紙という新聞一面広告ならではの手法

 
 

森本さんとミスチルの初めてのお仕事、ご縁の始まりは僕がミスチルの音楽と出会うきっかけもくれました。ちなみに森本さんの初めてのバイトはミスチルのライブ会場でのグッズ販売だったそうです(NHKラジオ第1 「マイあさ!」より)素敵なご縁を感じますよね。

 
 

デザイン=本質


僕の父親は某広告代理店でコピーライターの仕事をしていました。音楽が趣味だったので家には沢山のレコードがあり、音楽の魅力も教わったのですが仕事の話もよくしてくれて、マーケティングやデザインの面白さも熱弁してくれた記憶があります。特に何かを深掘りしたいのなら「とにかく辞書を引け」と何度も言われたのを覚えています。アートディレクターとしてだけでなく本当に幅広く多くの瞬間をデザインされる森本さん。それらは何故心に刺さるのか、デザインという言葉を調べてみました。

designの語源を調べると、デ(de:削る)・ザイン(sign:形作る)であり、これはラテン語で「私欲を削り落とし、本質を磨き上げること」を意味すると言われています(desire=欲望、強く望む、願うなどが語源など諸説あり)また、

De=分離、否定、反対、強い意味で「完全に」etc…
Sign=記号、一定の事柄を指し表すために使う文字、しるし

という意味に分解することも出来ます。デザインとは文字や印ではない一定の事柄を指し表すものでそれは本質的なものであると。なるほど、とてもしっくりきますね。言葉の意味を知るとその言葉以外のことも見えてきます。

ミスチルの『HOME』や『SUPERMARKET FANTASY』『SENSE』など、森本さんがアートワークを手がけた作品には、「誰かを思う時の優しい気持ち」や「偶然をキャッチした時の愛おしい感覚」のような温度があって、『HOME』の象徴的な家系図も実際の家族で撮影するなど、知らされなければ分からないようなことにもちゃんとこだわるからこそ神が細部に宿り見る人に深く伝わるのだと思います。

最初にお聴き頂いた「彩り」は目の前にいる誰かのために行動する、ここにいない人のために何かをするその両方が自分の幸福になって返ってくる、そんな素敵な循環を歌っていると思うのですが「誰かのおかげで生きている、生かされている」と強く感じた感謝がまた新しい愛を生んでいく。その始まりは家族や大切なひとがくれるHOMEがあるからというメッセージだと解釈しています。

水中という思い通りに動けない場所に家族が浮かんでいるのも自分の意思だけでは説明出来ない大きな何かに動かされるような、得体の知れないものに想いを馳せるような無知の知(真の知に至る出発点は無知を自覚することにある、とするソクラテスの考え方)のようでもあり、重力のように逃げられないものでもあるけれど、その重力を軽くしてくれるのも同時に水であることを表現している気がします。

森本さんのデザインは音楽のように伝えたいことが瞬時に心まで届く本質的なメッセージを放っているから魅力的なんだと思う訳であります!

 
 
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Mr.Children 13th Album『HOME』ジャケット

 
 

土を耕す人


僕の愛読書の一つ、森本千絵・著『アイデアが生まれる、一歩手前のだいじな話』にも本質的なことが沢山書かれています。森本さんの言葉はポカリスウェットくらいの浸透圧で一瞬で体に染み込んできて脳みそをモッチモチにしてくれます。素敵な考え方がたくさん詰まっていて読み進めていくほど頭の中で思っていたけれど言葉にならなかった感情が言葉として心を耕し、ふかふかで栄養たっぷりな土壌になっていくようでした。花や枝といった見える部分ではなく物事の見えない部分、土を耕すことを意識されている森本さん。作品に触れた人がその土の上でさらに綺麗な花を咲かせるように、ミスチルも彼女の放つ柔らかさに影響されて変化していった部分もある気がします。この曲のキラキラしたイメージも森本さんのアートワークによってさらに輝きが増幅しています。

 
 

 
 

Dear Mr.Children展に行って


代官山のmono goen°で開催されている、『goen° vol.4 Chie Morimoto’s Art works for Mr.Children「Dear Mr.Children展」』に行ってきました。

▼Dear Mr.Children展

森本さんが携わったミスチル作品の絵コンテや撮影の様子のお写真、小道具などが公開される特別展示。中学からの親友でありミスチルフリークの佐川くんとお邪魔したのですが、その夜僕らは40分間の時空のワープを共有することになります。

様々な縁と円が所狭しと散りばめられた濃密で幸福な空間は、まるで宝箱の中に放り込まれたような煌めき。その輝きに包まれた僕らは子供みたいに終始無邪気な笑顔。スタッフの皆様もとてもご丁寧にご親切に来場されている全てのお客様に真摯的にご対応されていて、おひとりおひとりのお人柄や想いが共鳴し合って幸せなムードがアトリエいっぱいに広がっていました。(この記事が公開されるタイミングではまだ会期中ですのでお写真の掲載は控えます。ご覧になりたい方は是非森本さんのInstagramなどをチェック!)

今回のベストアルバムと30周年を記念したツアーオープニング映像のキービジュアルであるエントランスタワーの回転扉も展示されていました。今回の展示を見て感じたのですが、ミスチルのデビュー日である5月10日、そこから一日進んだ11日のライブ会場として選ばれた東京ドーム。そのエントランスは回転扉になっています。扉はどこかとどこかを繋ぐ一枚の隔たり。人と人が直接触れ合うことは遠ざけられ、アクリル板で遮られた不条理な数年間。それでもその扉を進めばミスチルの音楽と出会い、ライブ後、今までと同じ風景も少し変わって見えるような感覚になる。何かに隔てられていてもそこから一歩抜け出すことでその先には景色が広がっているよと、ドームとエントランスタワーのそれがリンクして伝えているように思えました。

 
 
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境目がなくなっていくように抱き合い、混ざり合うようなふたりが印象的な最新ベストアルバムのジャケット。それも彼らの音楽がリスナーの人生と溶け合うようにも思えてきます。

 
 

憧れを解放する


少し話は遠回りして、ミスチルが変わり続けながら変わらないメッセージを放っていることについてのひとつの考察をお話します。それは「憧れ」という言葉が節目や大切なタイミングで歌われているということです。
※「タイトル」『歌詞』(リリース年、出来事)


「蘇生」
『胸を揺さぶる憧れや理想は やっと手にした瞬間に その姿消すんだ
でも何度でも 何度でも 僕は生まれ変わっていける』
(2002年、10周年)

「祈り〜涙の軌道」
『さようなら さようなら さようなら 憧れを踏みつける自分の弱さに』
(2012年、20周年)

「Brand New Planet 」
『静かに葬ろうとした 憧れを解放したい』『この手で飼い殺した 憧れを解放したい』
(2020年、20年ぶりの海外レコーディング)


更に調べてみると、先日再放送され話題を呼んだNHKの音楽番組「佐野元春 THER SONGWRITERS」に桜井さんがご出演された回、会場で対談を観覧する学生からの質問に答えるコーナーのコメントからも憧れと解放について読み解けるヒントがありました。「ミュージシャンとしての影響力についてどう思うか?」という問いに対し、

『僕は第三者のために音楽を作ってるのではないと思っているんです。ただ、当然人が誰しも抱えている問題、それを共有することでなんか救われたり励まされたりすることはあるだろうなぁと思って。だから誰かを励ますんじゃなくて自分自身を解放してやる、それが結果誰かと繋がり、何かプラスに作用するんじゃないかなっていう感じでいます。』

ミスチルが歌い続けてきた「憧れ」とは自分が望む未来や希望、人間が描く夢の力。それを「解放」することは素直な心で自分に対してどこまで正直に生きていけるかを大切にしたいということだと思ったんです。

最新曲「生きろ」は彼らの新たなグルーヴを放っています。グルーヴの語源はレコードの溝が一周してくることと言われています。レコードやCDが回転するように円を描いてきた軌道が次のグルーヴを呼んでいます。長い道のりを経ても変わらない「憧れ」へと向かうために変わり続けてきた彼ら。過去も未来も引き連れて今を生きることで魂は歳を取らない、Mr.Childrenというバンド名が30年たった今もそう叫んでいるように聴こえます。

 
 

 
 

ファンタジーはリアルの中に


森本さんの作品の中にあるファンタジーが僕は大好きです。心が動かされる感覚は生きている実感そのもので何度も生きる活力を頂きました。時に激しく躍動する時もあれば切なく些細な揺れを起こす時も。地球に生きている私たちも自然の一部ですから草木のように、波が寄せては返すように、揺れることはとても大切なことだと思っています。直感的に呼応し、考え、また感じる。そんな心を脱皮させてくれるような心地良いサイクルを揺れからは貰います。ミスチルの音楽もその揺れを大切にしてきたんだと僕は思っています。

素敵な人と出会いや、予期せぬ出来事と遭遇した時に感じる喜びや幸せ。それを自分の欲目だと思うか素敵な出来事だと思うかのちょっとした違いで僕たちはファンタジーと出会うことが出来ます。常識や当たり前と思われている中に、ファンタジーは存在していて自分だけのそれに気付けた時、世界は輝いて見えます。生きているとそうは思えない辛く悲しい時もあります。それでもそこから救い出してくれるのはやっぱり希望だったり夢、誰かを思う心が一滴でも感じ取れる何かだったりします。それをミスチルの音楽と共に森本さんの作品から教わってきたんだと「目には見えない音楽を可視化する」魔法使いの魔法によって今強く思います。ファンタジーはファンタジーの中にあるのではなく、現実の中にある。そうですよね、森本さん!

そろそろカフェを出ましょうか。最後までお読み頂きありがとうございます。

 
 
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オススメしたい!のコーナー



My Best Mr.Children & 森本千絵さん
森本千絵さんがジャケットやMV、アートワーク、広告などで携わった作品と、森本さんの柔らかくしなやかなイメージとリンクする楽曲を選びました。

1.彩り
2.擬態
3.ヨーイドン
4.I’m talking about Lovin’
5.ヒカリノアトリエ
6.やわらかい風
7.くるみ(Studio Live)
8.しるし
9.pieces
10.横断歩道を渡る人たち
11.HANABI
12.永遠
13.エソラ
14.Brand new planet

 
Apple Musicプレイリスト
 
 
 
 

YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう!Season 2
【Vol.04 佐藤蒼さん】



1年間かけて様々な方とひとつの楽曲を育てていく企画。今回はパン屋・佐藤蒼さん。Trombone Bacaryは昨年ラジオにご出演頂いてからお店をリニューアルオープン。(僕もドアを塗るお手伝いをしました)若い方が立ち寄ってくれるなど以前よりもお客様層も広がっているそうです。コーラスを僕の自宅スタジオでレコーディングしましたが、今回は音源ではなくお店の様子を撮影してきました。蒼さんとのミニ対談と合わせてご覧ください。
 
 

 
 
 
 
 
 
 


 
2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
 
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
第18回「YUKI『聞き間違い』から学ぶ “ きっと大丈夫 ” 講座」
第19回「何故私たちはクリスマスソングを作り、聴くのか」
第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
第21回「3ヶ月連続企画! 第1弾 Chara +YUKI『楽しい蹴伸び』から学ぶ無意識の美しさ」
第22回「3ヶ月連続企画! 第2弾「Chara +YUKI 『echo』全曲レビュ ー」
第23回マイフェイバリットエモーショナルソング 10選」
第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
第25回「『ねぇ、できちゃった』のコーナー夏の特別編! 新曲「ひまわり」セルフライナーノーツ」
第26回「ニッポンの偉大なギター名盤10選」
第27回「夏とシティポップ」
第28回「初秋にこそ聴いて欲しい、サザンオールスターズ『真夏の果実』の魅力」
第29回「温かみ、手触りを感じる名作 Yuzukana 『ZUSHIKI』制作秘話!」
第30回「Mr.Children『Brand new planet』レビュー」
第31回「Mr.Children NEW ALBUM『SOUNDTRACKS』レビュー 〜人との出会いと音楽の化学反応〜」
第32回「TRICERATOPS トリビュート盤レビュー&ライブレポート!」
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第41回「NEW SINGLE『花束』が出来るまで」
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