2023年も折り返し、7月に入りました。蒸し暑い日が続きますが、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。私は観葉植物たちのめまぐるしい成長に一喜一憂の毎日。すくすく育つ子もいれば少し手のかかる子もいて(笑)、可愛くてたまりません。さて、今回はミュージシャンとしてデビュー35周年を迎えた江口洋介さんの「BE HERE NOW~35th Anniversary~」ビルボートライブ東京(6月21日1st&2nd STAGE)のようすをお届けしたいと思います。

これまで時代を彩るさまざまな作品に出演し、最近でも『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』『線は、僕を描く』『るろうに剣心』シリーズなど第一線で活躍し続けている江口さん。1999年以降は俳優業に専念されていたけれど、2016年からライブ活動を再開し、コロナ禍においてはSNSでセッション動画の投稿、昨年はホストを務めたギター番組が話題に。そして今年、35周年を記念して2日間のスペシャルライブ(5月・東京・渋谷Spotify O-WEST、そして今回のビルボートライブ東京)が開催された。

この日、赤のTシャツにジャケット、足元はコンバースというラフなスタイルで颯爽と江口さんが登場すると会場から大きな歓声が沸いた。先月から引き続いてのバンドメンバー、真壁陽平さん(Gt.)、TOKIEさん(Ba.)、吉田佳史さん(Dr.)、Sinさん(Key.)が「夢ゴコチ」を演奏し始めると、その軽快で重厚なサウンドにさらに歓喜の声が上がる。彼らが放つ極上のロックンロールに、江口さんのタンバリンやブルースハープが加わり、会場のボルテージは加速していった。江口さんは熱気に包まれた会場を見渡しながら「“35周年”がこうしてみなさんと会える口実になってよかった」と笑顔を見せ、サブスクで楽曲配信を解禁したことや音楽番組への出演を報告。そして、アコースティックギターで「天気雨」を爽やかに聴かせた。この曲は、先日カンヌで脚本賞を受賞された坂元裕二さんとの共作(歌詞)で、20歳ごろ一緒にドライブをしながら、こんな曲を作りたいよねと語り合っていたことから生まれたのだそう。江口さんは当時に思いを馳せながら現在の坂元さんの活躍を称え、突然、会場の2階に来られていた坂元さんを紹介した(1st STAGE)。坂元さんは会場からの拍手に応えるように立ち上がり挨拶。そして、江口さんに「MC下手になったんじゃない? 前はもう少し上手かった(笑)」とつっこむと「うるさいよ!」とすかさず反撃する、仲睦まじいお二人のやり取りに和んだ。

 
 
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江口さんはとても自然な佇まいで、この日のために全国から集まった観客たちに感謝を伝えた。遠方から来られたファンの方に(逆に近所から来られた方にも)ピックを手渡したり、「あんちゃん!」(ドラマ『ひとつ屋根の下』シリーズから)というかけ声に気さくに応えたり。決まりきった言葉ではなく、そのとき、頭に浮かんだことを丁寧に私たちに伝えてくれるようすは、人対人というあたたかさが感じられ、時には天然キャラな言い間違いもあって、とてもチャーミングな人柄がうかがえた。1st STAGEでは先日報道されたあるニュースに触れ、もし映像化したら俺は父親役かななどと職業柄つい考えてしまうのだと笑った。また、先日までの沖縄ロケでは通い詰めていた食堂で、ずっとばれないように気をつけていたのに最後の日に(店員さんに)声をかけられたのだという。それが、「お笑い芸人さんですよね」って言われたというオチには観客もバンドメンバーも思わず吹き出し大笑い。…いったい誰と間違われたんだろう(笑)。

そんな江口さんのユーモアあるトークに誰もが笑顔になっていた。和田唱さん(TRICERATOPS)とボイスメモでやり取りしながら制作したという新曲「風の街」は、コロナ禍を乗り越えてきた大人のための応援歌だと語った。お二人のポジティブさがにじみ出ている清々しいこの曲は未発表だそうだが、ぜひ配信をお願いしたい名曲だ。そして、この日の2nd STAGEでは、テンションの上がる楽曲「It’s Fine Today」で江口さんから「Stand up!」の指令が! 今まで何度かビルボードでのライブを観たことはあったがスタンディングは初めて。ラグジュアリーなフロアが一気にライブハウスへと変わり、「愛は愛で」では観客は手を振り上げたりハンドクラップで盛り上げたり、会場のボルテージはマックスに。江口さんと真壁さんのファンキーなギターの競演に魅せられた。

アンコールでは観客の手をタッチしながら登場。バンドメンバーも観客とタッチしていて、とても微笑ましい光景だった。今日のこの日を名残惜しく思うように「秋にはまたこのメンバーでツアーをやりたいね」と話した。今回のバンドメンバーは、以前から彼らのプレイに惚れ込んでいた江口さん自らのアプローチにより実現したのだそうだ。クールでかっこいい「TOKIEちゃんが僕には笑ってくれる」と嬉しそうな江口さんがとっても素敵だった。ロマンティックな名曲「恋をした夜は」や急逝した仲間を想い歌った「明けていく街」は胸に沁みわたり、35周年にふさわしいとても心のこもったライブを堪能した。

ライブタイトルの「BE HERE NOW」は、これまでの35年を振り返って、改めて“今、ここにいる”ということを伝えたいと思ったのだという。どんな場所にいても、“私は今、ここにいる”と前を向いていこうという江口さんらしいメッセージに心を打たれた。また、終始飾らない江口さんの人柄に惹かれ続けたライブでもあった。「今日、誕生日なんです」と告白した方に、名前も聞いてハッピーバースディを歌い、男性ファンの方たちからの「35周年おめでとうー!」という声援に「サンキュー!」と渋めの笑みで応える姿はまさに“リアルあんちゃん”だった。男気と茶目っ気を兼ね備えた愛すべきキャラクター。そして、役者として積み重ねた揺るぎないキャリアとともにギターを携えミュージシャンとして輝きを放つ江口洋介は無敵だ。一瞬ですべての人をトリコにする屈託のない笑顔に、私たちはきっとこの先もずっと魅了され続けるのだろう。

 
 
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プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。6月の最終週は、阪神競馬場で宝塚記念を観戦してきました。レースはファン投票第1位、そして世界ランキング1位のイクイノックスが見事優勝。関西初参戦ということもありパドックに姿を現した瞬間、その雄大な馬体に鳥肌が立ちました。観客からも歓声があがったほど。常識を覆すような惚れ惚れする走りを見せてくれたイクイノックス。次走にも注目です。
 
 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
第75回「神々しい佇まいは露伴そのもの。高橋一生さん主演『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を鑑賞して」
第74回「2023年4月・想いのカケラたち」
第73回「介護の厳しい現実を考える、松山ケンイチさん×長澤まさみさん主演『ロストケア』を鑑賞して」
第72回「歌に託した想いと“最愛”のGRAPEVINEリビジットツアー『in a lifetime present another sky』」
第71回「万事休すからのスペシャルギグ! 斉藤和義さん弾き語りツアー『十二月~2022』」
第70回「“いつか星空の下で” 石崎ひゅーい『ナイトミルクLIVE 10th Anniversary〜」
第69回「名実ともに兼ね備えた純白のアイドルホース・ソダシの底力」
第68回「「水墨画は心を映し出す。横浜流星さん主演『線は、僕を描く』を鑑賞して」
第67回「迫力ある魔法に驚きと興奮の連続! 『ハリー・ポッターと呪いの子』観劇レポート」
第66回「自らを追い込んで飄々と一人芝居に挑む! 高橋一生さん『2020(ニーゼロ ニーゼロ)』観劇レポート」
第65回「渾身の力で“天”に届けられたメロディー。石崎ひゅーい “10th Anniversary LIVE 『、』(てん)”」
第64回「能楽の舞台に舞い降りたポップスター! アニメーション映画『犬王』を鑑賞して」
第63回「MANNISH BOYS-Anniversary LIVE TOUR 2022 GO! GO! MANNISH BOYS! 叫び足りないロクデナシ- 」
第62回「10年分の想いを花束にして。石崎ひゅーい Tour 2022“ダイヤモンド”」
第61回「すべてを愛せるツアーに。中村 中さん『15TH ANNIVERSARY TOUR-新世界-』」
第60回「戻らないからこそ愛おしい。映画『ちょっと思い出しただけ』を鑑賞して」
第59回「ジギー誕生50年!今なお瑞々しさと異彩を放ち続けるデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画『ジギー・スターダスト』」
第58回「2年ぶりの想いが溢れたバンド編成ライブ! 石崎ひゅーい 「Tour 2021『from the BLACKSTAR-Band Set-』」
第57回「中村倫也さんと向井理さんの華麗なる競演! 劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』」
第56回「斉藤和義が最強のバンドメンバーと魅せた“202020&55 STONES”ツアーファイナル」
第55回「飄々と颯爽と我が道をゆく。GRAPEVINE “tour 2021 Extra Show”」
第54回「こういうときだからこそ豊かな未来を歌う。吉井和哉さん “UTANOVA Billboard”」
第53回「高橋一生さんの覚悟と揺るぎない力を放つ真の言葉。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』観劇レポート」
第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」

[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”