始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで会話するように、音楽の魅力についてお話する場所です。

今回はYUKIさんの楽曲「トロイメライ」についてお話します。
最近、人との距離感や言葉、コミュニケーションについて考える出来事がありました。立ち止まる日々の中、モヤモヤを晴らしてくれたのがこの曲でした。2018年9月19日(クイック!)のリリースから5年、再び僕の中で輝きを放つ理由についてお届けします。テーマは「ゆるし合う」です。

 
 

 
 
 
 

トロイメライ



ドイツ語で「夢」「夢想」。シューマン作曲の幻想的な同名曲も有名です。作曲は嵐「Monster」なども楽曲提供されているシンガーソングライター・CHI-MEYさん。映画「コーヒーが冷めないうちに」の主題歌として書き下ろされ、YUKIさんがセルフプロデュースを手がけています。昔の記憶と繋がるような懐かしさと、晴れた朝の空気のような新鮮な気持ちの両方と出逢える美しい楽曲です。

この曲と映画では「赦す」ことが大きなテーマとして掲げられています。人生においてこの「赦す」ことは、より深く大きい幸福を感じながら生きるための大変重要な要素のひとつであると思います。

映画の舞台は、自分が戻りたいと思う過去に戻ることができる喫茶店。ただ、会いたい人と再会できても、現実や未来は決して変わらないというルール付きです。それが何を意味しているのかが今回のテーマと繋がりました。

YUKIさんは主題歌を提供するにあたり、当時のインタビューで「聴いた人それぞれが自分なりの受け止め方ができる歌にしたいと思いました」と語っています。
抱えている問題が人それぞれであるように、それぞれの苦しみに寄り添う包容力のある歌詞が綴られています。


参考:YUKI トロイメライ-歌詞 Uta-Net


「孤独を認め、大切な何かを失った人が、過去をゆるし、前を向いていく」といった心の変化が歌われていますが、特にこの一節が今の僕に突き刺さりました。

何度でも 笑うのよ 何度でも 許されていいから

先日リリースされたライブ映像作品『YUKI concert tour ”SOUNDS OF TWENTY” 2022 日本武道館』にも収録されているこの曲のこのフレーズを聴いた時、ふと今の僕に足りないものはこの「ゆるす」ことなんじゃないかと感じたんです。ではこのゆるす、ゆるされるとは、一体なんなのか。意味から調べることにしました。

 
 

ゆるすとは



ゆるすには大きく3つの書き方があります。違いを確認しておきましょう。

許す=何かをすることを認める、許可する
赦す=罪や過ちを赦す
恕す=思いやりの心で罪の過ちをゆるし、相手の想いを図ること

下に行くにつれ、懐がより深くなっているような印象です。
日常的な些細な行為から、時が経ち、許せなかった事柄を受け入れる行為、相手を受け入れ、考え方が向上した状態と様々な段階があることが分かります。更に考えてみました。

例えば、自分が好きなものを否定されたとします。
大切にしているからこそ気分を害したり、嫌な気持ち、悲しい気分になりますよね。でも自分の中に、確固たる好きという想いを持っていればそれでいいと思うんです。誰かに否定されたからといってその気持ちは変わらないですよね?

その人にはその人の意見がある。そこにリスペクトがない発言だったら話は別ですが、悪口を言われたから悪口を言い返していい訳ではないし、傷付けられたから傷付けていい理由にもならない。否定することは簡単ですし、その時は気分がスッキリするでしょう。でもそれは自分が感じた不快をもうひとつこの世界に産み出していることになります。時間が経つに連れて見えてくるのは、許せないのは自分の中にある感情だと気付きます。自分の心の問題なんだと。

考えずに怒る方が楽です。怒るのも体力がいりますが、許すことはそれ以上に心を削られます。でもきっと自分に足りないもの、必要なものは今の自分に理解出来ないことの奥に存在していて、心に色があるとするならば、感情の揺らぎのグラデーションにこそ、新しい自分と出逢うヒントがあるような気がします。それは決して信念を曲げるということではなく、大切なものを”再び”両手で優しく包み込むように形を変えていくイメージ。マイナスなことに費やしてしまう時間とエネルギーは、そうやってやさしさとユーモアで楽しいことに変換できるのかもしれません。

それでも受け入れられないものがあるとしたら、それは何故なのか、モヤモヤと対峙し、自分なりの答えを見つけるしかないんだと思います。1秒でゆるせるものもあれば、10年かかる問題もあるかもしれません。それは途方に暮れることです。だとしても、全ての人が分かり合えないからこそ、他者との間に必要なのは論破でも、説得でもなく対話で、それを必要な時間だったと思えるために、ゆるすという行為があるんだと思います。

 
 

赦し合うために間違う



YUKIweb RADIO『トロイメライ』Release SpecialのYUKIさんのコメントの中で「赦す」ことについてのお話がありましたので、ここでご紹介します。
(以下音声書き起こし)

今までの自分のやってきた事などを振り返った時に後悔なんてたくさんありますよね。やっぱりあの、この時ああしておけば良かった。そうしたらもっとこうなっていたんじゃないかって想いを抱えてね。私自身そういうふうに生きていますし、もしかしたら多分、皆さんも同じような想いを抱えてるんじゃないかなと。いつの時代のあの時にこう言わないでこうしておくっていう事をね。

ただそれを思った時にあ、なんか待てよ待てよ、それってなんか自分のその、これは罪だったんじゃないかっていう、罪を少しでも軽くしたいという思いからなんじゃないかと。勿論、そこの中には自分がやったことによって起こった出来事に対してのその、罪悪感ですよね、その罪悪感を軽くしたいという気持ちもあるけど。でもその時にどうしようもなく変わらないことではあるけれども、自分自身がその時どうしてそういう決断をしたのかっていうことを相手に知ってほしい。そういうこともあると思います。でもそれは向こうも同じだと思ったんですよね。

ということは、人はたくさんの間違いをしていくけれども、それってもしかしたら人と人が生きていく上で一番大切な赦し合うっていうことなんじゃないかなって。その赦し合うために間違うんじゃないかなって。それがもしかしたら人間たちに与えられた罪を持って、人を赦し合って生きるという事なのではないかなと思います。

罪悪感がない人っているのかな?もしかしたらいるのかもしれない。いるのかもしれないけど、少なからず私はやっぱり、これまでの人生の中でもあります。あるので、あの時の自分ていうのを赦して今、こうしてここで歌を歌わせてもらっているという気持ちの方が。

だから謙虚にならざるを得ないというか、長く色々やっていってるとなんか、そうね、最近、昨日もちょっと寝てる時に思ったなぁ。なんか、この生かされてる感じっていうのをどういう風に表現できるのかなという風に今は思いますね。やっぱ思うとおりにいかない、自分の思うとおりにいかないっていうことがもう何か、要するに生かされていて、謙虚な気持ちになって、愛を持って人と接していくことをやる以外にもう何も思いつかないというかね。なんかそれが凄い思ったんですよね」ーYUKIweb RADIOより

YUKIさん…(感動)では最後に、コーヒーが冷める前に、僕の結論をお伝えします。

 
 

間違いのない人生なんてない



この曲はきっと”間違いのない人生などない”と歌っています。

思い通りにいかないことがあり
相手も自分と同じ部分を持っていて
自分も多くの人に許されてきた

だから間違いのない生き方を望むのではなく、間違えてしまった時にどう行動するか。常にそう思うことは難しいけど、正当化せず、間違いながらゆるしていく。
”他者を許せない自分を手放し、赦す自分を受け入れること。それは自分を恕すということでもある”。そこに辿り着いた歌が「トロイメライ」だと。

ゆるすには本来、硬く締められたものや力を「ゆるやかにする」という意味があります。誰かをゆるした時、自分もゆるされるような感覚になるのはそういうことかもしれません。YUKIさんの音楽に宿るしなやかさや、人としての魅力を感じる部分は、ゆるす行為への捉え方、人への尊敬や感謝の念からくる”ゆるやかにさせてくれる”部分にもあると感じました。

人は失敗する生き物です。失敗しない生き物は淘汰され絶滅してきたとも言われています。過ちから学び、環境に適応し、生き方を修正することが進化の過程で必要なんだそうです。(諸説あり)生物学的にもそうだとすれば、まさに失敗は成功の元です。

僕もたくさんの人を傷付けてきました。あなたに問いかけるようで、自分自身に言い聞かせています。この連載も、失敗と後悔を経た道の先で出会えたご縁から始まっています。だとすれば、これを読んでくれたあなたとも、きっと何らかのご縁があると思いたいし、少しでもあなたの救いになれたなら、間違いも悪くないと赦せる訳であります。

この曲の最後の一行は冒頭と同じ”私達は”が来ます。
心の中にいる大切な存在と一緒に生きていく”私達”でもあり、過去の自分と今の自分を”私達”と表現しているようにも思えます。この先でまた間違えても、その度にもうひとりの存在を思い出す。引きずるのではなく、引き連れて。そんな心を持てる私達でいられたらと、今強く思います。

さて、コーヒーも飲み干したことですし、そろそろカフェを出ましょうか。今日も最後までお読み頂きありがとうございます。

 
 
YUKI
 
 
 
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2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
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イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
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