始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで話すように音楽の魅力についてお話する場所です。ごゆっくりどうぞ。

5月10日でデビュー31周年を迎えたMr.Children。(おめでとうございます)
今回は昨年行われた彼らの30周年ツアーについてお話します。僕は5月3日 愛知・バンテリンドーム ナゴヤ、6月11日 神奈川・日産スタジアム公演を拝見しました。彼らのライブは何度も観てきましたし、ツアーごとにコンセプトがありそれぞれの良さがあることを踏まえた上でお伝えしますが、今回のライブが今までで一番良かったです。その理由について、ライブから約1年、映像作品リリースから3ヶ月経過した今も深く心に焼きついたあの感動をもう一度呼び起こし、お伝えしたいと思います。今回のテーマは「永遠」です。

 
 

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Live DVD & Blu-ray Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス

特設サイト

 
 
 
 

50周年への入り口


ツアータイトル「半世紀へのエントランス」は30年という奇跡のような軌跡は、あくまでも50年に向けた入口にすぎないと、ここまでキャリアを積み重ねてきた今の彼らが放つからこそ輝くメッセージ。これまでの歴史への感謝とこれからもファンも一緒に歩んでいこうという「引き連れていく覚悟」には大きな勇気を貰います。
今まで滅多になかった日替わりSET LISTにはファンも大歓喜。ドームとスタジアムでも内容を変え、余すことなく名曲の数々を全力投球、振り抜いてど真ん中を狙ったライブでした(だけに)久々にバンドで披露されたこの曲も素敵でしたね…

 

 
 
 

ただただ音楽を届けるために


ドーム、スタジアム両公演を収録した今作はMr.Childrenのメンバーとスタッフ全員が音楽を届けるためにチームとして情熱を注いでいることが手に取る様に感じる名盤となっています。大規模なステージセット、ドームクラスでも鮮明に力強く聴こえる音響など様々な仕掛けと愛、音楽への純粋な真摯さが全カットに宿されています。

特にドームは照明を用いた演出が印象的でした。
「Over」の〈夕焼けに舞う雲〉をオレンジ色の天井に映したり(東京ドームの屋根の形状が雲みたいに見えます)「僕らの音」の〈虹を見たんだ〉では七色のライトが虹を描き、「くるみ」ではメンバーの影のシルエットを観客席に写し出すなど、光が効果的に曲の世界観を引き立てていました。

スタジアムは自然を感じさせる選曲もギフトのひとつでした。
「彩り」「Sign」「HANABI」といったリスナーの生活に寄り添ってきた楽曲たちが、心地よく吹く風とともに体と心を通過していき、夕景から夜へと変わっていく空の色が心のグラデーションを映し出すようにシンクロする、神秘的な感覚をもたらしてくれました。「Worlds end」はまるで地球全体がライブ会場に感じるほどの開放感で、本当に大空を飛んでいるような快感でした。

 
 
 

言葉より確かな今


最も印象に残った曲は「タガタメ」です。バンドが生み出しす大きなうねりは音楽がメッセージを伝える手段として言葉や理屈よりも速く心の奥深くまで届くことを証明していました。混沌とし続ける時代にこの曲が鳴らされた意味を、僕らは正面から受け取らなくてはいけないと強く思います。

もう1曲は「口笛」。歌詞にある〈乾いた風に口笛は澄み渡っていく まるで世界中を優しく包み込むように〉口笛はなぜ世界中を優しく包み込むのか、ここで少しだけ夢を摘みに寄り道しましょう。

口笛は自分と近い距離にいる人に響く音。そして口笛を吹きたくなる時って気分が良い時ですよね。いつもの景色さえなんだかやさしく、愛しさに満ちて見える。そんな君と僕との間にある小さな心の動き、見えている景色を大事にすることがいくつも重なって世界中を優しく包み込むという捉え方もできるなぁと。「彩り」にも通じる日常を慈しむ観念がありますね。「タガタメ」も「口笛」も切り口は異なりますが、当たり前と思われている事こそ大切なものだと描いている選曲だったと思います。ラスサビの〈立ち止まったまま〉という歌詞に反し、歩みを止めずリスナーとより近い場所へと前進する桜井さん。その姿は、〈言葉より確かなもの〉は口笛が届く距離にいる僕らの今なんだよと全身で伝えてくれているようでした。

 

 
 
 

永遠とは


さて、いよいよ本題に入ります。なぜ今回「永遠」をテーマに掘り下げたいと思ったのか。それはこれまでのツアーの中で今回が最も「終わり」を感じさせるものだと感じたからです。永遠なんてあるんだろうか、そう思わされたんです。

まずは永遠の意味について調べてみましょう。

1.いつまでも果てしなく続くこと。時間を超えて存在すること。また、そのさま。
出典 小学館 デジタル大辞泉

2.常にあるものの在り方、時間に対比して用いられる。
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)


プラトン哲学という分野では“目に見えるもの”の対比として永遠という言葉があるそうです。英語だとForever,Eternal,Never-ending,Neverなどが近い意味として挙げられます。

なるほど、永遠には時間と対比して存在するという意味があるようですね。
ここで引っ掛かるのはツアータイトルです。20年先までやるんだという未来への決意を感じさせるのに、なぜ終わりを感じるのか。その矛盾について、彼らのスタンスを楽曲からヒントを探ってみましょう。

 
 
 

どんなものにも終わりはある


Mr.Childrenの楽曲には「永遠」という言葉がいくつも登場します。
今回のSET LISTの中でも以下の曲で歌われていました。

「Drawing」〈永遠はいつでも 形のない儚い幻影(かげ)〉
「PADDLE」〈永遠のパドリング〉
「口笛」〈永遠に祈るように〉(読みは「とわ」)
「Worlds end」〈大抵は何でも 永遠が聞いて呆れる〉
「光の射す方へ」〈限りあるまたとない永遠を探して〉
「永遠」〈もう会えなくても 君は僕の中の永遠〉

永遠が彼らにとってひとつ重要なメッセージであると言えます。(永遠という言葉ではなくてもそれに似たニュアンスで表現された曲もたくさんありました。ぜひ探してみて下さい。)

2020年リリースのアルバム『SOUNDTRACKS』でも終わりや死を連想させる言葉が歌われていること、当時のインタビューでも終わりを意識している旨の発言がありました。パンデミックの影響により予定されていたバンド初のワールドツアーも中止となったそうです。この期間で奪われてしまったものは人それぞれあるかと思いますが、彼らも同じように失われた時間があった訳です。故にこのツアーには並々ならぬ想いがあったように感じますし、いつか必ず来るその時まで駆け抜けたいという気持ちから放たれるエネルギーがこれまでより一層強く演奏に込められていたんだと思います。

スタジアムライブの冒頭「終わりなき旅」のアウトロでボーカル・桜井和寿さんのMCでこんな発言がありました。

「どんなものにも終わりがあると今は思っています。だからこそ今ある情熱の全てを音に変えて声に変えて、人生最高の音をお届けしたいと思います(一部抜粋)」

彼らは永遠に触れようとしている、そう感じてなりません。
永遠の正体について、もう少しだけ手を伸ばしてみましょう。

 
 
 

永遠は瞬間に宿る


今回のライブを体感し、永遠とは「二度と訪れない忘れられない瞬間」のことを呼ぶのかもしれないと思いました。彼らが言う「限りあるまたとない永遠」とはきっと瞬間のことなんです。

カメラという瞬間を切り取る装置をモチーフに歌われた当時の最新曲「永遠」が、もう会えない人や戻らない時間の儚さを歌っているとすれば、不老不死のような長く生きることでも終わりがないことでもなく、目の前の景色が輝いたり、誰かと心が通じ合ったり、心に残り続ける「瞬間」が永遠になる。そう伝えていると思ったんです。

永遠の意味にあった“時間と対比するもの”を踏まえると、時間と水平に存在するというよりも瞬間的に垂直に存在していて、心から強く意識して行動した「生きている」実感の先で出会う感動、そのもっともっと奥に永遠は潜んでいる気がします。

永遠は瞬間に宿る。終わりがあるからこそ永遠は存在する。矛盾しているようで、すごく寄り添っている。

だから忘れられない瞬間に想いを馳せる時、人は永遠に触れているんだと思います。何度も出会える永遠もあれば、もう出会えない永遠も、その時気づけなくても不意に蘇る永遠もあって、過去を感じている今が未来へと繋がっていく。そんな今を生きるということをずっと歌い続けてきたのかもしれないです。ミスチルは。すごいよ…。

音楽も目に見えない、瞬間芸術という点では永遠と似ています。音楽を信じるということは、永遠を感じる入口に立っているということかもしれません。そのエントランスの先で鳴らされるのはどんな音なのか。閉ざされたドアの向こうにある可能性を見つけに、新しい欲しいと出会うために、僕らも次の扉をノックしましょう。そろそろカフェを出ましょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました!

 

 
 
 

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オススメしたい!のコーナー


「半世紀に向けてライブで聴きたいミスチルソング」
テーマに沿った楽曲を独断と偏見で選曲するコーナー。
名曲が多すぎるゆえにライブでは披露されていない、演奏が少ない楽曲の中から大好きな曲を選びました。好きな曲にライブでやらない曲が多いのか、ライブでやらないから好きなのか問題。今の彼らが鳴らしたらどんな音なんだろうと思いを馳せながらいつも聴いています。ミスチル陣営の皆さんSET LIST入りご検討の程、何卒よろしくお願いします!


1.渇いたkiss
2.UFO
3.I’m sorry
4.箱庭
5.グッバイ・マイ・グルーミーデイズ
6.day by day(愛犬クルの物語)
7.#2601
8.幸せのカテゴリー
9.遠くへと
10.安らげる場所


▼Apple Music プレイリスト

 
 
 
 

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●お知らせ
エナさんの新曲「ずるいひと」の編曲・サウンドプロデュースを担当しました。
胸の奥がチクっとするような切ない曲です。ぜひお聴き下さい。

 

 
 
私、5月3日を持ちまして35才になりました。これも出会った皆様のおかげです。本当にありがとうございます。これからも一緒に音楽を楽しんでいけたら嬉しいです。
 
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誕生日のお祝いにイラストレーター・YUUKIさんが描いて下さいました!
『YUKIさん「ハミングバード」のイントロを弾く僕』です。
実物の6億倍きゃわいい…ありがとうございます!
Twitter:@YUUKI77830693

 
 
 
 


 
2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
 
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
第18回「YUKI『聞き間違い』から学ぶ “ きっと大丈夫 ” 講座」
第19回「何故私たちはクリスマスソングを作り、聴くのか」
第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
第21回「3ヶ月連続企画! 第1弾 Chara +YUKI『楽しい蹴伸び』から学ぶ無意識の美しさ」
第22回「3ヶ月連続企画! 第2弾「Chara +YUKI 『echo』全曲レビュ ー」
第23回マイフェイバリットエモーショナルソング 10選」
第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
第25回「『ねぇ、できちゃった』のコーナー夏の特別編! 新曲「ひまわり」セルフライナーノーツ」
第26回「ニッポンの偉大なギター名盤10選」
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第30回「Mr.Children『Brand new planet』レビュー」
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第49回「アートディレクター・森本千絵さんとMr.Children」
第50回「YUKI ソロデビュー20周年記念企画第1弾 私が『ビスケット』を好きな理由」
第51回「スタジオデスクをDIY!!」
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第53回 YUKI ソロデビュー20周年特別企画第2弾 「描き続けてきた『歓びの輪』」
第54回「ドラマ『silent』と主題歌 Official髭男dism『Subtitle』が丁寧に紡ぐ音と言葉」
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第59回「音楽と共に生きていく」