20231228
 
 

どうも、今年もまた暗闇の中からこんにちは。

「いやあ、コロナ禍、長かったですね!」みたいな話をするどころか、それらのことを急速に忘れつつある私たちは、本当に大丈夫なのでしょうか? みたいな話をするどころか、いよいよこの国は大丈夫なのでしょうか?と思わずにはいられない情況にある中、わたくしが今年見出したテーマは、ズバリ「世界の終わり」です。あるいは「世界の終わり」の始まり? 否、「終わりから始めよう!」みたいな感じで頑張ろう! みたいなことをボンヤリ考えながら、今年もひたすら暗闇でじっとしておりました。というか、あまりにも映画やドラマを観過ぎたもので、もはや何がなんだかわからなくありつつも(爆)。ということで、今年は変則的に「日本」と「韓国」という「縛り」の中で、観逃すには惜しい10本を、公開順に沿ってセレクトさせていただきました。


・『仕掛人・藤枝梅安』(監督:河毛俊作) 2023年2月3日公開
・『エゴイスト』(監督:松永大司) 2月10日公開
・『別れる決心』(監督:パク・チャヌク) 2月17日公開
・『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(監督:金子由里奈) 4月14日公開
・『怪物』(監督:是枝裕和) 6月2日公開
・『あしたの少女』(監督:チョン・ジュリ) 8月25日公開
・『ハント』(監督:イ・ジョンジェ) 9月29日公開
・『春画先生』(監督:塩田明彦) 10月13日公開
・『愛にイナズマ』(監督:石井裕也) 10月27日公開
・『PERFECT DAYS』(監督:ヴィム・ヴェンダース) 12月22日公開



それでは以下、個々の作品について、簡単な解説と感想を――。

 
 
 
 
『仕掛人・藤枝梅安』(監督:河毛俊作/出演:豊川悦司、片岡愛之助、天海祐希、他)



「池波正太郎」生誕100周年企画として、今年新たに映画化された一本(正確には2部作)です。「藤枝梅安」シリーズは本当に面白いので、いつでもどこでもオススメなのだけど、今回の映画版は存外に良かった! もはや、原作を読んでも「梅安=トヨエツ」「彦さん=ラブリン」をイメージしてしまうほどのハマり役! そう、この話、金で殺しを請け負う「仕掛人」の話である以上に、梅安さんと彦さんの「きのう何食べた?」的な話であることは、口を酸っぱくして言っておきたいところ。とはいえ、人間の「闇」と「業」をえぐり出す、ダークヒーロー然とした雰囲気も抜群でした。「豊川梅安」と対峙することになる天海祐希の艶やかな魅力。そして、早乙女太一の美しい殺陣。や、時代劇って、いいものですね。オススメです!

 
 
 
『エゴイスト』(監督:松永大司/出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、他)



鈴木亮平って、ホントにすごい役者なんだな……改めてそう思わせるに十分足る、渾身の役作りに瞠目しました。故人の自伝的小説の映画化だからというのもあったのでしょう。そこには、並々ならぬ意思と決意が感じられました。あるカップルの出会いと別れ……何よりも「その後」を描いているところが秀逸でした。その「愛」は「お金」に変えられるのか?という問題の切実さ。鈴木亮平演じる主人公を魅了する、宮沢氷魚も抜群に良かったです!

 
 
 
『別れる決心』(監督:パク・チャヌク/出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、他)



パク・チャヌクと言えば、暴力とケレンの作家と思っていたけれど、ここまで雰囲気たっぷりのサスペンスを作ることができるとは、正直驚きでした。刑事の男と被疑者の女。その2人が見つめ合う先に、果たして何が起こるのか? いやあ、ゾクゾクしました。カンヌ映画祭で監督賞を受賞したことも納得の一本です。とりわけ、中国人女優、タン・ウェイの魅力がすごかった。ちなみに今年、まさしく「魅せられた」という表現が相応しい女優さんは、本作のタン・ウェイと『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンの2人でした。合わせて是非。

 
 
 
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(監督:金子由里奈/出演:細田佳央太、駒井蓮、他)



大前粟生の小説を「これは私が撮るべき物語だ!」という熱意のもと映画化した、新鋭・金子由里奈監督の長編商業デビュー作。大学の「ぬいぐるみサークル」(何、それ?)に集う不器用な男女の群像劇……と書くと、いささか凡庸な気がするけど、これまで描かれてこなかった若者たちのナイーブな感性が、じっくりていねいに描き出されていたように思います。ある意味、ドラマ『いちばんすきな花』にも共通するテーマなのかもしれないけれど、個人的にはこちらのほうが断然良かった。『町田くんの世界』の細田佳央太、『いとみち』の駒井蓮、『麻希のいる世界』の新谷ゆづみなど、フレッシュな若手俳優のアンサンブルが、瑞々しくて切実で、とても良かった!

 
 
 
『怪物』(監督:是枝裕和/出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、他)



同時代人として、ある種の問題意識を長いあいだ共有、互いに共振していたように思う監督・是枝裕和と脚本家・坂元裕二のタッグが、遂に実現してしまった! という驚きと興奮、そして一抹の不安を胸に観たところ、不安はまったくの杞憂に終わったというか、結果的に両者の「足し算」ではなく「掛け算」になっていたことに、とても驚いた一本です。それを仕掛けたプロデューサー、川村元気もやっぱりすごいと思ったけれど、晴れてカンヌ映画祭で脚本賞を受賞。「世界のコレエダ」に続き、「世界のサカモト」が爆誕してしまいました! ちなみに音楽は、坂本龍一が担当。

 
 
 
『あしたの少女』(監督:チョン・ジュリ/出演:ぺ・ドゥナ、キム・シウン、他)



前作『私の少女』から8年。監督が再びぺ・ドゥナとタッグを組んだ一作です。なのに、ぺ・ドゥナが、なかなか出て来ない! そう、本作の主人公は、社会システムの歪みの中で、夢も希望も搾取され続ける韓国の若者たちなのです。物語は、その悲劇的な結末を明らかにした上で、ほぼ時系列に沿って展開していきます。ぺ・ドゥナ扮する刑事が、物語に本格的に登場するときには、すべてが取り返しのつかないことに。「時間」という不可逆なものの中で、私たちができることは、一体何なのか。声なき者の声を拾うこと。そして、それを未来に繋げること。野木亜紀子のドラマ『アンナチュラル』を、強く想起させるような映画でもありました。

 
 
 
『ハント』(監督:イ・ジョンジェ/出演:イ・ヨンジェ、チョン・ウソン、他)



『イカゲーム』の……と言うよりも、韓国のトップ俳優のひとりであるイ・ジョンジェが、自ら脚本・監督を務め、『私の頭の中の消しゴム』など、こちらも韓国のトップ俳優であり、イ・ジョンジェとは20年来の友人であるというチョン・ウソンをダブル主演に迎えて生み出した意欲作。タイトルは凡庸だけど、これがメチャクチャ面白かった! 舞台は80年代の韓国。軍事政権が民衆に銃を向けた「光州事件」の傷も生々しい頃の韓国です。その政権内部で、それぞれの「信義」を胸に暗躍する2人の諜報員。実在の事件をヒントにしつつも、それを大胆に再構築し、エモーショナルなメッセージを浮かび上がらせること。まさしく、韓国映画の王道ではないかと。アクション・シーンも、すごかった!

 
 
 
『春画先生』(監督:塩田明彦/出演:内野聖陽、北香耶、柄本佑、他)



この映画、めちゃくちゃ面白かったんですけど! ふとしたきっかけで、江戸時代の「春画」に魅せられた女性が、妻に先立たれてから世捨て人のように「春画」の研究に没頭するようになった「春画先生」のもとに通うようになり、その鑑賞の仕方を学ぶうちに……という、何だか昭和の文学みたいな話かと思いきや、これが全然違った! シェイクスピアの『真夏の夜の夢』の妖精パックのように、2人のあいだに割って入る柄本佑! 何だ、このキャラクター! そこに、安達祐実も登場。事態は何やらよくわからない方向に。いわゆる「春画」を勉強しましょう的な映画ではなく(まあ、勉強にはなるけれど)、それに引き付けられる人間たちの「業」や「おかしみ」を、二転三転する構図の中で浮き立たせる、実に面白い映画でした。近頃あちらこちらでよく見掛ける、北香耶のベストアクトな一本だと思います!

 
 
 
『愛にイナズマ』(監督:石井裕也/出演:松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也、他)



近年、精力的に映画を撮り続けている石井裕也監督が、自らのオリジナル脚本で臨んだ「ある家族」の物語。石井監督と言えば、同時期に公開された映画『月』が、良くも悪くも話題になっていた気がしますけど、彼の本流はやっぱりこっちなのではないかしら? 主人公は、松岡茉優演じる駆け出しの映画監督。その彼女が、窪田正孝演じる男性と電撃的な恋に落ち……物語は、そこから思わぬ方向に転じます。彼女はなぜか、自身の「どうしようもない家族」を撮影することに。そして、ワラワラと現れる頼りにならない兄たち、そして問題だらけの父親。石井監督の密かな傑作『ぼくたちの家族』をどこか彷彿させる、新しい家族の物語。いやあ、松岡茉優は、これくらいはっちゃけてたほうがいいですね!

 
 
 
『PERFECT DAYS』(監督:ヴィム・ヴェンダース/出演:役所広司、柄本時生、他)



最後に、やはりこの映画に触れないわけにはいかないでしょう。もともとは、渋谷区の公衆トイレ刷新プロジェクトのPRとして企画されたものに、なぜかヴェンダースが乗っかって。当初は、まあ、映画館では公開しないだろうな……と思っていたのに、カンヌのコンペに出品されるどころか、役所広司が主演男優賞を獲ったものだから、一気に追い風が吹いて現在に至るという(汗)。や、映画としては、意外と良いんですよ。小津安二郎などのオマージュに溢れた、実にヴェンダースらしい映画というか。あと、ほとんど「禅」のような「木漏れ日」という概念とか。などなど、この映画が海外で評価される理由はすごくわかるんだけど、いろいろとモヤモヤは残るわけです。それにしても、恐るべきは役所広司。彼が演じる主人公の「過去」は、恐らく厳密には想定されないように思うし、彼自身も具体的には把握してないように思うのだけど、それをある種の説得力をもって演じ切ってしまう「役者力」というか「役所力」に吃驚。「心を打つ芝居とは、果たして何だろう……」と、しばし考え込んでしまいました。それは案外、ロジックではないんですよね。そこがまた、面白いところであり。

 
 
 
 

▼麦倉正樹「暗闇から手を伸ばせ REACH OUT OF THE DARKNESS」
年末特別編2022年版
年末特別編2021年版
年末特別編2020年版
年末特別編2019年版
年末特別編2018年版
年末特別編2017年版
年末特別編2016年版
年末特別編2015年版
年末特別編2014年版

 
 
 
 
 


 
26558b0200add0f14325c9dd14320e10麦倉正樹●LIGHTER/WRITER インタビューとかする人。音楽、映画、文学、その他。基本フットボールの奴隷。