80378573_539743336657665_2189366274990014464_n
 
 

どうも、今年もまた暗闇の中からこんにちは。


2019年も、面白い映画が、実にたくさんありました。今年、映画館や試写室などで観た映画は211本……去年よりも増えましたね。そして、相変わらずNetflixとHuluとAmazon Primeは継続中なので、家では地上波ドラマなども含め、何かしら観ているような状況。2019年は、ほとんど夢の中にいたと言っても過言ではないでしょう。そして、一応、2019年の映画ベスト10としては――


1.『パラサイト 半地下の家族』(監督:ポン・ジュノ)
2.『荒野にて』(監督:アンドリュー・ヘイ)
3.『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(監督:クエンティン・タランティーノ)
4.『真実』(監督:是枝裕和)
5.『冬時間のパリ』(監督:オリヴィエ・アサイヤス)
6.『幸福なラザロ』(監督:アリーチェ・ロルヴァケル)
7.『ボーダー 二つの世界』(監督:アリ・アッバシ)
8.『マーウェン』(監督:ロバート・ゼメキス)
9.『Girl/ガール』(監督:ルーカス・ドン)
10.『最初の晩餐』(監督:常盤司郎)


というのを出してみたのですが、ここではそれとは別に、「2019年、これは観逃さないほうがいいですよ?」というものを、配信作品なども含めて10本ピックアップして紹介したいと思います。

 
 
 
1.『スパイダーマン:スパイダーバース』(監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン)


2019年の最初の驚きは、3月に日本公開された、このアニメーション映画だったのではないでしょうか。多種多様なスパイダーマンが一堂に会するという、「ユニバース」ならぬ「マルチバース」的なプロットをはじめ、手描きとデジタルを併用した斬新なビジュアル、そして何よりもスパイダーマンならではの快楽的で大胆な「動き」の数々に心から魅了されました。監督トリオの名前以上に、脚本や製作に名を連ねているフィル・ロードとクリス・ミラー――『くもりときどきミートボール』や『LEGOムービー』シリーズなどで着々と自分たちのエンターテインメントを築き上げた彼らの名前を記憶しておくべきかもしれないです。『エンドゲーム』のルッソ兄弟や『ストレンジャー・シングス』のダファー兄弟と並んで、今、最も先鋭的なクリエイター・コンビだと個人的には思うので。
 
『スパイダーマン:スパイダーバース』公式サイト
 
 
 
2.『アベンジャーズ/エンドゲーム』(監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ)


そして4月には、「登場人物たちの半分が消滅する」という前代未聞の幕切れとなった『インフィニティ・ウォー』の続編にあたる『エンドゲーム』が公開されました。2008年の『アイアンマン』からスタートしたヒーローたちの物語が、ひとつの大きな区切りを迎えることになった本作。もはや膨大な数に膨れ上がったヒーローたちを、その「見せ場」も含めて確かな手さばきで整理しつつ、物語的なクライマックスも見事に演出してみせたルッソ兄弟の手腕は、『スター・ウォーズ』の新3部作が思いのほか盛り上がることなく終わった今、改めて評価されても良いのではないでしょうか。それにしても今年は、秋に公開されて世界的なヒット――どころかある種の社会現象にまでなった『ジョーカー』も含めて、いわゆる「アメコミ原作の映画」に、これまでとは違う動きがあった一年と言えるのかもしれないです。
 
『アベンジャーズ/エンドゲーム』公式サイト
 
 
 
3.『存在のない子供たち』(監督:ナディーン・ラバキー)


上記2本とは打って変わって、小さな映画を。「貧困」が今、世界的な問題になっているわけですが、それは映画の世界においてもしかりです。昨年のカンヌでグランプリに輝いた是枝監督の『万引き家族』、そして今年同賞に輝いたポン・ジュノ監督の『パラサイト』……去年観た『フロリダ・プロジェクト』も、とても強く印象に残っている一本です。そして、今年の夏にひっそりと公開された本作は、レバノンの首都ベイルートのスラム街に住む少年の物語。まるでドキュメンタリーを観ているようなリアリズム。主役を演じた、実は演技未経験だったという少年の透徹した「まなざし」は、今も心の片隅に残っています。この映画が、中国で爆発的なヒットを記録したというのも、何やら不思議な話ではあるけれど。ちなみに、2018年のカンヌ国際で『万引き家族』とグランプリを競った映画でもあります(本作は審査員賞を受賞した)。
 
『存在のない子供たち』公式サイト
 
 
 
4.『Fleabag/フリーバッグ』シーズン2 (ショーランナー:フィービー・ウォラー=ブリッジ)/AmazonPrime Video


9月のエミー賞のコメディ部門で、作品賞をはじめ主演女優賞、脚本賞など6部門を受賞した『フリーバッグ』のシーズン2。いや、これもすごく面白かったです。主演で脚本でショーランナーのフィービー・ウォラー=ブリッジの才能が、とにかくやばいです。ロンドンに住む30代の女性の日常を、辛辣かつ赤裸々に……だけど非常に親密に描き出した本作は、まさしく新時代のラブコメといった斬新さ。いわゆる「第4の壁」を打ち破って、こちらに向かって話し掛けてきたときには、マジで仰天しました。シーズン1、2ともに、30分弱のエピソードが各6話ずつという尺なので、サクッと観ることができます。というか、個人的には、この『フリーバッグ』と、ビル・ヘイダーの『バリー』(アマプラで視聴できます)、そしてドナルド・グローヴァーの『アトランタ』(ネトフリで視聴できます)など、このサイズ感のコメディが、今、いちばん先鋭的かつ刺激的だと思います。
 
『Fleabag/フリーバッグ』シーズン2/AmazonPrime Video
 
 
 
5.『エルカミーノ:ブレイキング・バッド THE MOVIE』(監督:ヴィンス・ギリガン)/Netflix


10月にドラマ『ブレイキング・バッド』シリーズの後日談にあたる本作が、いわゆる一本の映画の尺で配信されると知って、慌てて『ブレイキング・バッド』全5シーズン全62話と、そのスピンオフである『ベター・コール・ソウル』4シーズン40話を観たのは私です。いやあ、マジで面白かったわ。というか、ザックリ言うと、どちらも「中年の危機もの」ではあるのだけれど、実は「作劇」という意味で、『ブレイキング・バッド』とまったく異なるテイストをもった『ベター・コール・ソウル』を経て、確実に「深み」を増した脚本と演出が、『エルカミーノ』では存分に花開いており……ホント、見事な一本へと仕上がっていました。これは是非、映画館で観たかった。そして、2020年2月23日に配信が決定している『ベター・コール・ソウル』のシーズン5が、ますます楽しみになる一本でした。あ、ちなみに私が突如坊主頭にしたのは、『エルカミーノ』の主人公、ジェシー・ピンクマンの影響です(微笑)。
 
『エルカミーノ:ブレイキング・バッド THE MOVIE』Netflix
 
 
 
6.『最初の晩餐』(監督:常盤司郎)



恥ずかしながら、ほんとんど前情報なく観に行ったのですが、11月に公開されたこの映画は本当に良かったです。永瀬正敏演じる父親の葬儀のため、離散していた家族が一堂に会する……という物語は、さほど新味がないように思っていたのですが、その「子どもたち」を演じる戸田恵梨香と染谷将太の姉弟、戸田恵梨香の少女時代を演じた森七菜、そして消息不明になっていた長男を演じた窪塚洋介が抜群に良かったです。永瀬正敏のワケアリの妻であり、子どもたちの母を演じた斉藤由貴も。役者の演技のアンサンブルという意味では、今年いちばんだったかもしれないです。これが初監督というのも驚きですが、そのていねいかつ確かな演出力には、かなり目を見張るものがありました。冒頭に挙げた「ベスト10」にも入れましたが、あまり多くの人に観られた感じがないので、ここでも改めて。観逃がすには惜しい一本だと思います。

 
『最初の晩餐』公式サイト
 
 
 
7.『ファイティング・ファミリー』(監督:スティーヴン・マーチャント)



これも11月公開なので割と最近の話ですが、「何か評判いいみたいだな」と軽い気分で観に行ったら、ものすごく良かったです。自分は、いわゆる「プロレス強者」ではないというか、ぶっちゃけそこまで興味はないのですが、興行的な意味でプロレスの最高峰である「WWE」が重要なモチーフとなりつつも、アメリカではなくイギリスのプロレス一家の話であること、実は普遍的な家族の話であること、さらに言うならば、夢を失った兄と夢を掴んだ妹の物語であることなど、涙腺を刺激するポイントが多々あって、エンターテインメント映画としても、ものすごく満足度が高かったです。とにかく、役者の演技が素晴らしいのですが、とりわけ物語の主役である一家の長女役を演じたフローレンス・ピューは、2020年の5月に公開予定の『ブラック・ウィドウ』で重要な役を演じるなど、今後が楽しみな女優のひとりです。

 
『ファイティング・ファミリー』公式サイト
 
 
 
8.『マリッジ・ストーリー』(監督:ノア・バームバック)/Netflix


マーティン・スコセッシの『アイリッシュマン』をはじめ、来年のアカデミー賞を狙えるような、実に強力な作品を、この秋数々と世に送り出したネットフリックス。そのなかでも「役者の演技」という意味で、ひときわ印象に残っているのが本作でした。同監督の『イカとクジラ』同様、ある夫婦の離婚劇を扱った映画ではあるものの、監督自身の経験を反映してか、その目線が「子ども」から「親」に変わっているところがせつないです。主演は、スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバー。そう、よく考えたら、『アベンジャーズ』のブラック・ウィドウと『スター・ウォーズ』のカイロ・レンの離婚劇になるわけですが、それもまあすごい話ですね。しかし、2人の芝居が本当に素晴らしかったです。スカーレット・ヨハンソンは、この作品でアカデミー賞主演女優賞を獲るのでは?
 
『マリッジ・ストーリー』/Netflix
 
 
 
9.『2人のローマ教皇』(監督:フェルナンド・メイレレス)/Netflix


こちらは意外な掘り出し物。前教皇ベネディクト16世と現教皇フランシスコの知られざる交流、そして2013年の教皇交代劇の裏側を描いた映画なのだけど、アンソニー・ホプキンスとジョナサン・プライスという、誰もが認める名優2人の軽妙な芝居がとにかく素晴らしかったです。そして、中盤の回想シーンで明らかになる、現教皇フランシスコがその青年時代に母国アルゼンチンで味わった苦渋に満ちた「過去」。涙なくしては観られませんでした。や、これは先日の来日前に是非観たかったですね。すっかりフランシスコ教皇のファンになってしまいました。ちなみに、意外にも(?)サッカー好きには堪らない映画(ヒント、前教皇はドイツ人、現教皇はアルゼンチン人)になっているので、そちらの方面の方々も必見の一本になっています(マジか? マジだ!)。
 
『2人のローマ教皇』/Netflix
 
 
 
10.『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(監督:片渕須直)


最後に、12月20日に公開されたばかりの、こちらのアニメ映画を。3年前に公開された前作も十分楽しんだし、さすがにこれはどうかな……と正直思っていたのですが、追加シーンが加わることによって、ここまで全体の印象が変わるとは思いませんでした。ちょっと衝撃的だった。気がつけばアニメ映画としては史上最高の168分(!)という長尺の作品になっていましたが、まったく飽きさせないというか、その細部に至るまで徹底的にこだわり抜いた、そしてそのすべてが資料に裏付けされた、もはや執念とも言える監督の熱意には、本当に頭が下がる思いというか、ほとんど「畏怖」の念を覚えています。ドラマ『いだてん』を観ているときも思いましたが、「ものをつくる」というのは、ここまで徹底した準備と労力が必要なのかと。その意味でも非常に衝撃的な一本でした。恐らく今後、何度も繰り返し観ることになりそうな映画です。
 
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』公式サイト
 
 

麦倉正樹「暗闇から手を伸ばせ REACH OUT OF THE DARKNESS」
年末特別編2018年版
年末特別編2017年版
年末特別編2016年版
年末特別編2015年版
年末特別編2014年版

 
 
 
 
 


 
26558b0200add0f14325c9dd14320e10LIGHTER/WRITER インタビューとかする人。音楽、映画、文学、その他。基本フットボールの奴隷。