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2019年11月16日、東京・キネマ倶楽部にて、ビレッジマンズストアの15周年企画ツアー「ビレッジマンズストア村立15周年御礼参り“聖地巡礼行脚”」が開催された。


“聖地巡礼行脚”とは、結成15周年を祝して昨年より1年間に渡り、お世話になった全国のライブハウスを巡り、会場限定シングルを4作品発売するという企画だ。さらに東京・池袋Admでは、男女それぞれ限定のライブや、トレードマークである赤スーツ禁止ライブなど趣向を凝らしたワンマンライブを毎月行い、その全公演をソールドアウトさせてきた。しかし、彼らはもともと、リリースペースもライブ本数も決して多いバンドではない。それなのに無謀とも呼べるスケジュールに踏み切った理由はただひとつ、企画タイトルにもあるとおり、15年間支えてくれた人たちへの感謝の気持ちだろう。そしてこの日、彼らは最後の聖地・キネマ倶楽部へとたどり着いたのだ。

 
 
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大正時代のオペラハウスを模して作られた元グランドキャバレーの絢爛豪華な会場は、真っ赤なスーツの5人を待ちわびていた。SEが響き渡ると、まずは楽器隊の4人がステージに登場し、思い思いに鳴らす。ややあって、ステージ下手にあるバルコニーのカーテンが揺れ、中から水野ギイ(Vo.)が姿を現した。首にかけた真っ白いファーを揺らしながら、ゆっくりと階段を下り、ステージ中央の定位置でマイクを手に「辿り着いたぞ、東京!」と開会宣言。「WENDY」でファイナル公演の火蓋が切って落とされた。1年間、数多くのライブをこなしてきただけに、1曲目から演奏の一体感は抜群だ。続く「Don’t trust U20」では、攻撃的なサウンドに乗せて挑発するように水野が手拍子をすると、観客たちもすぐさま応戦。手拍子はたちまち突き上げる拳に変わり、ステージを煽り返す。サビの終わりでは「Don’t trust U20」と、大合唱が巻き起こるなど、フロアの一体感も負けてはいない。

 
 
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冒頭から、息もつかせぬ怒涛のアッパーチューンが炸裂し、外の寒さも忘れるほど、会場は熱気に包まれていた。一呼吸置いて始まったのは、今回の企画で発売されたシングルを中心としたパートだ。岩原 洋平(Gt.)と荒金 祐太朗(Gt.)によるキレ味の鋭い2本のギターの応酬と、端々に歌謡曲を感じさせるメロディーを、ワイルドに混合したビレッジ王道サウンドの「黙らせないで」が先陣を切った。メンバー全員がコーラスに参加し、そこに観客も加わる。ライブにおいては特段めずらしい光景ではないのだが、この曲にはフロアとステージの垣根をなくすような、不思議な一体感があった。その正体はきっと、今回の企画のために誕生したという背景が関係しているのだろう。この日は、水野が観客たちにマイクを向けたり、全員で歌ったりする場面が目立った。それはこの企画を通して感謝を伝えると共に、15周年を支えてくれた人たちと分かち合いたい、という想いの表れだろう。そして「墜落、若しくはラッキーストライク」では、ソリッドなロックサウンドと、悠々と響き渡る水野のしゃがれつつも甘い歌声の絶妙なバランスで魅了する。坂野充(Dr.)のドラムソロでスタートしたダンスナンバー「御礼参り」では、アグレッシブな曲調に合わせてフロント4人のアクションも大きくなる。演奏のみならず、パフォーマンスについても、個々の魅力がますます際立ってきたという印象だ。それは、バンドとしてより大きな正五角形を描けている証拠だろう。

 
 
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漸く一息ついてのMC タイムで、約1年に及んだ企画を改めて振り返り「今日がこの1年の集大成。最強な俺たちをあなたに見せにきた」と告げた。そして、ソールドアウトで超満員の会場や、バンドが15周年を迎えたこと。その全てが現実のものだと確信するかのように「夢の中ではない」へ。その後も、ジャック(Ba.)によるセクシーなベースラインと変則的なリズムで翻弄する「トラップ」や「歌え!」とフロアを巻き込んで大盛り上がりを見せた「スパナ」と、激しいパフォーマンスが続く。そんな空気をがらりと変えたのが「すれちがいのワンダー」だった。アコースティックギターを携えた水野が、マイクも通さず弾き語りで歌い始めると、観客たちも続いて歌う。ひとりの歌声が、大勢の歌声へ、大勢の歌声は、バンドサウンドへ。バトンを繋ぐような音の変遷が、ひとり、またひとりと味方を増やしてここまで来たバンドの歩みと重ねてしまう。

 
 
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最終局面を目前に控え、水野は15周年企画に対して「本当に終わっちゃうのかな」と惜しみながらも「もっとやれたんじゃないか」という後悔があったことを明かした。しかし、それでも彼らは試行錯誤し、前に進んできたのだ。それから「そうやって進んだ先が、今夜だったっていうならば、後悔したというこの事実が一番の正解なんじゃなかろうか」と、答え合わせをするかのように、観客たちで埋め尽くされた会場をぐるりと見渡した。そして水野は笑顔で「俺の15年間は最高、完璧な15年間だった。あなたがここにいたおかげです。願わくば、お前の生活の横にこれからもいさせてください。俺たちがビレッジマンズストアです」と、15年分の想いを告げて「正しい夜明け」を始めたのだった。

 
 
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しん、とした空気を「サーチライト」のギターが切り裂き、フィナーレに向けて再加速してゆく。「逃げてくあの娘にゃ聴こえない」では、岩原・荒金のギタリストコンビがダイブし、背泳ぎ状態でフロアを一周したかと思えば、ラストの「PINK」では水野がフロアへ。観客たちに支えられながら歌いきり、そのまま倒れ込んだ。ロックバンドのライブとしては過剰とも呼べるビレッジマンズストアのパフォーマンスだが、それは彼らがステージに立つ者として、観る者を楽しませたいという強い使命感を持っているからに他ならない。水野は「ノドが掻き切れるまで、遊んでちょうだい」とマイクとフロアに投げキッスをして、ステージを去った。

 
 
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「お前がいつでも俺たちのロマンティックに火をつけるんだろうが!」と、アンコールは「ロマンティックに火をつけて」でスタート。「MIZU-BUKKAKE-LONE」では2人のギタリストが、ステージから続く階段を駆け上がってバルコニーでプレイし、文字通り縦横無尽なパフォーマンスで観客たちを楽しませた。2曲を終え、さらにダブルアンコールに応えてステージに登場した水野は、15年バンドを続けているからこそ、長い間ライブハウスに通い続けることの難しさが身に沁みて分かるという。だから「つまんなくなったらいつでもライブハウスから出て行って大丈夫」だと伝えるのだ。けれどその代り「お前がここからいなくなってもお前の顔を覚えておいて、毎晩毎晩お前の顔を思い浮かべて曲を作っている男が、お前の顔を思い浮かべて歌っている男が、楽器を演奏している男が、ここに5人いるってことを忘れるなよ!」と約束する。そう、いつだってビレッジマンズストアはステージで、私たちを待っていてくれるのだ。「眠れぬ夜は自分のせい」を歌い終え、水野は去り際に「2020年、最高の1年になるぜ」と言い残した。15周年を終えても、足を止める気はこれっぽっちもないらしい。眠れぬ夜はこの言葉を頼りに、来たるべき2020年に想いを馳せていようと思う。

 
 
【セットリスト】


 

01:WENDY
02:Don’t trust U20
03:ビレッジマンズ
04:黙らせないで
05:墜落、若しくはラッキーストライク
06:御礼参り
07:ビューティフルドリーマー
08:夢の中ではない
09:トラップ
10:スパナ
11:すれちがいのワンダー
12:Love Me Fender
13:最後の住人
14:帰れないふたり
15:正しい夜明け
16:サーチライト
17:変身
18:逃げてくあの娘にゃ聴こえない
19:PINK


EN1-1:ロマンティックに火をつけて
EN1-2:MIZU-BUKKAKE-LONE


EN2:眠れぬ夜は自分のせい

 
 
 


 
プロフィール用 イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。YUMECO RECORDSでは連載「やめられないなら愛してしまえ」を3年間執筆。引き続き、とっておきのロックンロールバンドを紹介していきたいと思います。よろしくどうぞ。