早いもので、2年目となるこの連載も折り返しの7回目を迎えました。
 
やめられなくて愛してしまった「モノ」たちへの愛を語ったのが去年なら、やめられずに愛してしまうという「コト」を語るのが、今年のテーマ。好きなものを、愛し続けること。そのために戦っている人、その結果として生まれた音楽が、私にとって愛すべきものであり、原動力なのだと再認識する日々です。
 
たとえば毎月登場してくれるロックンローラーたちに喝を入れられながら、私がなんとかこの原稿を完成させているみたいに、読んでくれた誰かのうなだれた気持ちとか、つまらない投げやりとか、夏の憂鬱とか、そういったものにこの連載が染み込んでくれれば本望だなあ、なんて思うのです。
 
そこで今回も、私がガツンと気合を入れられた出来事を紹介します。先月、東京・下北沢で開催された音楽フェス「たからものさがしフェス」。音楽が好きで、ライヴハウスが好きな女の子がたったひとりで作り上げた、愛情いっぱいのフェスです。よろしくどうぞ。
 
 
■「たからものをあつめて」 ー ゆっち主催「たからものさがしフェス」


 
①全体写真

Photo by 小此木愛里

 
 
7月17日(日)、東京・下北沢で2会場3ステージに渡り開催された「たからものさがしフェス」。総勢24組のアーティストを迎えたこのフェスの原点は、会場のひとつであるライヴハウス、下北沢ERAを中心に2年前から始まったイベント「たからものさがし」でした。始めたのは、たったひとりの女の子。名前は“ゆっち”。2011年からイベンターとしての活動を開始。『バンドの為や音楽を好きな人の為にイベントを制作したい』と2014年より下北沢ERAを中心にイベント、「たからものさがし」を始めました。タイトルには、
 
 
『好きな音楽、大切にしている音楽は、自分にとってかけがえのない“たからもの”。
そして、新しい音楽や、今後とても大切になる音楽と出会った瞬間の高揚した気持ちも“たからもの”そんな“たからもの”を探す人がたくさん増えてほしい』
 
 
という想いが込められています。『“たからもの”に出会える場所として信頼できる存在になりたい』とイベントを続けること2年。『想像以上にたくさんの素晴らしい出会いがあり、自分やこのイベントのたからばこが満たされた』と彼女は語ってくれました。それで『今なら』とフェス形式での開催に踏み切ったのです。
 
そして「たからものさがし」といえば、ゆっちによる絶妙なブッキングが人気のイベント。日々音楽に触れていると、「このバンド、名前は良く見るけど、聴いたことないなあ」なんて思うことは多々あると思います。そこで彼女は、このフェスで『隣り合わせの小さなシーンを繋げる』をテーマに掲げ、かゆいところに手が届く、一石何鳥にもなるべくラインナップを完成させたのです。そのため、出演者は『小さいけれど意外と越えにくかった壁を壊すことができる』『一回ライブを見たら絶対好きになってもらえる』アーティストにこだわったとのこと。
 
 
そしてこちらでは、そんな彼女のラインナップの中から、さらに私が独断と偏見で選んだ8組をピックアップして紹介したいと思います。
 
 
 
▼或る感覚(ERA13:30~)
②或る感覚

Photo by 小此木愛里

 
メイン会場となるERAのトップバッターを務めたのは、フラストレーションに満ちたタチバナロンのヴォーカルが特徴の、或る感覚。エネルギッシュなナンバー「ファイトクラブ」ではタチバナがフロアに降り、拳を突き上げ熱唱。MCではイベント名になぞらえ、お客さんを“トレジャーハンター”と呼び、フェスは最高のスタートを切ったのでした。
 
 
▼TRY TRY NIICHE(ERA14:20~)
③TRY TRY NIICHE

Photo by 小此木愛里

 
私だってオシャレでポップなミュージックを聴くぞ、と意気込んで観たTRY TRY NIICHE。透明感あふれかえるピアノの旋律と繊細なサウンドが、とにかく心地よくてあっという間の30分でした。シニカルなダンスナンバー「Cガール」で魅せたクールな一面もまた格好良い。メンバーとお客さんの手拍子がバッチリ揃ったシーンは爽快感満点!
 
 
▼mock heroic(GARAGE15:35~)
④mock heroic

Photo by 小此木愛里

 
誰を観ようか…と出演者の音楽をチェックしていた時に、ひときわロックンロールだったのが、このmock heroic。ジャキジャキに鳴らされるギターとドラムのビート感がもう、This is Rock n’Roll!! 新曲「星のせい」のレトロ感もたまらない。そうかと思えば「シンデレラ」はスポーツドリンクのCMソングさながらに甘酸っぱいという予測不能バンド。
 
 
▼わがままカレッジ(ERA16:50~)
⑤わがままカレッジ

Photo by 小此木愛里

 
彼らを観て、真っ先に頭に浮かんだのはRCサクセション。フェイスペイントを施したヴォーカル山下ゆうきに、忌野清志郎を重ねてしまう。パンツ一丁で微笑をたたえながらベースを奏でる井上まさやの存在感も強烈すぎる。ハンドマイクで熱唱した「ロックバンド」もラストの新曲「笑い飛ばそう」も、力技のハピネスが充満して最(THE)高でした!
 
 
▼モノレコード(GARAGE17:15~)
⑥モノレコード

Photo by 小此木愛里

 
オーディションを勝ち抜き、9月に広島県で行われるイベント・JOKAFES 2016への出演を決めたモノレコードが登場!やや偏屈な節回しのあるメロディーが、女性コーラスと瑞々しいバンドサウンドによって耳馴染み良く響き渡る。歌詞がはっきりと聞き取れる折り目正しい歌い方が気持ち良くて、初見でも十分ライヴを楽しめるのが魅力です。
 
 
▼Seceret:the quiet room 菊池遼(ERA bar19:10~)
⑦the quiet room菊池遼

Photo by 小此木愛里

 
the quiet roomのヴォーカル菊池遼がシークレットゲストとして、弾き語りで登場! 前日がバンドのツアーファイナルだったにも関わらず、ゆっちの熱烈なオファーに応え、駆け付けたとのこと。太くて力強い歌声から繊細で透明な歌声までを自在に操る歌唱力は圧巻でした。新曲「夢で会えたら」が早速弾き語りで聴けたのも嬉しい。
 
 
▼LINE wanna be Anchors(GARAGE19:45~)
⑧LINE wanna be Anchors

Photo by 小此木愛里

 
“艶”の心得を以て歌謡テイストのロックを鳴らす京都のロックバンド、通称ライワナ。ルーツとして椿屋四重奏の名前を挙げるという折り紙つきの艶ロックです。「アンチヒーロー」では、ヴォーカル・阿部将也の呼びかけに応え、フロアからは「Fu-Fu」の大合唱が巻き起こる場面も。漢気溢れるライヴパフォーマンスと、セクシーな楽曲のギャップが狡い。
 
 
▼The Cheserasera(ERA21:10~)
⑨The Cheserasera

Photo by 小此木愛里

大トリは、The Cheserasera。ヴォーカル・宍戸翼は、「紆余曲折がある中で、お互い続けてきたからこそ今日がある」と前置き、お客さんを交えて「たからもさがしー!」「フェス―!」とゆっちへの感謝のコールアンドレスポンスを披露。終始ハイテンションな演奏と笑顔が止まらない3人の様子から、この日が彼らにとっても特別であることが伝わってきた。アンコールが終わっても、お客さんも彼らの熱もまったく下がらずに始まったダブルアンコール。とびっきりやんちゃに鳴らした「でくの坊」で、長いフェスの一日は、幕を閉じたのでした。
 
 
 
この日印象的だったのは、出演者のほとんどがゆっちへの感謝に加え、イベントタイトル「たからものさがし」に言及していたこと。自分たちを「たからもの」と呼んでくれた彼女への愛と、ミュージシャンとしての自負が相まって出演者たちの顔は皆、どこか誇らしげでした。客さんが帰ったあとのERAのフロアは、お酒を手にした出演者たちであっという間に埋め尽くされて。再会を喜んだり、積もる話しを語り合ったり。まるで同窓会のようなムード。これが、彼女が、愛して愛して戦って、完成させたひとつの“シーン”なのかと思うと、感極まるものがありました。夏は、大きな野外フェスもたくさんあるけれど、こんな風に手作りのフェスに触れてみるのもまた一興ではないでしょうか。
 
 
 
 
■end “ROCK’N” roll vol.7 ― THE BACK HORN「戦う君よ」


 

 
愛すべき戦友たちに、捧げたい歌。まずは、「たからものさがしフェス」の主催者ゆっち。今回も長丁場の撮影を快く引き受けてくれたカメラマンの小此木愛里。そして私の日々を音楽で支えるロックンローラーたち。このフェスの前日も、私とゆっちは同じライヴハウスに居合わせていました。あるバンドの終わりを、見届けるために。先月もこのコーナーでジャンプ ザ ライツの解散に触れたばかりだけれど、解散、脱退、活動休止。いつだって終わりは隣合わせ。それはバンドに限ったことじゃない。人だって、そう。あらゆる別れは、いつだってすぐそこにある。だからこそ、戦える今を愛して戦う君へ、幸あれ。

 
 
 
 
 


 
①photo by Airi Okonogiイシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。振り返ってみると、7月の記憶がろくにない。気付けば7月が終わっていた。そんな感覚。あ、そうだ。ついにthe pillowsのライヴに行きました! 真鍋さんのギターの音はなんであんなに心が広そうなんだろうか。不思議。さあ、勝負の8月。頑張ります。