子供の頃は大人びたことをすれば「生意気」だと叱られて。
子供じみたことを言えば、「所詮は子供」だとわらわれた。

そうやって20年生きたら、今度は「大人」と呼ばれるようになる。
 
今度は夢を語れば「現実を見ろ」と馬鹿にされ。
「大人」の側に立とうものなら、「良い気になるな」と睨まれる。
 
詰る所、子供は大人がうらめしいし、大人は若者が羨ましいのだ。
 
私自身、小学校に上がる前には本音と建前、お世辞や嫌味といった概念を理解していた様に思う。恐らく、大人の多い環境で育ったことに因るところが大きいのだろう。たまにこんな風に「大人育ち」をしたのではないかと思う人物に出会う。そして、そういった人は私含め、総じて冷静さを失うことが少しだけ下手くそだ。良くも悪くも客観的であり、常識人。けれどもそんな人が限りなく無我夢中に、情熱的になる時に放つ無色透明な熱を愛おしく思う。真赤な炎でも、青い炎でもない。陽炎みたいな、透明な熱。
 
今回紹介するロックンローラーは、「大人育ち」をしてきたであろう20歳のフロントマン率いるバンドARCHAIC RAG STORE。
 
それでは今月も、よろしくどうぞ。
 
 
 
■「透明な熱が熟れるとき」 – ARCHAIC RAG STORE


 
Ze-yBenz
 
ARCHAIC RAG STOREは、都内のライヴハウスを中心に活動する4人組のロックバンドで、今月2日には初の全国流通アルバム『EXPLODE』をリリースしました。澄んだ歌声でひんやりとした色気を漂わすフロントマンの鴻池遼(Vo&G)はこの1月に成人式を迎えたばかりの20歳。しかし、彼のミュージシャンとしての経歴は今年で6年目になろうとしています。
 
実は鴻池遼と横山航大(B)は2010年に、元BLANKEY JET CITYの浅井健一プロデュースのバンドで一度デビューを果たしているのです。この前進バンドは程なくして解散を迎え、2013年に奥村眞也(Dr&Cho)が加わりARCHAIC RAG STORE結成。その後2014年に雅景(G)が加入し、バンドは現在の体制となります。
 
私が出逢ったときは、既に現体制でした。当時、鴻池遼と横山航大はまだ19歳。最初は何の予備知識もなしにライヴを観て、ポーカーフェイスでライヴをする姿に「若いんだろうなあ…」とは思いつつも10代だと知って驚いた記憶があります。彼らは決して大人びたルックスをしているわけでもなく、当時も多分、年相応に少年だったはず。けれども、彼らからは不思議と少年の匂いがしなかった。勿論、演奏の上手さやライヴに対する「慣れ」がそう思わせる部分も大きかったとは思う。だがしかし、それ以上に彼らが放つ熱が物語っていた。透明な熱。触れても火傷はおろか、熱くもない。おまけにその熱は陽炎のように彼らを覆い、何かから守るようにも、何かを隔てているようにも感じました。
 
彼らに惚れ込む切っ掛けとなった前作『After the Dawning』は、とにかく色気のアルバムで。鴻池遼が蓮っ葉な女言葉で愛憎を歌う「Butterfly Syndrome」や、不穏なリフがドキリとさせる「楽園」、やるせなさが表面張力を超えた「あふれだすよ」。ハイテンションで何かを声高に叫ぶこともしなければ、踊りを誘う音楽でもない。けれどもそれがARCHAIC RAG STOREという様式美であり最適解なのだと思い、疑う余地はありませんでした。
 
しかし今作『EXPLODE』は明らかに佇まいが違う。もちろん色気もあるし、よりロック然として聴かせるフレーズなども盛り込まれている。だけど、何よりも「わかりやすくありたい」という訴えが全曲を通してひしひしと伝わってくる作品となっている。キャッチーであることにこだわったメロディーラインと、歌詞における明確なキーワードの存在。正直、こういったアプローチとは無縁のバンドだと思っていたので最初に『EXPLODE』の楽曲を聴いたとき、とまどいが全くなかったかと言えば嘘になります。でも、聴けば聴くほどにアルカイックらしさがちゃんと滲み出て来る。『EXPLODE』とは、爆発を意味する言葉。とはいえ、やはりそれは轟音と爆炎を巻き起こし、何もかもを木端微塵にするものではない。彼らが壊したものがあるとすれば、きっとそれは透明な熱がもたらした隔たり。彼らの透明な熱はこの作品で熟して弾けたのだと思う。
 
センセーショナルな経歴をもった少年たち、ではなく少しだけ早い成熟を迎えた20代のバンドとして、彼らはこれからどんな色の熱を帯びてゆくのだろう。それが楽しみで仕方ない。
 
  ■ARCHAIC RAG STORE「LOVE SONG」―『EXPLODE』より

 
 
 
 
■end “ROCK’N” roll vol.2 ― ぼくのりりっくのぼうよみ「sub/objective」


 
2015年の終わりに、突如としてメジャーシーンに現れ、強烈な印象を刻みつけた“ぼくのりりっくのぼうよみ”はこの春に卒業を控えた高校生のラッパーでありシンガー。この連載を読んでくださっている“音楽好き”な皆様ならば、一度は目にしたことのある名前かと思います。なので、改めて紹介をするにはあまりにも有名かとも思いましたが、今回のテーマは「早熟」。そう考えたとき、やはり彼の存在は無視できないものでした。決定打になったのは、楽曲は然る事ながら彼が雑誌『文學会』に寄稿した文章。卓越した分析力と表現力。彼の持つあまりにも潤沢な才能は、ただ無邪気な少年時代、青春時代を過ごすことを許さなかったのでしょう。
 

 
 
 
 
 


 
①photo by Airi Okonogiイシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。a flood of circle の佐々木さんに初インタビューして参りました! 現在ETMG MUSICにて公開中です。ベスト盤『THE BLUE』についてアツく語って頂きました。2月はバンドからの相次ぐメンバー脱退のお知らせにも苛まれ、改めてバンドというものを考えるひと月でした。
 
 

 
 
 イシハラマイ「続・やめられないなら愛してしまえ」
 第1回「ロックンロールのそばにいて」