対談写真①

左から恵守佑太(The Doggy Paddle)、村上達郎(Outside dandy)、イシイマコト(ARIZONA)

 
 
先月の記事第8回「ケレンロックのすゝめ」にて、外連味たっぷりの対バン企画として取り上げた、3マンライヴ。2012年に結成されたARIZONAという若きロックンロールバンドが、かねてより交流のあったOutside dandy(2007年結成)、The Doggy Paddle(2008年結成)という先輩バンドを迎えて行ったレコ発企画だったのだが、この3バンドの組み合わせが、なんとも絶妙だった。いずれも、キャッチーなメロディーのど真ん中に日本語の歌詞という典型的な日本のロックンロールバンドながらも、聴く者に与える印象がまるで違う。そしてその印象が、そのままフロントマンのキャラクターと、面白いほど見事にリンクしているのだ。泥臭くもロマンチックなThe Doggy Paddleに、キザでシニカルなOutside dandy、ハードボイルドにアツい思いをたぎらせるARIZONA。バンドのソングライターでもあるフロントマンの3人に、対バンに至った経緯やルーツとなった音楽、ロックンローラーとして目指すべきところなど、音楽以上にロックに語ってもらった。
 
(取材・文=イシハラマイ)
 
 
 

最初に思いついた時は濃いかなって思ったんですよ。みんな声もしゃがれてハスキーな感じで、音デカめで(イシイ)


 
――8月5日の下北沢SHELTERはロックンロールな夜になりましたね。ARIZONAはレコ発企画に、どうしてこの2バンドを呼ぼうと思ったんですか?
 
イシイマコト(ARIZONA)「この3マンを観たいっていうか、待ち望んでる人は絶対いると思ったんですよ」
 
――はい。私自身もすごく楽しみでしたし、お客さんも最初から最後まで全部観て帰る方が大多数だったように思います。
 
イシイ「最初に思いついた時は濃いかなって思ったんですよ。みんな声もしゃがれてハスキーな感じで、音デカめで。…ちょっと違うバンドも呼んだ方が良いのかなって思ったこともあったんですけど…やっぱりバチバチでやろう、と(笑)」
 
――バチバチで大正解だったと思います。
 
恵守佑太(The Doggy Paddle)「うちも自主企画やるんですけど、違う感じのバンドを入れて変化を出すのが横道(The Doggy Paddleギター・横道孟)は好きなんですけど、俺はバチバチが好きで。フルコースも良いけど大好きなカツ丼だけ何個も食べ比べたい、みたいな。だからあの日は、自分の中では最高のカツ丼パーティーでしたね!」
 
――カツ丼って…(笑)。村上さんはいかがでしたか?
 
村上達郎(Outside dandy)「この3マンだからもう…、ぶっ潰してやる、と」
 
(一同笑)
 
恵守「俺も〈ぶっ潰してやる!〉って言いたいんですけど、どっちかっていうと…すげえ嬉しかったです。まあ本番の時は〈俺が一番ウマいカツ丼だ!〉って思って臨みましたけどね(笑)!」
 
村上「(笑)。うん、すごく楽しかった。ジャンルが近い2バンドと一緒にできて嬉しかったですね。もともと別件でもその日、誘われていたんだけど、バンドのイベントにはなるべく出るようにしていて。自分らもイベントをする時に、考えてオファーしたりするから。その逆の事をしてくれていると思うと、なるべく出たいなって」
 
――先輩方におおむねご満足いただけたようですが、イシイさんいかがですか。
 
イシイ「企画に出てもらうっていうのは当たり前のことじゃなくて、どこかしらARIZONAや俺を気に入ってくれているから、出てもらえてるんだろうし。好きな事が一緒のカッコイイ先輩と巡り合えるってすごい運が良いし、そういう先輩たちの背中を見るのは刺激を受けます。だからこそ一緒にやりたかったので、実現できて本当に良かったなって思います。…幸せです」
 
 

ほっとけないメロディーなんですよ。それで長い時間釘付けになってしまって(恵守)


 
――そもそもこの3バンドの出会いはいつごろなんでしょう。
 
イシイ「2年前くらいに北浦和KYARAでまずDoggyと対バンして、そのあとDoggyのレコ発を観に行った時に、対バンで出ていたのがdandyでした」
 
恵守「KYARAの時に、ライヴを観てたらすげえ炸裂してるやつらが居て(笑)。ギターの人がくるくる回ってて。何より、ほっとけないメロディーなんですよ。それで長い時間釘付けになってしまって」
 
――それがARIZONAだった、と。
 
恵守「はい。それですごく気に入っちゃって。打ち上げでべろんべろんになって、イシイちゃん達に〈俺たちで日本のロックシーンを変えてやろうぜ!〉って誓ってきたらしんですよね。今でこそ、うちのメンバー皆ARIZONA好きですけど、あの時は絶対俺が一番好きでしたね。横道なんて今すごい〈ARIZONA好きだよー〉みたいな感じ出してますけど、俺が一番好きだし。あ、ここ絶対使ってくださいね!」
 
――わかりました(笑)。イシイさん、すごい愛されてますけど…。
 
イシイ「ありがとうございます(笑)。Doggyのライヴ観て同じ編成だし、〈カッコイイ声の人いるなあ〉と思っていたんですけど、初対面だったし。年齢聞いたらちょっと上だったので、打ち上げでも気を使を遣ってたというか…緊張してて。でもグイグイ来るから、〈ですよね!〉みたいな(笑)」
 
村上「めっちゃ困ってるじゃん(笑)!」
 
イシイ「あ、でも吉井さん(吉井和哉)さんが、お互い好きだって話とか…」
 
恵守「そうだっけ、そこはもう覚えてない…。」
 
 

バンドマンって怖い人だと思っちゃうんですけど、話してみたらすごい気さくなお兄ちゃんで(イシイ)

カッコ良かったですよ? その頃イエスキリストみたいで(笑)(村上)


 
――dandyとの出会いはどうですか?
 
イシイ「イケイケやなー、と思って。当時達郎さん金髪でしたし。弾き語りの時もそう。弾き語りなのに、ステージ降りちゃってたんですよね。で、生声で歌い出して、やっぱイケイケだなー! って」
 
村上「なんだそれ」
 
――弾き語りの時に初めてお話も出来たんですよね?
 
イシイ「はい。基本的に俺、だいたいバンドマンって怖い人だと思っちゃうんですけど、話してみたらすごい気さくなお兄ちゃんで」
 
――村上さんはイシイさんの第一印象はいかがでした?
 
村上「カッコ良かったですよ? その頃イエスキリストみたいで(笑)」
 
イシイ「髪長かった頃だ(笑)」
 
村上「で、なんだっけなあ…1曲、『コーヒーとシガレット』?」
 
イシイ「ああ! ありました!」
 
村上「あの感じが…全然キャッチーじゃないんですけど、すごい良いなって。さっきも話題に出ていたけど、多分吉井和哉好きなんだろうなって。その時も話したよね? …好きなんでしょ? って」
 
イシイ「しましたね」
 
 

何がどうでカッコイイなんて野暮。カッコイイの語源と言っても過言ではない(恵守)


 
――dandyとDoggyはDoggyが企画に出た時に出会ったんですよね。
 
恵守「はい。でもその前から結構お客さんとかに〈dandyと対バンしてよ、絶対合うから〉って言われてて。それで横道が調べて、カッコイイって言ってたんですけど、俺は対バン相手を絶対下調べしないので、〈ふーん、そうなんだ〉で終わってたんですよね」
 
――お客さんからのリクエストもあって、実現した対バンだったんですね。実際にライヴを観ていかがでしたか?
 
恵守「いや、もう…カッコイイですよ。リフが反則!♪~(Outside dandy『サタデーナイトメランコリック』のリフを口ずさむ)。聴いた時にバキバキになりましたね。あれはもう日本ロック界に残るリフだと俺は思ってます。」
 
村上「ああ、打ち上げでも熱く語ってくれたよね、それ(笑)」
 
恵守「もう何がどうでカッコイイなんて野暮ですもん。カッコイイの語源と言っても過言ではない」
 
イシイ「そう、dandyってバンド名が名前負けじゃない」
 
 

田舎の水道工事のお兄さんみたいな風貌で〈愛で満たす試験管〉って歌詞書いてると思うと、結構俺グッときちゃって。(村上)

キザにやるとカドが立つのがDoggy Paddleなんで仕方ない(恵守)


 
――村上さん、Doggyの印象はいかがでしたか?
 
村上「コレ本人たちにも言ってるから悪口じゃないんですけど、すごい曲良いし、演奏も上手いし、歌も上手いんですけど…オーラがないなって」
 
(一同笑)
 
――ああ、私も最初にこの連載でDoggyを紹介した時に〈華がない〉って書いた記憶が。
 
村上「それがまあ…良さでもあるんだけどね。なんかねえ…恵守くんって、田舎の水道工事のお兄さんみたいな…。あ、これも悪口じゃないですよ?そういう風貌で〈愛で満たす試験管〉(The Doggy Paddle「クドリャフカ」)って歌詞書いてると思うと、結構俺グッときちゃって。すっげえなコイツ…みたいな」
 
――なるほど。そこが逆にエモーショナルである、と。
 
村上「すごくエモいですね」
 
恵守「なんかそう言われると…ありがとうございます(笑)。キザでカッコよくなりたくて音楽を始めたのに、なんでこういう感じになってるんだろう。まあ、キザにやるとカドが立つのがDoggy Paddleなんで仕方ないです…」
 
 

曲の善し悪しはアコギ一本で弾いてもカッコイイかカッコよくないか(村上)


 
――今回の対談の目的として、それぞれのルーツを探ろう、というのがあって。今、共通項として吉井和哉さんの名前が上がりましたが、他にはどんな音楽を聴いて来たんでしょうか。
 
村上「一番最初に音楽を始めた時にコピーしたり歌ったりしてたのはL’Arc-en-Cielでしたね。『the Fourth Avenue Cafe』をギターで弾きたくて始めました」
 
イシイ「ラルク、一緒です!」
 
恵守「マジで? それはすげえ意外だな」
 
イシイ「『HONEY』で衝撃受けちゃって」
 
――村上さんがラルクをコピーしていたのは何歳くらいの頃ですか?
 
村上「早いね、小学生だった。5年生くらいからギターを弾き始めたんですけど、すぐに誰かのフレーズを弾くとかじゃなくて、曲を作り始めて。そこからギターが曲を作るツールになっちゃって。そのせいで一向に上手くならない(笑)」
 
(一同笑)
 
――小学生の頃から作曲を?
 
村上「そう。周りに楽器が出来る人がいなかったっていうのもあって、ずっと曲を作ってましたね。だから、バンドはOutside dandyがほぼ初めて。それまでは…今は恥ずかしくて出来ないんですけど、路上ライヴとか。あとはライヴハウスに一人で出たりとか。その頃からThe Birthdayとかも好きになって、アコースティックギターにオーバードライブかけたりしてました。根っこはそことやっぱり歌謡曲」
 
――歌謡曲感は感じます。
 
村上「曲の善し悪しはアコギ一本で弾いてもカッコイイかカッコよくないか。カッコよくない曲はやりたくないし、歌いたくない」
 
――なるほど。イシイさんはラルクから入って…。
 
イシイ「ラルクから入って、王道ばっかり。もう解散しちゃってたけどTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとか。あとはポルノグラフィティとかB’z とかサザンオールスターズとか。サザンはライヴ観に行ってましたね」
 
――なるほど。ガレージロックが基礎にありながらも、ポップなメロディーも忘れないARIZONAらしいといえばらしいラインナップかも知れませんね。
 
イシイ「そうですね。だからメロディーを載せる時、そういう王道な人たちで育ってきたので、ロックになりすぎない。メンバーも〈イシイのメロディーがないと曲にならない〉って言ってくれているし、やっぱりARIZONAの音楽はメロディーが重心なんですよね」
 
 

カラオケで歌えるロックンロールを作りたい。(恵守)


 
――はい。恵守さん、お二人のルーツを聞いていかがですか?
 
恵守「やっぱりすごくルーツが似てるっていうか。好きなバンドの名前ばっかりでしたね。自分も曲作りのルーツとしてはカート・コバーンとかイエモン、ミッシェル、Mr.Children…メロディーがしっかりしているものが多くて。…まあミッシェルはちょっと違うかもしれないけど。達郎さんの〈アコギ一本で弾いてもカッコよくないと〉っていうのを聞いてハッとしたんですけど、自分はカラオケで歌えるロックンロールを作りたい。BLANKEY JET CITYも好きなんですけど、ブランキーって曲によってはカラオケでなかなか歌えないじゃないですか。自分はもうちょっとメロディーが分かりやすくて、覚えられるような曲作りをしたいなと思っていて、そこはふたりが言ってることと同じなのかなって」
 
――そうですね。この3バンドに共通する点は、聴きやすさだと思います。そして、ちゃんとロックンロールであるという事。こういう絶妙な塩梅って、それこそイエモンとか90年代のバンドの得意技ですよね。でも、残念ながら2015年の主流とはちょっと違う。
 
イシイ「はい。今の主流の音楽を聴いてみると、良いなとは思うんですけど、〈その歌10年後も歌えるの?〉っていう曲もある。今しか見えてない風に聴こえちゃうんですよね」
 
――時代性がありすぎるということ?
 
イシイ「そうですね。何年経っても色褪せない曲が名曲だって、自分は思うので…」
 
 

良き時代を引き継いで、継承するっていうか、リバイバルしていきたい(イシイ)


 
――なるほど。今「10年後」というワードが出ましたが、最後は皆さんに〈ロックンローラーとして10年後、どんなことを実現したいのか〉を語っていただいて終わりたいと思います。
 
村上「目指すところは、ロックミュージックがマイノリティにならないこと。まあJ-POP、J-ROCKって言われていた時代をもう一回引き戻したいなって思ってますね」
 
――大衆のものでありたい、と。
 
村上「そう。ロックがマイノリティであるから、変に尖った人しか聴かない。だから、もっとポピュラーなものであって欲しい。ホントに恵守くんの話じゃないけど、皆がカラオケで歌うような音楽にしたいなと思ってます」
 
恵守「自分はもうちょっとでロックンロールの時代が来るって思ってるんですよ。だってこれだけ良いロックンロールバンドがいるんだから、もうそろそろ、世間が放っておかないと。で、そういう時代が来た時、自分たちが起爆剤になりたい。それは誰にも譲りたくないですね。きっと自分が寝ててもdandyかARIZONAが爆発を巻き起こしてくれると思うんですよ。でも、Doggyがそのシーンを引き戻したい。シーンを作って、皆でいきたいっていうのもあるんですけど、やっぱり自分が最初にその当事者でありたいし、それは負けたくない」
 
イシイ「さっき、流行ってる音楽のことを言ったけど、実際悔しいですよ。だけど自分たちは10年後も衰えない音楽をやっていけると思っているので、ARIZONAとしては良き時代を引き継いで、継承するっていうか、リバイバルしていきたいですね」
 
 
対談写真②
 
 
The Doggy Paddle -Official HP- http://thedoggypaddle.jp/
Outside dandy officialsite http://outsidedandy.com/
ARIZONA OFFICIAL WEBSITE http://arizona2015.wix.com/arizona1
 
 


 
_vPmFu_0_400x400イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。『MUSICA』鹿野淳主宰「音小屋」卒。鹿野氏、柴那典氏に師事。8月の連載で紹介したThe Cheseraseraのライヴレポートを書かせていただきました。現在NEXUSにて公開中です。そして小田原で10周年を迎えたフェス「小田原イズム」では久々の速レポも! こちらはライヴハウスシーンの情報サイト「OTOZINE」にて公開中です。