僅かに震えたまつ毛を。
声なき言葉を紡いだ唇を。
何も言えずにただその横顔を見守ったことが何度あっただろう。


そんなシーンを切り取っては歌にしてきたバンドがいる。


彼らの名前はThe Cheserasera。


2年目終了時と同じく、3年目の最終回も彼らに締め括っていただきます。
ありがとうございました。


また逢う日まで。

 
 
■横顔に浮かんでは消える想いを追いかけて ― The Cheserasera『幻』に寄せて


 
Processed with VSCO with m5 preset Processed with VSCO with hb1 preset
左から Ba.西田 裕作、Vo. / Gt.宍戸 翼、Dr.美代 一貴

 

美しいメロディで。
激しくぶつかり合うアンサンブルで。
嘘のつけない言葉で。
名前のない感情に向き合って、抱き留めて、居場所を与えた。


だからいつも、The Cheseraseraの音楽は、分かり易さとは遠い場所にいたと思う。そうやって距離を取ることがきっと、聴き手にも彼ら自身にも居心地の良さを与えていた。


だけどより深く分かり合うために、赤裸々な言葉で一歩を踏み出したのが昨年のこと。

 
 

▼The Cheserasera「最後の恋」Music Video
 
 

フロントマンでありメインソングライターの宍戸が自らのiPhoneだけで撮影したという「最後の恋」のMV。このMVを告知するツイートで、彼はバンドや自らの生活状況を包み隠さず言葉にした。このツイートが大きな反響を呼び、同曲を収録した会場限定EPは、各地で売り切れが相次いだのだ。メジャーを離れ、自主レーベル発足以来、作品は手作りにこだわり、メンバー自らが主体的に発信することでバンドを動かしてきた彼らにとって、これはひとつの結果と言えただろう。

 
 

▼The Cheserasera「幻」Music Video
 
 

自分たちが本気で伝えれば、必ず伝わる。そんな「最後の恋」を通して築かれた信頼関係のもと、彼らが新しく届けたアルバムが『幻』だ。新しいアプローチがふんだんに盛り込まれる一方で、バンド初期の楽曲「愛しておくれ」と「Night and Day」が再録されるなど、過去と最新のケセラセラが邂逅する作品となった。作品に満ちる自由でのびのびとした空気から、探究心の駆り立てるまま、各自が音楽を楽しんで作ったのだろうと推測できる。そして宍戸の詞は、今まで以上に繊細な情景を描く。彼らはずっと、横顔に浮かんでは消えてしまうような感情を丁寧に歌にしてきた。その積み重ねで今、ようやく真正面から顔を見つめることができるようになったのだろう。そのアルバムのタイトルが『幻』というのもまた、なんとも言えないのだが。曖昧さと少しの不安を残すあたりも彼ららしいと思う。


6月からスタートするツアーでは、どんな風に彼らがこの曲たちを表現するのか。音楽家としてのありのままをぶつけた今作で、どのように観客たちと思いを通わせるのか。今から楽しみでならない。

 
 
▼The Cheserasera『幻』推し曲3文解説/span>


 
1.ワンモアタイム
スリーピースの限界まで突き詰めた衝動と、美しいメロディが融合したケセラセラらしいナンバー。フレーズや節回しがバンドの初期を彷彿とさせる。過去と現在の邂逅で聴かせる今作の指針になるような始まりの曲。
 
 

(▼The Cheserasera「ワンモアタイム」Music Video)
 
 
3. 残像film
鞄の中に埋もれていた使い捨てカメラをキーに、かつての恋の回想が始まる。柔らかな言葉で語ることで、如何にその思い出を大切にしていたかを描き出す作詞センスは見事。冷たさすら感じるイントロからサビにかけて、想いが溢れるようにバンドサウンドが熱を帯びてゆくのもグッとくる。
 
4.幻
アルバムタイトルにして個人的イチオシ。ポップで軽やかなリズムと西田のジャジーなベースラインによる洒落たグルーヴ、そして肩の力が抜けた歌がなんとも色っぽい。バンドが熟した状態だからこそ踏み入れることができた新境地と言えるだろう。
 
8.透き通っていく
作詞・作曲ともに美代が担当。流れるようなメロディと伸びやかな歌が心地よい。そこに様々なアプローチで畳み掛ける手数の多いドラムが合わさることで、繊細ながらも力強い印象に仕上がった。
 
10.愛しておくれ
この曲の全ては〈ああ 馬鹿だな〉という歌い出しに凝縮されていると言っても過言ではない。ナルシストにも聞こえがちな台詞だが、それを阻止してやんわり甘えたムードを醸し出し、愛すべきロクデナシに思わせるのは、ひとえにこのタイトルゆえだろう。再録をどれほど熱望したことか。
 
11.たわけ
タイトに刻まれていくドラムが疾走感のあるサウンドを引締め、リズムが走り出す際の瞬発力を高めている。夢を見て褒められるのなんて、ほんの子供のうちだけだ。だけど大人になっても懲りずに夢を見てしまうなら、それはもう醒めないようにするしか手段はない。
 
 

▼The Cheserasera「たわけ」Music Video
 
 
 
▼リリース情報


 
H1

The Cheserasera 4th full album『幻』
2019年5月8日発売
¥3,240(tax in)


1.ワンモアタイム
2.Random Killer
3.残像film
4.幻
5.ずっと浮かれてる
6.また逢える日には
7.月は面影
8.透き通っていく
9.Night and Day
10.愛しておくれ
11.たわけ
12.横顔

▼ライブ情報

The Cheserasera 2019 幻のワンマンツアー~『幻』Release Tour~
6月08日(土)東京・下北沢Daisy Bar
6月15日(土)福岡Queblick
6月16日(日)大阪LIVE SQUARE 2nd LINE
6月22日(土)札幌SPIRITUAL LOUNGE
6月30日(日)仙台Hook
7月07日(日)名古屋HUCK FINN
7月13日(土)東京・渋谷WWW
*チケット発売中。詳細は下記オフィシャルサイトにて。

 
 
▼The Cheserasera
オフィシャルサイト:http://www.thecheserasera.com/
 
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.12 ― 羽深創太「メトロポリスの夜」


 

 
ラストはかつてジョゼというバンドでボーカルを務めた羽深創太のソロ第一弾曲を。ケセラセラのファンであれば一度はジョゼの名前を耳にしているはず……というくらい親密だった両バンド。曲や詞はもちろんのこと、私は彼の言葉がとても好きで、幾度となくツイートにも「いいね」をしている。現実に起きたことや、思ったことを言葉にしていても、どこかおとぎ話の一節のように思えてしまうのだ。久々に彼の歌声を聴いて思う。このどこまでも澄み渡った声もまた、どこか現実離れしている、と。その浮世離れした魅力に、私はたぶん癒されているのだ。

 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用 イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。連載3年目、これにて終了です!主宰の上野さん、記事作成にご協力いただきました皆様、そして読者の皆様、本当にありがとうございました。誌面やWEBにて名前を見かけた際は記事をチェックしていただけますと幸いです!