■原田マハ著『たゆたえども沈まず』 幻冬舎


 
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誰しも青春時代に影響を与えられた人物がいるはずだ。
私は、たった一人しか挙げられないとしたら「フィンセント・ファン・ゴッホ」と答える。
彼の絵を教科書で見た時の衝撃は忘れられない。絵の具が盛りあがり、渦を巻いていて、
底知れぬパワーを感じた。それから、伝記を読んだり中学の3年間は模写ばかりしていた。
彼は、「孤独」を最初に教えてくれた人だ。生前、絵は1枚しか売れず、世間とは折り合いがつかず、
酒に溺れ、心を病み、弟の世話になり続ける人生。けれど、弟のテオだけは彼を理解し才能を信じてくれていた。


今回紹介する本書は、弟テオの目線と浮世絵をパリに持ち込んだ画商林忠正と助手重吉の目線から見た天才フィンセントの物語だ。
あの時代のパリで何が起きたのか?何故、彼は認められなかったのか?そして、傑作「星月夜」の誕生秘話が描かれている。


フィンセントは、まるでテオの半身だった。
フィンセントが追い詰められれば、テオも追い詰められる。フィンセントが苦しめば、自分も苦しいのだ。
こうして離れ離れになっていると、フィンセントの魂が血を流しているのがわかる。
その痛みは、自分の痛みだった。
フィンセントが幸せになれない運命だとしたら、自分もまた幸せになることは決してないだろう。
そう、あきらめてしまっていることが、ただ悲しかった。

(本文から引用)


テオは、懸命に働き、妻と子供を養う。ごくごく平凡な日常だ。
けれども、幸せを手に入れる度に、例えば美味しいご馳走を目にした瞬間でさえ、兄への罪悪感でいっぱいになる。
兄さんは今日も壊れながら、創作をしているのに。

 
 
結末はとても悲しい。テオは兄が自殺を図った半年後、病死してしまう。
 

この小説は、残されている兄弟のやりとりの手紙や膨大な文献により研究されて書かれているが、
95パーセントはフィクションであると著者原田マハさんのインタビューで読んだ。
とても信じられない!タイムスリップして、目撃してきたのではないかと思ってしまう程のリアリティなのだ。
キュレーターでもある著者の知識と想像力に脱帽した。

 

人間は、生まれてきたら一つだけ何かを追求しなければならない。
でも、追求するにはタフにならなければ!そして良き理解者を持つこと。
ゴッホが絵を通じて教えてくれたことは、いまでも私の身体に染み付いてる。

 
最後にフィンセントが書いた手紙の一文を紹介する。
 

率直に言おう。僕らは、ただ絵を通すことによってのみ、何かを語ることができると。
そうだとしても、テオ、僕がいつも君に語り続けてきたことを、いま、もう一度言おう。
君は、単なる画商なんかじゃない。僕を通して、君もまた、絵の一部を描いているんだよ。
だからこそ、どんなに苦しいときでも、僕の絵はしっかり定まっているんだ。


 

二人の思いは見事に叶って、海を渡り世界中の人々に感動を与えている。
ゴッホ兄弟の長い夢を、本書を読んで追体験してもらいたい。

 
 
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野菜高騰! のニュースが話題ですが、淡路でも高いです。

都心へキャベツや白菜がどんどん出荷されていきます!

 
 
 


 
uemura上村祐子●1979年東京都品川区生まれ。元書店員。2016年、結婚を機に兵庫県淡路島玉ねぎ畑の真ん中に移住。「やすらぎの郷」と「バチェラー・ジャパン」に夢中。はじめまして、風光る4月より連載を担当させて頂くことになりました。文章を書くのは久々でドキドキしています。淡路島の暮らしにも慣れてきて、何か始めたいと思っていた矢先に上野三樹さんよりお話を頂いて嬉しい限りです。私が、東京で書店員としてキラキラしていた時代、三樹さんに出会いました。お会いしていたのはほぼ夜中だったwと思いますが、今では、朝ドラの感想をツイッターで語り合う仲です。結婚し、中年になりましたがキラキラした書評を青臭い感じで書いていこうと思っています。