じめじめと雨が降り続くこんな日に、憂鬱な心を奮い立たせる音楽は如何でしょうか。
 
梅雨時の紫陽花は好きだけど、幼い頃からずっと雨の日は好きではありませんでした。雨粒が周囲から自分を遮断してしまう気がして、頭が痛くなるから。しとしと降り続く雨を初めて嫌いじゃないと思えたのは、雨にまつわる楽曲を好きになってからだったような気がします。
 
嫌いだったはずの物事が、いつの間にか好きに変わっている。好きだとは言えなくても、想い出深いものになっている。そこにはいつでもイヤフォンと、とっておきの音楽が在りました。マイナスな出来事や感情を、少しずつプラスの方向に変えていく。今回は、そんなパワーを貰いたい時にぴったりの音楽、“ブルース”についてのお話を。
 
ブルースとは、そもそもどんな音楽なのでしょうか。多分、私のように邦楽ロックに馴染みがあるという方は、先日少しだけ触れたa flood of circleの名前が浮かぶのではないかと思います。一言で言えば、ブルースとは、“怒りや悲しみを音楽に昇華することで、生きる糧に変えていく為の音楽”。もっと言ってしまえば、ブルースは“娯楽ではなく、生きていく為の手段として存在する音楽”です。
 
元々は19世紀後半頃、西アフリカに在住していた黒人が労働力のために奴隷として連行され、厳しい労働の中、歌うことで自分たちを奮い立たせた、そんな労働歌が元になっているブルース。“blue”はアメリカで悲しみや孤独を暗喩する色として使われることが多いらしく、そのことからも如何に強い負の感情が込められているかが伝わってくるようで、恐ろしいような、逆に怖いものみたさが顔を出すような、なんとも言えない気持ちにさせられます。

強い負の感情は、抱えていれば消耗するけど、上手く活用できればとんでもないエネルギーを得られる。ただ、欠点を長所に変えるのが難しいように、マイナスの感情をプラスに変えるのは容易ではありません。ブルースというジャンルが広がったのは、1903年、黒人の生演奏に出会わせたW・C・ハンディがその場の音を譜面に起こしたのがきっかけだったそうですが、初めてブルースの大元を作り出した人は、持て余した負の感情を如何にプラスの方向に持っていくかに、私たちと同じように悩み、結果として音楽が持つパワフルなエネルギーに目を付けたのではないでしょうか。
 
一括りにブルースといっても、ロックンロールがギターロック、ピアノロック…とちょっとした違いで分けられているように、ブルースにも様々な細かいジャンルが存在しています。今回ピックアップするのは、1930-1950年頃・第二次世界大戦の時に大移動を繰り広げたアフリカ系アメリカ人が南部からシカゴに持ち込んだのが起源と言われる、“シカゴ・ブルース”。路上やライブハウスでの演奏も展開されていたそうなので、比較的ブルースの中でも馴染みやすいジャンルになるのではないかな? と思います。
 
労働歌のイメージも強いブルースですが、“シカゴ・ブルース”が披露されていたのはライブハウスは元より、路上など、今のライブハウスシーンで活躍しているバンドにも通ずる場所。歴史のあるジャンルだからこそ、詳しい背景は話し出せば本当にキリがないので、今回はシカゴ・ブルースの父と名高い、1900年代に活躍していたマディー・ウォーターズさんをクローズアップしてレコメンドしようと思います。
 

 
彼は南部から仕事を求めてシカゴに移り住んだ黒人たちの1人。1番最初に注目を集めた「I Can’t Be Satisfied」という楽曲は、シンプルなメロディーに乗せて、都会に出てきても現実は上手くいかず、満足いかない現状に対して溜まった鬱憤をやさぐれた口調で吐き出している、そんな一曲です。捨て鉢なような、腹の底にある闘魂を感じさせられるような。実は私が初めて聞いたシカゴ・ブルースだったのですが、思ってた以上に生身の人間臭さがパッケージングされた音楽だな、と思いました。綺麗な音楽は知ってるけれど、それだけじゃ物足りない。もっと刺激的なものを見せて欲しいと思ってしまうのが人間の性。人間味を剥き出しに、飾らずに吐き出してくる彼の音楽は充分刺激的に思えたのです。
 

 
上手くいかない現実を歌ったかと思えば、「I’m Ready」ではダブルミーニングを使ってセクシャルな表現をしてみたり、その音楽的な天真爛漫さは何処と無くWANIMAにも通じるものがあるような気がします。彼らの気取らない態度に多くの若いリスナーが惹きつけられていったように、昔から脈々とブルースが愛され続けてきたのは、国境や人種に関わらず、沢山の人が100%の純度で送り出された音楽に親しみを覚え、共鳴し、惹きつけられていったからこそなのかもしれません。
 
今回、ブルースというジャンルに焦点を当てて気付いたことは、案外掘り下げてみると知っているつもりだったことも違う意味合いを持っていたり、些細だと思ってたことが大きな発見に繋がることもあるということでした。きっと、あなたの目や耳を通せば、今回ご紹介した楽曲も全く違う表情を見せてくれるはず。意外と短い中にぎゅっとエッセンスが閉じ込められた楽曲が多いのもブルースの魅力だと思うので、是非、聞いたことが無かったという方は一度この機会に聞いてみてください。
 
ではまた来月、全く違う世界でお会いしましょう。
ここまでのお相手は渡辺 真綾でした。お付き合い頂き、有難う御座いました!
 
 
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《追伸》
今回のお写真は紫陽花にしてみました。花言葉は“辛抱強さ”。苦しみに耐えた後で、ぱっと華を咲かせたマディー・ウォーターズに、尊敬の意味も込めて。
 
 
 
 
 
 


 
watanabe渡辺真綾●1998年10月13日生まれ。名古屋在住の大学1年生。年間のLIVE総数が100本近くなるほどのミュージックフリーク。バイタリティーだけを武器にあちらこちらのライブハウスに出没しています。音楽以外にもビーチコーミング / 動物園・水族館巡りが大好き! もしオススメの貝殻が落ちてる海があれば、是非教えてください。今年は色んなことを楽しみながら頑張る一年にしていきたいと思っています。宜しくお願い致します!