■『BUTTER』柚木麻子著 新潮社


 
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とてつもないものを読んでしまった。読後、何にも手がつかない。
物凄いカロリーを使った気がする。久しぶりに、「物語」の中にどっぷり浸かることができた。
 
主人公の30代週刊誌の女性記者である里佳は、男たちから次々に金を奪った末、
三件の殺害容疑で逮捕された女・梶井真奈子、通称「カジマナ」を取材する。
木嶋佳苗被告をモデルにした話というのは読む者全てが気づくだろう。
彼女に取材を重ねるうちに振りまわされ、コントロールされていく姿は「羊たちの沈黙」を彷彿とさせる。
レクター博士は、男だから良かった。女同士は、やはり容赦が無い。しかも、同年代の女同士であれば必然に。
里佳自身の抱えていた問題、父との関係、腐れ縁で社内恋愛中の彼氏との関係、
学生時代からの親友との関係性について追求されていく。
 
取材しているはずが、かさぶたを剥がされるように傷ついていく主人公。
けれど、傷ついても逃げださず、カジマナの犯行の本質を追っていく。
 
しかし、この物語の読みどころは記者との犯罪者の会話劇だけでない。
 
物語の後半は、里佳の親友である伶子との関係性がより濃く描かれていく。
伶子は、キャリアを捨て平凡でヘルシーな男性と結婚する。完璧な主婦として家事をこなし、妊活のために人生を捧げていく。
この二人の距離感は、女友達特有のウェットな感じが絶妙だ。
女友達同士というのは、恋愛と同様で愛する側、愛される側に必ず分かれると思うのだけど伶子の愛情は重く、
里佳がどう応えていくか夢中になった。
 
複数のテーマが含まれている物語だが、「女同士の友情」が鍵になっていると思う。
カジマナは男が何をしたら喜ぶか十代の頃から研究してきた。それこそが、女としての幸せを勝ち取ることができる。
しかし、彼女には一人も女友達がいない。利害関係のないかけがえのない友達。
女友達が作れない自分に、満たされていなかった気がしてならない。
 
私は、結婚して東京を離れ、気安く会える友達が一人もいない。
LINEやメールがあれば淋しさを感じずに生きていけると高を括っていたが、女友達の不在は耐えがたい。
意味や答えを求めずに話がしたい。愚痴が言いたいだけなのに。
こればかりは、夫では代替不可である。
 
柚木麻子が描く世界は、まさにバターの様に濃厚で胸やけがする。
しかし、このうっとりと落ちていく感じがたまらない。
やはり、マーガリンは偽物なのだ。
軽さや、ヘルシーさで選んでしまっては満たされない。
いつのまに、後者を選択してしまったのかなぁと気づかされた。
 
文学は、時に人を傷つけるが、自己の内在した問題を提起してくれるやはり素晴らしいものである。
眠れない、夏の夜にぜひ読んでもらいたい一冊です。
 
 
 
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淡路島の夏の風物詩、玉ねぎ小屋の吊るし玉ねぎです!

 
 
 
 
 


 
uemura上村祐子●1979年東京都品川区生まれ。元書店員。2016年、結婚を機に兵庫県淡路島玉ねぎ畑の真ん中に移住。「やすらぎの郷」と「バチェラー・ジャパン」に夢中。はじめまして、風光る4月より連載を担当させて頂くことになりました。文章を書くのは久々でドキドキしています。淡路島の暮らしにも慣れてきて、何か始めたいと思っていた矢先に上野三樹さんよりお話を頂いて嬉しい限りです。私が、東京で書店員としてキラキラしていた時代、三樹さんに出会いました。お会いしていたのはほぼ夜中だったwと思いますが、今では、朝ドラの感想をツイッターで語り合う仲です。結婚し、中年になりましたがキラキラした書評を青臭い感じで書いていこうと思っています。