2011年、メイジャー・デビュー10周年を迎えた氣志團は6月から、極東ロックンロール・ハイスクールと題した対バンを行ってきた。メディアで大きくとりあげられることもあまり無かったので、氣志團のファン以外では、そんなに知られていないイベントだったのかもしれない。けれど、この対バンイベント、それはまあ、そうそうたるメンツを相手に繰り広げられたのだ。例えばDragon Ashや10-FEET、氣志團からみれば大先輩のニューロティカ、怒髪天、ユニコーン、藤井フミヤや吉川晃司、さらにはザ・クロマニヨンズまで。意外なところでは、ナイトメアやPlastic Tree、ゴールデンボンバー。アイドルからはももいろクローバーZ。とにかく、あらゆるジャンルの、いわゆる“ヤバい人たち”とのガチンコ対バンが、ラストのvs DJ OZMAまで約30本戦い抜いかれた。

ほとんどの対戦が首都圏のライブハウスで行われたため、地方組のファンは涙をのんで諦めた対戦もあったはず。なにせこれだけのメンツだ。私も全部見たいのが正直なところだったが、これだけは見逃すまいと渋谷まで足を運んだ一戦がある。

2011年11月24日。この対バン・シリーズにJが登場したのだ。LUNA SEAのJだ。氣志團とJはイベントなどでも一緒になることはほとんどない。おそらくこの対バンは、ろくに面識もツテもない大先輩Jに、氣志團側が本気で頭を下げてオファーし、勝ち取ったものであろうことが想像できた。

そしてJは、J自身がカッコイイと思える相手、カッコイイと思えるイベントにしか出ない。おまけに対バンとなると、相手が後輩だろうが何だろうが、手加減なんて一切無し。いつも通りのステージを魅せるはずだ。あの、最強のファンとともに。そんなJに氣志團がどう挑むのか。これは見なきゃ嘘でしょう!

というわけで、2011 年11月24日SHIBUYA AX。開演の19時ほぼきっかりに客席が暗転すると、ステージ上手で氣志團の弟分アイドルユニット、微熱DANJIによる寸劇が。キッシーズ(氣志團ファンのこと)にはお馴染みだが、パイロズ(Jファンのこと)からすれば、なんじゃこりゃ?な展開。しかし見事に笑いを誘ってみせる。こういうところ、本当にぬかりない。
そしていよいよ本編がスタート。先攻はJ。いつものようにバンド・メンバーを引き連れて登場し、手にしていた水をペットボトルごとフロアへ投げ入れる。低めにベースを構え、フロアを見据えながら腕を挙げる。その存在感たるや…無敵すぎる。ロック・ヒーローとはこのことだ。彼がステージに立っているその佇まいだけで、胸のドキドキが止まらない。

 一発目に「break」を投下、爆音でオーディエンスを挑発する。そしてこのイベントに呼ばれたことへの感謝と、自分が呼ばれたからには、盛り上げて帰るぞ!という決意を語り、「はじめて俺たちを見る人も多いと思いますが…そんなの全然関係ねぇぜー!」とキッシーズを煽る。本当にJのステージは、打ちのめされるほどカッコイイし、はじめましての相手だろうが、容赦なくぶちかます。それは同時に、はじめて見た者もみんな受け入れることができる、Jという人間の懐の深さでもある。

また、「いつも来てるヤツら!お前ら腕の見せどころだなー!」とニヤリと煽ると、「任せろ」と言わんばかりに全力で応えるパイロズ。さすがと言うべきか。彼らもまた、はじめましての相手を快く受け入れる温かさを持っている。相変わらずJのファンは頼もしすぎる。

「BUT YOU SAID I’M USELESS」ではパイロズが中指を立て、声を揃え「FUCK YOU!」と叫ぶ。「RECKLESS」でのハンドクラップ、そして「PYROMANIA」でのライター着火と大合唱。絶景だ。もはや対バンだということを忘れてしまうほど、AXを完全にJのホームにしてしまっていた。この半端じゃない一体感を見せつけられたキッシーズたちも、「負けていられない!」と火がついたのではないだろうか。まさしく“着火”完了させたJ。ラストは「Feel Your Blaze」で、圧巻のステージを終えた。

 後攻は氣志團。の前に、再び微熱DANJIが登場。本日2度目の爆笑寸劇を披露。もちろんJを立てて氣志團をいじる自虐ネタで。どこまでも身を削る氣志團側の演出に脱帽する。

いよいよ氣志團の登場。お馴染み「BE MY BABY」をSEに6人が定位置につく。始まった曲は「房総スカイラインファントム」。翔やんと光ちゃんのビシッと決まった振りに合わせてキッシーズも踊る。続く「ゴッドスピードユー」と「キラキラ」で、「なんだこれ?」といった様子を隠しきれなかったパイロズたちも、徐々に体を揺らし始める。そして、翔やんとキッシーズのコール&レスポンスと長いMCコーナーへ突入。「カッコイイー!」と黄色い声をあげるキッシーズに対して翔やんは、「そんなこと言ってるおまえたちは、俺にとっては可愛い可愛いキッシーズだけど、世間から見たらイタイ子なんだよ!今日はJさんのファンで初めて氣志團を見る人も多いんだから、言葉を選べ!」と自虐的にキッシーズをいじり、「世間的にはどうかわからないけど、私たちにとってはカッコイイー!って言いなさい。さんはい!」と煽るが、キッシーズの掛け声は見事なまでにバラバラ(笑)。翔やんはすかさず「おまえら!さっきのJさんのステージ見てただろ!あの一体感を!拳あがる瞬間みんな一緒だっただろ!」と突っ込む。それを見て爆笑するパイロズたち。こんな自虐的MCも全て、その笑顔のためだけにあると言っても過言ではない。「俺たち絶対、ここにいる全員と両思いになってみせる!」という、冗談か!と思われるようなこの誓いも、氣志團は大真面目に言っているのだ。はじめましての相手だろうが絶対に心を奪ってみせる。その姿勢には確かにJと通ずるものがある。

中盤では、切なく美しいナンバー「21世紀パラダイム」や、元々インストバンドだった氣志團ならではの「房総与太郎組曲~Quarrel Bomber~」を披露したり、フロントの2人が抜け、ギターのランマがボーカルをとったりと、氣志團の多面的な部分を打ち出す。個人的には、「夢見る頃を過ぎても」や「BOYS BRAVO!」「鉄のハート」、「黒い太陽」などの氣志團が持つキラー・チューンをガンガン投下したほうが、ド・ストレートしか投げないJとの対バンには相応しいのではないかと思ったのだが、自分たちが知っていたイメージとは少し違った氣志團に触れ、パイロズたちはざわつき出していた。そう、氣志團って面白いだけじゃないんです。結構真面目なロック・バンドなんです。

後半戦、学ランから特攻服に着替えたフロント2人がステージに戻れば、「俺たちには土曜日しかない」そして「One Night Carnival」が。さすがにこの曲はフロアのほとんどが振りを真似して踊っていた。が、ラストの大サビではやはり歌詞を知らないパイロズは歌わない(というか歌えない)。それを見て翔やんは「ここから先は独り言です」と前置きしつつ、曲の途中だということもお構い無しで、長~いMCに突入。
「全員が歌わないなら、Jさんの家のポストに弱った鳩を2羽いれる!ワイルドに見えても実は繊細なJさんのことだから、きっとその鳩を見て心を傷めて、旅にでるだろうな!旅に出たらもう二度とJさんに会えなくなるぞ!後輩バンドの唯一のヒット曲を歌わなかったがために、Jさんに会えなくなってもいいのか?」とパイロズを脅し、キッシーズとともに大サビを合唱することを強要(笑)。翔やんに歌詞を叩き込まれたパイロズは「もう、あんたには負けたよ」と言いたげ笑って、「恋しているのさ~」と歌い出す、とともに演奏も再開。ラスト「ゆかいな仲間たち」をもって氣志團のステージは終了した。

アンコール、氣志團6人がステージへ戻る。そして改めて、今夜実現したJとの対バンの思いが、翔やんの口から語られた。「氣志團メイジャー・デビュー10周年としてこの対バン・シリーズを企画しました。今年はJさんも、ソロ活動14周年のアニバーサリーで、もしかしたら今だったらオファーしてもありかもしれない!もしかしたら!と、ほとんどダメもとで図々しくもお声をかけさせていただきました。だってさ、普通に考えたら俺らみたいな、言うたらインチキバンドに、一流アーティストであるJさんがわざわざ降りてくる必要なんて無いんだしさ」と、あまりに素直な思いを告白。「いつかタイムマシンができたら、〈ROSIER〉のベースを必死で練習していたあの頃の俺に、頑張ってればいつかJさんと対バンできるぜ、って耳打ちしたい」と笑った。そして、「図々しいついでに、Jさんに、1曲ご一緒していただけませんか?とお願いしたところ、ご快諾いただけました!改めて、Jさん!」とステージにJを呼び込む。大歓声の中現れたJはマイクを手に氣志團への感謝の言葉を述べた。そして、恐縮しきりの翔やんが「ちなみにJさんは私どもの存在はご存知だったのでしょうか?」とたずねると、「もちろん。氣志團のデビュー前から、うちのスタッフの間でも、物凄いバンドがいるって話題だったからね」とJは答えた。

氣志團×Jのセッション曲は、「MY WAY」。Jが英詞で1番を、翔やんが日本詞で2番を歌う。Jは氣志團の楽器隊とアイコンタクトをとりながら演奏したり、フロアを指さしオーディエンスとも目を合わす。そして、Jが翔やんの肩に腕をまわして一緒に歌ったシーンは、間違いなく今夜一番のハイライトだった。最後に翔やんは「みんなのお陰で夢が叶っちゃいました」と満面の笑みを浮かべて見せた。その一言に、今夜のすべてが詰まっていた。

綾小路 翔とは欲深い人間だ。人の何倍も大きな夢を、いくつも抱いている。しかもそれを本当に叶えてしまう男だ。というか叶えなければ気がすまない性分なのだ。諦めを知らない男。例えばたったひとつの笑顔を生むために、彼はどんな努力も惜しまない。今夜の、Jのステージと氣志團のステージが始まる前の、微熱DANJIによる寸劇。この日は対バン相手がJであることから、リカちゃん人形ならぬ、J人形が飛び出したり、微熱DANJIのぺーやんがJのコスプレで登場し、キッシーズのみならずパイロズが爆笑して拍手を送る瞬間があった。Jから氣志團へのステージ転換時には、フロアのBGMとしてJ曲のリミックス・バージョンがかかっていた。(しかもかなりカッコよかった)初めて耳にするそのリミックスにパイロズは聞き入る。

後日、雑誌のインタヴューで知ったのだが、これらは全て氣志團側がこの日のためだけに準備したもの。楽屋にもJのお気に入りを徹底的に調査した差し入れがされており、更には、この対バン・シリーズ約30本全てで、このような、対戦バンドに合わせての、氣志團側からの計らいがされていたそうだ。全ては自分たちのファンと、相手側のファンを楽しませるため、そして対バン相手への愛と最大限のリスペクトを示すため。氣志團のこの徹底ぶりには、本当に感心する、というか、惚れ直した。エンターテイナーとしての氣志團のプライドはやはり一級品だ。こうして氣志團は今夜、キッシーズのみならず、パイロズ、そしてJの笑顔を掴んだ。

綾小路 翔はこうやっていくつもの大きな夢を叶えてきたのだ。どうせ夢を叶えるなら、絶景を見たい。自分にしか見られない景色、自分にしか見せられない景色を愛するものたちに見せたい。これこそが、綾小路 翔のアイデンティティであり、氣志團の核だ。無敵のロック・ヒーローJにガチンコでぶつかり、見るものにこれほどの笑いと感動を与えてしまう氣志團。彼らもまた、無敵のロックンローラーなのだ。

おがわ・あかね●1988年12月18日生まれ。京都府出身。好きなアーティストは、氣志團、LUNA SEA、DIR EN GREY、hide、BUCK-TICK、中田裕二、lynch.など。2004年3月30日、京都駅ビル大階段で初めて氣志團のGIGを見て衝撃を受ける。氣志團が活動をストップした2007年、喪失感の中、音楽雑誌を読みあさる日々を送り、誌面を通して、Jさんをはじめ多くのアーティストと出会う。音楽ライターに興味を持ち、本気で音楽を伝える人になるべく奮闘中。ライブレポート中心のブログやってます。http://ameblo.jp/aka1644/