戸渡陽太●とわたりようた 福岡県出身、23歳。歌うたい。ギター弾き。

戸渡陽太●とわたりようた
福岡県出身、23歳。歌うたい。ギター弾き。


 
今やすっかりロックンロール好きが定着しつつあります私ですが、かつてシンガーソングライターに心酔した時代もあったのです。
 
私の音楽の始まりは、小学生の時に聴いたL’Arc~en~cielの「虹」。それがアニメの主題歌やテレビで視覚的に知るアイドルソング以外に、「音」に惚れた初めての体験でした。それから、GLAYに黒夢、THE YELLOW MONKEYと90年代の邦楽シーンの第一線に煌びやかに君臨するトップバンドたちを聴きながら小学校を卒業。この頃から、どんなアイドルよりも漫画の主人公よりも、私のヒーローはバンドマンでした。だから進学先の中学校に軽音楽部が無い事を知ってひどく落胆したのは今もはっきりと覚えています(笑)。それだけが原因ではないのですが、中学の3年間は私にとっては今も最も戻りたくない時間だったりします。思春期特有の人間関係に嫌気が差し、受験の為だけの勉強がつまらなくて、バンドはできなくてもせめて歌を歌おうと入った合唱部もなんだかしっくりこない。今思えば、所謂中2病と言われる年代性の流行病にやられていた訳です。そんな時に出逢ったのが、椎名林檎、鬼束ちひろ、Coccoという当時一大旋風を巻き起こしていた女性シンガーソングライターの存在でした。様式美に満ちたバンドの歌とは違い、彼女たちの歌は生々しかった。生と死や、性と愛、憂鬱、業…年齢と共に芽生えて来た誰にも言えない感情が、彼女たちの歌の中には当然のものとして存在していたのです。お小遣いを溜めて買ったCDをエンドレスリピートしては、進まない問題集の上に広げた歌詞カード。そんな時間だけが自分の中に渦巻くどうしようもない感情たちを肯定してくれていました。だから当時の私にとって彼女たちの歌は免罪符に近い存在だったのだと思います。高校に進学し、念願叶って軽音楽部に入ってバンドを組むと共に、だんだんと彼女たちの歌とは遠ざかる訳なのですが、当時のCDたちは勿論今も手元にあって。タイムカプセルみたいに、あの頃の記憶と感情を閉じ込めて、守っていてくれています。
 
 
何故こんな話をしたのかと言うと、私が再びシンガーソングライターという存在に強く惹かれてしまったから。今度は男性。名前は、戸渡陽太。既存のシンガーソングライターの概念を覆す、若き鬼才。平成のハイスペック流し。デカダンスで壮大なその世界観は、ロックンロール好きの方にこそ是非、堪能していただきたい。
 
 
ささくれが引っ掛かりそうな程、ガサついた声が食ってかかってきた。
動画サイトの四角い枠の中で着流し姿にアコースティックギターを携えた青年が物凄い剣幕でギターを掻き鳴らし、言葉を並べたてている。思わず、圧倒された。と、同時にこれはまた難儀な歌うたいが出てきたもんだ、心躍った。それが戸渡陽太という人に抱いた最初の印象だった。
 
 

 
 
私が観ていたのはこの動画。彼の代表曲「マネキン」のMVだ。まだあどけなさの残る容貌からは想像もつかない程に、使い込まれた風合いのしゃがれ声は貫禄と色気さえ漂わす。高校2年生でギターを始めるとすぐにライヴハウスに出演。福岡から長距離バスに乗っては東京のライヴハウスにも半ば飛び入りの形で出演をしていたという。ギターを一本背負って各地のライヴハウスを行脚するその様は、まさに“平成の流し”。しかもライヴハウス育ちの叩き上げとなれば、ロック心をくすぐられない筈もない。
 
勿論ライヴパフォーマンスも期待を裏切らないどころか、圧倒されるばかり。まずステージから発せられる音の圧が凄まじい。そして、実にライヴらしいライヴをする。同じ曲でも、会場や日によってまるで表現の仕方が違うのだ。その空間の空気を敏感に感じ取り、即座にそれを演奏に反映させる。その技、まさに熟練のジャズピアニストが魅せる即興の如し。百戦錬磨のライヴミュージシャンだからこそ、成せる業だと言えるだろう。
 
そして、丁度本日6月10日に満を持してセカンドミニアルバム『孤独な原色たち』が発売。前作『プリズムの起点』に続き、プロデュースは深沼元昭氏が担当する。更に先日、この新作を引っ提げての新規自主企画「戸渡陽太10番勝負」も発表された。戸渡陽太が名立たるミュージシャンと1対1の“勝負”を繰り広げるという。既にGREAT3の白根賢一、マシータ(ex BEAT CRUSADERS)、河村”カースケ”智康との“対決”が発表されているが、残り7人もどんなミュージシャンが登場するのか楽しみでならない。
 
では、早速待望の新作『孤独な原色たち』の全貌を明らかにしようと思う。
 
 
 
■2015.06.10 On sale戸渡陽太『孤独な原色たち』ディスクレビュー


 
 
戸渡陽太 2nd mini album『孤独な原色たち』

戸渡陽太
2nd mini album『孤独な原色たち』


 
 
01:世界は時々美しい
 

 
あたたかみのあるアコースティックギターの音色に、独り言のように肩の力が抜けた歌声がそっと重なる。その心地よい音の波に、思わず目を閉じてしまいそうになる。そんな穏やかなまどろみの中、<Life is beautiful>!高らかに叫ばれたこの一言が、まるで魔法の呪文のように世界を一変させる。新たに広がるのはそれぞれの理由を持った生命の鮮やかな色彩に彩られた大自然。その美しさに、本能が涙をこぼす。新たな作品の始まりにふさわしい1曲だ。
 
 
 
02:ギシンアンキ
 

 
世界は時々美しい>と高らかに歌ったすぐ後で、<僕なんてクソだよ>と毒づいて見せる。どうやら今回もただ耳馴染みの良い穏やかなアルバムで終わる気はないらしい。「マネキン」さながらのアグレッシヴなサウンドが、ヒリヒリとした殺気を放つ。人を信じ愛したいと願う“陽”の心と、傷付く事を恐れ疑う事を覚える“陰”の心の拮抗をぶつかり合うギターと歌が表現する。曲は終盤に向けて広がりを見せ、最後は<愛ってやつを信じたい 傷ついてもかまわない>と締め括る。
 
 
 
03:探せ
 
ジャジーなメロディと<探せ・探せ 愛を探せ>と繰り返すサビが一度聴いただけで耳に残る。2曲目の「ギシンアンキ」で葛藤の末に愛を信じようと決意した少年が、この曲で愛を探す旅に出る。そんな物語が隠れている様な気がした。その中で更に<僕は僕で 僕は僕じゃないんだ><このままでは僕が僕からどんどん離れてく>と揺れるアイデンティティを赤裸々に歌っている。この曲は5年後でも10年後でもなく、是非今、生の歌声で聴いて欲しい。
 
 
 
04:Y
 
「Y」というタイトルは一見すると<ゆらゆら揺れる>というサビの“Y”の様であるが、戸渡陽太の名前のイニシャルを冠したセルフタイトルの様にも思える。<目を閉じて潜り込め本当の自分の中を>と、自らの深層心理に没入するような歌詞も手伝って、ついそんな風に思いを巡らせてしまう。またこの曲は是非歌詞カードを見ながら聴いて欲しい。軽妙なリズムが印象的なサウンドの持ち味を壊さぬよう、歌詞カードの表記にも一工夫が成されている。
 
 
 
05:黄泉のゴンドラ
 
哀愁漂うスパニッシュなギターのリフが、遠い異国の曇り空を思わせる。『孤独な原色たち』という作品を通して語られるのは、己という存在の追求だ。そして自分という存在を一周巡ったあとで求めたのは<黄泉のゴンドラ>に揺られての<神様も知らない場所へ>の逃避。この結末に一瞬ドキリとするが、CDをリピートにして聴いているとこの後にすぐ「世界は時々美しい」が始まる。ゴンドラの行く先は、思わず落涙する程に美しい世界だったのだろうか。そんな風に思いを馳せて堪能するのも、また一興かと。
 
 

2015.03.06福岡the voodoo lounge

2015.03.06福岡the voodoo lounge


 
 
 
戸渡陽太氏は、あらゆる時代の世界中の音楽や文学に造詣が深いとのこと。だからだろうか、今作『孤独な原色たち』を聴くと、なんだか時間旅行、世界旅行をした気分になる。幽体離脱した自分がふわふわと空に浮かび、色々な時代の色々な国を旅するような…。そんな不思議な体験を皆さまも、是非。
 
 
戸渡陽太 OFFICIAL WEBSITE http://www.towatariyota.com/
 
 
 
 
 


 
_vPmFu_0_400x400イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。『MUSICA』鹿野淳主宰「音小屋」卒。鹿野氏、柴那典氏に師事。6月は「しゃちほこロック」活動強化月間! 今月紹介した戸渡陽太さんも出演した名古屋のサーキットイベントSAKAE SP-RINGのレポートや「YUMECO REACORDS」でも紹介したあのバンドのインタビューなどなど! 「しゃちほこロック」(http://syachirock.jp/)もぜひごらんください!