コノサカヅキヲ受ケテクレ ドウゾナミナミツガシテオクレ

 

ハナニアラシノタトヘモアルゾ 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 

(于武陵「勧酒」/訳:井伏鱒二『厄除け詩集』より)

 
 
薄紅の季節、皆様如何お過ごしでしょうか。風が吹くたび、一枚二枚と花弁が舞う。髪についた花弁をつまんで微笑む者、見上げた満開の桜の美しさに息を飲む者。桜吹雪の通ったあとは、ほんの少しだけ和らいだ空気が満ちてゆく。別離と邂逅に見舞われざわつく春。それをなだめる様に、桜吹雪が春を撫でてゆくのだろうか。なんて、ちょっとセンチメンタルに始めてみました。
 
春は変化の季節。器用さを欠いた人間としては、少しばかり苦手意識を持ってしまうこの季節。できるだけ穏やかに過ぎ行くことを毎年祈っているのですが、この原稿を書いている真っ只中に早速或るバンドがメンバーの脱退を表明…。どうやらこの今年の春も一筋縄では行かない模様です。けれども運命的な遭遇もありまして。今回は私がこの春に出逢ったロックンロールバンドのお話です。The Doggy Paddleと言います。以後、お見知りおきを。
 

2015.03.24さいたま新都心VJ-3 Photo by maki kamacra

2015.03.24さいたま新都心VJ-3 Photo by maki kamacra


 
最高に狡いロックンロールに出逢ってしまった。
その名も、The Doggy Paddle。
 
 
 「クドリャフカ」

 
<愛で満たす試験管 / 溢れ出してこぼれたメロディが / カラシニコフ抱えた兵隊を蹴飛ばして逃げ出した>イントロも無しに煤けたしゃがれ声がこう告げる。バスドラムが行進する軍靴の足音よろしく一定のリズムを刻み続ける。ガレージ・ロックのささくれた色気とグラム・ロックのノスタルジーとロマンティシズム。歌謡曲の整ったメロディラインと邦楽ならではの寓話性のある日本語詞。それはあまりにも完璧なロックンロールだった。それもその筈、The Doggy Paddleの公式HPのbiography にはこんな宣戦布告が掲げられているのだから。
 

なまぬるいポップスよ
さようなら
しゃがれた声と鋭いリフ
エイトビート
これはロックンロールです

 
The Doggy PaddleはVo / G 恵守佑太、G 横道孟、B 大澤速人、Dr 中村虎太郎という1988年、1989年生まれの4人によるロックンロールバンドだ。ライヴ活動に於いては年に複数回ブッキングに拘った自主企画ライヴを開催し、バンドマンの間では“難しい”と言われる名古屋の地でも成功を収めている。彼等のライヴは至ってシンプル。しゃがれ声に、煙まみれのメロディ。咽び泣く哀愁のギターリフ。獣のビート。ただひたすらステレオタイプのロックンロールバンド然として、ステージに立つ。それ以上でもそれ以下でもない。派手な衣装もなければ、MCも上手くない。バンドとして華があるかと言われれば、それもあんまりない。けれど、彼等のライヴを観ると自分の中にあるロックンロール欲求が綺麗に満たされていくのが分かる。思わず格好良いと唸ってしまう。演奏が、楽曲が、“これがロックンロールです”と語りかけて来るのだ。
 
 

2015.03.29下北沢Daisy Bar Photo by 清水梨加

2015.03.29下北沢Daisy Bar Photo by 清水梨加


 
 
CDリリースについては自主レーベルを立ち上げ、現在までに2枚のミニアルバムを全国流通させている。その質の高さには、正直度胆を抜かれた。全曲がキラーチューン。これは過大評価でもなんでもない。CDを聴いてこんなにも高揚したのはいつぶりだろう。2014年3月に発売された『SPACE FLYING DISC』は、先述の楽曲「クドリャフカ」の由来であり、宇宙船スプートニク2号に乗って宇宙に行き、帰ることのなかった犬、“ライカ犬”の悲哀を軸とした宇宙がテーマのコンセプトアルバムになっている。The Doggy Paddleの楽曲の殆どはヴォーカルギターの恵守によるものなのだが、彼の描き出すモチーフがとても興味深い。「クドリャフカ」のMVに使われている銃、カラシニコフのモデルガンは彼の私物らしいし、好きな映画監督には『ゴッド・ファーザー』シリーズのアル・パチーノを挙げる。27歳の趣味趣向としてはなかなかの傾きっぷりだ。ギター横道のブログによると、恵守は他にも“第一次世界大戦時アメリカ軍が使ってた折り畳みベッド”や“1930年代のヨーロッパのおもちゃ(かわいくないむしろ怖い)”も所有しているという。成程。ノスタルジックでお伽噺の様で、尚且つミリタリー感もある彼の独特の世界観の正体が少し理解できた気がした。
 
 
 「象牙のスタンピード」

 
 
そして今年3月。新たなミニアルバム『FLASH POINT』が発売された。前作『SPACE FLYING DISC』が寓話性の強いコンセプトだったのに対し、『FLASH POINT』は脂の乗ったバンドサウンドが容赦なく攻め入ってくる硬派なギターロックアルバムと言ったところか。全6曲をかけて、4人の血統書つきロックンローラーが“ロックンロールとは何ぞや”を徹底的に教えてくれる。『FLASH POINT』それは“着火点”。このアルバムを引っ提げてのツアーは先月の29日下北沢Daisy Barで大団円を迎えた。このアルバムの楽曲や、彼等のライヴの質の高さは、皆理解しただろう。だから問題は次の一手だ。各地にばらまいてきた火種を、次はどこまで爆発させられるか。それにかかっている。
 
The Doggy Paddle。
 
犬死になんか御免だよ。
 
無様でも良い、その名に恥じぬよう足掻いてくれ。
 
遠吠えのロックンロールを聴かせておくれ。
 
最高のロックンロールを。
 
 
 
The Doggy Paddle Official HP http://thedoggypaddle.jp/
 
 
 
 
 
_vPmFu_0_400x400イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。『MUSICA』鹿野淳主宰「音小屋」卒。鹿野氏、柴那典氏に師事。今回のThe Doggy Paddle。彼等との出会いもまた、色々な方との繋がりにより生まれたものでした。今年のYUMECO RECORDSのテーマが〈更なる広がり〉〈更なる繋がり〉なので、これはうってつけだと。いつも唐突に「マイさん好きそう」って色々な音楽を見つけてきてくれるA嬢。ライヴハウスで出逢った色々な方。Twitterやブログ、この連載で私の文章を読んでくだる方々。尊敬してやまないライターの方々。どこにも属さず、プロとも言い切れない曖昧な私がこうやって色々と書かせていただけるのも、そんな皆様のおかげでしかありません。本当にありがとうございます!