入学式、体育祭、文化祭…。学校に大きな行事はいろいろあれど、卒業式もそんな大きな行事の一つ。今の勤務先は、特に県外へ進学する生徒たちがが多く、親や郷里との別れなどをこれからしなければならないので、それぞれが心なしか緊張しているように見えました。

『厄除け詩集』井伏鱒二

 

今年の卒業式はちょうど春一番が吹いた日で、私はT.M.Revolutionを思い出しつつ保護者の方々の誘導をしていました。そして、そんな仕事もひと段落すると思い出したのが、井伏鱒二の「「サヨナラ」ダケガ人生ダ」という一節。折角なので全部書くと以下のようになります。

 

コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 

かなり有名なものなのでどこかで読んだことはないですか。『厄除け詩集』や『井伏鱒二全詩集 』などに収録されてます。これ、唐代の詩人である于武陵の「勧酒」という五言絶句が元ネタですが、ここまでこなれてしまうと訳詩とは思えません。

 

 

『珍品堂主人』井伏鱒二

 

井伏鱒二というと、広島の原爆の関連資料して『黒い雨 』を読まされて苦手意識を持ってしまった方もいるかもしれませんが、彼は軽妙な作品も多く残しています。荻窪の土地の移り変わりを描いた『荻窪風土記 』や、骨董という世界の人間模様を描いた『珍品堂主人』などがお薦めです。

 

 

あと、井伏鱒二の弟子というと太宰治、庄野潤三、三浦哲郎などがいますが、私のイチオシは小沼丹です。とても軽やかな文章を書く人で、『小さな手袋 』や『椋鳥日記 』などを読んでいると不思議なおかしみを感じます。

 

『漢詩に遊ぶ』松下 緑

 

話が戻りますが、漢詩の訳詩集といえば、佐藤春夫の「車塵集」(『春夫詩抄 』や『車塵集・ほるとがる文 』収録)も忘れられません。文語体で書かれた訳詩からは、単なる書き下し文とは違う、別の詩の趣きさえ感じられます。

 

 

松下緑の『漢詩に遊ぶ』も漢詩の訳詩を集めたものですが、井伏鱒二や佐藤春夫などと比べると、ぐっとくだけた印象を受けます。でも、その分だけ身近に感じられるのではないでしょうか。

 

 

『少女は卒業しない』朝井リョウ

 

この他にも卒業式を思い出させるものといえば、竹宮ゆゆこの「とらドラ!」と、鴨志田一の「さくら荘のペットな彼女 」というのもお薦めです。どちらもライトノベルで、アニメ化もされています。ライトノベル特有のご都合主義がないといえば嘘になりますが、そんな部分を差し引いてみても読み応えのある青春モノです。何より高校生たちの好みを把握しなければならない私にとってライトノベルはとても役に立ちます。

そうそう、「とらドラ!」と「さくら荘のペットな彼女」のアニメの脚本を担当した岡田麿里が書いた小説版「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」も、少年期からの別れという意味で心に残る作品です。

 

 

あと、先日直木賞を受賞した朝井リョウが書いた『少女は卒業しない』もあげておきたいです。彼の作品はどれも質が高くて驚きです。

 

それと、加藤千恵の『卒業するわたしたち』は、学校からの卒業だけじゃないさまざまなパターンを意識させてくれました。ただ、なんといってもデビュー作である歌集『ハッピー・アイスクリーム 』の衝撃を私はいまだに忘れることができません。

『卒業するわたしたち』加藤千恵

 

 

 

 

 

 

私はいつも生徒たちに呼びかけるような気持ちで図書館の本を選んでいるんですが、この場を借りて卒業した生徒たちにはなむけの言葉を捧させて下さい。

私の選書という呼びかけに応えてくれてどうもありがとう。
卒業してからもどうかお元気で。

 

 

 

のま・つとむ●東京生まれ。米子在住。学校図書館に勤務。卒業式が終わったら、次は高校入試の準備……。3月はほんとに気の休まるひまがありません。そうそう、UNISON SQUARE GARDENが3月末に米子に来るので予習中です。それと、大好きなスガシカオさんのベストアルバム買いました。