2004年4月30日GOING UNDER GROUD“every place”ツアー・熊谷VOGUE公演。
私のライブハウス人生は、この日から始まった。


地元の駅から、荒川をわたって知らない街へ。バスで片道50分・550円の小さな冒険の記憶は、10年以上経った今でも鮮明に思い出すことが出来る。ステージの丁度真ん中、前から数えて3列目。モッシュにまきこまれながら、安いヘッドフォンから一音だってこぼすまいと真剣に聴いていた音楽がフルボリュームで鳴らされる圧倒的な幸福感に、10代の私は心のすべてを持って行かれてしまった。


なけなしのお小遣いで買ったタオルを握りしめて駅まで走った帰り道は、ステージを見上げた時のきらきらしたフィルターがかかったまま、今までとは全く違う景色が広がっていて、その魔法がとけずに、今日まで転がるように生きてきた。


いつからだろう。
私にとってライブハウスは、ただ音楽を楽しみに行くだけの場所ではなくなっていた。


社会での立場も生い立ちも性別も関係なく、自分が自分らしく居られる空間。
現実を生き延びるための堅牢な、それでいて誰にでも開かれているシェルター。
眼が眩むほどの強い光の中で、不格好でも格好良い音が、声が溢れている、心の拠り所。
どんなに言葉を尽しても足りないし、どうやったって伝えきれる気がしない。


ずっと憧れていた下北沢GARAGEは、いつしか心のホームになっていた。
地下へ向かう外階段、受付を通ってすぐに迎えてくれる小さなコインロッカーたち、太い柱を通り過ぎて見上げれば光を弾くシャンデリア、こじんまりしたドリンクカウンターの脇でガラス張りの冷蔵庫に並ぶアルコールやジュースの瓶、少し傾いた硬いフロア、ステージを見上げる、あの角度。
書きながらすでに懐かしい、と感じてしまうことが、叫び出したくなるほど寂しくて、どうしようもなく苦しい。


今は再開の日を待つしかないけれど、いつも仲良くしてくれるみんなも、いろんなライブで遭遇する名前も分からないあの人も、この文章を読んでくれている貴方も、それまでどうか、どうかお元気で。
生きて、できれば笑って、どこかのライブハウスでお会いしましょう。

 
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下北沢GARAGEの看板。裏側まで凝っているのが素敵。

 
 
 


 
image2フジサワ マキ●次のライブの日までを指折り数えながら日々をやり過ごしているモラトリアム社会人。最近のブームはワイヤレスイヤホンをつけてキッチンで踊ること。文中に出てくる下北沢GARAGEの支援、少しでも気になった方はこちらからご支援いただけると嬉しいです。‪https://motion-gallery.net/projects/garage‬