AM11:00前、この文章を書く前に散歩をした。
 
いつもより濃い水色の空の下、夏の面影が残る日差しの強さになんとなく太陽を見上げようとしたら、小さなトンボが1匹飛んでいた。透明な羽に少し深いグリーン色のからだ。
 
東京では思った以上にトンボがよく飛んでいて、数年前の今頃、夕暮れ時に20匹ぐらいの群れが大移動しているのを見た事がある。写真を撮るのも惜しいくらい美しく、感動したのを覚えています。まるで秋風に乗って、ふわふわ、ふわふわ、ビルなどあらゆる建物がオレンジの光に染まる中。当時住んでいた8階のベランダでボーっとしてた最中にその光景に気付いたので、「こんなに高くトンボ飛ぶの!?」ってびっくりしたんだよなぁ。
 
秋といえば金木犀の香りも花のカタチも上京してきてから初めて知った。幾つになっても知らないことだらけ。新鮮な景色は実はすぐ側にあって、視点を変えればいつだって出逢えるのかもしれない、ただ気づいてないだけで。
 
 
エナ連載5_1
 
 
連載「咲顔(エガオ)のつくりかた」読んでくれている皆さま本当にありがとうございます!
 
 
おかげで初回から様々な素晴らしいゲストに恵まれました。ホタルライトヒルズバンドのリュウジさん、徳ちゃん、小倉君、小野ちゃん。作曲家の小形誠さん、翻訳家の大木勲さん、ドラマーのマシータさん。
 
そしてYUMECO RECORDS主宰の上野三樹さん、さわこさん、写真家の田口沙織ちゃん。
 
皆さまと一緒に連載という1つのページに残させていただく事で、多くのことを学べてる事に感謝の日々です。毎回、こころの奥の方まで様々な言葉が染み込んでいく感覚を味わってます。
 
コラムから対談形式、その次は英語の資料を交えたり、演奏動画を編集をして載せてみたり。回を重ねる度に色々な挑戦&試行錯誤をしながらボリュームたっぷりでお届けさせていただいておりましたが今回は特別編を。
 
私の近況報告、そして最近1番こころ動かされた、腰が90度に曲がった最高に素敵なおばあちゃんとの出来事を書いていこうと思います。
 
 
エナ連載5_2

髪が…(笑)。

 
 
エナ連載5_3
 
 
9月7日、朝からフェス出演、そして夜はワンマンライブをさせていただきました。アコースティック編成、大好きな下北沢SEED SHIPで。題名は”誰も知らない”。本当にやってよかった、と思えたライブでした。(詳しい模様はエナホームページのブログに記載しています)
 
実はこのライブ、1ヶ月前とかに突然決めました。理由は色々あるのですが、中でも、大切なお知らせをいち早く、直接、話したかったからです。そして7日は3ヶ月ぶりに開催するライブだったので、発表するならお世話になってる場所で、と思って。
 
そのお知らせは、ワンマンにお越しいただいた方だけ先に知っていて、SNSや公式ホームページでは9月中に発表される予定のものです。私の音楽活動において、覚悟した前向きな大きな挑戦の話でした。きっとこの連載が公開される頃には発表されているか定かではなかったので、ここで記載するのは控えさせていただきます。ごめんなさい…(9月中にはお知らせされている予定なので是非コチラをチェックして下さい!)
 
当日お知らせを聴いてくださったお客様、仲間たち、みんなとても喜んでくれて本当に安心しました。正直言うと、ギリギリ本番前まで不安で仕方なかったんです。
 
ただでさえ、いつもワンマン前やライブ前は前日が1番モヤモヤして落ち着かない。
 
特に今回は転機を予感するような大事なお知らせの前日だったから、更にソワソワたまらなくなって、夕焼けでも見に行こうかなと散歩に出かけようとした。焦ってるせいか財布を忘れたことに気付く→数分進んだ場所から戻る自分に、「なんなのもうー!」と思いながらまた部屋をでて鍵をしめる。
 
 
エナ連載5_4
 
 
なるべく広く空が拓けてる公園を目指してマンションの目の前にある信号を渡り左側の歩道を早歩き。夕暮れに間に合うかな。
 
そしたら右側の歩道に、数回見かけた事がある、腰が90度綺麗に曲がっているおばあちゃんが、重たそうな荷物を抱えて歩いていた。
 
狭い歩幅で、せかせか、よろよろ、前から人がきたら目線は明らかにコンクリートなのに感覚で察知するのか、一旦ピタっと立ち止まり早めに横によける。すごい!! 関心しながら見ていたけど、やっぱり、なんだかよろよろがいつもより多い。数回見かけた中で1番不安定。
 
つい1時間前に、たまたま中標津に居る祖母から電話がきて話したばかりだったから、余計に色んな気持ちになって、いてもたってもいられず反対側の歩道に渡り、勇気を出して話しかけてみる事にした。
 
「あの、おばあちゃん、私も多分同じ方向行くので、もしよかったら近くまで荷物持ちます」
 
話しかけたとたん、「(あ、もしかしたらとっさに怪しいものだと怖がらせたら大変!)」と不安になり、「あの私怪しいものじゃないので安心して…」と言いかけたあたりでもうおばあちゃん、荷物を私に託そうとしてた。なんだ、案外あっさり(笑)!
 
『あら…じゃあ…』
 
少し身体をねじらせて私の方を少し見て、
 
『こんなに買うつもりじゃなかったんだけど、スーパー行っちゃうと、つい、いつも買っちゃって』
 
少し笑いながら、細く柔らかな優しい声で言った。
 
「そうですか。私も同じです。色々買っちゃいますよね」
 
『そうなのよね、つい』
 
初めて知り合ったおばあちゃんといつもの道を歩く。少し沈黙になったから、何話そうかなと思ってふっと空を見上げたら、半月が白い光で浮かび始めていた。真っ直ぐ前を見たら遠くに深いオレンジ色と薄いグレーの雲。
 
 
Shot with NOMO 135 M.
 
 
おばあちゃんには見えないんだよなぁとぼんやり思った時、話かけられた。
 
『こんなに買うつもりじゃなかったんだけど、スーパー行っちゃうと、つい、いつも買っちゃって』
 
さっきと同じ内容の会話だったけど、少し変えて返事してみる。
 
「わかります、毎回品物も色々変わりますしね。私ここら辺に住んでいて、おばあちゃんの事たまに見かけてたんです。いつも荷物抱えて元気に歩いてすごいです」
 
『あら…いつも土日は身内が来てくれて色々連れてってもらえるんだけどね、やっぱり必要なものがでてきちゃって』
 
「そうですか」
 
『娘が毎回お弁当持って行くから、作ってあげたくて。そしたらつい、あれもこれも買ってしまうの』
 
「わー! 娘さん幸せですね!」
 
『生まれた時から娘は障害を持っているもので、今も勤めているから、お昼はお弁当持って行くの。少しでも色々なもの作ってあげれたらと思って』
 
「そうですか、障害を…お近くに勤められてるんですか?」
 
『ダウン症なんだけどね。そう、近くの〇〇あたりで。もうすぐ娘は60歳になります』
 
「え、じゃあおばあちゃん何歳ですか!?」
 
『もう80過ぎなんです、うふふ』
 
おばあちゃんの歩幅で10分も経たないくらい、歩きながらそんな話をしてくれた。ご自宅の玄関まで持とうとしたけど、『1階だから大丈夫』と言われ、おばあちゃんの住んでる大きな団地の入り口で荷物を渡す。
 
『本当にありがとう』と繰り返しお礼を言ってくれるおばあちゃんに、「私こそ!」と言って、最後に「まだまだ暑いし無理せずいて下さいね」確かそんな言葉をかけた。
 
そしたらおばあちゃん、少し腰をあげて、
 
『頑張れるうちは、頑張ってみようと思うの』
 
優しいはっきりした声。最後まで目は合わせられなかったけど、とても楽しくて、さっきまでのモヤモヤ焦りが嘘みたいに晴れている自分に気付く。おばあちゃんの娘さんへの大きな愛情と、覚悟みたいなもの、そして最後にくれた言葉、たった10分で素晴らしいプレゼントを貰えた気がした。夕焼けは見れなかったけど、忘れたくない綺麗なものに出逢えた日。
 
あとは大変個人的な事ですが、私の母は介護福祉、ケアマネの仕事をしているので、とっても素敵な仕事に携わっているんだなぁと改めて思ったり。
 
私も、頑張れるだけ、頑張ってみよう。
 
 
エナ連載5_6
 
 
素敵なおばあちゃんの大きな愛情とか日々の勇気に背中を押されて、9月7日のワンマンライブでは私なりの決意を伝える事が出来た気がします。
 
おばあちゃん本当ありがとう、また会えたらいいなぁ。
 
次回からまたゲストをお招きして武者修行していきますので引き続きお楽しみに!
 
 
 
 


 
 
 
ena_yumeco_0_photoエナ●歌手 / 作詞作曲家。3月16日生まれ。北海道中標津町出身。心のまま音楽をつくる為に服飾関係の仕事を辞め、2013年5月から歌手として始動。自身の心に耳を傾け紡いだ等身大の歌は素直で温かく、雪解け水や澄み渡った大空のような自然のままを感じさせる。Liveでは毎回、様々なミュージシャンをサポートに迎え、繊細に感情を詰め込んだ詞曲でカラフルに音世界(ストーリー)を描いていく。自身のライブの他、学祭、フェス等に出演中。
HP: http://ena-official.com