私は音楽を初めてから、ほとんど“コード”というものをうまく理解できずに曲を作っていました。でも、去年からお世話になっている作曲家の小形誠さんに色々と教わったことがきっかけで、コード展開の楽しさや曲作りの可能性を感じることができ、楽曲制作をもっと面白がれるようになりました。
今回の「咲顔のつくりかた」第2回目はそんな小形誠さんをゲストに迎え、対談させていただきました。小形さんはYUKIさんや乃木坂46、PUFFYなどにも楽曲提供をおこなっている、すごい方なのです!

(撮影=田口沙織 編集=上野三樹)
 
 
①スライド
 
 

1.出会い、脱サラからの作曲家人生の始まり


 
上野:そもそものお二人の出会いって?

エナ:誠さんとの出会いは、私が音楽始めた頃くらいだから5年前くらいでしょうか? この連載の第1回目にも名前が出ている、シンガーのまつもと尚こちゃんからの繋がりですよね。

小形:そうそう。尚ことは12年前くらいからの友人で。

エナ:わぁ長い!尚こちゃんに誠さん紹介していただいて、それからお世話になっています。そういえば誠さんって音楽の学校には行かれてたんですか?

小形:ううん、行ってないよ。四大に入って、就職して、脱サラして。

エナ:お幾つくらいから音楽始めたんですか?

②

小形:趣味レベルの音楽は学生時代にコピバン組んだり、そういうのはやってたけど、音楽家を本気で目指し始めたのは脱サラした時からだね。30歳までに何か結果が出なかったら音楽辞めるって決めて、27歳で仕事を辞めて、本格的に活動を始めたんです。

エナ:3年で覚悟を決める事が本当凄いです! 3年なんてあっという間じゃないですか。

小形:運が良いのか悪いのかギリギリで結果が出てしまい(笑)。

エナ:それがまたドラマチックですごい(笑)。
 
 
 

2.普通じゃダメだと思った、「チャイニーズガール」


 
1番初めはjealkb(ジュアルケービー、田村淳さんボーカルのバンド)の「makemagic」(6th Single / 2010年1月20日発売)で作曲デビュー、その後YUKIさんの「チャイニーズガール」(5th Album『うれしくって抱き合うよ』収録 / 2010年3月10日発売)がリリースされます。

エナ:「チャイニーズガール」、大好きです。

上野:YUKIさんの曲でもなかなかの変化球な曲ですよね!

小形:あの曲、実は、作曲家として楽曲制作を始めて、割と早い段階で出来た初期の頃の曲なの。色々と「どうすればいいの?」って状態で作った曲なんだよね。「チャイニーズガール」は確かに、今聴いてもなかなかの変化球。なんか単純にね、普通じゃ決まらないと思ってたんだよね、あの時。

エナ:へぇ~!!!

③

小形:YUKIさんのいちファンとして昔から好きで聴いてたし、楽曲のクオリティが高く、メロディラインにアレンジも、全体的に音楽レベルが高い中で、真っ正面というか正攻法でぶつかっても楽曲採用を勝ち取ることはできないだろうと当時の自分は思ってて、それであの曲ができたんだよね。

上野:アルバム『うれしくって抱き合うよ』の中でも異色の存在感を放っていますね。

小形:全体的に生バンド主体ですけど、異色感ありますよね、エレクトロ感というか打ち込み感があるというか。
 
 
 

3.流れと波を意識


 
2019年1月ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ系)の主題歌にもなったYUKIさんの「やたらとシンクロニシティ」(2019年1月24日先行配信リリース、9th Album『forme』収録 / 2019年2月6日発売)。こちらも小形さんが作曲された曲です。その話から、誠さんが曲作りにおいて大切にされてる意識のお話へ。

エナ:「やたらとシンクロニシティ」ですが、誠さんの曲ってBメロがいつもとっても素敵。AメロからBメロの展開の仕方が、印象が違うのに、滑るようにいくっていうか。

小形:ああ~、ただやっぱ流れはすごい意識して作ってるよ。

エナ:なんであんな流れが作れるんだろう。

小形:例えば、名曲が3曲、超絶いいAメロの曲、超絶いいBメロの曲、超絶いいサビの曲があったとして、じゃあそれぞれのAとBとサビをいいとこ取りして合体させても、いい曲にはならないんだよね。それは結局は流れ。曲ってやっぱり流れがある。Aメロからサビまで線を描くイメージがあるとすると、パズルみたいに、今話した三曲のいいところバラバラにして持ってきたとしたら、ジグザグになっちゃう可能性がある。流れが繋がらない感じ。ちゃんとこのAメロだったらBメロはこうくるんだっていうメロディの流れを、繋げるイメージで作ってるから、スムーズに入ってくるのかも。

エナ:流れかぁ。

④

上野:「やたらとシンクロニシティ」だと最初の始まりは点のイメージ(Aメロ)、からの線のイメージ(Bメロ)、それがちゃんと組み合わさって一曲になってるのが面白いなぁと。

小形:そうそう! どういう流れで作るか全体像を意識して作っているので、今まさしくおっしゃったように、Aメロはトントコトントコ。そして、この曲はサビがなんとなく最初にできていて。Aメロもサビも弾む感じ、じゃあBメロどうしようかな? って考えた時に、同じ特徴にならないように一辺ブレーキをつけよう、と思ってタンターン、タンターン、と、あえて長めの音符を入れた。その後にサビでトントコトントコくるとギャップが生まれて聴いてる方が気持ちよくなる。

エナ:飽きさせないように?

小形:そうそう。メリハリをつけないとダメだと思ってる。

上野:あと、サビ前も、こっからサビですよ、って合図もありますよね!

小形:そう、それは助走をつける、っていうか。

エナ:誠さん、そこ、すごく意識されてますよね。サビ前の助走。

上野:跳び箱で言うと踏み台を踏むところ。

小形:そうです! 流れを意識するってことは、つまり接続部分をどうするかってことで、そこはすごく考えるんですよ。AメロからBメロにいくとき、Bメロからサビにいくときの接続部分。そこが綺麗にいかないと聞いていて気持ち良くないし、逆にそこが上手くいくと気持ちよく聞いてもらえたり、流れで聞いてもらえる。

⑤

エナ:誠さん、自然な流れに加えて、サビにいく踏み台も沢山バリエーションある気がします。それがすごい。私よくそこ悩むんだよなぁ。

上野:やっぱりポップソングを作る上では、そこはフックとして必要な部分なんですか?

小形:そんな特別フックを入れようとか考えてるわけでは無いんですけど、それも全体の流れを見て、波みたいなものを意識してるかもしれないです。

エナ:波かぁー。やっぱりメロディやコード展開の波を考えるうえで、すごく単純な質問をしてしまうのですが、サビは1番必ず盛り上がるように考えますか??

小形:もちろん! よっぽどのことが無い限り、サビはそうするよ。keyも高めに持ってくし、テンション高く、1番MAXに持っていく感じ。あとはメロディに関してなんだけど、サビのメロディは、Aメロ、Bメロ、では使ってない音を使うようにしたり。

エナ:「やたらとシンクロニシティ」がそうですもんね。Aメロは低い音中心、Bメロは真ん中あたり、サビは高く。

小形:そうそう。逆に言えば、サビでこの音使っているから、Aメロではこの音使わない、とか。そういう計算はしてるよ。

エナ:そっかぁ、すごいなー! 必ずどこかで波をつけていくのを意識されてるんですね。

小形:基本はAメロからサビまで徐々に上げていきたいから、そういう曲が多いけどね。ただ、Aメロは低音域、Bメロは中音域、サビは高音域、それぞれの範囲だけで作ってしまうと単調になっちゃうから、大まかなくくりとして、あくまでこの範囲が中心、ぐらいで決めておいて、たまに飛び出したり色々工夫していく感じかな。
 
 
 

4.理屈よりイメージ力


 
エナ:やっぱり普段から色んな曲を聞いたりしてるんですか?

小形:他の作曲家さんに比べたら、もしかしたら全然聴いてない方かもしれないなぁ。「これ知らないの?」って言われたりする時もあるし(笑)。

エナ:そうなんですね、意外!

小形:Mr.Childrenばっかり聴いてる。

エナ:へーー!!!

小形:そういえば、YUKIさんの「STARMANN」って曲が決まった時に、この曲は転調を何度もしてる特殊な曲だからか、色んな作曲家さんから「よくあんな曲書いたね」って言われて。そして「普段どんな音楽聴いてるの?」とも聞かれたけど、毎回堂々と「Mr.Childrenとかです」って答えてた。きっと皆からしたら、特殊な曲聞いてるだろうなって印象だったんだんだろうね。

エナ:私も思ってました(笑)。なかなかあれだけ転調してる曲もない気がしますし。

小形:この曲もやっぱり普通じゃ勝てないと思って作ったんだ。

上野:いつも「STARMANN」を歌うときのYUKIさんの気迫はすごいです。

エナ:へー! 私もライブで聴いてみたい! ボーカルとしてもあれだけ転調してたらきっと歌うの大変ですよね。

小形:だと思う。

エナ:でもあんなに転調してても不自然さは無いじゃないですか。やっぱりその転調する接続部分、かなり意識されたんですか??

小形:うん、してる。

エナ:その秘密が知りたい(笑)!!

小形:秘密(笑)?

⑥

エナ:これ、私の個人的な話になってしまうのですが……曲作りする場合、詞を書いた時、言いたい事や情景も一緒に浮かんでるから、その詞に合うメロディを、と思って探しちゃうんですよね。

小形:詞先ってこと?

エナ:そうですね、そういう傾向が強いのかもです。メロディが先に沢山浮かんだとしても、方向性を決める決定権は言葉や詞にあるというか。でもそれだと最近、世界が狭くなってしまうな、と思って、去年から行き詰まりを感じるようになったんです。それこそ、曲の流れや接続部分にすごく悩まされるようになって。

小形:うんうん。

エナ:私は元々、コード付けもあまり理解できてない中で曲を作ってきたから、きっとそれにも原因があるんじゃないかと、このままじゃダメだと思って、それで誠さんにコード付けを教わりたいとお願いしたんですけど。教えていただいた時、ハッと気づいた事があって。そもそも曲を作る上で重きを置いている視点が、誠さんと私、全然違うことに気づいたんです。私は自分の描きたいもの中心だし、言葉を中心に置きがち。誠さんはその音楽が持つ流れを意識しながら、色々な人に様々な世界観の曲を提供されている。

小形:そっかぁ。

エナ:私、実は、畏れ多い発言かもですが、自分じゃない誰かにも曲を書いてみたい野望もあって。例えば誰かに曲を作るとき、流れを大切にする上で、例えばYUKIさんだったら好みそうなメロディ、key、似合うコード感など、分析したりして曲を作っているんですか?

小形:うーん、それよりは、イメージ力を大切にしてるかも。単純にYUKIさんが歌ってるイメージができるかどうか。それは凄く意識してる。どんなコンペでもそうだけど、例えばジャニーズ系だったら、ここは誰が歌って、とか、なるべく明確にイメージできるかどうかを大切にしてる。すごく良いメロディが出来たとしても「果たしてあの人が歌ってるかな?」ってイメージしてみて、違うな、と思えば却下するし。

エナ:ああ~。

小形:結局、相性だから。アーティストと楽曲って。だからYUKIさんはこういう曲が好きだから、って理屈みたいなものよりは、とことんイメージする。もしかしたら自然に歌いグセとかメロディのクセとか捉えてるかもだけど。
 
 
 

5.好きな曲にはいつだって発見が。


 
エナ:誠さんはコード感やコード展開もとても意識されていますよね。

上野:先ほどMr.Childrenがお好きだと伺いましたが、この曲のこのコード展開はすごい! みたいな曲って何かあります?

小形:ああ! 最近だと配信シングルになった「here comes my love」(2018年1月19日発売)って曲があるんですが、久しぶりにやられた感がありました。いつも毎回素晴らしい楽曲に感動するのはもちろんなのですが、今回ファンとしてもやられたし、作曲家としてもやられた気分です(笑)。
 
 

 
 
上野:特に凄いと感じた部分は?

小形:単純に自分にない引き出しを出された感じです。なおかつ素晴らしく良い曲なのがもう。

エナ:え! 気になる!

小形:大抵の曲は、こういう攻め方ね、と思う部分が、今回は自分には無い攻め方をされたからやられた感じです。それが何かっていうと、転調すると、だいたい上がるんですよ。だけど、この曲は最後下がってるんです。それで、マジか! と思って。

エナ:へー!!!

上野:確かに転調って更なる高揚感の為に使われる事が多いですよね。それが下がってるんですか?

小形:間奏部分で一回転調して上がったのが、ラストサビでまた転調して、なんと下がってて。上がったのに、元のサビのkeyに戻る。それがまたカッコいい!

エナ:それって聴いただけでわかったんですか?

小形:いや、色々調べて。ネットのコード進行みてたら気づいた(笑)。

⑦

エナ:(ネットのコード表見て)わぁ、本当に下がってる! あんまり聞いたことないな。普通はラストのサビに向けて上がる展開が多いですよね。

小形:うん。気づいたとき、転調して下がってこの高揚感が出せるんだ、って、改めて「音楽って深いな、自分はまだまだだな」と思わせてもらえた曲です。この曲もそうだけど、気になったり、カッコいいな凄いなと思った曲はコード展開を調べて分析しちゃう。もしかしたら、その積み重ねを繰り返してることが、自然と引き出しをつくっているのかもね。

⑧

エナ:やっぱり地道な積み重ねなんだなぁ。私が誠さんにコードのことを教わった時も、まず自分の好きな曲をC調にしてコード進行見てみると、どういう展開か、どこが変化球になってるのか、色んな発見があるから面白いよってアドバイスくれましたよね。

小形:C調にすると、わかりやすいからね。

エナ:ネットだと最近すぐに変換できますしね。それでたまに調べて分析してるんですが、本当色んな発見があるから面白い。アーティストによってクセとか好きな進行や変化球があって、かなり役立たせてもらってます(笑)。
 
 
 

6.いつか依頼させてください!


 
⑨上野:じゃあ最後に、今までの話を踏まえて、誠さんがもしエナさんに楽曲提供されるとしたら、どういう曲を作りますか?

エナ:わーい!

小形:おお! どういう曲かなぁ。

(じっくり考えてくれて沈黙)

エナ:先生お願いします!

小形:あははは!! だけどねやっぱりピアノが映える曲かなぁ、イメージだと。でも、もし書くとしたらそれこそ普通じゃない曲書くかもね。

上野:今のエナさんのイメージとはちょっと違う方向の曲ということですか?

小形:そうですね、今のイメージを少しずらして、ピアノとエレクトロをちょっと混ぜたような。

エナ:おおー!!

上野:良さそう!

エナ:私、エレクトロ系好きで割と良く聴きますから。

小形:そうなの? そういう楽曲ないもんね? 四つ打ち系とか、サカナクションとまでは言わないけど、そっち寄りの。

エナ:そうですね、無いですねー! 私、サカナクション大好きですし。

上野:それでちょっとダークサイドな歌詞で……。

小形・エナ:ああ~! ダークサイド(笑)。

エナ:書こうと思えば書けるんでダークサイド!

一同:笑

小形:あくまで生ドラムで四つ打ち感で、せっかく書くなら小形色でいきたいな。

エナ:もうぜひ!! 嬉しい! もう少し結果出したら是非依頼させてください!

上野:もう少し結果出したら(笑)。

小形:ぜひ雇ってください(笑)。

エナ:いやいやいや!! 雇うだなんてとんでもない! ちゃんと結果出して、いつかしっかり依頼させてください(笑)!
 
 
⑩
 
 
 
 

最後にエナから誠さんへ


音楽は言葉通り“音を楽しむ”もの、音楽の楽しみ方を存分にいつも教えてくれる誠さん。今回も沢山のお話をしてくださり、ここに載せたい内容がまだまだあったんですが泣く泣く削りました(涙)。


音楽がありふれている世の中、楽曲が選ばれ広がっていくことは本当に凄いことです。なのに、誠さんは全然偉ぶらないで、その音楽が出来るまでの経緯、楽しさ、発見したことなどいつも惜しみなく話してくれます。


コード付けを教えてくれた時も、今までのご経験を踏まえ丁寧に時間をかけて教えてくれて、私が「貴重なお時間をすいません……」とお伝えすれば『音楽の楽しさや面白さを共有出来る事が、何よりも幸せなことだから』とイケメンな返答が返ってきたくらいです。


ちなみに誠さん元々シンガーソングライター志望だったらしく(とても良い声です。是非ホームページから聞いてみてね)、毎回メロディは歌って作ると聞いたことも、今では大切にしてる教えの一つです。ちゃんと自分で体験して作るメロディは説得力あるもんなぁ……。


曲作り、って当たり前に楽しいことだけじゃないし、時に修行のような、発狂しそうな時もありそうですが(私はよくボールペン投げたくなる)、感動を第一に大切にしてる誠さんのその視点にも、私は本当に刺激をいただきました。


これからも“小形誠色”の音楽と音楽愛で、沢山の人の心を躍らせたり幸せにしていくステキな未来を楽しみにしています。そしてわたしもいつか誠さんの楽曲を歌う夢を叶えたいし、音楽で一緒に遊べるくらいになりたいです。ワクワクする素敵なお話を本当にありがとうございました!

 
 
 
 


 
 
 
ena_yumeco_0_photoエナ●歌手 / 作詞作曲家。3月16日生まれ。北海道中標津町出身。心のまま音楽をつくる為に服飾関係の仕事を辞め、2013年5月から歌手として始動。自身の心に耳を傾け紡いだ等身大の歌は素直で温かく、雪解け水や澄み渡った大空のような自然のままを感じさせる。Liveでは毎回、様々なミュージシャンをサポートに迎え、繊細に感情を詰め込んだ詞曲でカラフルに音世界(ストーリー)を描いていく。自身のライブの他、学祭、フェス等に出演中。
HP: http://ena-official.com