6月5日に2ndアルバム『七情舞』をリリースした名古屋の4ピースバンド・ペンギンラッシュ。2014年、新たなJ-POPの開拓を目指し高校の同級生であったVo. / Gt.望世、Key.真結を中心に結成。2017年リリースの2ndシングル『yoasobi』は、タワーレコードが未流通&デモ音源をウィークリーランキング形式で展開する「タワクル」企画にて、1年以上名古屋パルコ店のTOP5にチャートイン、名古屋を代表する大型サーキットSAKAE SP-RINGでは2018年、2019年と2年連続で入場規制が掛かるなど、地元名古屋を中心に注目を集めている。ジャズ、ファンク、フュージョン、歌謡曲といった彼女らのルーツとなる要素が自由に散りばめられた楽曲は、昨今のバンドシーンとは一線を画した異色の存在感を放つ。特に望世と真結の20代前半とは思えない大人びた雰囲気や、渋い好みには貫禄すら感じるが、その胸の内にはまだ若いからこその怖いもの知らずな好奇心の魔物の気配も感じる。そんなアンバランスさが醸し出す中毒性が、一言では形容しがたい、いうなれば“ペンギンラッシュという一つのジャンル”を構築しつつある。今作『七情舞』も、曲ごとの個性が冴え渡り、細部に至るまでこだわりが落とし込まれた聴き応えのある1枚となっている。“○○っぽい”、“〜〜と似ている”なんて言葉を受け付けない、唯一無二のニューサウンドを打ち出していく彼女らの最新アルバム制作エピソードを、望世、真結、浩太郎、Narikenに語ってもらった。
(取材・文:岡部瑞希 写真:郡元菜摘)

 
 
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左からDr.Nariken、Vo./Gt.望世、Key.真結、Ba.浩太郎

 
 

■喜怒哀楽では収まらない人間の、いろんな感情や想いが舞っていくイメージ


 
ーー『七情舞』というタイトルについて、七情とは「喜怒哀楽」に「愛、悪、欲」を加えた人間の7つの感情を指す言葉なんですよね。このネーミングをした理由を教えてください。
 
望世「今作には7つの楽曲が収録されているので、その7という数字と関連するタイトルにしたくて色々と言葉を探してみた中で、七情が意味も一番しっくりきたからですね。喜怒哀楽ってよく聞く言葉だと思うんですけど、人間の感情はそれだけじゃ収まらないと思っているので」
 
ーーでは、曲が揃ってからタイトルをつけたんですね。
 
望世「そうですね。アルバムを通して聴いた時に、いろんな感情や想いがこもった曲たちが舞っていくようなイメージです」
 
ーー普段の曲作りはどんなスタイルで進めていきますか?
 
真結「曲を作っているのが私と望世と浩太郎さんの3人で、それぞれが作ってきた曲をスタジオで鳴らして完成させていくことが多いですね」
 
浩太郎「今作は「悪の花」(M1)を望世、「アンリベール」(M2)、「契約」(M3)、「晴れ間」(M6)を僕、「能動的ニヒリズム」(M4)、「モノリス」(M5)、「青い鳥」(M7)を真結が、それぞれ原型となる曲を作っています」
 
真結「スタジオの段階ではまだ歌詞はない状態で、曲が完成したら歌詞をつけるという流れが一番多いです」
 
望世「そうですね。歌詞は、曲から感じたことや自分が今考えていることを重なり合わせて書いていく感じなので、基本は曲が出来上がってから考えています」
 
ーーなるほど。では、真結ちゃん、浩太郎くんが原型を作った曲は、事前にテーマをすり合わせて歌詞を書き進めていったりするんでしょうか?
 
真結「曲を作った段階のイメージは伝えて、それを共有してから歌詞を書いてもらってはいます」
望世「めっちゃふわっとしたイメージですけどね(笑)」
真結「『こういう雰囲気〜』って(笑)。あとは色のイメージで伝えたりもしています」
 
 
 
 

■使用楽器にもこだわった新しいバンドサウンド


 
penguin_2ーーそれにしても、今作も個性的かつ聴き応えのある曲が勢揃いですね。かつ、前作からの飛躍も感じられる1枚です。
 
Nariken「今作と前作では録っている場所が違うし、楽器のテックさん(音作りの専門家)に入ってもらったこともあって、サウンドは激変していると思うんですよ。特に「アンリベール」や「能動的ニヒリズム」みたいな激しい曲だと攻撃的で臨場感があるし、全体的にすごく心跳ね上がるような音色に仕上がっているので、気にして聴いてみると前作との違いも分かって楽しいと思います」
 
真結「鍵盤の音色にも注目してほしくて、「モノリス」と「晴れ間」は初めて生ピアノでレコーディングしました。それから「青い鳥」は、ローズ・ピアノ(エレクトリック・ピアノに代表される名器)を使って、さらに鍵盤ハーモニカも入れているので、この3曲はぜひ生音を聴いてほしいです」
 
ーー鍵盤ハーモニカは鍵盤楽器ではありますが、発音方法がピアノやキーボードと違うので、表現できる音のニュアンスも異なりすごく面白いエッセンスになっていると感じました。
 
真結「そうですね。ちょっと管楽器みたいな音が出たりして面白いと思います。ずっと使ってみたいと思っていて、今回曲を作る段階から鍵盤ハーモニカを入れたいと思って作りました」
 
ーーベースも相変わらず存在感がありますよね。
 
浩太郎「使うベース自体を変えたり、すごくエフェクティブなこともしていますね。ただ、そういうところだけでなく、いろんな環境で聴いてみてほしいです」
 
ーースピーカーとかイヤホンとかってことですか?
 
浩太郎「そうですね。あと逆にカーステレオやパソコンのスピーカーみたいに悪い環境で聴いてみても面白いかなと。もちろん高音から低音まできれいにと思って、こだわって作ってはいるんですけど、いろんな環境、普段と違う聴き方をすることでさらに気付いてもらえる部分もあると思うので、そういう聴き方もしてもらえたらうれしいです。って今思いました(笑)」
 
 
 

■解釈は聴く人によって違ったほうが面白い


 
penguin_3ーー先ほどNarikenさんから“攻撃的で臨場感のあるサウンド”という話が出ましたが「能動的ニヒリズム」は本当に尖っているなと思いました。この曲、拍子って概念ありますか!?
 
浩太郎「ふふふふふ(笑)」
真結「私が作った曲なんですけど、拍子の概念はありません!」
 
ーーやっぱり(笑)。
 
真結「一応11拍子がメインなんですけど、変拍子の曲というよりかは、そうやって直感的に変わった曲だなって聴いてもらえたほうがいいかな。やっぱりこの曲も歌詞が後から出来たんですけど、すごく合ったものがついてきたので面白かったですね」
望世「今回本当にギリギリまで詩を頑張ったんですよ! 7曲それぞれの持つ“色”に沿った詩を目指して。結構強めな曲が多いので、言葉選びも前作よりも強めを意識しています」
 
 
 
penguin_4ーーソリッドというか、一歩踏み込んだ表現から攻めの姿勢は感じます。ただニュアンス的に強いワードを選びつつも、受け取り方を限定してしまわない余白はきちんと残していますよね。
 
望世「そうなんです。解釈は聴く人によって違っていいと思ってるので、いろんな形に取れるように作っています。私が“これ”って言ってしまって解釈が一つになっちゃうのはつまらないので、聴く人は「これなんのことだろう?」とか「自分にとてはこれだな」って思ってもらえたら面白い。私が自分で音楽を聴くときもそうやって聴くので。だから、あえて具体名を言わず、曖昧な言葉を選んでいます」
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

■“意識的に”夜をテーマにした初めての作品


 
ーーアルバム全体を通して聴いた時に、曲の収録順が夜が明けていくように並んでいるのかなと思いました。必ずしも夜だと明示していない曲もありますが、1〜4曲目は描かれているシーンやダークな曲調が夜をイメージさせるんですよね。そして、5曲目「モノリス」の終わりに初めて“夜明け”という言葉が登場して、続く6曲目「晴れ間」は明け方のシーン。7曲を通して、一つの夜が明けていくという印象を受けました。
 
望世「おおー、すごい」
Nariken「俺も全く同じこと思いましたね」
 
ーー“思った”ということは、意図的にそうしたわけではないんですか?
 
浩太郎「曲順については、4人それぞれが思う順番を挙げたら、僕と望世の案が似ていて、それを主軸にして決めました」
望世「私は曲順はどちらかというと音で決めたので、あまり歌詞は意識しなかったですね。ただ今作を作るにあたって、最初にコンセプトアルバムみたいにしようという話をしていて、そのテーマが夜らへん。今まで別に意識して作ったことはなかったんですけど、「夜に聴きたい」って言われることが結構多かったので、今回あえて意識して作ってみようかということになっていました。結局作っていく中で、自分たち的にはそこまでテーマを意識したつもりでもなかったんですけど」
 
ーー望世ちゃんは小説や演劇が好きなイメージがあるので、てっきり一編の物語的な演出なのだと思いました(笑)。
 
望世「最近取材でそう言われて、逆に気付かされたりしています(笑)」
真結「結果的にそうなった感じかもしれないです」
 
 
 

■面白いこと、今までとは違うことをしっかり見せていきたい


 
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ーー6月からリリースツアーで各所を回ります。
 
望世「ツアーでは、有難いブッキングをさせてもらって、自分たちが好きなバンドばかりなのですごく楽しみです」
 
ーーそして8月18日にはキャリア初のワンマンライブが開催されますね。初めてのワンマン、どうですか?
 
望世「やっぱり初めてなので、どんな風にやろうかと色々考えています」
真結「今までで一番長いライブになると思うので、疲れないか心配です。ちゃんと最後までやれるかな(笑)」
浩太郎「普段は30分、長くても45分尺のライブが多いけど、少し前に1時間くらいのライブをやったんですよ。その時「やっぱり長い時間好きだなあ」と思って。時間が長い分、それだけ自分たちで作り込む幅が持てるから。そういう意味でも、ワンマンだと1時間よりさらに長いことやるので、どれだけできるんだろうっていうのが楽しみですね」
Nariken「各々でも全体でもいいんですけど、なにか面白いこと、今までとは違うこと、そういうのしっかり見せていきたいなと思っています」
 
ーーもともと表情豊かな楽曲陣の中に、さらに今作の個性の強い7曲が加わって、それがどうワンマンライブとして組み上げられていくのか、繋ぎの演出なども含めてすごく楽しみにしています。期待に胸を膨らませて待っていてもいいですか!?
 
一同「(笑)」
望世・浩太郎「そうですね!」
Nariken「楽しみにしといてください」
 
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▼リリース情報
 


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2ndアルバム『七情舞』 ¥1,800(税別)
2019年6月5日発売

【収録曲】
01. 悪の花
02. アンリベール
03. 契約
04. 能動的ニヒリズム
05. モノリス
06. 晴れ間
07. 青い鳥


 
 
 
▼ライブスケジュール
「ペンギンラッシュ 2nd Album『七情舞』 Release Tour」
2019年6月27日(木) 愛知 / 新栄APOLLO BASE
w / けもの
 
2019年7月5日(金) 東京 / 代官山SPACE ODD
w / 集団行動 / showmore
 
2019年7月12日(金) 大阪 / 心斎橋CONPASS
w / Lucky Kilimanjaro / RAMMELLS
 
「” Rush out night 2019 “」
2019年8月18日(日) 愛知 / 新栄APOLLO BASE
※ワンマン公演
 
▼オフィシャルサイト
https://penguinrush.wixsite.com/penguinrush-official/home
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール画像岡部 瑞希●1992年生まれ、愛知県在住の会社員兼音楽ライター。名古屋の音楽情報サイト「しゃちほこロック」も運営。“自分の好きな自分でいる”をモットーと口実に、今宵もライブハウスへ。昂ぶる夜にピアノを叩き、3日に1回カレーを食べることで健やかな日々を送っています。Twitter:@momry1023