もう3月だと言うのに、来る日も来る日も曇天で。
DOESの掻き鳴らすガサついた「曇天」のイントロが、勢い良く灰色の空に斜線を書きなぐる。とうとう雨まで降ってきたのだ。


春の気配は涙を誘う花粉だけ。
名ばかりの3月に(そういえばDOESに「三月」という曲もあったな)、私はすっかり戦意喪失。


詰まった鼻と、気圧の頭痛でぼーっとしていたら、「世界はぼんやりしてら」と頭の中で、今度は佐々木亮介が「プシケ」を歌った。


こうなったら「春眠暁を覚えず」だ、と都合の良い時だけ春を利用して布団をかぶる。
起きたら暖かな春が訪れて、会社が古書店に化けて、私は芥川賞作家に……なっているはずもなく、今日も今日とてうだつの上がらぬ春の日をやり過ごす。


儚くもなれぬ自分のしぶとさがおかしくて仕様がない。


だけどある意味、ロックンロール的だとも思った。


もちろん最高に格好良く言えば、の話だけれど。

 
 
■ロックンロールが死なない理由―The BBB


 
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The BBB 写真左から Gt. / Vo.リョーヘー、Dr.シンイチロウ、Gt.ゴトー

 

今まで、どれ程の人がロックンロールを殺そうとしただろう。


時代遅れだって、流行らないって、暗いって。
難癖つけては光の届かないところに追いやって、亡きものにしようと画策した。


だけどロックンロールは、今も確かに鳴っている。
何人たりともその息の根を止めることはできなかったのだ。
それどころかロックンロールは、影踏みをする要領で虎視眈々と生き延びてきた。


その証拠に、いつの時代にもロックンロールを背負うバンドは確実に存在する。
誰に頼まれたわけでもないのに、ロックンロール存命の使命を帯びて、音楽を開拓する決意を持ったバンドが出現し、脈々と歴史を受け継いでいるのだ。


そして先日、この血統を受け継ぐバンドを新たに見つけてしまった。
手にしたバトンはまだ真新しいが、その意味を本能レベルで察知している。


そのロックンロールバンド、The BBB。

 
 

▼The BBB 「Single 1st Single Trailer」
 

The BBBは2018年6月に結成されたベースレス3ピースバンド。
まだ結成1年にも満たない、正真正銘の新参者だ。


彼らとの出会いは東京・下北沢のDaisy Bar。
少年という言葉がまだまだ似合う3人組がステージで楽器を手にした途端、とびきり煙たい音を鳴らした。苛立たしげな呻き声と、衝動のままに叩きこまれたビート、そして辻斬りでもしそうなほど凶暴なギター。荒削りどころの騒ぎじゃない。かろうじてロックンロールの形を成すくらいの危うい音楽だ。だけど未熟だとか若いとか、そんな言葉では片付ける気にはなれなかった。


ああ、例のバトンを受け取ってしまったんだな。そう思った。
ロックンロールの宿命を嗅ぎ取って、受け取ってしまったのだ、と。


Daisy Barでの出会いという点も、私にとっては運命めいたものを感じている。
この会場で出会ったロックンロールバンドの存在がなければ、私がライターになることも、この連載を持つこともなかっただろう。そのくらい奇妙な縁のあるライブハウスで発見したバンドだ。紹介せずにはいられない。

 
 

▼The BBB 「誰かがロックンロールを」MV
 

そして何より惹かれたのは、この曲だ。
おまけにYouTubeの説明欄にはこんなコメントが書かれていた。


〈Rockは死んじまったと思っている同胞どもへ…
そんなことはねぇんだ。毎日誰かがどこかでロックンロールを歌う限り毎日その瞬間ロックンロールは復活する!!
さぁ行こうぜ!〉


決まりだ、と思った。彼らはバンドを始めたその時から、ロックンロールを死なせまいという宿命を背負っていたのだ。そこで、彼らにバンドの野望を聞いてみるとやはり期待を裏切らない答えが返ってきた。


〈時代錯誤と言われた俺たちのようなロックバンドが現代のアイドルやポップソングをぶった斬って躍り出て来たら、一体この世の中はどーなってしまうのか。その答えが知りたくて……。日々毎日ロックンロールでじわじわと侵略し続けること〉だという。


今はまだ、無名だ。
だけど私は名も無き若者が起こす革命を目の当たりにしたい。

 
 
▽公式Twitter
リリース情報およびライブスケジュールはこちらから。
@TheBBB27
 
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.9 ― SHERBETS「リディアとデイビッド」


 

 
彼らのライブを初めて観たときのこと。物販に目をやると、そこには何故かクッピーラムネが。見間違いじゃないはず。構えているのは先程まで鬼気迫るロックンロールを鳴らしていた、親しみ易さ皆無の無愛想なメンバー。あれ、この違和感どこかで……。記憶を辿った先にいたのはベンジーだった。SHERBETS の「サリー」だ。〈悲しみはきっとやさしさと同じ成分なんだね クッピーラムネ〉って。残念ながら「サリー」の動画は見つからなかったので、今回は私が愛する曲を。1曲のロックンロール中で、映画を上映できるバンドは素敵だ。どうかThe BBBも雄弁なるロックンロールを鳴らし続けて欲しい。。
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用 イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。春になると思いを馳せる本は、伊坂幸太郎の『重力ピエロ』と宮沢賢治『春と修羅』。あとはイケメンプレイボーイ僧侶・西行の、あの歌。「願わくば花の下にて春死なん」というフレーズに、いつもミレイの描いたオフィーリアが重なる。