■音楽が続いていく奇跡を胸に刻んで。アンテナ復活ワンマン

 
 
アンテナ(ライブ写真)
 

ライブに行くか行かないかで迷ったとする。忙しいとか、遠いとか、そこにはあらゆる理由があるだろうけど、思い切って「行ってしまえ!」と会場に足を踏み入れて、果たして後悔したことがあるだろうか。私はない。そして、行かずに後悔したことは何度かある。


“ニューレトロ”をテーマに、どこか懐かしさを感じるシンプルで美しい歌のメロディーと、エレクトリックなサウンドやトリッキーなビートを融合させた独特な楽曲を生み出す仙台発の4ピースバンド・アンテナ。そのアンテナが、2018年4月活動を休止した。パニック障害と診断を受けたヴォーカル渡辺諒の療養のため。念願だったメジャーデビューから、わずか半年後の出来事だった。つい当たり前に続いていくと思っていたものが、プツリと途絶える現実を突きつけられると、どうしても「もっとライブに行っておけばよかった」と後悔の念に苛まれてしまう。だから、アンテナから活動再開の知らせが届いた時、それはそれはうれしかった。


2019年1月19日。活動休止からちょうど9か月経ったこの日、復活ライブとなるワンマンライブが東京渋谷のTSUTAYA O-nestで行われた。超満員の場内には、喜びや期待とともに、友達と久しぶりに再会するような畏まった感じや、渡辺の体調を未だ心配する独特の緊張感が漂っていた。ただ、そんな空気を予想してのことか、開演に先立ってメンバー自身の声でアナウンスが流れ出し、ラジオのように和気藹々としたやりとりがオーディエンスの笑いを誘った。渡辺が「『本当に大丈夫?』って思ってる人いるかもしれないけど、大丈夫じゃなかったらやらないから!」とちょっと天邪鬼な彼らしい言葉で伝えると、程なくしてメンバーが一人ずつ登場。最後に渡辺の姿が見えると一際大きな歓声が上がり、「よろしくう」という言葉を合図に「年中無休」からライブをスタートした。渡辺本人から発せられた「大丈夫」という言葉、そして実際にステージで持ち前の透き通った歌声を響かせる姿を見て、フロアに漂っていた緊張感は次第にほどけていった。


「無口なブランコ」、「アルコール3%」など4曲を終え、「お久しぶりです!」と渡辺が口を開くと、フロアからは「おかえりー!」とうれしそうな声が飛ぶ。この日の公演のタイトル“Nu plats”が、スウェーデン語で“新しい場所”という意味であることを話し、「ずっと心がうずうずしてました。宇宙で1番楽しい場所にしたいと思います。楽しんでいきましょう!」と、「ずっとベイビー」を披露した。「ピザ取るから」ではミラーボールが回り、鈴木克弘(ベース)が大きく体を揺らすなど、ギアをぐっと踏み込んだエネルギッシュなプレイが溢れていく。続く「天国なんて全部嘘さ」でも、渡辺がスタンドマイクを両手で握りしめて歌うなど、柔らかながら確かな熱量を感じる演奏で、心地よいアンテナサウンドへとオーディエンスを引き込んでいった。


渡辺は療養中、メンバーや仲間のバンドマン、同じ症状で悩んでいる人など、いろんな人々に支えられてきたと言う。そして「“みんなのお陰”って安っぽいかもしれないけど、でも本当にみんなのお陰です。正直(バンド活動を)フェードアウトしようと思えばいくらでもできたけど、やっぱり音楽を選びたいと思いました」と語り、療養期間の散歩中に思い浮かんだという「深い深い青」を演奏。ビートがふと止み、サウンドが宙を彷徨ったかと思うと、再び曲が動き出す。静と動が共存することで生まれるコントラストが楽曲に深みを醸し出し、そんな楽曲に身を任せるよう目を閉じて歌い上げる渡辺は、かつてに思いを馳せているように見えた。


冒頭にゴスペルのアレンジを加え〈ありがとう 今日のことずっと忘れないよ〉と歌う「モーンガータ」、そしてこの日一番賑やかな手拍子がはじけた「深海おまじない」で本編を締めくくったアンテナ。池田晃一(ギター)もステージ前方に移動して、4人がお互いを横目で見やりながらセッションする姿が、今日は一段と輝いていた。さらにアンコールでは、アンテナを結成して初めて作った曲だという「足音」をプレイ。「今日はリハビリも兼ねてちょっと短めだったんだけど」と名残惜しみつつ、大きな拍手に包まれる中、“またね”の意味を込めた手を振り合って大団円を迎えた。


聴く人の人生に寄り添うような“ライフソング”というものを、音楽観の主軸としてきたアンテナ。この日、「みんなの日々を、明日を、ちょっとでも彩れるように。いろんなことを経験したからこそ、俺にしか歌えないことを歌うから覚悟しててね」と告げた渡辺の瞳に迷いはなかった。そして、春には“新しい風景”という意味を込めたリリースツアー「NYTT LANDSKAP」を開催することも発表された。遠くない未来、アンテナの音楽がまた自分の住む街へ訪れてくれる喜びを嚙み締める。失いかけたからこそ改めて気付いた、物事が当たり前のように続いていくということの奇跡。アンテナだけではなく、音楽だけでもなく、自分の大切に思うもの全てにおいて、今の今を全力で愛さなければと教えてくれた夜だった。

最後に、「おかえり、アンテナ。これからもよろしくね」。
 
 

セットリスト
1. 年中無休
2. 無口なブランコ
3. アルコール3%
4. 嫌になっちゃった
5. ずっとベイビー
6. 呼吸を止めないで
7. ピザ取るから
8. 天国なんて全部嘘さ
9. 深い深い青
10. モーンガータ
11. 深海おまじない
EN. 足音

 
 
 

 
 
 
 
 


 
プロフィール画像岡部 瑞希●1992年生まれ、愛知県在住の会社員兼音楽ライター。名古屋の音楽情報サイト「しゃちほこロック」も運営。“自分の好きな自分でいる”をモットーと口実に、今宵もライブハウスへ。昂ぶる夜にピアノを叩き、3日に1回カレーを食べることで健やかな日々を送っています。Twitter:@momry1023