■『母ではなく親になる』山崎ナオコーラ著 河出書房


 
9784309025803
 
 
誰にでもわかる言葉で、誰にも負けない文章を書きたい

なんて、すばらしい目標なんだろう。著者のプロフィールに書いてあった。
この本は、本当にわかりやすく読みやすい。でも、ハッとするような感情の動きが
描かれていて、ナオコーラさんらしさ溢れるエッセイになっている。


私は赤ん坊に対しても、自分らしくないことをする気はない。
 赤ちゃん言葉なんて決して発しない。
 母親っぽい声は出せなくていいや、と思う。
 妊娠中に、「母ではなくて、親になろう」ということだけは決めたのだ。
 親として子育てするのは意外と楽だ。母親だから、と気負わないで過ごせば、
 世間で言われている「母親のつらさ」というものを案外味わわずに済む。
 母親という言葉をゴミ箱に捨てて、鏡を前に、親だー、親だー、
 と自分のことを見ると喜びでいっぱいになる。



私も母親になんて立派なものにはなれないと小さい頃から思って生きてきた。
でも、友達はどんどん「母親」になっていく。産休明け職場復帰して。
朝早くに起きて保育園に預けて、時短で勤務してお迎え、帰って家事。
というスーパーハードな日々を送っている。
話を聞く度に、私には到底無理だなぁと思う。
そこまでしないと東京では子供を持てないような気がして、
淡路島で結婚という選択をしたような気もする。


ナオコーラさんも、執筆の仕事をしながら子育てをしている。夫は、書店員だ。
私も書店員だったからものすごく親近感が沸く。
そして、収入の低さなどもリアルに描かれている。
経済面では、ナオコーラさんの収入が多く、世帯主でもある。
でも、夫の仕事をすごく尊敬していて、ずっと続けてほしいと書いてあって、そこが泣けた。
夫は、とても育児に協力的だ。母親と父親とか役割を持たずに二人の親、平等な夫婦像が素敵である。
きっと、私の夫もこんな子育てをしてくれるかなと期待してしまった。


育児エッセイというのは、いかに大変か時間がなくなるか、辛いかなどが多く書かれているが
この本にはほとんど見受けられない。
あえて、そういう構成になっているのかもしれない。
赤ん坊に対する愛おしさでいっぱいだ。
また、これから育っていく子供にこうあってほしいという
理想が詰まっていて、親になるという人の心境の変化が同世代として共感することだらけだった。

 
「選択」という章がとても読み応えがある。
 

「あれもこれも選ぶというのを、贅沢ではとは思わないですか?」
というインタビューを受けた話が書いてある。
仕事も、結婚も、出産も、子育てもそれって欲張りなのかな。
それもひと回り若いのライターに聞かれたというのが驚いた。
こんなことを感じているようでは、日本の女の人はいつまでたっても幸せになれない。
贅沢ではなく、当たり前の時代にしていかないと!
そのためには、やはり保育所の問題など解決していくことがたくさんある。

 
ナオコーラさんは、素直な人だ。
 

これまで『母ではなく、親になる』を読んでくださってきた方は薄々気づいているだろうが、
 私は育児の悩みよりも仕事の悩みの方が断然多い。赤ん坊の命と仕事だったら、命の方が
 大事だが、命に関係しない日常のことだったら、赤ん坊と仕事に優劣はつけられない。



こういうことを堂々と書ける育児エッセイが読みたかった気がする。
父親の死、不妊治療、流産、保活など色々な苦労や悲しみについても書かれていて、
これもまた勉強になった。

 
理想の「母親像」など捨てよう。
 

私も気持ちを軽くして、
母親になれる日がやってきたら本当に幸せなんだろうなぁと
シプルに楽しみに! 生きていこうと思った。

 
 
 
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淡路の「うずの丘」のお土産屋さんでは、こんなに大きな玉ねぎがあります!

 
 
 
 
 


 
uemura上村祐子●1979年東京都品川区生まれ。元書店員。2016年、結婚を機に兵庫県淡路島玉ねぎ畑の真ん中に移住。「やすらぎの郷」と「バチェラー・ジャパン」に夢中。はじめまして、風光る4月より連載を担当させて頂くことになりました。文章を書くのは久々でドキドキしています。淡路島の暮らしにも慣れてきて、何か始めたいと思っていた矢先に上野三樹さんよりお話を頂いて嬉しい限りです。私が、東京で書店員としてキラキラしていた時代、三樹さんに出会いました。お会いしていたのはほぼ夜中だったwと思いますが、今では、朝ドラの感想をツイッターで語り合う仲です。結婚し、中年になりましたがキラキラした書評を青臭い感じで書いていこうと思っています。