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[blueprint]release tour “land=ocean”@柳ヶ瀬 Ants/photo by Takeshi Yao

 
 
5月15日。快晴。
 
私は私の、そしてcinema staffの故郷である岐阜に降り立った。もちろん、cinema staffのライブ「[blueprint]release tour “land=ocean”」のため。そして、故郷に帰るため。
岐阜の街には、たくさんの「わたし」がいる。
岐阜駅では制服を着たわたしが、東京の匂いが微かに漂う私を見つめていた。会場の柳ヶ瀬antsへ向かう近道の玉宮通りには、たくさんの居酒屋が並んでいる。昼下がりはまだ眠ったままの玉宮に、期待で破裂しそうな心臓を抱えてライブハウスへ走る高校生のわたしがいた。雑居ビルを改装した古本屋には、好きな作家の本を漁るわたしがいた。岐阜の景色に滲む「わたし」を見つけるたび、懐かしさがこみ上げて、故郷が愛しくなった。そしてなぜか、苦しくなった。東京に戻りたくないと思った。
私は小さな声で一人、「ただいま」と呟いた。
 
駅から徒歩15分という立地のライブハウスで始まったライブ。SE「陸にある海」が流れる中登場した三島は、はにかむような、でもまっすぐで晴れやかな、いい表情をしていた。そして噛み締めるように「ただいま、岐阜」と言った。
三島だけじゃない、飯田も、辻も、久野も、いい表情をしていた。
おかえり。
 
いつもと違うSEに、今回のツアーは何かが違う、と感じた。
新しいアルバムから、エンジンを思い切りかけるようなギターが気持ちいい「drama」でライブの幕は切って落とされる。表情に出ていた感情を発散させて、4人は突き抜けるようなこの曲を演奏した。そして「drama」で温まった会場をそのままごった煮にしてやろう、と言わんばかりに始まった「竹下通りクラウドサーフ」。2曲目なのに声を枯らすようにして歌う飯田に負けじとフロアは前へ前へと流れて、加熱していく。
新しいアルバムの外からもたくさんの曲が演奏された。前回のツアーではいつも最後に演奏され、あの「シネマらしくない」MVで笑わされた「theme of us」。
今回のアルバムと同じく「青」をタイトルに冠した2ndミニアルバム『Blue,under the imagination』から 「想像力」。今の「青」とは違う若い青さに満ちた曲は、私の体に入りこんで、「今なら言えるでしょう」と言い、私の背中を強く押す。疾走感がある、でも、フロアを丸ごと光で包むみたいに演奏された「奇跡」。
SEで感じた「何か」が、少しだけ見えてきた。
 
今回のcinema staffには「私たち」が見えているのではないか。
 
 
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[blueprint]release tour “land=ocean”@柳ヶ瀬 Ants/photo by Takeshi Yao

 
 
「theme of us」は私たちを笑顔にさせ、ライブではハンドクラップで会場をひとつにする。以前は「想像力」をライブで聴いても、こんな感覚を覚えたことはなかった。青さをぶちまけるように演奏していた。「奇跡」が演奏されて、包み込まれるように思ったこともなかった。
「『land=ocean』というタイトルは地に足をつけて歩いていこうという意味が込められています」 今まで繰り返し「海」をテーマに作品を作ってきたcinema staff。MCで三島はツアー名について語った。
「海なし県ってこともあって、海に憧れがあって。海は遠くのものだったから」海を自由の象徴、そして永遠にたどり着けないところだと思っていた、と三島は語り、そして最後に言い切った。
「でも今、僕たちの自由は陸にあります」
強く大地を踏みしめたcinema staffの姿が見えた気がした。
 
最後に披露された「シャドウ」は、すべてを出し切るように演奏された。
「無駄と思えることもすべて繋がっていた。いつかそうやって思えるように今は只、足を進めるだけ。」
海を夢見たからこそ、彼らは大地を踏みしめたのだろう。 青い照明の中、バンドもフロアも溶け合うほど熱かった。
「まだやれるよ。」
飯田の歌声が轟音の中美しく響く。残響は頭の中にいつまでも鳴っていた。
 
 
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[blueprint]release tour “land=ocean”@柳ヶ瀬 Ants/photo by Takeshi Yao

 
 
アンコールで披露された「望郷」。
「でも未来と手を取り合う あなたはさらに美しいでしょう」
故郷をテーマに据えた曲を演奏する彼らからは自信が感じ取られた。
フロアの電気が点いても鳴り止まない拍手。あれだけ出し切ったライブをしたのだからダブルアンコールは無いかな、と思っていると辻が登場。彼がスタッフに「まだやれる?!」と確認を取ると、フロア は一気に再燃した。そして尖ったギターをかき鳴らし演奏されたのは「poltergeist」。 ギターを抱えた辻はフロアに飛び込んで全身で演奏していた。飯田も「このアンコールはにぎやかしだ!」と叫び、マイクを掴みフロアにダイブ。三島の全身全霊のシャウト。そんじょそこらの流行り曲とは違う久野の裏打ち。楽しい、という気持ちと熱量に、脳みそが溶けそうだった。
メンバー皆が姿を消したステージ。言葉も少なく散っていく客の顔は誰もが満たされた表情だった。
 
ライブの帰り道、夜の岐阜の街を歩きながら、私は「東京に戻ろう」と決めた。
岐阜の街に散らばる「わたし」を見つけるたび苦しかったのはきっと、今の私が東京で何も見つけられてないからだ。「わたし」に見られて恥ずかしかったのだ。
 
自由の在り処を見つけ、故郷に帰ってきたcinema staffの姿はかっこよかった。ヒーローだった。
私だってかっこよくなりたい。私は走り出した東京行きの夜行バスの中、頑張る、と決めた。
 
 
 
 
 


 
avEnZuxz小椋みずき●1996年生まれ、岐阜県出身の18歳。自転車をこぎながらゆずを熱唱していたところを教授に見られてしまった現役大学生。Billy JoelとポケモンのTVアニメ主題歌を聴いて育ち、MISIAに恋をして、12歳で観たMr.Childrenをきっかけにライブに夢中になる。上京するとき最も聴いた一枚はLOSTAGEの『Guiter』。最近はFKA twigs『LP1』とCloud Nothingsをよく聴きます。現在、「岐阜県出身の私だから東京で出来ること」をテーマに、音楽と言葉で人をつなぐ楽しい企画をたてています。
■Twitter:@mizuki0953