「これが最後ならいいのに」
 
悲しみの底にいるときも、幸せの絶頂にいるときも。
 
頭を過るのはこのフレーズだ。
 
それが最後にならないことを散々知ってるくせに、
 
普段は何かと疑り深く暮らしているくせに。
 
最後の最後に、騙される。
 
これが最後であるはずだ、と
 
いつもそう、ツメが甘いんだと思う。
 
だから未だに、最後の恋を重ねてる。
 
〈最後の恋はどこにあるの?〉
 
そんな台詞を、性懲りもなく言いながら。
 
 
 
 
 
■最後の恋に告ぐ~The Cheserasera『最後の恋 e.p.』に寄せて~


 
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左から 西田裕作(Ba)、宍戸翼(Vo / Gt)、美代一貴(Dr)

 
 
3月15日(木)宮崎 SR BOXを皮切りに開催されるThe Cheserasera(ザ・ケセラセラ)のスリーマンツアー「春の喧騒 2018」。彼らはそこで5曲入りの会場限定CDを発売する。その名も『最後の恋 e.p』。タイトルを聞いて、どきりとした。なぜなら彼らの歌はこれまで、白黒つけないことでリアルを描き出してきたから。そこに突如として現れた、あまりにも決定的なタイトル。果たしてどんな作品なのか。その全貌を確かめるべく、一足先に聴かせてもらったのだが、居ても立ってもいられずに筆を取った。だからこの文章はディスクレビューなんて改まったものじゃなくて、ただ思いの丈を綴っただけの『最後の恋 e.p』に寄せて。声を大にして言う独り言です。
 
まず『最後の恋 e.p』はヴォーカル以外完全一発録音となっているため、サウンドがライヴ音源のように生々しい。やや粗い仕上がりだが、それが独特の緊張感と気迫をもたらしている。はやる思いで再生ボタンを押すと、そんな気持ちを汲むように、1曲目「ビギナーズラック」のビートが走り出した。そしてその勢いのまま始まったのが、表題曲の「最後の恋」。“してやられた”と“やっぱりな”が大挙して押し寄せてきた。全然、白黒なんてついてない。だけど同時に〈後悔なんて一つもないよ〉と言い切る清々しさもある。明るい曲調も、それを後押ししているようだった。ソングライターでもあるヴォーカルの宍戸は今作を〈等身大駄目人間コメディ〉と自ら評しているが、そういった曲でこそ本領発揮するのが彼らなのだと思う。
 
ケセラセラと言えば「東京タワー」「讃美歌」、そして「Blues Driver」など、名も無き青春に捧げる繊細かつ衝動的なナンバーを思い浮かべる方も多いはず。それが彼らの魅力なのは重々承知の上だ。しかし個人的にはやっぱり、愛すべき駄目人間を描いた楽曲たちを推したい。「でくの坊」や「月と太陽の日々」、そして“つかぬことをお伺いしますが、みなさんクソみたいな恋愛をしたことはありますか?僕は嘘くさいラヴソングが嫌いだ!”の前口上がお馴染みとなった「I hate Love Song」。それらのやぶれかぶれな恋物語にこそ、色気と人間臭さが滲み出ている。そして、そこに新たに加わるのがこの、「最後の恋」というわけだ。
 

 
「最後の恋」というタイトルを聴いたとき、私は迷いなく”最後にできなかった恋”の話だと思った。最後の恋になればいいなと思いながらも、あえなく終わりを迎えてしまった恋。でも、同じ言葉を聴いても、幸せの真っ只中を想像する人もいるはずだ。こんなに幸せなんだから、これが最後の恋に違いない、というあの感覚を。結論から言えばこの曲は「前者」にあたる。でも、それだけじゃない。そこには確かに幸せな日々が残していったものがある。それは明言されているわけではない。でも、演奏の勢いが、曲調が、歌い方が、ほんの少しの言い回しが、物語るのだ。悲しいのに、どこかほっとした気分もあって、身軽になった手応えもある。そして新しい日々が始まる予感。そんな恋の終わりの密かな感情さえも、見事に描き切っているのだ。
 
前作『dry blues』のインタビューで宍戸は〈分かりきってることは、わざわざ歌にする必要はない〉と言った。そして曲は“歌と伴奏”ではなく言葉と音楽が合わさることでより深い感情に手が届くものなのだ、とも。その意味が「最後の恋」を聴いて、より深く理解できた気がした。
 
 
『最後の恋 e.p.』3曲全文解説


 
表題曲以外も、良い意味で曲者揃いなので、昔ブログでやっていた“3文全曲解説”を久々にやってみようと思います。
 
01:ビギナーズラック
つまづきそうでつまずかない、複雑なリズムがもつれ合いで生み出すグルーヴに持っていかれる。これぞ一発禄りの醍醐味と呼ぶべきロックチューン。ナニクソ!が溢れる歌詞も相俟って、男くさい曲に仕上がった。
 
02:最後の恋
スタートのドラムを聴いて悟った。これはただ恋の終わりを嘆いた曲なんかじゃないって。だけどむやみに励ますでもなく、思いっきり泣かせてくれて、その後でポンと肩を叩いてくれるような、そんなラヴソング。
 
03:夢を見ていた
気付くとずっとベースラインを耳で追っていた。決して激しいものではないけれど、メロディーの裏で鳴るベースが、曲を導いていくような、そんな印象がある。幻想的でほろ苦いサウンドが、夢の中へと誘う。
 
04:退屈
嗚呼、次から次へと歌詞が突き刺さってくる。今作は全曲を通して歌詞の宍戸節が色濃く秀作揃いなのだけれど、「最後の恋」と、この「退屈」が群を抜いている。ちなみに一番深く刺さったのは〈ただ生き延びる為の毎日が 気に障るだけ〉。
 
05:物語はいつも
流れるようなメロディーと「ビギナーズラック」とは対極の、摩擦のない滑らかなグルーヴが絶妙なナンバー。そこに喋るような歌が乗っかるのがまた良い。今作における青春枠、といったところ。
 
 
②TCSR10002_jktfix_s
 
 
■会場限定CD 『最後の恋 e.p.』
 
TCSR-10002 / dry blues label
¥1,000(税込)
 
1. ビギナーズラック
2. 最後の恋
3. 夢を見ていた
4. 退屈
5. 物語はいつも
 
 
 
 
 
 
 
 
 
■ツアースケジュール
The Cheserasera 春の喧騒 2018 スリーマン Tour [番外編]
3月15日(木)宮崎 SR BOX act:Brian the Sun / RAMMELLS / akagane bridge
3月17日(土)大分 カンタループⅡ act:Brian the Sun / O.A:青はるまき
 

The Cheserasera 春の喧騒 2018 スリーマン Tour
4月06日(金) 名古屋HUCK FINN act:WOMCADOLE / the quiet room
4月07日(土) 大阪LIVE SQUARE 2nd LINE act:WOMCADOLE / the quiet room
4月20日(金) 福岡Queblick act:batta / and more
4月22日(日) 広島BACK BEAT act:batta / and more
5月20日(日) 仙台Flying Son act:ユアネス / Half time Old
5月27日(日) 東京新代田 FEVER act:and more

 
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.12 ― 宇多田ヒカル「Be My Last」


 

 
三島由紀夫の小説を映像化した映画『春の雪』の主題歌にもなったこの曲。「最後の恋」というワードを聞いて、ふと頭に浮かんだ。〈慣れない同士で良く頑張ったね 間違った恋をしたけど 間違いではなかった〉という歌詞が、ケセラセラの「最後の恋」と繫がるような気がしたから。そして実は『春の雪』は『豊穣の海』という全4巻から成る連作の第1巻にあたるもので、『豊穣の海』は三島“最後”の長編小説。そんな理由もあって、最後のテーマ曲にさせていただきました。
 
 
 
 
そう、この連載も今回で“ラスト”で、ございます。おかげさまで3度目の最終回を迎えました。記事作成にお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。中田裕二氏なりきり三茶トリップとか、カセットストアデイ探検記とか、この連載だからできることがたくさんあって。どんな記事を送っても受け止めてくれる懐の深いYUMECO RECORDSと主宰の上野三樹さんには感謝しかありません。ライターと名乗ってはいるものの、私自身、インタビューやライヴレポート、レビューだけが主戦場だとは思っておらず、ただ“書くひと”というつもりでいます。だから依頼は一文字から受け付けるし、キャッチコピーでも作詞でも、物語でも、代書でもなんでもござれ。特に最近は、文章で音楽とカルチャーの橋渡しをしたいと考えていたりもします。『音楽と人』でも、ネット海のどこかでも、名前を見かけたら、ぜひそこにある文章を読んでいただけると嬉しいです。
 

2018年、春の嵐が吹き荒れた日
イシハラマイ

 
 
 
 
 


 
ishihara_2017イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。今年度もありがとうございました!今年の裏テーマは「音楽×カルチャー」でした。そんな気配を少しでも感じ取ってもらえたら嬉しいです。また、どこかで。