昨年に続き今年も、フェス形式での氣志團万博が9月14日、15日に氣志團の地元である千葉県袖ケ浦海浜公園にて開催された。普段なら交わることの無いアーティストを集めて開催されたこのフェスは、どう考えても、氣志團でなければ実現できないイベントだった。改めて、この人たちすごいと思った。どうして氣志團万博にこれ程のメンツが集まるのか。氣志團万博で、いったい何が起こっていたのか。團長の綾小路翔は氣志團万博を通して何を伝えたかったのか、私たちはいったい何に心が震えたのか。そのすべてをお伝えしたい。

 

そもそも氣志團万博というのは、氣志團のアニバーサリー・イヤーなどに節目として行われていた普段より規模の大きいワンマンGIGで、いわば氣志團とファンのために開催されるお祭りのようなもの。それが結成15周年の昨年に開催されたのがフェス形式での氣志團万博だった。いまや全国各地でいろんなフェスが開かれ、アーティスト主催のフェスも数多くある中で、氣志團があえて今フェスを主催する意義を、綾小路翔はWEBサイト、ナタリーのインタビューで「昔と比べてフェスの環境は良くなっているけど、どうしてもフェス自体がルーチン化している。主催者は違っても出演バンドがほとんど同じだったり。出演者もだんだん夏の営業みたいな感じになってきて。」と話している。「昔はアーティスト同士の交流も今よりもっとあったけど、それも無くなってきた。だったらもう自分たちでやるしかない」と思い立ったそうだ。そしてその言葉通り、昨年の氣志團万博には、浜崎あゆみをはじめ、小泉今日子、VAMPS、岡村靖幸、ももいろクローバーZ、the GazettEなど、いろんなシーンのスター達が集まった上に、更にはマッチこと近藤真彦がサプライズ・ゲストとして登場するなど、まるで90年代の歌番組さながらの豪華なメンツが揃ったのだった。そして今年、昨年以上の“ありえない”を起こすべく、“どこにもない奇跡”をテーマにブッキングされたのは、森山直太朗(オープニング・セレモニーに出演するという贅沢ぶり)、SCANDAL、THE BAWDIES、仙台貨物、HY、夏フェスには初出演だという乃木坂46、BUCK-TICK、MAN WITH A MISSION、hide、私立恵比寿中学、東京スカパラダイスオーケストラ、マキシマム ザ ホルモン、超新星、シャ乱Q、VAMPS、ももいろクローバーZ、黒夢、そして氣志團という、ここでしか見られないメンツの出演が叶った。

 

注目すべきは、この2日間のハイライトが、氣志團のステージ以外のところにあったことだ。アーティストが主催するフェスというのは、結局は主催アーティストが主役で、そこに一番のフォーカスがあたる。けれど氣志團万博は全く違った。まず、1日目のハイライトは間違いなくトリを飾ったhideだった。1998年にこの世を去ったhideを、自分たちのフェスのトリにブッキングするという発想にそもそも驚いたのだけど、更に驚かされたのが、この日のためだけにhideとゆかりのあるアーティストたちにより組まれたバックバンドだ。そのメンバーとは、今井寿(BUCK-TICK)、HISASHI(GLAY)、J(LUNA SEA)、Ken.Morioka(ex.SOFT BALLET)、Tetsu(D’ERLANGER)という夢のようなメンバー。氣志團は誰も見たことの無い夢の共演を企てたのだ。この5人とhide、プラス氣志團(hideの代名詞とも言えるイエローハート柄の学ラン着用の徹底ぶり!)で披露された「ピンクスパイダー」をはじめとするhideの名曲の数々が会場を揺らしたあの瞬間は、きっと多くのhideファンにとって、“夏フェスでhideのステージを見たい”という、叶うことはないと諦めていたはずの夢が叶った瞬間だったのではないか。そして2日目のベスト・アクトはなんと言ってもももクロだ。百田夏菜子は冗談で「ももクロ万博へようこそ!」と言ったが、あながち間違いではないと思える程の盛り上がりだった。サプライズで披露された氣志團の「SECRET LOVE STORY」のカバーも、選曲のセンスが見事すぎて氣志團ファンの心を鷲掴んでいたし、大トリの氣志團のステージにも彼女たちはリーゼントに学ラン姿で登場し、ここ一番の大歓声で迎え入れられ、おまけに氣志團とのコラボレーションで「ココ☆ナツ」を披露。そのまま氣志團の代表曲「One Night Carnival」に続くと、曲中の綾小路翔のセリフは彼女たちが順にマイクを奪い、それぞれの思いのたけをブチまけるという演出まで。もはや本当にももクロ万博だった。こんな風に書いてしまうと、他の出演者に頼りまくったフェスなのかと思われるかもしれないが、そうではない。周到に準備して、最後のおいしいところは全部他の人たちにパスする。主催者ではあるけれど主役ではないというスタンス。それが氣志團のやり方。そしてそこに氣志團らしさが表れていた。

 

氣志團といえばオマージュである。氣志團の楽曲や、ステージで繰り出されるオマージュの数々は、対象へのありあまる愛とリスペクトの精神から生まれている。今回の氣志團万博にも、出演アーティストに対する圧倒的なリスペクト精神を随所に感じた。例えば、各アーティストの登場前には氣志團側が作ったアーティスト紹介VTRが流れた。あれも出演アーティストに気持ちよくステージに立ってもらい、お客さんに楽しんでもらえるように趣向が凝らされたものだった。“いろんなシーンにすごい人たちがいるから、この機会にみんなに知ってほしい。ぜひ生で体感してほしい。”彼らのそんな思いがこのフェスを作り上げた。一番に見てもらいたいのは自分たちじゃない。もはや氣志團なんておまけだ。でもそれでいい。今日ここに集まってくれたアーティストが最高のステージを踏めるよう、自分たちが全力でお膳立てする。そしてそういう彼らの精神に敬意を払い、このメンツが氣志團万博に集まってくれている。昨年に続き2年連続の出演となったVAMPSは、昨年同様、今年もこの時期は自身のライヴ・ツアーの真っ只中で、この日は東京での連続ライヴのなか日。HYDEはステージで「そこまでして出たかったんだよ」と昨年と同じ言葉をもらした。

他のフェスなら交わることの無いアーティストが同じ舞台に立つ。例えば、タイムテーブルでVAMPSと黒夢の間にももクロが入ったり、乃木坂46の次にBUCK-TICKがステージに立つなんてそうそう無い。でも、アイドルも、ロックも、パンクも、ポップスも、あらゆるカルチャーを背景にもつ氣志團という存在を介すと、彼らが同じステージに立つ意味が見えてくる。ちなみに、ステージ転換時のBGMには、BOOWY、チェッカーズ、浜田省吾、JUN SKY WALKER(S)、本田美奈子.、X JAPANなどの、これまでに氣志團がオマージュしてきたアーティストの曲が流れていた。それは、この町で学生時代を過ごした綾小路翔を形成した音楽であり、彼が愛してやまない、尊敬してやまない音楽たちだ。

とは言え氣志團は、オマージュという方法を面白がられただけで、ここまで愛されるバンドになったわけではない。氣志團の何に一番心を打たれるのかというと、その必死さにだ。“そこまでやらなくてもいいよ”と思ってしまうくらいの全力ぶりや、“そんなの誰も気づかないよ”と思うような細かい心配りにだ。例えば今回の氣志團万博、私にはステージ以外のところでも、このイベントに関わっていた誰もが“氣志團万博のため”という意識を持って働いてくれているように感じた。この日のために内房中から集めてきたんじゃないかと思うくらいひっきりなしに運行されるシャトルバスの運転手さんも、混雑するJR袖ヶ浦駅で丁寧に対応してくれる駅員さんも、シャトルバスから会場までを案内してくれるアルバイトかボランティアかのスタッフの人たちもみんなが。きっと今年も地元で氣志團万博を開催するにあたり、氣志團はいろんなところに協力をお願いしたのだろう。もしかすると自ら出向いて頭を下げたのかもしれない。この他にも、私たちが気づいていないところで、お客さんが快適にフェスを楽しめるように、出演アーティストが気持ちよくステージに上がれるように、彼らはいろいろなおもてなしをしていたのではないだろうか。

そしてステージでは、相変わらず一生懸命すぎるくらいに1曲1曲をこなす氣志團の姿。それでも、登場するや圧倒的な存在感で会場の空気をガラリと変えてみせたBUCK-TICKや、「やりにくいな」と言いつつもその轟音で度肝を抜き、ラストにプレイした「Like @ Angel」ではオーディエンスの合唱を誘った黒夢のような、見る者の心を一瞬で奪ってしまうスター性や華を、氣志團は持っていない。だけど、おどけながらも全力で歌い、踊り、叫び、オーディエンスを笑わせようと必死になる氣志團のあの姿には、どうしたって心が震える。

 

氣志團、というか綾小路翔は、おそろしいほど客観的に自分のことを見る人である。そして彼は随分早い段階で、自分はスーパー・スターになれないということに気付いていた。氣志團万博に出演してくれたスーパー・スターたち、ロック・スターたち、そんな人たちに自分はどうやったって敵いっこないと、とっくに諦めている。でもそこを諦めているからこそ、じゃあ自分たちにできることはなんだろうか?という発想の転換が氣志團の活動の根っこにある。そこで彼らがとった方法がオマージュであり、自分たちが愛した音楽、漫画、カルチャーのパロディであり、お客さんに楽しんでもらうためのエンタテインメント性を突き詰めたステージである。真っ向勝負はできないけど、いつでもカウンターをうてる準備はしておく。そうやって、容姿にも才能にも恵まれなかった“なんにもない俺たち”が、その“なにもなさ”を逆手にとって、自分たちだからこそできることを必死で考え、行動してきた積み重ねが、自分たち主催のフェスにこれだけのオーディエンスと出演者を集めるまでに至った。端から見れば氣志團万博は、“おもしろいことやってるね”で済むのかもしれない。“出演アーティストが豪華だね”で終わるのかもしれない。だけどそれだけじゃないのだ。はじめから負けている者が、それでも夢を諦められない者が、どうやって自分の思いを成し遂げるのか。氣志團万博は氣志團というバンドの生き様が刻まれたフェスなのだ。

綾小路翔はMCで「俺たちの町に来てくれてありがとう。どう?俺たちの町、なんにも無いでしょ?でもさ、“何にもないって事は、なんでもアリ”って事だぜ!」とhideの名曲「ROCKET DIVE」の歌詞になぞらえて話し、会場を沸かせていたけど、それはまるで氣志團そのものを体現したような言葉だ。それから、「ある日突然さ、何かに目覚めちゃって、夢をもっちゃってさ、それを叶えるためにがむしゃらにやるんだけど、敗れることもあるんだよ。そしたら何もかもが嫌になっちゃって、そんな夢を持った自分のことすら嫌になるんだよね。だけど、それでも、それでも諦めきれなかったのが、俺たちには音楽だったんだ。こんな俺たちでも、諦めずに頑張れば、夢は叶うんだってことを証明したかった」と、照れながら語った。自分たちなりの夢の叶え方で、ここでしか見られない景色を見せてくれた氣志團を、私は深く尊敬する。いちファンとして、彼らを誇りに思う。ずっと好きでいてよかった、本当に。氣志團の魅力を改めて確認させられた氣志團万博2013だった。

 

 

おがわ・あかね●京都府出身。音楽ライターを目指し奮闘中。現在地元京都で音楽ライターの岡村詩野さんが講師をされている音楽ライター講座を受講中。講座では、今の関西の音楽を集めたディスクガイド本(電子書籍)を制作しています。YUMECO RECORDSに原稿を載せていただくのはこれが2回目。「また氣志團かよ」というツッコミは心の中だけでお願いします。音楽雑誌にはさほど取り上げられなかった氣志團万博。“誰も伝えないなら私が書く!”と勝手に意気込んで書きました。