前回の長崎から北海道と、南から北へと、そして、国内を跨ごうと思います。北海道という場所は、日本でありながらもそれまでの歴史、特殊なローカリズムと文化を感じますし、寧ろ、アジアをはじめまして、海外諸国に行くよりも、私の中では遠心力を感じるところの一つです。例えば、修学旅行で京都や奈良に来られる学生の方々が何かしら伝統の重みと、のれんをくぐりました先に感じる矜持を感じ取りますように、初めての北海道は不思議な引力と体験とともに心の中に残っています。

それは、たまたま、フェス黎明期の1999年に小樽市の石狩湾新港にて開催されました大規模にして、当時のエッジな日本のアーティストたちが集まったといえますライジング・サン・ロックフェスティバルの初年度に合わせ、観光も兼ねて行ったというのもあるからかもしれず、ユーフォリックな想い出しか残っていません。

飛行機には、もう既にそういった装いの若い方々に溢れ、まだまだポケットに小銭と空虚を忍ばせていた時期の自身は片道切符の痩せっぽちな青年の一人でした。ちなみに、補足しておきますに、第一回目の参加アーティストは電気グルーヴ、当日までシークレットとして伏せられていましたTHE MAD CAPSULE MARKETS、ZAPPET STORE、THE HIGH-LOWS、DRAGON ASH、UA、椎名林檎、thee michelle gun elephant、pre-school、BLANKEY JET CITY、ギターウルフ、SUPERCAR、bloodthirsty butchers、サニーデイ・サービスと、昼から夜を跨ぎ、翌朝までまったりとした空気が流れたとても心地良く、素晴らしく清冽な風が吹いていました。この中には、もう残念ながら、解散してしまったり、休止をしていたり、形式を変えながらもしっかり残っているアーティスト名が並びますが、そのフェスの前夜にホテル近くの地下の炉端焼き形式のお店で海鮮物を食べながら、想いを馳せ、いざ、バスに揺られ、だだっ広い空地について丁度、東京からバックパッカーで来たという早稲田大学の同世代の男の子やバイトを詰めて貯めてやっときたという耳の金色のピアスが可愛かった専門学校生の女の子などその場で出会い、ビールで乾杯しながら、出店の北海道の地のものを食べつつ、そのときの持て余していた青さと鬱屈が許されるように、夕暮れどき、オーディエンスの誰かが旗を掲げ、丁度、『Viva La Revolution』を経ての社会現象となっていましたDRAGON ASHのピースフルなステージングには涙腺と汗が混じりました。

 

〈しがらみなく過ごした少年時代の絶え間なく響く笑い声も
 無責任に描いた夢も過去の話 今じゃもう鳴り止まない
 頭痛のたねは増え膨らみ続ける
 時間の波におびえ 逃げ場探す暇さえなく 刻一刻と刻む流れにゆられ〉
(「Viva La Revolution」、Dragon Ash)

 

―それでも、自分を包み込む君(≒音楽)のぬくもり。

今ほど飽和状態になりましても、きっと同じような感覚を持って、フェスで叫び声をあげているユースは居るのでしょう。時代背景とともに「革命」という大きい言葉にはそのときから今まで距離感は持ちつつ、何かしら少しずつでも始めていってもいいのではないか、声を出していってもいいのではないか、そんな起動力の源の一つにその風景はあり、さらに、ピアノに対峙して、静謐に剥き身の音楽を奏でた椎名林檎さん、地面を揺らすグルーヴが凄まじかったthee michelle gun elephant、深夜に重厚なロックンロールでスイングしたBLANKEY JET CITYなど、どれも鮮明に想い出せます。

「伝説」とは後から作られるもので、今でも、「そのステージを観られていいですね。」、「どんなでしたか?」と質問もされることもあるのですが、きっとそれぞれの年齢や時期と合わせて、音楽は変わらない訳で、体感したことは確かですが、あくまでアクチュアルな形でか細い青年が北海道でロックに魅了された、というだけで、大言も過小に言うこともありません。

昨今の夏時期の京都駅に10-FEETの京都大作戦やくるりの京都音楽博覧会に向かう子たちの躍動や情熱を観るだけでも、なにも時代は変わっていないな、と思うからです。

翌日は、小樽を観光しましたが、巡った小樽運河、ガラス工房、街並そのものには引き込まれる何かがあり、夜は天狗山のロープウェイから夜の小樽の街を一望しましたが、広大さと天気が良かったのもあり、どこまでも繋がっているようなそれこそガラス細工のように繊細で、美麗な灯が点々と浮かびながら、情緒を醸し出していました。

そういえば、余談ですが、海外の留学生や異国で色んな方に聞きましても、日本の中でも北海道とは特別、憧れを持つ場所のひとつのようで、色んな国のガイドブックを見せて戴きましても、東京や大阪、京都といった観光都市に並んで、北海道のフィーチャーの仕方も興味深いものが多く、アイヌからの歴史が書かれたもの、自然美、動物、食事に特化したもの、最近では旭川市の旭山動物園は国内外からも注視されているのか、構成に組み込まれていたりもします。ずっとそこに居た人には視えない感慨があるのでしょうし、それはどの場所でもそうなのでしょう。ただ、最初に訪れた北海道で、夜のとばりが降りた中、赤みがかったライトの中で響いたthee michelle gun elephantの「世界の終わり」、ロープウェイから観下ろした夜景は鳴り止まないエコーのように今も耳、瞼の裏で軽やかに踊っり、消えずに今の背中を押します。

 

 

 

まつうら・さとる●1979年生、大阪府出身。東アジア圏域をメインにした経済分析をしています。世界の言語体系を筋立てを学ぼうとしつつ、あらためて「言葉」の無為、それを越えます空気の揺れを起こす「音楽」、「芸術」に魅せられてもいます。今夏は京都タワーのビア・ガーデンに行きたいものです。フェスにもいくつか参加する予定です。皆様にも夏に多くの音楽が傍に寄り添いますように。