すっかり秋の陽気が板についてきた今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
前々回の連載で、フジロック初参加の模様を記事にした私ですが、秋を迎えたこのタイミングで、再びフェスに行ってきました。ライヴレポートや総合レポートは別媒体で執筆したので、ここでは一味違ったレポートをお届けしたいと思います。
 
 
 
■世界一ピュアなロックフェス~中津川THE SOLAR BUDOKAN ~


 
 
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会場には発電用のソーラーパネルがズラリ

 
 
取材も兼ねて今回参加したのは、5年前から岐阜県中津川市で開催されている中津川 THE SOLAR BUDOKAN。そしてこのフェスのオーガナイザーは、あのシアターブルックの佐藤タイジ。2011年に起きた東日本大震災を機に、太陽光発電による電力だけで運営するロックフェス・THE SOLAR BUDOKANを日本武道観で開催したのが始まり。震災後、節電ムードが漂う中、彼の頭に浮かんだのは、ソーラー電力だけで運営を行うフジロックのステージ・Gypsy Avalonだった。そのチームとタッグを組み、実現させたのがTHE SOLAR BUDOKANなのだという。
 
そして翌年からソーラーパネルの会社の本拠地のある中津川にフェスの舞台を移し、中津川THE SOLAR BUDOKANが誕生した。震災後、自身に子供が生まれたこともあり、THE SOLAR BUDOKANを家族で楽しめるフェスとして成長させてきた佐藤タイジ。今年は満を持して「Family Forever Family」というテーマを掲げた。今回はその中でも特に力を入れたというキッズエリアの模様をレポートします!
 
 
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子供の背丈に合わせて作られたゲート。屈んでくぐる大人の姿も微笑ましかった

 
 
新設されたのは、キッズエリア“こどもソーラーブドウカン”。子供用のエリアを設けているフェスは多い。ただ、そこで子供が音楽を楽しめるかと言われると、疑問が残るのも事実。しかし、こどもソーラーブドウカンはただの子供遊び場ではなく、しっかりと音楽体験ができるのが特徴だ。それこそが、佐藤タイジによるこだわりポイントなのである。
 
ライヴも勿論、子供仕様。佐藤タイジと高野哲(THE BLACK COMET CLUB BAND,ZIGZO)、iCas (ORESKABAND)の3人よるインディーズ電力から高野と、iCas が登場し“こども電力”として、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」を披露した。普段の音楽性からは想像もつかない選曲に驚かされるも、子供たちは例の振り付けを嬉々として踊っている。iCasがしっとりと歌い上げた「涙そうそう」ではじっと聴き入る子供たち。ラストは高野がアレンジした中津川バージョンの「グリーングリーン」を演奏。替え歌にした歌詞で、子供にも分かり易くTHE SOLAR BUDOKANの成り立ちを伝えたのだった。
 
 

佐々木先生とタイジさんによる、ソーラー電力ギターセッション

 
 
そして子供向けのコンテンツはライヴだけではなかった。初日にはギター教室が開催され、NEO GENERATION GAPSとしてLIVE FOR NIPPONのステージにも登場した、うじきつよし(子供ばんど)と佐々木亮介(a flood of circle)が講師として登場。集まった子供たちにはギターが手渡され、3つのコードを覚え、モンゴル800の「あなたに」の演奏にチャンレンジすることに。初めて手にするギターに戸惑う子、コードが上手く押えられずに悪戦苦闘する子が続出。すると佐々木はステージから降り、子供の元へ。ギター教室の模様を眺めていたLIVE FOR NIPPONの出演者、永井ホトケ隆も子供たちへアドバイスを始めた。ステージではうじきがより簡単なコードの押さえ方をやって見せている。ミュージシャン達の普段は見せないリラックスした様子も相俟って、会場には和気藹々としたムードが漂う。そして最後には見事「あなたに」を演奏。見守っていた大人や保護者からも拍手に包まれての、終了となった。
 
 
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人生初気球! 右端に乗ってます。(photo by YK)

 
 
THE SOLAR BUDOKANでは、ソーラー電力の使用の他、フードコートで提供する全メニューへの放射線量表示を義務付けている。フェス開催前に、佐藤タイジへインタビューをする機会があったのだが、その際にこれらの取り組みは全て、子供たちの未来の為なのだと語ってくれた。THE SOLAR BUDOKANを通して佐藤タイジが発信するメッセージには、反原発や政府に対する意見なども含まれる。一筋縄では行かない問題ゆえに、関わることをためらってしまう人も多いだろう。しかし中津川THE SOLAR BUDOKANには、そんな人でも気軽に音楽を楽しめる敷居の低さがある。一見矛盾しているように思えるが、そうではない。歯に衣着せぬ物言いも多々あるが、背景にあるのは良い音で音楽を楽しみたいというミュージシャンとしての純粋な想いと、家族の未来を守りたいという人としての純粋な想いなのだ。だからこのフェスはピュアだし、多くの人に愛されるのだと感じた。
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.7 ― 忌野清志郎 「激しい雨」
 


 

 
中津川THE SOLAR BUDOKANではあちこちで、清志郎が鳴っていた。それはもう、出演者の中に忌野清志郎の名前を追記してしまいたいくらいに。そして2日間の大トリを務めたのは、この「激しい雨」を清志郎と共に作り上げた仲井戸“CHABO”麗市だった。仲井戸はステージに佐藤タイジを迎え、RCサクセションの「スローバラード」を演奏。〈悪い予感のかけらもないさ 僕ら夢を見たのさ とても良く似た夢を〉という歌詞が、なんだか中津川での2日間と、それが繋ぐ未来を物語るようだった。
 
 
 


 
ishihara_2017イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。中津川には先月紹介したフラカンも出演。「ハイエース」に加え大好きな「この胸の中だけ」も聴けて大興奮。ちなみに気球は離着陸がふんわりなので絶叫マシーンが大の苦手の私でも大丈夫でした。